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45 浄化
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「エヴリーヌ!」
「げほっ。ごほっ」
「大丈夫か、エヴリーヌ!?」
「だ、大丈夫。大丈夫よ、カリス。そんな顔しないで」
「一瞬、黒いものに包まれたんだ! 君が見えなくなって」
カリスが泣きそうな顔で抱きついてくる。力強く抱きしめられた腕に、ホッと安堵した。温かさが夢ではない。
先ほどの、夢のようなものは、おそらくヘルナの記憶だ。
(カリスだと思っていた男が、カリスじゃなかったってこと? 幻覚に囚われて、別の男性と関係を持ったんだわ)
だからヘルナはカリスだと言い張った。
「なんでそんなことになるのよ」
「エヴリーヌ? 気分が悪いのか? どこか痛いところは?」
優しいカリスはおろおろと狼狽しながら、どこかおかしいところはないか心配してくれる。
その腕でヘルナを抱いた姿を見た時は心臓がはりさけそうだった。別人だとわかっていても、心の中が壊れてしまいそうだった。
(大丈夫よ。あれは、幻覚だった)
「エヴリーヌ! やばいぞ!」
ビセンテが叫んだ。
「黒い影が向こうの方へ逃げていった」
逃げた方向は空がよどんでいる。黒い影が町を覆っていく。
どうする。空に逃げられたらどうにもならない。
鳥が羽ばたく。その鳥たちが黒のモヤと重なった。
「エヴリーヌ、どうする!?」
「花を。花を町中に広げて!」
「わかった!」
ビセンテが空に赤の煙を飛ばした。計画は中止だ。聖騎士たちに指示し、花を町中に散らすことを知らせるために、馬を走らせた。
「公爵家の者たちにも手伝わせよう」
カリスも騎士に命じて花束を手にする。
町中に花束を散らして、行えるか? それが頭によぎったが、言ってはいられない。
「エヴリーヌ、乗れ!」
カリスが馬に乗ったまま手を伸ばした。エヴリーヌの馬は無事だが、カリスの手を取ってエヴリーヌも花束を抱えた。馬を走らせながら、花を町中にばらまくのだ。
空にはカラスたちが黒いモヤと共に移動している。どこへ行く気なのか、混乱しているように目的もなく動いているように見えた。
あんな風になるまで、なにを恨んだのか。あの夢の中で、他にも見えたものがあった。
カリスとは違う、他の男性を弄ぶような姿も見えた。王太子殿下の頃の王に近づこうとする女性に黒魔法で嫌がらせをする姿もあった。なにが彼女をそうさせるのか、気に入った男性を別の女性に取られるのが嫌なのか、邪魔をするようなことをしながらも、カリスが現れるとカリスに近づいた。
集まってくる女性たちを尻目にして、相手もしないカリスに、ヘルナは寄っていく。丁寧に断られてもヘルナの目はカリスを追った。数いる男性の中で、一番カリスが良いとでも言わんばかりに、他の男性が近づいてもカリスが言えればカリスを追う。
カリスと共にダンスをするエヴリーヌ。いつのパーティなのか、踊りながらなにかを話し、カリスが恥ずかしそうに焦った顔を見せつつも、エヴリーヌをみつめて、溢れるほどの笑みを見せる。その時。
それにすべてを呪うような憎しみを感じた。
「エヴリーヌ、どこに向かった方がいい!?」
公爵家の方へ向かっているが、できるだけ町の中心で行いたい。
「広場へ。王宮前広場に行って!」
花をすべて道にばら撒いて、カリスは公爵家に到着した後、王宮へ馬を引いた。王宮へ向かう道は人が多くなる。空を見上げながら、あの黒いモヤの集まりが離れていく前に辿り着けられるだろうか。
「きゃっ、なに!?」
「ネズミ? 猫も!? なんだ!?」
黒いモヤに別の鳥たちも集まってきた。カラスだけではなく、地面を小動物が走り出す。
集めているのか、不浄を。黒いモヤをまとった小動物たちが、空のモヤに集まるように、走っていく。
その影響があるのか、通っていく小動物を見ていた人々が、ふらついて地面に膝を突く。
「カリス!」
「もうすぐ着く!」
花は町中に置かれただろうか。わからないが、不浄が集まっているのならば、すべて浄化できるかもしれない。
「エヴリーヌ!」
人混みのある広場に辿り着いて、エヴリーヌは腕を上げた。
大聖女の封印の規模ではない。都の町一つを覆う程度だ。それでも、エヴリーヌとって初めての規模だった。
(ちゅうちょなんてしてられないのよ)
花から花へ、結界の魔力が灯り、広場から町の端へ結界が広がっていく。
地面に光がほとばしり、それが円を描くように光の柱が移動していく。
人々が声を上げて、光る足元を驚きと共にながめた。
小動物たちが邪魔するかのように馬に目掛けて突進するのを、カリスが魔法で退けた。
「エヴリーヌの邪魔はさせない!」
カリスの声を後ろに聞いて、エヴリーヌは集中する。
「見て、空が」
光は柱となり、空へと上る。空に飛ぶ黒いモヤへ届くように、光が上った。
「エヴリーヌ、髪が」
黒茶色の髪が銀色へと変化する。きっと、瞳の色も戻っているだろう。
「なんて美しい」
人々の声が遠くに聞こえて、ふらつきそうになるのを耐えながら、魔力を注いだ。その体を、カリスが後ろから支えてくれる。
(できるわ。私なら、できる!)
