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8 パーティ
アティがいると考えてお茶会に顔を出したのかと思っていたが、本当にどこかへ行った帰りのようだった。
けれど、期待して来たのではないだろうか。
そんなことを考えてしまうのがバカらしい。どう勘ぐろうと、わかっていることではないか。
(アティはいい女だからね)
だからこそ、やるせない。アティが嫌な女ならば対抗でもするが、アティのことは大好きだ。目標のためには嫌な相手でも笑顔で対応し、努力する姿はとても輝かしい。真似できるならばやればいいじゃない。と言われても、エヴリーヌにはできない技だ。だから、アティはすごいのである。
そしてアティのせいではない。アティに嫉妬しても仕方がないのだ。
(こんな気持ちでパーティとか)
「お似合いです」
「はは。ありがとうございます」
馬車を降りる寸前、手を出しながら、カリスは恥ずかしげもなく、感嘆するようにドレス姿を褒めてくれた。
結婚式以来、初めてのパーティということで、カリスは奮発してデザイナーを呼んで、ドレスから装飾品までを購入してくれた。
目が潰れそうになるほど煌びやかで高価な物たちが並べられ、どんなドレスが似合うのか、何度も試着させられ、カリスの前でお披露目をするという、謎の大会が行われた。
合わせたドレス一式を見るたびに、カリスは頷き、目を輝かせ、とてもお似合いです。と褒め言葉を忘れない。最初はいい気になって試着していたが、終わった頃にはぐったり疲労困憊だった。
だが、頑張ったおかげで、満足のいく一式を購入できたと思う。
黒茶色の髪に合った、紫のドレス。濃いめの紫を基調にした、薄い紫のフレアの入ったスカートは、自分に似合っているかはともかく、美しい仕上がりだ。なんといっても首元の宝石が存在感を主張している。公爵夫人らしくシンプルながらも豪華な装いで、メイドたちも満足げだった。
他にも多くのドレスや装飾品を購入してくれたが、そんなに着ないと思うので、クローゼットで眠ったままになるかもしれない。二年後離婚なのに何着も買うのだから、申し訳ない気持ちになってくる。
「カリス・ヴォルテール公爵。エヴリーヌ・ヴォルテール公爵夫人です」
名前を呼ばれ、扉が開かれて、颯爽と登場すると、女性たちがまずカリスを見つめ、ついでにというようにエヴリーヌに視線を向ける。カリスといて嫌味は言えないのか、妬ましい視線を向けてくるだけ。嘲笑うような声は聞こえてこない。
しかし、アティ夫妻が現れた途端、聖女の格を口にする者がちらほら現われる。
「アティ様よ。アティ様が二人いらっしゃればよかったのに」
「ヴォルテール公爵は貧乏くじを引いてしまったわね」
(うるさいわよ。そんなこと自分がよくわかっている)
そいつらを足蹴にして、魔物のいる山まで遠く飛ばしてやりたくなる気持ちを抑えて、エヴリーヌは渾身の笑みをそいつらに向けてやった。二年後離婚したら都には来ないので、そらみろと返されることはない。
「カリス。結婚式依頼だな」
先に声をかけてきたのは、アティの夫、フレデリク・ブラシェーロ公爵だ。アティの痛い痛い問題は解決したのだろうか。アティは猫被りが激しいので、麗しく微笑むだけ。
「奥方の紹介をしてくれ」
「エヴリーヌと申します。アティとは同じ神殿で暮らしておりました」
「話は聞いているぞ。討伐に加わるほどの素晴らしい力を持った聖女だと」
結婚式では話す余裕もなかったと、お互い紹介し合う。
フレデリクは体格の良い騎士のようで、栗色の髪をしっかり固めた、凛々しく、隙のなさそうな男だった。碧色の瞳は鋭く、自信ありげな顔をしている。俺様なところがあると聞いていた通りの雰囲気だった。
カリスとは仲が良いのか、楽しげに話している。押しが強そうだが、カリスは気にした風もなく、淡々と会話をしていた。
「また体格が大きくなったのではないか? なにをしたらそんなに筋肉まみれになるんだ」
「なんだ、羨ましいのか?」
「まったく。動きが鈍くなりそうだ」
「そんなわけないだろう。これでも剣は振れている」
「触れているだけの間違いだろう」
