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48 ーその後ー
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雨はやみ、あれだけ混乱していた現場ももう落ち着いていた。
地面に散らばったディオンデの種を集めはじめ、黒く腐ったような残骸を掃除しはじめた。
コメドキアの草を全て除去するには時間がかかるだろう。しかしそれも、リングが何とかしてくれるはずだ。
彼は既に厳しい顔を捨て、柔らかな笑顔をロンに向けた。
「あの家に戻るのか?」
「そのつもり。あそこは田舎で不便だけど、薬には事欠かないいい場所なんだ。お父さんをあそこまで連れるのは大変かもしれないけど、こっちにいるよりずっといいと思う」
城の喧噪の中で住むより、父親には環境はいい。移動に時間はかかり負担もあるだろうが、向こうにつけばずっといい療養になる。
セウもきっと賛成してくれるだろう。
「あの場所は、珍しい草木が多かった。薬草を取りに訪れても、構わないか?」
断る必要なんてないのに、リングは断りを入れてくる。
「勿論。リングが来てくれればお父さんも喜ぶよ。あの山には私しか知らないいい場所あるから、案内するね」
笑顔で返すとリングは緩やかに笑った。
「その前に、お父さんに一緒に行こうって言わなきゃ」
セウの代わりに父があの家に帰る。再び家族として住めるなら十分だ。
しばらく家を開けていたせいで村人にも迷惑がかかっていることだろう。家を出ることを伝えていないので心配しているかもしれない。
そうなればやることが沢山残っている。
庭の薬草も放置しっぱなし、家の中なんてきっとほこりだらけだ。
「ロンちゃ~ん。盛り上がってるとこ悪いけど、一人忘れてるんじゃないの?」
ティオは再び茶々を入れる。
ここにはいない一人を思い浮かべて、ロンは首を横にふった。
「戦ってきてぼろぼろになって帰ってきてから、そんな話あいつにしたら、お、こ~るよ~。セウとロンちゃんが一緒にいるだけで怒ってたし、今リングと一緒にいるなんて知っても、すんごく怒ると思うけど」
「シェインは大聖騎士団だから、こっちでやることがある。私も、向こうでしか手に入らない薬草もあるから、色々できることがあるの。初めからシェインは私を向こうに送ってくれるって約束だったんだもの、守ってもらわなくちゃ」
シェインが田舎の生活に甘んじるとは思えない。自分はあちらでの仕事があるのと同じく、彼にも仕事があるのだから、現実的に一緒にいるのは難しいだろう。
彼は自分を引き止めるだろうか。引き止めても無駄だと思うだろうか。
どちらにしても、自分はここにいるつもりはなかった。
「あと、これ。リングに」
鞄につめておいた球体を取り出して、ロンはリングに手渡そうとした。
「それは、お前が持っていた方がいいだろう」
「でも、解読するならこっちの方がいいし」
ロン一人では解読できないこともきっとある。失敗でもすれば、取り返しのつかないことになるかもしれない。それだったら、王族直属薬師の手で調べた方がずっと安全で確実に解読できるだろう。
リングが先導すれば問題ないはずだ。
けれど、リングは首を左右に振った。
「私だけではこれは解読できない。お前の力が必要だ」
「でも…」
「ロンガニア。許しを得られるなら、お前の元で解読を。助けとなるならば私もこの手を貸そう」
リングは静かに瞳を伏せた。
触れる指先は冷たかったが、心の温かさを感じた。
リングはロンを訪ねた時に解読を進めようと言ってくれているのだ。
「ちょ、ちょーっと、何。一緒に住む気!?お父さんそんなの許しませんよ!」
ティオが小芝居で話を割って入ってくる。リングはそれを気にもせず、ロンにパンドラをしまうよう仕草をした。
「ロンちゃんが帰りたいって言うなら止めませんよ、お父さんも。でもたまには会いにくればいいじゃないの。パンドラ解読はリングと一緒で勿論構いません。ですが、お城に来てやるって手もあるでしょ。そこで解読すればいいんじゃなあい?で、ついでに薬の情報交換でもするとか、どう?」
ティオはついでのように色々と提案をしてくる。
遠慮のない物言いは王子だからか、彼の提案は誰の拒否権も許すことなく通ってしまうのだろう。
たまには城に戻り、パンドラ解読をしろと言ってくる。
リングはロンを見やって小さく頷く。それもありだと賛同していた。
