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130 ー昼ー
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お茶を飲み終われば、次は書類仕事が待っていた。
仕事は簡単だ。催事で用意された祭具などのリスト化された数字と、本来集めるべき数字と合っているかのチェックである。
数が合っていなければ、赤で線を引き、正確な数字を書く。
こんなことするのかー、とか思いつつ。物品見てないけど、リストチェックだけでいいのか首を傾げる。祭具の数を数えてからリストにしているので、問題ないんだとか。物の種類がありすぎて、二重チェックを行なっているらしい。
なるほどと仕事を始めると、問題に差し掛かった。
理音は文字は読めるが、文字が書けない。数字くらいなら書けるが、うまくない。
仕事上、書くのは数字だけだ。数字ぐらいでよかったが、これは字の書く練習をしなければならなそうだ。
これはツワに教えを乞わないと。仕事をするなら文字はマストである。
チェックをしていると、時々ヘキ卿が問題ないかと声をかけてくれる。そして、メイラクが笑顔で仕事をしろと注意した。
尻にひかれているようだ。ヘキ卿も子犬のようだな、などと失礼なことを思ったりする。理音を見る目がまさにそれなのだ。無論、心配してくれているのだが。
「あの人が邪魔でしょうから、あちらで仕事をしましょう」
とうとうメイラクが部屋を変えることを提案した。
少し時間が経つと、すぐに理音に声をかけるものだから、ヘキ卿の仕事も進まないのだ。
「え、リオンはここで」
「駄目です」
メイラクはきっぱりと拒否をした。ヘキ卿が再びしょんぼりする。
「あはは…」
メイラクは別の部屋に理音を連れる。そこには三人の男がいて、三人とも同じ色の服を着ていた。メイラクと理音が入ってくると。にこやかに受け入れてくれる。
一体自分は、どんな説明をされているのだろうか。不安しかない。
三人の男の年齢はばらばらで、二十代前半の青年一人、三十代ぐらいの男性が二人で、三十代くらいの男性二人は、大きな紙にスラスラと文字を書いている。若い青年は書物を開いて、何かを書き写していた。
三人は二体一で向き合って仕事を行っている。無人の机がその後ろにあったが、物が置いてあった。書物や木札の束だ。
もう一つの長机には地図が広がっていた。よく見えないが、この王宮の地図だと思われる。おそらく催事のために位置確認をしているのだろう。
奥の窓の前には長机が置いてあり、そこもは無人だったが綺麗に片付けてある。メイラクが座るのだろう。
メイラクはあいていた一つの机の前の椅子を引くと、理音に座るよう促した。
「あの人が落ち着くまで、こちらで仕事をしましょう。あれではリオンさんも気が散ってしまう」
「あは…」
メイラクは面白いくらいにはっきり言って、ヘキ卿を凹ませた。
メイラクはフォーエンが指名して補佐になったのだろうか。それくらいヘキ卿に厳しい。笑顔であるにも関わらずだ。
「やけに浮かれていますから、しばらくは一人で仕事をさせた方が良さそうですからね」
理音もさすがに苦笑いをする。
むしろ理音がここで無理に働くことになったので、ヘキ卿の邪魔をしてしまっているのだが、メイラクはヘキ卿が悪いのだと、きっぱり断言する。
上司であるヘキ卿に容赦がない。
「集中力のない方なので、飴と鞭は使い分けるんですよ」とふんわり笑ってくれた。
「…メイラクさんて、面白いですね」
「苦労しているんですよ。上司の逃げ足が速いので」
「…速いんですか…」
猛ダッシュで逃げるヘキ卿を想像して、理音は似合わないと思ってしまった。のんびり歩いている方がヘキ卿に似合っている。
「察するのが早すぎて、問題が起きる前に逃げてしまうんですよ」
「ああ、それなら納得です」
空気読める男、ヘキ卿である。怪しい雰囲気を感じたら、抜き足差し足、姿を消していそうだ。