冗談なのか、嫌味なのか、カリスは呆れ顔でフレデリクの体格を指摘している。アティが体格ばかり言うわけだ。カリスと比べて胸の厚さが段違いである。アティはその体格が好きなようなので、もしかしたら褒めて伸ばしすぎたのではなかろうか。アティが微笑みながら、エヴリーヌにだけわかるように口元を上げた。してやったりの顔なので、自分好みに誘導しているようだ。さすがアティ。
そうこうしている間に王と王妃がやってきた。二人には結婚式で挨拶をしたので、顔はわかっている。若い王と王妃。こちらも自信ありげな顔をして、口元に笑みをたたえているが、腹黒さを感じた。そうでなければ、王を追いやって公爵子息を二人公爵に上げたりしない。
「本日は建国記念だ。そなたら国への貢献を嬉しく思う。公爵家は聖女二人を娶った。これから聖女たちの貢献が耳に入るだけでなく、目に見えていくことだろう。すでにエヴリーヌ・ヴォルテール公爵夫人は、結婚後討伐に参加し、多くの者たちを救った。父の時代に苦しんだ者たちを救うため、ここに神殿の改革を宣言し、魔物のない、確固たる地盤を作ることを知らせる」
神殿の改革? それは初耳だ。アティに振り向けば、軽く首を振った。こちらに話は来ていないので、都の神殿を改革する気だろう。身分の高い貴族ばかりを優遇した制度をなくすつもりだろうか。
王を追いやった王太子は、国を腐敗させた貴族たちをすべて粛清する気なのかもしれない。王に与していた貴族たちを罰しているが、身分の高い者たち全員を罷免させるわけにもいかない。次があれば、これからそれを行うぞという脅しにも聞こえた。顔色を悪くしている貴族たちもいる。
(聖女二人を公爵家に嫁がせただけあるわね。汚職にまみれた貴族たちを一掃する気かしら)
聖女を政治に関わらせているわけではないが、あの王の話を聞いている限り、本当に離婚できるのか不安になってくる。不妊だからと言っても、離婚は難しくなるのではないだろうか。よそから後継者を連れてくるとしても、離婚する必要がないからだ。聖女のために離婚するというのは聞こえは良いが、王がそれを許すかは話が別。
カリスはなんとでもないような顔をしている。それくらい考えているだろうか。
けれど、期待して来たのではないだろうか。
そんなことを考えてしまうのがバカらしい。どう勘ぐろうと、わかっていることではないか。
(アティはいい女だからね)
だからこそ、やるせない。アティが嫌な女ならば対抗でもするが、アティのことは大好きだ。目標のためには嫌な相手でも笑顔で対応し、努力する姿はとても輝かしい。真似できるならばやればいいじゃない。と言われても、エヴリーヌにはできない技だ。だから、アティはすごいのである。
そしてアティのせいではない。アティに嫉妬しても仕方がないのだ。
(こんな気持ちでパーティとか)
「お似合いです」
「はは。ありがとうございます」
馬車を降りる寸前、手を出しながら、カリスは恥ずかしげもなく、感嘆するようにドレス姿を褒めてくれた。
結婚式以来、初めてのパーティということで、カリスは奮発してデザイナーを呼んで、ドレスから装飾品までを購入してくれた。
目が潰れそうになるほど煌びやかで高価な物たちが並べられ、どんなドレスが似合うのか、何度も試着させられ、カリスの前でお披露目をするという、謎の大会が行われた。
合わせたドレス一式を見るたびに、カリスは頷き、目を輝かせ、とてもお似合いです。と褒め言葉を忘れない。最初はいい気になって試着していたが、終わった頃にはぐったり疲労困憊だった。
だが、頑張ったおかげで、満足のいく一式を購入できたと思う。
黒茶色の髪に合った、紫のドレス。濃いめの紫を基調にした、薄い紫のフレアの入ったスカートは、自分に似合っているかはともかく、美しい仕上がりだ。なんといっても首元の宝石が存在感を主張している。公爵夫人らしくシンプルながらも豪華な装いで、メイドたちも満足げだった。
他にも多くのドレスや装飾品を購入してくれたが、そんなに着ないと思うので、クローゼットで眠ったままになるかもしれない。二年後離婚なのに何着も買うのだから、申し訳ない気持ちになってくる。
「カリス・ヴォルテール公爵。エヴリーヌ・ヴォルテール公爵夫人です」