適当にどんどん決められそうだなと、一人思う。リングもそう思っているかもしれない。彼は小さく肩を竦めた。
全てを決めるにはもう一人、話さなければならない者がいる。
「ヴァル・ガルディ王子。大聖騎士団より伝達です!マルディンが国境方面に逃亡。数人の王族直属薬師を伴っており、依然捕らえるに時間がかかるとのこと」
かしこまってやって来た男は、ティオの前で片膝をついて矢継ぎ早に話した。
顔や腕に怪我をしたか、血糊がついている。
ティオは途端に顔が変わった。険しい表情が別人で、低く威厳のある声を静かに発する。
「助けはいる?」
「大聖騎士団に援助は必要ないとのこと。数日ののち必ず捕らえるとのことです。また、マルディン配下多方面でも抵抗する者があると、情報があります」
長年第一特権の頂上にいた男だ。ティオは一筋縄ではいかないと分かっているだろう。
「別部隊を出すしかないね。引き続き情報を頼むよ」
「承知しました」
男に手当をしてから行けと伝えて、ティオはリングに向き直った。
「さて、お前にはやることができたね」
「私が知っていることは、あなたも分かっておいでだと思うが」
「情報が漏れていても困るからね。ちょっと差し合わせようか」
リングは頷く。
マルディンが誰と繋がり、どれだけの裏切りがあるのか再確認するのだ。一人も漏らさず一掃したいのだろう。元々ティオはそれが目的だった。
この場所が収まっても、長く国を奪っていた男の抵抗は簡単ではない。これからまだやらなければならないことが沢山あるのだ。
「手伝えること、あるかな…」
戦いに行っても邪魔になるだろうか。一人を助けるだけではないため、訓練されていないロンは足手まといになるかもしれない。それでもじっとしているわけにはいかなかった。
シェインも戦っている。
「ロンちゃんにはやることいっぱいあるよ」
「まだ患者も出るだろう。引き続き症状の出る者も多いはずだ。薬が足りなくなるようなことにならないように、薬草の調薬と手当を続けなければ」
ティオより先にリングがそれを伝えて、ロンは大きく頷く。隣でティオがセリフを取られていじけようとしたが、それも放置した。
「私もあとで手伝いに入る。それまで、頼んだ」
「うん!」
ロンの声に、リングは朗らかに笑んだ。
地面に散らばったディオンデの種を集めはじめ、黒く腐ったような残骸を掃除しはじめた。
コメドキアの草を全て除去するには時間がかかるだろう。しかしそれも、リングが何とかしてくれるはずだ。
彼は既に厳しい顔を捨て、柔らかな笑顔をロンに向けた。
「あの家に戻るのか?」
「そのつもり。あそこは田舎で不便だけど、薬には事欠かないいい場所なんだ。お父さんをあそこまで連れるのは大変かもしれないけど、こっちにいるよりずっといいと思う」
城の喧噪の中で住むより、父親には環境はいい。移動に時間はかかり負担もあるだろうが、向こうにつけばずっといい療養になる。
セウもきっと賛成してくれるだろう。
「あの場所は、珍しい草木が多かった。薬草を取りに訪れても、構わないか?」
断る必要なんてないのに、リングは断りを入れてくる。
「勿論。リングが来てくれればお父さんも喜ぶよ。あの山には私しか知らないいい場所あるから、案内するね」
笑顔で返すとリングは緩やかに笑った。
「その前に、お父さんに一緒に行こうって言わなきゃ」
セウの代わりに父があの家に帰る。再び家族として住めるなら十分だ。
しばらく家を開けていたせいで村人にも迷惑がかかっていることだろう。家を出ることを伝えていないので心配しているかもしれない。
そうなればやることが沢山残っている。
庭の薬草も放置しっぱなし、家の中なんてきっとほこりだらけだ。
「ロンちゃ~ん。盛り上がってるとこ悪いけど、一人忘れてるんじゃないの?」
ティオは再び茶々を入れる。
ここにはいない一人を思い浮かべて、ロンは首を横にふった。
「戦ってきてぼろぼろになって帰ってきてから、そんな話あいつにしたら、お、こ~るよ~。セウとロンちゃんが一緒にいるだけで怒ってたし、今リングと一緒にいるなんて知っても、すんごく怒ると思うけど」
「シェインは大聖騎士団だから、こっちでやることがある。私も、向こうでしか手に入らない薬草もあるから、色々できることがあるの。初めからシェインは私を向こうに送ってくれるって約束だったんだもの、守ってもらわなくちゃ」
