妹を殺そうとした毒姉になったので逃亡することにした

MIRICO

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2−2 婚約破棄 

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「お嬢様。落ち着いて、しっかり聞いてください。クリスティーン様は、高熱で顔や腕を火傷していたんです。その、なにかを投げてきたというものは、魔道具の可能性があります」
「魔道具?」

「クリスティーン様が投げた物は、魔道具に違いありません。ですが、なにかに失敗し、クリスティーン様が火傷をおったのです。医者が言ったんです。魔法の痕跡ではないかと。崖から落下して、火傷なんてしません!」
 たしかに、腕をつかんだ時には、クリスティーンはすでに出血していた。それは発光の後で、崖下に落ちる前だ。

「でも、あの光は、私から跳ね返ったようにも見えたのよ。あれはなんだったのかしら」
「それはわかりませんが、クリスティーン様がお嬢様を呼び出したのは、お嬢様を殺すためだったということではないですか!」

 事実を口にされて、ジョアンナは息が止まりそうになった。
 クリスティーンは、父親を説得できないと考えたのか、ジョアンナを殺そうとしたのだ。
 魔道具を使ってまで、崖下に突き落とそうとした。

「なんて恐ろしい。旦那様はなんとおっしゃっていたんですか?」
「なにも。大人しくしていろとだけ」
「そんな。お嬢様はなにもしていないのに。あ、ここにも、ひどいあざが。奥様に殴られたのですか?」
「ここは、クリスティーンが」

 手首にくっきりと指の跡が残っている。クリスティーンの腕をつかんだ時、クリスティーンが握ってきた手の跡だ。クリスティーンは、離さないでと、何度も懇願した。
 それなのに、

「お嬢様、気を落とさないでください」
「私が、クリスティーンの手を、離してしまったのよ」

 握られた手首が、今さら、ひどく痛んできた気がした。






 母親は子供の頃からクリスティーンを可愛がっていて、祖母に似ているジョアンをあまりよく思っていなかった。祖母はジョアンナを可愛がり、母親を嫌っていたからだ。
 家族でも、血が繋がっていても関係ない。
 クリスティーンがジョアンナを殺そうとしたなどと言っても、母親にとってはただの言い訳にしかならない。

 騒ぎの中、いつの間にかいなくなっていたレオハルトは、婚約破棄を申し出ていた。父親はきっと受理することだろう。
 ジョアンナとレオハルトの婚約破棄が決まったとしても、クリスティーンは意識を失ったまま、目が覚めない。二人が婚約するかは、まだわからなかった。

「ひどい悪夢だわ」
 なにが起きているのか、未だ理解できない。魔道具を使ったとなれば、どこでそんな物を手に入れたのか。

「魔道具なんて高価な物、購入すれば、すぐにお父様に気づかれるわ」
「他のメイドに聞いてみます。いつ、どこで手に入れたのか。あの、でも、言いにくいことを言いますが、あの男が渡した可能性は?」

 マリアンは名前も呼ぶのも嫌だと、レオハルトをあの男呼ばわりする。
(クリスティーンのことに気づいてから、私以上に怒ってくれていたものね)

 あの頃に、父親に告げていれば良かった。そう思いながら、今さらだと心の中でかぶりを振る。
 クリスティーンはジョアンナが邪魔だった。レオハルトも同じだろう。

 レオハルトがクリスティーンに魔道具を渡した。その可能性はあった。けれど、そんなものを購入しなくとも、クリスティーンと一緒にジョアンナを突き落とせば良いだけだ。男の力であれば、ジョアンナは簡単に崖下へ落ちただろう。

「では、関わりはないってことですか」
「私を崖下へ落としても、婚約消滅となるだけよ。さすがのお父様も、私が滑落死したからといって、その婚約者を妹に、とはならないと思うの」
「それもそうですね。旦那様は、世間体を気になされますからね」

 父親は、自分がどれだけ有能で金を稼げるかを見せるのに躍起で、娘たちはその道具に過ぎなかった。いかに良い家に嫁がせ、その繋がりを得るのか、そればかりを考えていた。
 レオハルトとの婚約が簡単に進んだのも、そのためだ。

 レオハルトは王の祖母の家系の生まれで、知名度がある。その知名度だけでも、父親には有益なのだろう。王族ではなくとも、その関係に嫁いだ娘がいるとなれば、それだけで他方への繋がりを付ける自信があるのだ。父親は事業に長けた人で、自らの財力を増やすに手段は選ばない。
 
 だが、名前のためだけに、死んだ姉から妹に婚約者を鞍替えさせる真似は避けるはずだ。そこまでレオハルトの家名に加わりたかったのかと噂されることを、父親は好まない。レオハルトの家、セディーン家の財力が余程のものであれば違っただろうが、クリスティーンを後添いに望んでいる男に嫁がせた方が得だと考えるはずだ。

「でも、あの男がそう考えるでしょうか」
「レオハルトも、死んだ姉から妹に婚約者を変えたと噂されるのは本意ではないと思うわ」
「見えばかり気にする男ですから、そうかもしれませんね」

 だからこそ、婚約破棄の動きは早かったのだし。口にせずとも、マリアンもそう思っただろう。ジョアンナも同じ気持ちだ。妹を突き落とした姉と、婚約していられないと考えたに違いない。

「それにしても、魔道具まで用意してお嬢様を突き落とそうとしただなんて。いつもお嬢様のものばかり欲しがっていましたが、とうとう婚約者まで欲しがって、その上! ……ですが、婚約破棄されて良かったです。あんな男、最初からおかしかったんですよ!」
「けれど、こんなことになるなんて」
「はっきり申し上げますが、自業自得です! 婚約破棄もお嬢様にとって良いことですよ! どうか、気を落とさずに! お嬢様が無実であることは間違いないんですから!」

 なにもしていないのだから、クリスティーンの目が覚めればすぐに訂正できるだろうと言うマリアンの慰めに、ジョアンナは頷いた。
 しかし、妹を殺そうとした姉として婚約破棄をされたと噂されるのは、すぐだったのだ。
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