名前を呼ばれ、扉が開かれて、颯爽と登場すると、女性たちがまずカリスを見つめ、ついでにというようにエヴリーヌに視線を向ける。カリスといて嫌味は言えないのか、妬ましい視線を向けてくるだけ。嘲笑うような声は聞こえてこない。
しかし、アティ夫妻が現れた途端、聖女の格を口にする者がちらほら現われる。
「アティ様よ。アティ様が二人いらっしゃればよかったのに」
「ヴォルテール公爵は貧乏くじを引いてしまったわね」
(うるさいわよ。そんなこと自分がよくわかっている)
そいつらを足蹴にして、魔物のいる山まで遠く飛ばしてやりたくなる気持ちを抑えて、エヴリーヌは渾身の笑みをそいつらに向けてやった。二年後離婚したら都には来ないので、そらみろと返されることはない。
「カリス。結婚式依頼だな」
先に声をかけてきたのは、アティの夫、フレデリク・ブラシェーロ公爵だ。アティの痛い痛い問題は解決したのだろうか。アティは猫被りが激しいので、麗しく微笑むだけ。
「奥方の紹介をしてくれ」
「エヴリーヌと申します。アティとは同じ神殿で暮らしておりました」
「話は聞いているぞ。討伐に加わるほどの素晴らしい力を持った聖女だと」
結婚式では話す余裕もなかったと、お互い紹介し合う。
フレデリクは体格の良い騎士のようで、栗色の髪をしっかり固めた、凛々しく、隙のなさそうな男だった。碧色の瞳は鋭く、自信ありげな顔をしている。俺様なところがあると聞いていた通りの雰囲気だった。
カリスとは仲が良いのか、楽しげに話している。押しが強そうだが、カリスは気にした風もなく、淡々と会話をしていた。
「また体格が大きくなったのではないか? なにをしたらそんなに筋肉まみれになるんだ」
「なんだ、羨ましいのか?」
「まったく。動きが鈍くなりそうだ」
「そんなわけないだろう。これでも剣は振れている」
「触れているだけの間違いだろう」
冗談なのか、嫌味なのか、カリスは呆れ顔でフレデリクの体格を指摘している。アティが体格ばかり言うわけだ。カリスと比べて胸の厚さが段違いである。アティはその体格が好きなようなので、もしかしたら褒めて伸ばしすぎたのではなかろうか。アティが微笑みながら、エヴリーヌにだけわかるように口元を上げた。してやったりの顔なので、自分好みに誘導しているようだ。さすがアティ。
そうこうしている間に王と王妃がやってきた。二人には結婚式で挨拶をしたので、顔はわかっている。若い王と王妃。こちらも自信ありげな顔をして、口元に笑みをたたえているが、腹黒さを感じた。そうでなければ、王を追いやって公爵子息を二人公爵に上げたりしない。
「本日は建国記念だ。そなたら国への貢献を嬉しく思う。公爵家は聖女二人を娶った。これから聖女たちの貢献が耳に入るだけでなく、目に見えていくことだろう。すでにエヴリーヌ・ヴォルテール公爵夫人は、結婚後討伐に参加し、多くの者たちを救った。父の時代に苦しんだ者たちを救うため、ここに神殿の改革を宣言し、魔物のない、確固たる地盤を作ることを知らせる」
神殿の改革? それは初耳だ。アティに振り向けば、軽く首を振った。こちらに話は来ていないので、都の神殿を改革する気だろう。身分の高い貴族ばかりを優遇した制度をなくすつもりだろうか。
王を追いやった王太子は、国を腐敗させた貴族たちをすべて粛清する気なのかもしれない。王に与していた貴族たちを罰しているが、身分の高い者たち全員を罷免させるわけにもいかない。次があれば、これからそれを行うぞという脅しにも聞こえた。顔色を悪くしている貴族たちもいる。
(聖女二人を公爵家に嫁がせただけあるわね。汚職にまみれた貴族たちを一掃する気かしら)
聖女を政治に関わらせているわけではないが、あの王の話を聞いている限り、本当に離婚できるのか不安になってくる。不妊だからと言っても、離婚は難しくなるのではないだろうか。よそから後継者を連れてくるとしても、離婚する必要がないからだ。聖女のために離婚するというのは聞こえは良いが、王がそれを許すかは話が別。
カリスはなんとでもないような顔をしている。それくらい考えているだろうか。
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