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88 ー薄情ー
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「謀反を事前に止めても、奥さんとか内大臣は、捕らえられないよね。やっぱり事後じゃないと」
「未然に防いでも、また同じことをされる。それならば例え小なり大なり被害が出たとしても、一掃したいのが本音だろう」
その方が手っ取り早く確実に一掃できる。フォーエンならそう考えるだろう。例え被害が出ても、それ以上の被害を出さないために、一気に片をつける。
「でもフォーエンは、ヘキ卿に抗えって言ってくれたって」
「…随分と、甘っちょろいことを言うな。皇帝がそんなことを言うのか?」
「フォーエンは知ってたんじゃないかな。ヘキ卿が皇帝に興味ないの。でも奥さんが内大臣の娘になっちゃって、どうしてもそっちの方向に進められてしまう。だから、どうするのか自分で決めなさいよって。なのにごろごろしてるから、害虫を見る目に…」
「想像つく話だな。元々想定していた話で、ヘキ卿もわかっていた。だから娘を貰った後に宮中へ来なくなった。自分が次の皇帝になるつもりはないと言いたいんだろうが、子供がいる。ヘキ卿が死んでも問題ない。その子供が次代になればいいだけのこと。ヘキ卿が生きていようといまいとどうでもいいだろう。あとは皇帝が死ねばいいのだから」
「何で子供つくったし…」
「内大臣の娘相手に、通わぬなどできんだろう」
権力のある親がいると拒めない。何とも虚しい世の中である。
ヘキ卿は王宮へは働きにいかない。自分が皇帝になる気はないからだ。
働きたくても働けない理由はそこだった。
子供ができて、なおさら働く意味がなくなった。今彼には、存在すら必要がない。何をしてもしなくても、フォーエンが死ねばそれで終わりなのだ。
「でも、謀反を放置するのは違うでしょ」
彼はフォーエンの味方をする気がないのだろうか。
する気がなかった。今までは。けれど理音に武器の場所を教えた。止める気になったからだろうか。
しかし、彼自体が何かをするわけでもない。
ふと感じた、ヘキ卿の考えを。
「知られちゃってもいいんだ。謀反のこと。それがバレればヘキ卿には都合がいい。バレるくらいの状況が、もうこの屋敷に揃ってる。バレたら奥さんも内大臣も罪に問われるよね。ヘキ卿が謀反する気だって」
「そうだな。内大臣の意向でなくとも、関係者として何かしら問われるだろう。内大臣自体は殺せないかもしれないが、娘は死ぬ。無論、ヘキ卿も」
それを理音に教えて、罪を認める。
それが彼にとって、最大の反撃になると思っている。
「私のこと、どこの隠密だと勘違いしてるんだろ。私に伝えてもどうにもらならない。大尉には追い出されちゃってるし、伝える相手がいない。ナミヤさんとかに言えば信じてもらえるかな」
大尉の家から来たことを知っていて、そのルートのスパイだと思われているのならばそれは間違いだ。事実を理音に伝えても伝わるのはナラカだけ。ナラカに伝えても、謀反は止めない。彼は事実を知ればいいだけだ。
ナラカは急に鼻で笑うと、頭をかいた。思い出し笑いだろうか。
「お前さあ、気づかれてんのかもしんねーぞ」
「何を?調べてること?それは気づかれてるっぽいけど」
「ちげえよ。お前が皇帝の隣にいたことをだ」
隣に。
つまり、おめかしして舞台に立った時のことである。
宴にならヘキ卿も行くだろう。行くこともあるかもしれない。その際に理音を見ている可能性はある。
そこで見知っていて屋敷に来れば、どう考えてもスパイにしか思えない。
「あれ、じゃあ、最初っから知ってたのかな、私のこと」
だから掃除婦なぞに声をかけてきたのだとしたら、それは何とも恥ずかしい。ばればれの所業だったわけだ。
「だから私に話したのか。でもそれ勘違い」
勘違いだ。
このことはフォーエンには通らない。通す方法がない。
大尉やナミヤがフォーエンの味方であることは今の所想像で、確実なものではない。彼らに伝えても、フォーエンに伝わるかはわからなかった。
伝える方法がないのに、教えられてもどうにもできない。
「ヘキ卿がフォーエンに言えばいいのに。謀反あるですよ、だから何とかしたいんですって。大体さ、大尉だって謀反の片棒担いじゃうことになってるじゃん?でもそれは、謀反捕まえるお手伝いしてますって言えるから、大丈夫ってこと?そしたら、ヘキ卿もいけんじゃないの?ヘキ卿もダメなら、大尉だってダメでしょ?」
「リン大尉がそのつもりならば、皇帝の命令を頂いての所業として許されるだろうな。逆に栄誉だろう。ヘキ卿にその気があれば、どうかな」
「どうかな。じゃないよ。それでいーじゃん。フォーエンに会えないかな。ヘキ卿なら会えないのかな」
「知らん。まあこれで謀反の内容はわかった。あとはお前の好きなようにしろ」
「はっ!?ほんとにそんだけ!?︎止める気ないの!?︎」
「俺は事実を知ればいいだけだ。じゃあな」
ナラカは窓を開けると、身を乗り出した。そのまま外に出ると、一瞬で姿を消してしまう。
「うそー、こらー、人でなしー!薄情者ー!」
理音の叫びはナラカに届くことはない。
あの男、本当に知りたいことを知るだけでよかったのだ。
それだけに、一体どこの人間についているのか疑問だ。
今回の事件に関係のない人物についているのは、間違いないのだが。
いやそれよりもだ。これからどうするかである。
何より一番は、ヘキ卿がこのことをフォーエンに伝えることであるのだが。
理音に伝えてきている時点で、フォーエンに自ら言う気はないのだろう。
そうだとして、謀反を止めることは簡単にできる。
正直、何をしてもいいのであれば、それはできるのだ。
あの倉庫は人が来ない。武器を取りに来ない限りは、誰も近づかない。掃除もほとんどしない。
だとしたら、油でも撒いて燃やしてしまえば、それだけで武器を消すことはできる。
密室で、ある程度の空気がある。扉を開けたまま、それで火をつければ、木箱はよく燃えるだろう。
空気穴が少ないが、その分炭になるように燃えるかもしれない。
小麦でも混ざっていれば爆発するかもしれないが、火事を起こしてうやむやにはできる。
火事の原因を調べるために、兵士が屋敷を調べたりしない限り、ただの火事で終わらせられる。
ただ、それを行なっても、謀反を知らせることはできない。今後また、同じことを繰り返す可能性は否めなかった。
それでは、フォーエンが行なっているであろう謀反への対処を、邪魔することになる。再び同じことが行われれば、ただの邪魔にしかならない。
では、どうすればいいのだろう。
ヘキ卿が罪に問われず、けれど謀反を止め、犯人を捕まえられる方法は。
ここで信頼できる者は、いると言えばいる。
ユウリンだ。
彼がどちらの味方にせよ、フォーエンに敬意を持っている。
彼を巻き込むことができるだろうか。
「迷ってる暇なんて、ないよね」
ここまで来れば、とことん抗ってやる。
フォーエンの邪魔にならず、けれど彼の助けになることを。
自分なりに、できるだけ行う。
「未然に防いでも、また同じことをされる。それならば例え小なり大なり被害が出たとしても、一掃したいのが本音だろう」
その方が手っ取り早く確実に一掃できる。フォーエンならそう考えるだろう。例え被害が出ても、それ以上の被害を出さないために、一気に片をつける。
「でもフォーエンは、ヘキ卿に抗えって言ってくれたって」
「…随分と、甘っちょろいことを言うな。皇帝がそんなことを言うのか?」
「フォーエンは知ってたんじゃないかな。ヘキ卿が皇帝に興味ないの。でも奥さんが内大臣の娘になっちゃって、どうしてもそっちの方向に進められてしまう。だから、どうするのか自分で決めなさいよって。なのにごろごろしてるから、害虫を見る目に…」
「想像つく話だな。元々想定していた話で、ヘキ卿もわかっていた。だから娘を貰った後に宮中へ来なくなった。自分が次の皇帝になるつもりはないと言いたいんだろうが、子供がいる。ヘキ卿が死んでも問題ない。その子供が次代になればいいだけのこと。ヘキ卿が生きていようといまいとどうでもいいだろう。あとは皇帝が死ねばいいのだから」
「何で子供つくったし…」
「内大臣の娘相手に、通わぬなどできんだろう」
権力のある親がいると拒めない。何とも虚しい世の中である。
ヘキ卿は王宮へは働きにいかない。自分が皇帝になる気はないからだ。
働きたくても働けない理由はそこだった。
子供ができて、なおさら働く意味がなくなった。今彼には、存在すら必要がない。何をしてもしなくても、フォーエンが死ねばそれで終わりなのだ。
「でも、謀反を放置するのは違うでしょ」
彼はフォーエンの味方をする気がないのだろうか。
する気がなかった。今までは。けれど理音に武器の場所を教えた。止める気になったからだろうか。
しかし、彼自体が何かをするわけでもない。
ふと感じた、ヘキ卿の考えを。
「知られちゃってもいいんだ。謀反のこと。それがバレればヘキ卿には都合がいい。バレるくらいの状況が、もうこの屋敷に揃ってる。バレたら奥さんも内大臣も罪に問われるよね。ヘキ卿が謀反する気だって」
「そうだな。内大臣の意向でなくとも、関係者として何かしら問われるだろう。内大臣自体は殺せないかもしれないが、娘は死ぬ。無論、ヘキ卿も」
それを理音に教えて、罪を認める。
それが彼にとって、最大の反撃になると思っている。
「私のこと、どこの隠密だと勘違いしてるんだろ。私に伝えてもどうにもらならない。大尉には追い出されちゃってるし、伝える相手がいない。ナミヤさんとかに言えば信じてもらえるかな」
大尉の家から来たことを知っていて、そのルートのスパイだと思われているのならばそれは間違いだ。事実を理音に伝えても伝わるのはナラカだけ。ナラカに伝えても、謀反は止めない。彼は事実を知ればいいだけだ。
ナラカは急に鼻で笑うと、頭をかいた。思い出し笑いだろうか。
「お前さあ、気づかれてんのかもしんねーぞ」
「何を?調べてること?それは気づかれてるっぽいけど」
「ちげえよ。お前が皇帝の隣にいたことをだ」
隣に。
つまり、おめかしして舞台に立った時のことである。
宴にならヘキ卿も行くだろう。行くこともあるかもしれない。その際に理音を見ている可能性はある。
そこで見知っていて屋敷に来れば、どう考えてもスパイにしか思えない。
「あれ、じゃあ、最初っから知ってたのかな、私のこと」
だから掃除婦なぞに声をかけてきたのだとしたら、それは何とも恥ずかしい。ばればれの所業だったわけだ。
「だから私に話したのか。でもそれ勘違い」
勘違いだ。
このことはフォーエンには通らない。通す方法がない。
大尉やナミヤがフォーエンの味方であることは今の所想像で、確実なものではない。彼らに伝えても、フォーエンに伝わるかはわからなかった。
伝える方法がないのに、教えられてもどうにもできない。
「ヘキ卿がフォーエンに言えばいいのに。謀反あるですよ、だから何とかしたいんですって。大体さ、大尉だって謀反の片棒担いじゃうことになってるじゃん?でもそれは、謀反捕まえるお手伝いしてますって言えるから、大丈夫ってこと?そしたら、ヘキ卿もいけんじゃないの?ヘキ卿もダメなら、大尉だってダメでしょ?」
「リン大尉がそのつもりならば、皇帝の命令を頂いての所業として許されるだろうな。逆に栄誉だろう。ヘキ卿にその気があれば、どうかな」
「どうかな。じゃないよ。それでいーじゃん。フォーエンに会えないかな。ヘキ卿なら会えないのかな」
「知らん。まあこれで謀反の内容はわかった。あとはお前の好きなようにしろ」
「はっ!?ほんとにそんだけ!?︎止める気ないの!?︎」
「俺は事実を知ればいいだけだ。じゃあな」
ナラカは窓を開けると、身を乗り出した。そのまま外に出ると、一瞬で姿を消してしまう。
「うそー、こらー、人でなしー!薄情者ー!」
理音の叫びはナラカに届くことはない。
あの男、本当に知りたいことを知るだけでよかったのだ。
それだけに、一体どこの人間についているのか疑問だ。
今回の事件に関係のない人物についているのは、間違いないのだが。
いやそれよりもだ。これからどうするかである。
何より一番は、ヘキ卿がこのことをフォーエンに伝えることであるのだが。
理音に伝えてきている時点で、フォーエンに自ら言う気はないのだろう。
そうだとして、謀反を止めることは簡単にできる。
正直、何をしてもいいのであれば、それはできるのだ。
あの倉庫は人が来ない。武器を取りに来ない限りは、誰も近づかない。掃除もほとんどしない。
だとしたら、油でも撒いて燃やしてしまえば、それだけで武器を消すことはできる。
密室で、ある程度の空気がある。扉を開けたまま、それで火をつければ、木箱はよく燃えるだろう。
空気穴が少ないが、その分炭になるように燃えるかもしれない。
小麦でも混ざっていれば爆発するかもしれないが、火事を起こしてうやむやにはできる。
火事の原因を調べるために、兵士が屋敷を調べたりしない限り、ただの火事で終わらせられる。
ただ、それを行なっても、謀反を知らせることはできない。今後また、同じことを繰り返す可能性は否めなかった。
それでは、フォーエンが行なっているであろう謀反への対処を、邪魔することになる。再び同じことが行われれば、ただの邪魔にしかならない。
では、どうすればいいのだろう。
ヘキ卿が罪に問われず、けれど謀反を止め、犯人を捕まえられる方法は。
ここで信頼できる者は、いると言えばいる。
ユウリンだ。
彼がどちらの味方にせよ、フォーエンに敬意を持っている。
彼を巻き込むことができるだろうか。
「迷ってる暇なんて、ないよね」
ここまで来れば、とことん抗ってやる。
フォーエンの邪魔にならず、けれど彼の助けになることを。
自分なりに、できるだけ行う。
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