妹を殺そうとした毒姉になったので逃亡することにした

MIRICO

文字の大きさ
7 / 48

4 アルヴェール

しおりを挟む
「アルヴェール様、こちらにいたんですか。院長は?」
「込み入っているようだ」

 扉をノックしようとすれば、部下のホレスが声をかけてきた。ノックしようとしていた手を下ろして、アルヴェールはそこから離れるように促す。

「なにか、あったのですか?」
「今日訪れている令嬢の名はわかるか?」
「馬車の紋章はラスペード家でした。噂の姉が来ているのかと。子供たちが贈り物をされて騒いでいましたが、一部の者が敬遠していたので間違いないでしょう」

 中から聞こえた話は口にせず、アルヴェールはホレスに問うと、ホレスは部屋を気にしながら部屋の中の人物を推測する。孤児院内の職員が陰口を叩いているのだろう。廊下を歩いていれば、外で数人が固まって囁きあっているのが見えた。

 噂はアルヴェールも耳にしていた。ラスペード家で一悶着があったらしいと、情報として入ってきたからだ。どこから噂が届いたのかわからないが、最近起きたことだと聞いている。孤児院にまで噂が届くのだから、かなり早く噂が回っているのだろう。

 ラスペード家の令嬢はアルヴェールも知っていた。ジョアンナ・ラスペード。姉妹で、妹は派手な様相を好み目立つ雰囲気で男たちの聞こえはいいが、女性たちは遠巻きにしている。姉は逆に大人しく地味だが、ドレスや装飾品などのセンスが良いと、女性たちの中で噂されていた。

 これはアルヴェールの妹のエスターから聞いた話だ。持っている小物などが珍しいようで、どこで購入したのか聞きたがっていた。
 派手ではないが、妹に比べて仕草が美しく、気にしている男は多かった。妹に興味を持って、姉から声を掛ける者もいたが、婚約者がいるからとさりげなく離れる女性で、簡単に引っかかる女性ではなかったと記憶している。思慮深い人だ。

「婚約者は、なんと言った?」
「レオハルト・セディーンです。女性の噂の多い男ですよね」
「周辺を調べてくれ」
「承知しました」

 院長にはこれからの寄付の話をするつもりだったが、邪魔はすべきではないだろう。
 アルヴェールはまた訪れることにして、その場から離れた。
 廊下では子供が興奮しながら走るのを職員がたしなめる。外でも子供たちが元気に走り回っていた。

「わっ!」
 外を眺めていれば、足元になにかがぶつかった。女の子が廊下に転がり、手に持っていた物がアルヴェールの足元に飛んできた。
 それは大きなリボンの髪飾りで、細かなレースで編まれていた。
 温もりが感じられるような、不思議な気配がある。

「ご、ごめんなさい。あ、それ! 私の!」
「これは、どうしたんだ?」
「お姉ちゃんがくれたの!」
「先ほど、令嬢のメイドが配っていたものかと」

 手に持っていると女の子が怒りだしたので、すぐに返してやる。これから院長に着けてもらうつもりのようだ。
 部屋には客がいるぞ。と口にした時にはもう遅い、女の子は部屋の扉を割れんばかりに叩いていた。

「院長先生! 髪の毛結んでください! かわいいおリボンもらったの!!」
「まあ、良かったわね。いらっしゃい、結んであげるわ。あら、まあ、アルヴェール様。いらっしゃっていらしたんですね」

 院長が部屋から出てきて、挨拶を交わす。さすがに泣いていた令嬢は出てこられないだろう。
 そう思ったのに、部屋からそっと涙を拭いた令嬢が出てきた。

「院長先生、私はこれで」
「どうか、気を落とさぬように。またいらしてね」
「もちろんです」
「ジョアンナおねえちゃん、おリボンありがとう!」
「あら、どういたしまして。使ってくれると嬉しいわ」

