旧世界、世界樹の下で

AnzU

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 当時の彼女にはきっと、人の違いなんてモノは分からなかっただろう。だがそれを変えたのは、一人の少年と出会ってからの事だった。

 彼女——フレスベルグはいつもの様に朝を迎えると一人草笛を吹きながらそよぐ風の音に合わせて音楽を奏でていた。フレスベルグの一日はこうして始まる。
 いつもの様に過ごしていると、風に乗って不思議な気配がした。それはたまに願い事を叶えにくる人間とちがって、どこか懐かしく悠久の時を経て会いに来てくれた友人の様な気配がした。無論、フレスベルグにはその様な友人はおらず、生まれてすぐにマスクドワンと出会い、今の生活になったため彼女には友人と呼べる存在などい無いのだが、ふと人間達の言う友人という存在をその時彼女は感じたような気がした。
 その気配の持ち主はしばらく待っていると世界樹の生えている丘の上に姿を見せた、なんて事ないただの人間の男の子だった。しかし、フレスベルグは彼の纏っている雰囲気が人間のそれでは無い事にすぐに気がついた。

「貴方は人間ですか」
「出会い頭に面白い事言うんだね。僕は人間だよ……今はね」
「含みがありますね……その気配、もしや——」

 フレスベルグが何か言うより前にその男の子はパッと距離を詰め彼女の唇にそっと指を当てる。それはまるでそれ以上は言わ無いで欲しいと言いたげであった。

「シッ……危害を加えに来たわけじゃ無いんだ。ただ——」
「……?」
「ここに住むと言われている龍に会ってみたくなった。ただそれだけなんだ」

 フレスベルグにとって初めての事だった。自分という存在にただ会いに来たかったと言ったその男の子の言葉に嘘偽りは無いのは分かる、が、しかし、フレスベルグにとっては本当に初めてのことで困惑していた。

「私の血が欲しいとか、願いを叶えてほしいでもなく、私に会いに来たのですか」
「今は信じられ無いかもしれ無い……でも本当にただ会ってみたかった、好奇心かな」
「……貴方は……変わったヒトですね」
「よく言われる」

 男の子はゆっくりと敵意が無いことを態度で示しながらフレスベルグから離れると、彼女に視線を合わせるようにゆっくりと足を組んで座る。
 しばらくの間、二人には沈黙の時間がゆっくりと流れていく。その沈黙を破ったのは男の子の方だった。

「僕はマルク、この近くにある村に住んでいる」
「マルク……不思議だわマルク、私まるで貴方を昔から知っているような気がしたの」
「不思議だね、僕も君とは初めて会った気がし無いんだ」

 男の子——マルクの言葉を聞きフレスベルグは何かがおかしくてふふッと笑い始めた。目に少し涙を浮かべて笑うフレスベルグの姿を見て、マルクもこの状況が少し可笑しく感じつられて笑い始める。二人でひとしきり笑った後改めてお互いの顔を見つめ合う。

「私達気が合いそうね」
「僕もそう思うよ」
「……私フレスベルグ、よろしくねマルク」
「あぁ、よろしくフレスベルグ」

 こうして、マルクとフレスベルグの少し不思議な友人関係が始まったのだった。
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