シェインが田舎の生活に甘んじるとは思えない。自分はあちらでの仕事があるのと同じく、彼にも仕事があるのだから、現実的に一緒にいるのは難しいだろう。
彼は自分を引き止めるだろうか。引き止めても無駄だと思うだろうか。
どちらにしても、自分はここにいるつもりはなかった。
「あと、これ。リングに」
鞄につめておいた球体を取り出して、ロンはリングに手渡そうとした。
「それは、お前が持っていた方がいいだろう」
「でも、解読するならこっちの方がいいし」
ロン一人では解読できないこともきっとある。失敗でもすれば、取り返しのつかないことになるかもしれない。それだったら、王族直属薬師の手で調べた方がずっと安全で確実に解読できるだろう。
リングが先導すれば問題ないはずだ。
けれど、リングは首を左右に振った。
「私だけではこれは解読できない。お前の力が必要だ」
「でも…」
「ロンガニア。許しを得られるなら、お前の元で解読を。助けとなるならば私もこの手を貸そう」
リングは静かに瞳を伏せた。
触れる指先は冷たかったが、心の温かさを感じた。
リングはロンを訪ねた時に解読を進めようと言ってくれているのだ。
「ちょ、ちょーっと、何。一緒に住む気!?お父さんそんなの許しませんよ!」
ティオが小芝居で話を割って入ってくる。リングはそれを気にもせず、ロンにパンドラをしまうよう仕草をした。
「ロンちゃんが帰りたいって言うなら止めませんよ、お父さんも。でもたまには会いにくればいいじゃないの。パンドラ解読はリングと一緒で勿論構いません。ですが、お城に来てやるって手もあるでしょ。そこで解読すればいいんじゃなあい?で、ついでに薬の情報交換でもするとか、どう?」
ティオはついでのように色々と提案をしてくる。
遠慮のない物言いは王子だからか、彼の提案は誰の拒否権も許すことなく通ってしまうのだろう。
たまには城に戻り、パンドラ解読をしろと言ってくる。
リングはロンを見やって小さく頷く。それもありだと賛同していた。
適当にどんどん決められそうだなと、一人思う。リングもそう思っているかもしれない。彼は小さく肩を竦めた。
全てを決めるにはもう一人、話さなければならない者がいる。
「ヴァル・ガルディ王子。大聖騎士団より伝達です!マルディンが国境方面に逃亡。数人の王族直属薬師を伴っており、依然捕らえるに時間がかかるとのこと」
かしこまってやって来た男は、ティオの前で片膝をついて矢継ぎ早に話した。
顔や腕に怪我をしたか、血糊がついている。
ティオは途端に顔が変わった。険しい表情が別人で、低く威厳のある声を静かに発する。
「助けはいる?」
「大聖騎士団に援助は必要ないとのこと。数日ののち必ず捕らえるとのことです。また、マルディン配下多方面でも抵抗する者があると、情報があります」
長年第一特権の頂上にいた男だ。ティオは一筋縄ではいかないと分かっているだろう。
「別部隊を出すしかないね。引き続き情報を頼むよ」
「承知しました」
男に手当をしてから行けと伝えて、ティオはリングに向き直った。
「さて、お前にはやることができたね」
「私が知っていることは、あなたも分かっておいでだと思うが」
「情報が漏れていても困るからね。ちょっと差し合わせようか」
リングは頷く。
マルディンが誰と繋がり、どれだけの裏切りがあるのか再確認するのだ。一人も漏らさず一掃したいのだろう。元々ティオはそれが目的だった。
この場所が収まっても、長く国を奪っていた男の抵抗は簡単ではない。これからまだやらなければならないことが沢山あるのだ。
「手伝えること、あるかな…」
戦いに行っても邪魔になるだろうか。一人を助けるだけではないため、訓練されていないロンは足手まといになるかもしれない。それでもじっとしているわけにはいかなかった。
シェインも戦っている。
「ロンちゃんにはやることいっぱいあるよ」
「まだ患者も出るだろう。引き続き症状の出る者も多いはずだ。薬が足りなくなるようなことにならないように、薬草の調薬と手当を続けなければ」
ティオより先にリングがそれを伝えて、ロンは大きく頷く。隣でティオがセリフを取られていじけようとしたが、それも放置した。
「私もあとで手伝いに入る。それまで、頼んだ」
「うん!」
ロンの声に、リングは朗らかに笑んだ。
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