 ラスペード令嬢は女の子に微笑むと、こちらに視線を向け、礼をして静々と廊下を歩いていった。
 泣き腫らした目。それなのに、凛として、何事もなかったかのように、去っていく。
 その辺の令嬢ならば、恥ずかしげにして、逃げ去っていきそうなのに。
 特に、自分の前では。

「院長、彼女は、よくこちらに来るのか?」
「ラスペード令嬢はよくいらっしゃいますよ。子供たちに物を教えたりしてくださるんです」
「院長センセ、早く!」
「あら、ごめんなさいね。かわいいリボンをいただいたのね。お礼も言えてえらいわ」

 女の子を褒めながらリボンを結んでやると、女の子は喜んでまた廊下を走っていった。その姿を見送って、部屋へ入るように促す。ベルを鳴らせば、しばらくするとお茶が出てきた。先ほどのラスペード令嬢には出さなかったところを見ると、二人で話したかったのだろう。邪魔をしてしまったに違いない。

「ラスペード令嬢は、子供たちに贈り物を渡したかっただけだと言っていましたから、すぐに帰られたんですよ」
 外で聞いていたことに気付いていたか、バツが悪い。咳払いをして、話を変える。令嬢の悪口が言いたいわけではなかった。

「よく来られているのに、ここでお会いしたことがないと思ってな」
「ラスペード令嬢は、前はよくおばあさまといらっしゃっていたんですよ。残念ながら、皆様がいらっしゃる時には寄られることがなかったですが。贈り物はよくいただいていたのですけれど。最近はよくお一人でいらっしゃっています」

 皆様がいらっしゃる、とは、前にアルヴェールが訪れたことが社交界で噂になり、令嬢たちがこの孤児院に集まったこと時のことだ。今までなんの興味を持っていなかった者たちが寄ってきたため、孤児院は混乱することになった。

 寄付など贈り物が増えたのは良かったが、目的が子供ではなかったので、あまり印象が良くないのだ。子供たちに目を向けず、別のことに目を向けていたからである。
 元凶であるため、なんとも言い難い。結局アルヴェールも寄ることができなくなり、令嬢たちの熱が冷めるまで、ここには来なくなった。

「あの時は、申し訳ないことをした」
「アルヴェール様のせいではありませんよ。おかげで寄付が増えたのですし、助かりました。ラスペード令嬢は子供たちに会いたがりましたが、代わりに令嬢はご自身で手作りしたものを送ってくださっていました」
「では、先ほどの、リボンも?」
「一つ一つ、子供たちのために編んでくださったのでしょう」
「彼女は、魔法が使えるのか?」
「魔法ですか? 聞いたことはありませんが」
「そうか。しかし、器用な方だな」
「男の子にはなにを作ってくれたのかしら。冬は全員に帽子や手袋、マフラーを編んでくださって。作るのが楽しいから良いのだとおっしゃっていましたけれど、ここで子供たちに教えてくださったりもするんです。今後、そういった仕事を選択肢に入れられるように」

 ジョアンナは、子供に作ったものを渡しながら、それをどうやって作るのかを実践するそうだ。
 それに興味を持ち、作るようになれば、店で働けるようになるかもしれない。子供の頃は保護されていても、結局一人で立つ時が来る。それまでになにか手に職が得られるような手伝いをしているのだ。
 勉強なども見ることもあるというのだから、他の令嬢とは一線を画す援助の仕方だ。

「本日は、子供たちに剣を教えにきてくださいましたか?」
「時間があるからな」

 外で大声が聞こえる。部下たちが集まり、子供の相手をしているからだろう。
 参加したい子供たちは、好きに参加する。将来男だろうが女だろうが、身を守るためにでも、剣の使い方は学んだ方が良いと考え始めたことだ。
 ラスペード令嬢も似たような考え方を持っていると知って、不思議と親近感が湧く。

「彼女とは気が合いそうだな」
 そう口にすると、院長が朗らかに微笑んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます

天宮有
恋愛
 聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。  それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。  公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。  島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。  その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。  私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。  ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

処理中です...