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苛立ちが収まらず、カリスは座りながら指をいつまでも動かしそうになった。
エヴリーヌと討伐に出発する前に、突然王に呼ばれたからだ。今日この日は遅れるわけにはいかないのに、どうしてこんな時に王宮へ来ることを要求したのか。
王に会い、話を聞いて、なぜこんな直前に知らせてくるのか。腹立たしさが募ってくる。
王は目をすがめてくる。あの顔はこちらの反応を見て面白がっている顔だ。
「不機嫌だな」
「そう思われるのならば、私の邪魔をしないでいただきたいのですが」
「仕方がないのだろう。侯爵家が面倒なのが悪いのだから。お前はそちらを対処しろと言っているだけだ」
書類を前にして、王は片眉を上げて皮肉を込めて言う。
侯爵家、シモン・エングブロウの父親。リストに載った名前を見る限り、こちらでも確認していた者たちと一致している。
信用できるのかと言いたいが、書類を見る限り、こちらの調査と同じであるのは明白で、王は信用することにしたのだろう。
「息子からの密告とは」
「自ら証拠を掴むから、それで侯爵を捕らえるとのことだ。良い提案じゃないか。失敗すれば侯爵家は取り潰しになるのだし?」
「成功したら、侯爵を名乗らせろと言うのは」
「わかりやすくて良いよ。使ってほしいならば、使ってやろうというものだろう?」
王はニヤリと口端を上げる。わざわざ捕らえに行かなくとも、息子が証拠を揃えて捕らえてくれると言うのだから、そうさせようと言うだけだ。王は楽ができて良いと不敵に笑む。
失敗して損をするのはシモンの方だけと言うが、兵士を貸してやって手助けするのだから、この先シモンを重宝するのがわかっている。狭量だとわかっているが、カリスは腹立たしくもあった。
エングブロウ侯爵は前王の統治時代に私腹を肥やしていた人物で、王太子であった現王を邪魔に思っている。前王時代では見逃されてきた不正の数々が現王によって取り締まられることになり、エングブロウ侯爵は現状に不満があるのだ。当時の仲間たちも同調して、どうにか王に一泡吹かせたいとせっせと悪巧みを考えていたが、その邪魔を息子にされるとは思っていなかっただろう。
「ふてくされるな。お前には大事な仕事がある。納得したならば、さっさと行くといい」
「妻が罠に入ろうとしているのに、納得などできません!」
「当初は聖女アティに依頼したが、妊娠がわかった。都の神殿の代表として、汚名を返上させるために聖女アティに行ってもらいたかったのだがな。まあ、仕方がない。聖女エヴリーヌは大聖女再来と言われている能力の持ち主だ。心配することはないだろう。あの色を持った者は大聖女以来だ」
王はエヴリーヌの瞳の色を仄めかす。王は知っているのだ。彼女の金の瞳を。
「伝説ではないのですか。瞳の色は珍しいのはわかりますが」
彼女の能力を下に見ているのではない。そんな立場にして、危険を増やしたくないだけだ。王はその心は知らずと、呆れ声を出してくる。
「お前、彼女がどれだけの者たちを救ってきたのか、聞いていないのか? どこへ行っても人が並び、多くの者たちを癒す聖女エヴリーヌ。平民の人気が高く、親しみのある、貴族らしからぬ聖女と」
「存じています。実際彼女の腕も見ていますし。噂も耳にしています。ですが」
「二人の聖女は力が違う。聖女アティも素晴らしい能力の持ち主だが、聖女エヴリーヌが訪れる場所は大地まで肥えるのだそうだ。公爵家に来て変わったことはないのか?」
「それは……」
(庭園での花の生育が良いのは、気のせいではなかったのか)
覚えがあって黙っていると、王は再びいやらしく笑う。
「季節外れの育ち方。実りの多さ。彼女が行くたびに恩恵が与えられる。幼い頃は特に、力の加減ができなくて子爵家が花だらけになって大変だったそうだ。それを隠すために領地に連れて行けば、村が豊かになりすぎて、動物や昆虫が増えて蜂が大量発生。それで聖女の力を隠しきれなくなった」
