妹を殺そうとした毒姉になったので逃亡することにした

MIRICO

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3−2 噂 

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「お嬢様、参りましょう」
 足を止めたジョアンナに、マリアンが促す。その声に気付いて、急いで外に出た。

「出してください。いいから進んで。お嬢様、大丈夫ですか? 顔が真っ青です」
「だ、大丈夫よ。少し、びっくりして。どうして、あんなこと」
 魔道具を使って殺そうとしてきたのは、クリスティーンの方だ。そう反論したくなるが、それよりもどうして魔導具を使ったことまで知っているのか。

「知っているのは、医師かメイドだけです。あとはご家族くらいしか。もしくは、」
 マリアンは言葉を止めた。

 まさかという思いが湧き上がってくる。あの場にいたのは、レオハルトも同じ。
 その話を誰かにしたのか、それとも家の誰かが漏らしたのか。関係のない宝飾店に来る客までもが知っている。クリスティーンが倒れてから、まだ数日しか経っていないのに。

「お嬢様、孤児院に参りますか?」
「院長先生にまで同じことを思われていたら」
「お嬢様は何も悪いことなどしていないんですよ? 堂々とされてください!」
「けれど、いえ、そうよね。もし噂を耳にされていても、誤解されたままは嫌だわ」

 決心して、孤児院へ馬車を走らせる。
 そこはジョアンナがよく行く孤児院で、祖母が支援をしていた。それを引き継いだわけではないが、食事以外に必要な日用品などをよく送っている。最近では職業につけるよう、ジョアンナが文字を教えたり、編み物を教えたりしていた。慕ってくれる子供たちも多く、ジョアンナにとっても安らげる場所である。

 その院長や子供たちに噂を聞かれ、嫌われたらどうすればいいのか。考えるだけで不安になった。






「ジョアンナ様だ」
「ジョアンナ様、いらっしゃい!」

 馬車に気付いた子供たちが走り寄ってくる。外で遊んでいたのか、泥だらけだ。子供たちに贈る物に気付いたか、マリアンにも近寄って、腕の中の物を気にしてくる。

「ジョアンナ様。よくいらしてくださいましたね」
 迎え入れてくれた孤児院の院長は、笑顔を見せつつも、どこか落ち着かない様子だ。
 ああ、あの顔は、院長も知っているのだ。
 そうとしか思えない。院長は集まってきた子供たちに、外で遊ぶように伝える。

「みなさん、あちらで遊んでいましょうね。ジョアンナ様、こちらへどうぞ」
「マリアン、それをみんなに渡しておいてくれる?」
「承知しました」

 マリアンに贈り物をお願いして、ジョアンナは院長に促されて院長室へ入る。院長は誰にも聞かれないようにか、廊下を見回して、その扉を閉めた。

「院長先生、私の噂を、聞かれたんですね」
「配達の者から耳にしたのよ。でも、私は信じていませんよ。あなたがそんな真似をしただなんて」

 院長は憂え顔を見せた。噂を聞いて、ジョアンナが来るのをずっと待っていたと言って。
 家族の誰も信じてくれなかったのに。
 院長はジョアンナの肩を抱き、ゆっくりとなでてくれる。
 いつの間にか涙が流れていた。

「一体、なにがあったのです?」
「妹が、クリスティーンが、私の婚約者と、レオハルトと浮気を。私を殺そうとして、誤って、崖下に。腕を伸ばしてつかんだんです。でも、力が足りなくて」
 涙を流しながらあの時の話をすれば、院長はジョアンナの顔や腕にある傷に気付いて、顔を歪めた。

「レオハルトは、その後、姿も現さず、婚約も破棄してきて、クリスティーンは意識がないまま、まだ、眠っているのです」
「あなたはなにも悪くないわ。あなたが婚約を破棄しようとしていたのは、私がよく知っています」
 ジョアンナは頷く。

 レオハルトとは、婚約を破棄するつもりだった。
 レオハルトから婚約の申し入れがあっても、ジョアンナには興味がないことに薄々気付いていた。レオハルトは父親に気に入られたかっただけなのだ。父親の事業は広がっており、それなりの利益がある。結婚すればその事業に参入でき、上手くいけば引き継ぐこともあるだろう。

 そうでなければ、ジョアンナと婚約しようとも思わなかったはずだ。社交界で女性とよく一緒にいるレオハルトが、ジョアンナには話しかけたことなどなかったのだから。
 クリスティーンがレオハルトを好きなこともあり、レオハルトがクリスティーンに本気ならば、父親にお願いするつもりだった。

 それなのに。

「思いきり泣いていいのよ。あなたはなにも悪くないのだから」
 肩を撫でられて、ジョアンナは込み上げると、子供のように嗚咽を漏らして涙を流した。
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