「ですから、あなたのような人がヘキ卿の側にいてくださると、助かります。ヘキ卿はどうやらあなたのことを気に召しているようですし、逃げそうならば捕まえて構いませんからね」
卿がつくような人相手に、ひどい言いようである。しかも、身分も何もない理音に言う言葉ではない。
「包帯が取れかけていますよ?」
「え?ああ、まあ、もう取っちゃっても…」
少し動いたせいで、緩んできたようだ。
傷はほとんど癒えていて、かさぶたが取れそうになると痛むため、まだ巻いていた。
こちらの場合感染症などもありそうで、念のためでもある。医者からもまだ取るなと言われてはいるのだが。
「先の事件では、皇帝陛下はひどく激昂されていました。あれほどの憤りを表に出されたのは、今まで見たことがありません。余程のことが起きたのだと、皆が恐れたほどです。あまり無理はなされないように」
ああほら、こう言う時に反応に困るのだ。
メイラクはどこからどこまでを知っているのだろう。ヘキ卿は何者であるのか知らないと言っていたのでそれは知らないのだろうが、フォーエンが理音を心配したことは知っている。
それをどう言う意味でとればいいか、わからない。
理音は苦笑いするしかなかった。メイラクが笑顔で受け答えする分、何を考えているのか読みにくい。
所詮こちらは子供で、相手は宮廷で働く百戦錬磨である。相手にもならないだろうが、探られているのかもわからなかった。
探られているとしたら、フォーエンの関係だろうが。
もう何も気にしなくていいものなのだろうか。身分もなしにヘキ卿の仕事を手伝っている時点で、おかしな話なのだろうから。
しばらくして、理音はヘキ卿の部屋に戻り、書類を確認していた。もう邪魔しないからと、直訴しにきたからである。ヘキ卿がだ。
メイラクの話を聞く限り、ヘキ卿がフォーエンのために心配しているのだと理解する。
よほどフォーエンの態度が珍しかったのだろう。
ヘキ卿はメイラクが見張っているせいもあってか、始終机の前で書類とにらめっこを決め込んでいた。
書類についての説明を受けたり、ハンコを押したりしているだけだが、机の上に溜まった書類を見ているだけで、理音がうんざりした。積み上げられた書類を端から見ているようなのだが、一向に数が減らない。
見終えて再提出させたり、処理済みになって終わっているにも関わらず、新しい書類がすぐにやってくるからだ。
書類と合わせて資料もあるのか、それを眺めているだけで時間がすぎた。
「リオン、ごめんね。食事は一緒に、できなそうに…ない…」
「…大丈夫ですよ。一人で食べれますから」
「私が、一緒に食べたかった」
いや、泣くな。
このままでは今日中に終わらないとメイリンに怒られて、昼は机の前で頬張ることになったヘキ卿は、本気凹みで理音との昼食を取れないことを悔やんでいた。
そんな機会、これから何度もあるだろうに。
普段ヘキ卿の食事は、部屋に運ばれたり、専用の部屋で食べたりするようだ。さすがに高位である。
それ以外の人は昼食を取れる場所があり、その場所は出仕をしていたところとはまた別の場所らしく、一同そちらへ移動する。
ただこちらの建物は常に忙しいらしいので、同じ時間に昼食を取りにいくという気持ちはあまり強くないらしく、昼の鐘が鳴った後でもまだ仕事をする者は多かった。
お偉いさんは、自分の働く場所からあまり動かず食事ができる。だからなおさら仕事をしている人が多いのかもしれない。
その部下たちはそれに合わせなければならないので、下の者からしたら大変なのだろうが。
本来ならヘキ卿と同じく、昼食は後でなはずなのだろうが、理音は食べに行ってこいとメイリンに頼まれた。
頼まれたのだ。ヘキ卿が気にして仕方ないから、気にせず食べてきてほしいと。
仕事中なのにいいのかな。と考えつつも、ヘキ卿がやたら、お腹減った?と問うてくるので、メイリンもうっとうしかったようである。
