2 / 48
1−2 妹と婚約者
しおりを挟む
「お父様にお話しましょう。あなたの婚約について、どう対応するのか、お父様の判断が必要だわ」
「ちょっと、待ちなさいよ!」
道を戻ろうとすると、クリスティーンが牙を剥くように声を荒げる。
「お姉様が婚約破棄して、あの男に嫁げばいいだけじゃない?」
「お相手の方はあなたを指名しているのに、こちらが代替を出したところで覆るかは、私がどうこうしてなることではないわ。だから、お父様には自分で説明なさい」
父親がどう対応するかは、ジョアンナが決められることではないし、相手がどうするかなど、ジョアンナがわかることではない。しかし、クリスティーンがレオハルトとどうしても結婚したいと説得すれば、少しは父親の気持ちも変わるかもしれない。
だから、自分で説得しろと言っているのだが、クリスティーンは敵討ちでも見るかのように、憎しみを込めた形相で睨みつけてきた。
「なによ、そうやって、私を馬鹿にして。お父様は私を年寄り結婚させると言っていたわ。そんなの絶対に嫌! あんたがいけばいいのよ! レオハルトが愛しているのは、私なんだから!」
途端、クリスティーンがつかみかかってくる。
「落ち着いて。危ないわ!」
後ろは崖だ。落ちれば怪我では済まないかもしれない。
危ないからとクリスティーンを押そうとしたが、クリスティーンはさらに迫ってきた。
「レオハルトは私にちょうだい! レオハルトは、私を愛しているのだから!」
クリスティーンは勢いよく体当たりをしてきた。クリスティーンより身長のあるジョアンナは、彼女の力に負けることなく、ただ少しだけよろめく。
「クリスティーン、やめなさい。危ないわ」
「二人とも、落ち着いて」
レオハルトが口を挟んできたが、クリスティーンの激しさに驚いているのか、後ろで止めるような仕草をするだけだ。クリスティーンは興奮しすぎてレオハルトの声が聞こえていないのか、力を込めてジョアンナを押してくる。
「お姉様が、いなくなればいいじゃない! お姉様は邪魔なのよ! 彼に合うのは私だわ!」
踏みつける大地が背後にない。崖から滑りそうになって足元を見ながらクリスティーンを横目にすれば、クリスティーンがニヤリと口元を上げた。歪んだ顔に、ぞっと寒気がする。
愛らしく真っ赤な口紅に塗られたその口から、残酷な言葉が発せられた。
「いいから、死んでよ!!」
クリスティーン叫びながらジョアンナの体を押して、なにかを投げ付けてきた。
閃光がほとばしる。しかしそれは何かに跳ね返されたように、クリスティーンにぶつかって見えた。
「きゃっ!」
「きゃあああっ!!」
まぶしさにくらんでよろけると、なぜかクリスティーンが悲鳴をあげた。
「クリスティーン!?」
咄嗟につかんだ、クリスティーンの腕。
彼女の足元にあるはずの地面が、遠く離れた場所にあり、ぷらぷらと細い足が揺れた。崖下は木々が生えており、その木の先ですら、遥か下にある。
「いたいっ! おねえさま!」
つかんだ手が、なぜかぬめっている。手汗をかいているのか。いや、濡れているのは、クリスティーンの腕だ。美しい白皙の肌が血みどろで、顔も出血し、焼けこげたようになっていた。
どうして、そんな顔に!? 驚きに、手の力が抜けそうになる。
「は、はなさないで! 離さないでよ!!」
「動かないで! レオハルト様、手伝ってください!」
いくらクリスティーンが華奢でも、ジョアンナでは体重を支えきれない。つかんでいた腕が抜けそうなほどだ。崖上でひれ伏したままクリスティーンをつかみ、レオハルトに助けを求めたが、驚きに体が動かないのか、レオハルトが近寄ってこない。
「レオハルト様。手伝ってください!」
「手が、やだ、お姉様、離さないで」
「離さないから! しっかりつかまって! レオハルト様!! 早く!!」
叫んだその時、つかんでいた手からすり抜けた。腕を伸ばしたまま、クリスティーンの体が遠のいていくのが見えた。
岩場にドレスが引っ掛かり、体が後転すると、鈍い音を出して、跳ね返るように地面に崩れ落ちた。
「クリスティーン!!」
「なぜ、手を離したんだ。ああ、愛する人よ!! 君が、彼女を殺したんだ!!」
レオハルトの叫びに、頭が真っ白になったまま、ジョアンナは呆然とレオハルトの言葉を聞いていた。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