結界が、町中へ広がった。
「げほっ。ごほっ」
「大丈夫か、エヴリーヌ!?」
「だ、大丈夫。大丈夫よ、カリス。そんな顔しないで」
「一瞬、黒いものに包まれたんだ! 君が見えなくなって」
カリスが泣きそうな顔で抱きついてくる。力強く抱きしめられた腕に、ホッと安堵した。温かさが夢ではない。
先ほどの、夢のようなものは、おそらくヘルナの記憶だ。
(カリスだと思っていた男が、カリスじゃなかったってこと? 幻覚に囚われて、別の男性と関係を持ったんだわ)
だからヘルナはカリスだと言い張った。
「なんでそんなことになるのよ」
「エヴリーヌ? 気分が悪いのか? どこか痛いところは?」
優しいカリスはおろおろと狼狽しながら、どこかおかしいところはないか心配してくれる。
その腕でヘルナを抱いた姿を見た時は心臓がはりさけそうだった。別人だとわかっていても、心の中が壊れてしまいそうだった。
(大丈夫よ。あれは、幻覚だった)
「エヴリーヌ! やばいぞ!」
ビセンテが叫んだ。
「黒い影が向こうの方へ逃げていった」
逃げた方向は空がよどんでいる。黒い影が町を覆っていく。
どうする。空に逃げられたらどうにもならない。
鳥が羽ばたく。その鳥たちが黒のモヤと重なった。
「エヴリーヌ、どうする!?」
「花を。花を町中に広げて!」
「わかった!」
ビセンテが空に赤の煙を飛ばした。計画は中止だ。聖騎士たちに指示し、花を町中に散らすことを知らせるために、馬を走らせた。
「公爵家の者たちにも手伝わせよう」
カリスも騎士に命じて花束を手にする。
町中に花束を散らして、行えるか? それが頭によぎったが、言ってはいられない。
「エヴリーヌ、乗れ!」
カリスが馬に乗ったまま手を伸ばした。エヴリーヌの馬は無事だが、カリスの手を取ってエヴリーヌも花束を抱えた。馬を走らせながら、花を町中にばらまくのだ。
空にはカラスたちが黒いモヤと共に移動している。どこへ行く気なのか、混乱しているように目的もなく動いているように見えた。
あんな風になるまで、なにを恨んだのか。あの夢の中で、他にも見えたものがあった。
カリスとは違う、他の男性を弄ぶような姿も見えた。王太子殿下の頃の王に近づこうとする女性に黒魔法で嫌がらせをする姿もあった。なにが彼女をそうさせるのか、気に入った男性を別の女性に取られるのが嫌なのか、邪魔をするようなことをしながらも、カリスが現れるとカリスに近づいた。
集まってくる女性たちを尻目にして、相手もしないカリスに、ヘルナは寄っていく。丁寧に断られてもヘルナの目はカリスを追った。数いる男性の中で、一番カリスが良いとでも言わんばかりに、他の男性が近づいてもカリスが言えればカリスを追う。
カリスと共にダンスをするエヴリーヌ。いつのパーティなのか、踊りながらなにかを話し、カリスが恥ずかしそうに焦った顔を見せつつも、エヴリーヌをみつめて、溢れるほどの笑みを見せる。その時。
それにすべてを呪うような憎しみを感じた。
「エヴリーヌ、どこに向かった方がいい!?」
公爵家の方へ向かっているが、できるだけ町の中心で行いたい。
「広場へ。王宮前広場に行って!」
花をすべて道にばら撒いて、カリスは公爵家に到着した後、王宮へ馬を引いた。王宮へ向かう道は人が多くなる。空を見上げながら、あの黒いモヤの集まりが離れていく前に辿り着けられるだろうか。
「きゃっ、なに!?」
「ネズミ? 猫も!? なんだ!?」
黒いモヤに別の鳥たちも集まってきた。カラスだけではなく、地面を小動物が走り出す。
集めているのか、不浄を。黒いモヤをまとった小動物たちが、空のモヤに集まるように、走っていく。
その影響があるのか、通っていく小動物を見ていた人々が、ふらついて地面に膝を突く。
「カリス!」
「もうすぐ着く!」
花は町中に置かれただろうか。わからないが、不浄が集まっているのならば、すべて浄化できるかもしれない。
「エヴリーヌ!」
人混みのある広場に辿り着いて、エヴリーヌは腕を上げた。
大聖女の封印の規模ではない。都の町一つを覆う程度だ。それでも、エヴリーヌとって初めての規模だった。
(ちゅうちょなんてしてられないのよ)
花から花へ、結界の魔力が灯り、広場から町の端へ結界が広がっていく。
地面に光がほとばしり、それが円を描くように光の柱が移動していく。
人々が声を上げて、光る足元を驚きと共にながめた。
小動物たちが邪魔するかのように馬に目掛けて突進するのを、カリスが魔法で退けた。
「エヴリーヌの邪魔はさせない!」
カリスの声を後ろに聞いて、エヴリーヌは集中する。
「見て、空が」
光は柱となり、空へと上る。空に飛ぶ黒いモヤへ届くように、光が上った。
「エヴリーヌ、髪が」
黒茶色の髪が銀色へと変化する。きっと、瞳の色も戻っているだろう。
「なんて美しい」
人々の声が遠くに聞こえて、ふらつきそうになるのを耐えながら、魔力を注いだ。その体を、カリスが後ろから支えてくれる。
(できるわ。私なら、できる!)
結界が、町中へ広がった。
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