そのため一人で食事をとることになった。
場所を教えてもらって、そちらへ向かう。
一人になって、しかも昼。少し出て、セイリンとハルイに会えないか考える。あちらで昼食をとってはいけないわけではないか、どうか。
仕事は簡単だ。催事で用意された祭具などのリスト化された数字と、本来集めるべき数字と合っているかのチェックである。
数が合っていなければ、赤で線を引き、正確な数字を書く。
こんなことするのかー、とか思いつつ。物品見てないけど、リストチェックだけでいいのか首を傾げる。祭具の数を数えてからリストにしているので、問題ないんだとか。物の種類がありすぎて、二重チェックを行なっているらしい。
なるほどと仕事を始めると、問題に差し掛かった。
理音は文字は読めるが、文字が書けない。数字くらいなら書けるが、うまくない。
仕事上、書くのは数字だけだ。数字ぐらいでよかったが、これは字の書く練習をしなければならなそうだ。
これはツワに教えを乞わないと。仕事をするなら文字はマストである。
チェックをしていると、時々ヘキ卿が問題ないかと声をかけてくれる。そして、メイラクが笑顔で仕事をしろと注意した。
尻にひかれているようだ。ヘキ卿も子犬のようだな、などと失礼なことを思ったりする。理音を見る目がまさにそれなのだ。無論、心配してくれているのだが。
「あの人が邪魔でしょうから、あちらで仕事をしましょう」
とうとうメイラクが部屋を変えることを提案した。
少し時間が経つと、すぐに理音に声をかけるものだから、ヘキ卿の仕事も進まないのだ。
「え、リオンはここで」
「駄目です」
メイラクはきっぱりと拒否をした。ヘキ卿が再びしょんぼりする。
「あはは…」
メイラクは別の部屋に理音を連れる。そこには三人の男がいて、三人とも同じ色の服を着ていた。メイラクと理音が入ってくると。にこやかに受け入れてくれる。
一体自分は、どんな説明をされているのだろうか。不安しかない。
三人の男の年齢はばらばらで、二十代前半の青年一人、三十代ぐらいの男性が二人で、三十代くらいの男性二人は、大きな紙にスラスラと文字を書いている。若い青年は書物を開いて、何かを書き写していた。
三人は二体一で向き合って仕事を行っている。無人の机がその後ろにあったが、物が置いてあった。書物や木札の束だ。
もう一つの長机には地図が広がっていた。よく見えないが、この王宮の地図だと思われる。おそらく催事のために位置確認をしているのだろう。
奥の窓の前には長机が置いてあり、そこもは無人だったが綺麗に片付けてある。メイラクが座るのだろう。
メイラクはあいていた一つの机の前の椅子を引くと、理音に座るよう促した。
「あの人が落ち着くまで、こちらで仕事をしましょう。あれではリオンさんも気が散ってしまう」
「あは…」
メイラクは面白いくらいにはっきり言って、ヘキ卿を凹ませた。
メイラクはフォーエンが指名して補佐になったのだろうか。それくらいヘキ卿に厳しい。笑顔であるにも関わらずだ。
「やけに浮かれていますから、しばらくは一人で仕事をさせた方が良さそうですからね」
理音もさすがに苦笑いをする。
むしろ理音がここで無理に働くことになったので、ヘキ卿の邪魔をしてしまっているのだが、メイラクはヘキ卿が悪いのだと、きっぱり断言する。
上司であるヘキ卿に容赦がない。
「集中力のない方なので、飴と鞭は使い分けるんですよ」とふんわり笑ってくれた。
「…メイラクさんて、面白いですね」
「苦労しているんですよ。上司の逃げ足が速いので」
「…速いんですか…」
猛ダッシュで逃げるヘキ卿を想像して、理音は似合わないと思ってしまった。のんびり歩いている方がヘキ卿に似合っている。
「察するのが早すぎて、問題が起きる前に逃げてしまうんですよ」
「ああ、それなら納得です」
空気読める男、ヘキ卿である。怪しい雰囲気を感じたら、抜き足差し足、姿を消していそうだ。