道を戻ろうとすると、クリスティーンが牙を剥くように声を荒げる。
「お姉様が婚約破棄して、あの男に嫁げばいいだけじゃない?」
「お相手の方はあなたを指名しているのに、こちらが代替を出したところで覆るかは、私がどうこうしてなることではないわ。だから、お父様には自分で説明なさい」
父親がどう対応するかは、ジョアンナが決められることではないし、相手がどうするかなど、ジョアンナがわかることではない。しかし、クリスティーンがレオハルトとどうしても結婚したいと説得すれば、少しは父親の気持ちも変わるかもしれない。
だから、自分で説得しろと言っているのだが、クリスティーンは敵討ちでも見るかのように、憎しみを込めた形相で睨みつけてきた。
「なによ、そうやって、私を馬鹿にして。お父様は私を年寄り結婚させると言っていたわ。そんなの絶対に嫌! あんたがいけばいいのよ! レオハルトが愛しているのは、私なんだから!」
途端、クリスティーンがつかみかかってくる。
「落ち着いて。危ないわ!」
後ろは崖だ。落ちれば怪我では済まないかもしれない。
危ないからとクリスティーンを押そうとしたが、クリスティーンはさらに迫ってきた。
「レオハルトは私にちょうだい! レオハルトは、私を愛しているのだから!」
クリスティーンは勢いよく体当たりをしてきた。クリスティーンより身長のあるジョアンナは、彼女の力に負けることなく、ただ少しだけよろめく。
「クリスティーン、やめなさい。危ないわ」
「二人とも、落ち着いて」
レオハルトが口を挟んできたが、クリスティーンの激しさに驚いているのか、後ろで止めるような仕草をするだけだ。クリスティーンは興奮しすぎてレオハルトの声が聞こえていないのか、力を込めてジョアンナを押してくる。
「お姉様が、いなくなればいいじゃない! お姉様は邪魔なのよ! 彼に合うのは私だわ!」
踏みつける大地が背後にない。崖から滑りそうになって足元を見ながらクリスティーンを横目にすれば、クリスティーンがニヤリと口元を上げた。歪んだ顔に、ぞっと寒気がする。
愛らしく真っ赤な口紅に塗られたその口から、残酷な言葉が発せられた。
「いいから、死んでよ!!」
クリスティーン叫びながらジョアンナの体を押して、なにかを投げ付けてきた。
閃光がほとばしる。しかしそれは何かに跳ね返されたように、クリスティーンにぶつかって見えた。
「きゃっ!」
「きゃあああっ!!」
まぶしさにくらんでよろけると、なぜかクリスティーンが悲鳴をあげた。
「クリスティーン!?」
咄嗟につかんだ、クリスティーンの腕。
彼女の足元にあるはずの地面が、遠く離れた場所にあり、ぷらぷらと細い足が揺れた。崖下は木々が生えており、その木の先ですら、遥か下にある。
「いたいっ! おねえさま!」
つかんだ手が、なぜかぬめっている。手汗をかいているのか。いや、濡れているのは、クリスティーンの腕だ。美しい白皙の肌が血みどろで、顔も出血し、焼けこげたようになっていた。
どうして、そんな顔に!? 驚きに、手の力が抜けそうになる。
「は、はなさないで! 離さないでよ!!」
「動かないで! レオハルト様、手伝ってください!」
いくらクリスティーンが華奢でも、ジョアンナでは体重を支えきれない。つかんでいた腕が抜けそうなほどだ。崖上でひれ伏したままクリスティーンをつかみ、レオハルトに助けを求めたが、驚きに体が動かないのか、レオハルトが近寄ってこない。
「レオハルト様。手伝ってください!」
「手が、やだ、お姉様、離さないで」
「離さないから! しっかりつかまって! レオハルト様!! 早く!!」
叫んだその時、つかんでいた手からすり抜けた。腕を伸ばしたまま、クリスティーンの体が遠のいていくのが見えた。
岩場にドレスが引っ掛かり、体が後転すると、鈍い音を出して、跳ね返るように地面に崩れ落ちた。
「クリスティーン!!」
「なぜ、手を離したんだ。ああ、愛する人よ!! 君が、彼女を殺したんだ!!」
レオハルトの叫びに、頭が真っ白になったまま、ジョアンナは呆然とレオハルトの言葉を聞いていた。
85
あなたにおすすめの小説
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。 ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる