妹を殺そうとした毒姉になったので逃亡することにした

MIRICO

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1−2 妹と婚約者 

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「お父様にお話しましょう。あなたの婚約について、どう対応するのか、お父様の判断が必要だわ」
「ちょっと、待ちなさいよ!」

 道を戻ろうとすると、クリスティーンが牙を剥くように声を荒げる。

「お姉様が婚約破棄して、あの男に嫁げばいいだけじゃない?」
「お相手の方はあなたを指名しているのに、こちらが代替を出したところで覆るかは、私がどうこうしてなることではないわ。だから、お父様には自分で説明なさい」

 父親がどう対応するかは、ジョアンナが決められることではないし、相手がどうするかなど、ジョアンナがわかることではない。しかし、クリスティーンがレオハルトとどうしても結婚したいと説得すれば、少しは父親の気持ちも変わるかもしれない。

 だから、自分で説得しろと言っているのだが、クリスティーンは敵討ちでも見るかのように、憎しみを込めた形相で睨みつけてきた。

「なによ、そうやって、私を馬鹿にして。お父様は私を年寄り結婚させると言っていたわ。そんなの絶対に嫌! あんたがいけばいいのよ! レオハルトが愛しているのは、私なんだから!」
 途端、クリスティーンがつかみかかってくる。

「落ち着いて。危ないわ!」
 後ろは崖だ。落ちれば怪我では済まないかもしれない。
 危ないからとクリスティーンを押そうとしたが、クリスティーンはさらに迫ってきた。

「レオハルトは私にちょうだい! レオハルトは、私を愛しているのだから!」
 クリスティーンは勢いよく体当たりをしてきた。クリスティーンより身長のあるジョアンナは、彼女の力に負けることなく、ただ少しだけよろめく。

「クリスティーン、やめなさい。危ないわ」
「二人とも、落ち着いて」

 レオハルトが口を挟んできたが、クリスティーンの激しさに驚いているのか、後ろで止めるような仕草をするだけだ。クリスティーンは興奮しすぎてレオハルトの声が聞こえていないのか、力を込めてジョアンナを押してくる。

「お姉様が、いなくなればいいじゃない! お姉様は邪魔なのよ! 彼に合うのは私だわ!」
 踏みつける大地が背後にない。崖から滑りそうになって足元を見ながらクリスティーンを横目にすれば、クリスティーンがニヤリと口元を上げた。歪んだ顔に、ぞっと寒気がする。

 愛らしく真っ赤な口紅に塗られたその口から、残酷な言葉が発せられた。

「いいから、死んでよ!!」
 クリスティーン叫びながらジョアンナの体を押して、なにかを投げ付けてきた。
 閃光がほとばしる。しかしそれは何かに跳ね返されたように、クリスティーンにぶつかって見えた。

「きゃっ!」
「きゃあああっ!!」
 まぶしさにくらんでよろけると、なぜかクリスティーンが悲鳴をあげた。

「クリスティーン!?」
 咄嗟につかんだ、クリスティーンの腕。
 彼女の足元にあるはずの地面が、遠く離れた場所にあり、ぷらぷらと細い足が揺れた。崖下は木々が生えており、その木の先ですら、遥か下にある。

「いたいっ! おねえさま!」
 つかんだ手が、なぜかぬめっている。手汗をかいているのか。いや、濡れているのは、クリスティーンの腕だ。美しい白皙の肌が血みどろで、顔も出血し、焼けこげたようになっていた。

 どうして、そんな顔に!? 驚きに、手の力が抜けそうになる。

「は、はなさないで! 離さないでよ!!」
「動かないで! レオハルト様、手伝ってください!」

 いくらクリスティーンが華奢でも、ジョアンナでは体重を支えきれない。つかんでいた腕が抜けそうなほどだ。崖上でひれ伏したままクリスティーンをつかみ、レオハルトに助けを求めたが、驚きに体が動かないのか、レオハルトが近寄ってこない。

「レオハルト様。手伝ってください!」
「手が、やだ、お姉様、離さないで」
「離さないから! しっかりつかまって! レオハルト様!! 早く!!」

 叫んだその時、つかんでいた手からすり抜けた。腕を伸ばしたまま、クリスティーンの体が遠のいていくのが見えた。
 岩場にドレスが引っ掛かり、体が後転すると、鈍い音を出して、跳ね返るように地面に崩れ落ちた。

「クリスティーン!!」
「なぜ、手を離したんだ。ああ、愛する人よ!! 君が、彼女を殺したんだ!!」

 レオハルトの叫びに、頭が真っ白になったまま、ジョアンナは呆然とレオハルトの言葉を聞いていた。
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