「ですから、あなたのような人がヘキ卿の側にいてくださると、助かります。ヘキ卿はどうやらあなたのことを気に召しているようですし、逃げそうならば捕まえて構いませんからね」
卿がつくような人相手に、ひどい言いようである。しかも、身分も何もない理音に言う言葉ではない。
「包帯が取れかけていますよ?」
「え?ああ、まあ、もう取っちゃっても…」
少し動いたせいで、緩んできたようだ。
傷はほとんど癒えていて、かさぶたが取れそうになると痛むため、まだ巻いていた。
こちらの場合感染症などもありそうで、念のためでもある。医者からもまだ取るなと言われてはいるのだが。
「先の事件では、皇帝陛下はひどく激昂されていました。あれほどの憤りを表に出されたのは、今まで見たことがありません。余程のことが起きたのだと、皆が恐れたほどです。あまり無理はなされないように」
ああほら、こう言う時に反応に困るのだ。
メイラクはどこからどこまでを知っているのだろう。ヘキ卿は何者であるのか知らないと言っていたのでそれは知らないのだろうが、フォーエンが理音を心配したことは知っている。
それをどう言う意味でとればいいか、わからない。
理音は苦笑いするしかなかった。メイラクが笑顔で受け答えする分、何を考えているのか読みにくい。
所詮こちらは子供で、相手は宮廷で働く百戦錬磨である。相手にもならないだろうが、探られているのかもわからなかった。
探られているとしたら、フォーエンの関係だろうが。
もう何も気にしなくていいものなのだろうか。身分もなしにヘキ卿の仕事を手伝っている時点で、おかしな話なのだろうから。
しばらくして、理音はヘキ卿の部屋に戻り、書類を確認していた。もう邪魔しないからと、直訴しにきたからである。ヘキ卿がだ。
メイラクの話を聞く限り、ヘキ卿がフォーエンのために心配しているのだと理解する。
よほどフォーエンの態度が珍しかったのだろう。
ヘキ卿はメイラクが見張っているせいもあってか、始終机の前で書類とにらめっこを決め込んでいた。
書類についての説明を受けたり、ハンコを押したりしているだけだが、机の上に溜まった書類を見ているだけで、理音がうんざりした。積み上げられた書類を端から見ているようなのだが、一向に数が減らない。
見終えて再提出させたり、処理済みになって終わっているにも関わらず、新しい書類がすぐにやってくるからだ。
書類と合わせて資料もあるのか、それを眺めているだけで時間がすぎた。
「リオン、ごめんね。食事は一緒に、できなそうに…ない…」
「…大丈夫ですよ。一人で食べれますから」
「私が、一緒に食べたかった」
いや、泣くな。
このままでは今日中に終わらないとメイリンに怒られて、昼は机の前で頬張ることになったヘキ卿は、本気凹みで理音との昼食を取れないことを悔やんでいた。
そんな機会、これから何度もあるだろうに。
普段ヘキ卿の食事は、部屋に運ばれたり、専用の部屋で食べたりするようだ。さすがに高位である。
それ以外の人は昼食を取れる場所があり、その場所は出仕をしていたところとはまた別の場所らしく、一同そちらへ移動する。
ただこちらの建物は常に忙しいらしいので、同じ時間に昼食を取りにいくという気持ちはあまり強くないらしく、昼の鐘が鳴った後でもまだ仕事をする者は多かった。
お偉いさんは、自分の働く場所からあまり動かず食事ができる。だからなおさら仕事をしている人が多いのかもしれない。
その部下たちはそれに合わせなければならないので、下の者からしたら大変なのだろうが。
本来ならヘキ卿と同じく、昼食は後でなはずなのだろうが、理音は食べに行ってこいとメイリンに頼まれた。
頼まれたのだ。ヘキ卿が気にして仕方ないから、気にせず食べてきてほしいと。
仕事中なのにいいのかな。と考えつつも、ヘキ卿がやたら、お腹減った?と問うてくるので、メイリンもうっとうしかったようである。
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