神殿長は、まずは魔力の抑え方を学ばせた。金の瞳を持った少女。大聖女になれるだけの能力を持つ、特別な少女であると考えていた。神殿で大切に育てられたのだ。
「彼女をお前に与えたのは、お前が女に無頓着で、妻になったとしても聖女の働きを邪魔しないからと思ったからだ。フレデリクは頑固だから、説得が面倒臭い。お前ならば、気にせず差し出してくると思ったんだが、気のせいだったようだな」
「私の妻ですよ!?」
「だが、聖女だ。なんのためにお前に与えたのか、わかっているだろう」
政治に使うためだ。知っている。エヴリーヌもそれを理解していた。王の権威が下がったために使われた、哀れな聖女。
大聖女の代わりになれると聞けば、使い勝手が良いどころではない。
前王のせいで王族の威信が崩れはじめた。それを払拭するためには、大聖女が公爵家に嫁ぎ、国のために働くところを民に見せる必要がある。
聖女エヴリーヌ。そして、アティ。神殿の中で一、二位を争う力を持つ聖女たち。エヴリーヌに至っては、大聖女となる力がある。
「大聖女の結界が人為的に破壊されるのであれば、部分的でしかない。そこから魔物が目覚めても、すべてが破壊されてなだれ込むわけではない」
「しかし、人為的であれば、別の危険があります」
彼らは聖女を狙うかもしれない。聖騎士だけでは封印を治すことはできないのだから、狙われるのはエヴリーヌだ。
「シモンが収拾すると言っている。侯爵を押し除けてその席に座る気で、わざわざ俺のところに来て乞うたのだから、責任を持って聖女を守るだろう。シモンができなくとも、騎士たちもいる」
「ですが、」
「聖女と公爵領、どちらを取る気だ。妻のために公爵領を捨てる気か? 大聖女である妻の力を信じたらどうだ。これは命令だ。お前は自領に戻れ。聖女たちが来るまで耐えるんだな。計画が確かならば、お前のところに魔物が流れるぞ」
エヴリーヌと討伐に出発する前に、突然王に呼ばれたからだ。今日この日は遅れるわけにはいかないのに、どうしてこんな時に王宮へ来ることを要求したのか。
王に会い、話を聞いて、なぜこんな直前に知らせてくるのか。腹立たしさが募ってくる。
王は目をすがめてくる。あの顔はこちらの反応を見て面白がっている顔だ。
「不機嫌だな」
「そう思われるのならば、私の邪魔をしないでいただきたいのですが」
「仕方がないのだろう。侯爵家が面倒なのが悪いのだから。お前はそちらを対処しろと言っているだけだ」
書類を前にして、王は片眉を上げて皮肉を込めて言う。
侯爵家、シモン・エングブロウの父親。リストに載った名前を見る限り、こちらでも確認していた者たちと一致している。
信用できるのかと言いたいが、書類を見る限り、こちらの調査と同じであるのは明白で、王は信用することにしたのだろう。
「息子からの密告とは」
「自ら証拠を掴むから、それで侯爵を捕らえるとのことだ。良い提案じゃないか。失敗すれば侯爵家は取り潰しになるのだし?」
「成功したら、侯爵を名乗らせろと言うのは」
「わかりやすくて良いよ。使ってほしいならば、使ってやろうというものだろう?」
王はニヤリと口端を上げる。わざわざ捕らえに行かなくとも、息子が証拠を揃えて捕らえてくれると言うのだから、そうさせようと言うだけだ。王は楽ができて良いと不敵に笑む。
失敗して損をするのはシモンの方だけと言うが、兵士を貸してやって手助けするのだから、この先シモンを重宝するのがわかっている。狭量だとわかっているが、カリスは腹立たしくもあった。
エングブロウ侯爵は前王の統治時代に私腹を肥やしていた人物で、王太子であった現王を邪魔に思っている。前王時代では見逃されてきた不正の数々が現王によって取り締まられることになり、エングブロウ侯爵は現状に不満があるのだ。当時の仲間たちも同調して、どうにか王に一泡吹かせたいとせっせと悪巧みを考えていたが、その邪魔を息子にされるとは思っていなかっただろう。
「ふてくされるな。お前には大事な仕事がある。納得したならば、さっさと行くといい」
「妻が罠に入ろうとしているのに、納得などできません!」
「当初は聖女アティに依頼したが、妊娠がわかった。都の神殿の代表として、汚名を返上させるために聖女アティに行ってもらいたかったのだがな。まあ、仕方がない。聖女エヴリーヌは大聖女再来と言われている能力の持ち主だ。心配することはないだろう。あの色を持った者は大聖女以来だ」
王はエヴリーヌの瞳の色を仄めかす。王は知っているのだ。彼女の金の瞳を。
「伝説ではないのですか。瞳の色は珍しいのはわかりますが」
彼女の能力を下に見ているのではない。そんな立場にして、危険を増やしたくないだけだ。王はその心は知らずと、呆れ声を出してくる。
「お前、彼女がどれだけの者たちを救ってきたのか、聞いていないのか? どこへ行っても人が並び、多くの者たちを癒す聖女エヴリーヌ。平民の人気が高く、親しみのある、貴族らしからぬ聖女と」
「存じています。実際彼女の腕も見ていますし。噂も耳にしています。ですが」
「二人の聖女は力が違う。聖女アティも素晴らしい能力の持ち主だが、聖女エヴリーヌが訪れる場所は大地まで肥えるのだそうだ。公爵家に来て変わったことはないのか?」
「それは……」
(庭園での花の生育が良いのは、気のせいではなかったのか)
覚えがあって黙っていると、王は再びいやらしく笑う。
「季節外れの育ち方。実りの多さ。彼女が行くたびに恩恵が与えられる。幼い頃は特に、力の加減ができなくて子爵家が花だらけになって大変だったそうだ。それを隠すために領地に連れて行けば、村が豊かになりすぎて、動物や昆虫が増えて蜂が大量発生。それで聖女の力を隠しきれなくなった」
神殿長は、まずは魔力の抑え方を学ばせた。金の瞳を持った少女。大聖女になれるだけの能力を持つ、特別な少女であると考えていた。神殿で大切に育てられたのだ。
「彼女をお前に与えたのは、お前が女に無頓着で、妻になったとしても聖女の働きを邪魔しないからと思ったからだ。フレデリクは頑固だから、説得が面倒臭い。お前ならば、気にせず差し出してくると思ったんだが、気のせいだったようだな」
「私の妻ですよ!?」
「だが、聖女だ。なんのためにお前に与えたのか、わかっているだろう」
政治に使うためだ。知っている。エヴリーヌもそれを理解していた。王の権威が下がったために使われた、哀れな聖女。
大聖女の代わりになれると聞けば、使い勝手が良いどころではない。
前王のせいで王族の威信が崩れはじめた。それを払拭するためには、大聖女が公爵家に嫁ぎ、国のために働くところを民に見せる必要がある。
聖女エヴリーヌ。そして、アティ。神殿の中で一、二位を争う力を持つ聖女たち。エヴリーヌに至っては、大聖女となる力がある。
「大聖女の結界が人為的に破壊されるのであれば、部分的でしかない。そこから魔物が目覚めても、すべてが破壊されてなだれ込むわけではない」
「しかし、人為的であれば、別の危険があります」
彼らは聖女を狙うかもしれない。聖騎士だけでは封印を治すことはできないのだから、狙われるのはエヴリーヌだ。
「シモンが収拾すると言っている。侯爵を押し除けてその席に座る気で、わざわざ俺のところに来て乞うたのだから、責任を持って聖女を守るだろう。シモンができなくとも、騎士たちもいる」
「ですが、」
「聖女と公爵領、どちらを取る気だ。妻のために公爵領を捨てる気か? 大聖女である妻の力を信じたらどうだ。これは命令だ。お前は自領に戻れ。聖女たちが来るまで耐えるんだな。計画が確かならば、お前のところに魔物が流れるぞ」
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