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5−2 ブティック
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家に閉じ込められたまま修道院に行くのを待つだけなど、考えたくない。修道院に入れば、一生をそこで過ごすことになるはずだ。
それならば家を出て、手に職を持った方がよいのではと考えた。その方が、よほど自由がある。
巷でも有名で、令嬢たちがよく訪れるブティック。だが、デザイナーを他店に奪われて大変だとか。最近は良い噂も聞かず、良いデザインが減って質も悪くなっているとか。
「ここなら、」
自分の作品を買ってくれないだろうか。
ジョアンナは両手に鞄を持って、意を決した。
「いらっしゃいませ!」
「あの、購入しにきたのではないのだけれど、これを見ていただけないでしょうか」
店に入った途端、主人らしき女性が飛びつくように声を上げて迎え入れた。その姿にばつが悪い。客ではないことを含めて鞄を開き、今まで製作してきた中で出来の良い、レースや刺繍されたスカーフ、ドレスを取り出す。
「デザインを見ていただきたいの」
「花嫁衣装をご自分で?」
出したドレスは、ジョアンナが最近まで製作していた、花嫁衣装の一部だ。きまりが悪いが、ここ最近で一番の出来だった。まだ途中だが、あしらったレースや刺繍はマリアンが褒めてくれたし、ジョアンナ自身も最高傑作だと鼻を高くして自慢したいくらいには上手く作れている。
「その、メインデザイナーが他店に奪われたと聞いて、デザインを手伝わせていただきたいんです」
「あなたが、ですか?」
「ええ、私が」
途端、店主は思案顔になった。
デザインが悪いのか、糸の処理が下手なのか、そもそも論外なのか。ありとあらゆる暗い考えが頭の中を駆け巡る。マリアンは素敵だと言ってくれたし、自分も自信はあったが、プロの目にかかれば大したことのない物だっただろうか。
一時の間。店主が考える仕草をして、戸惑ったような、けれど、興味深げにドレスを手に取って眺めた。印象は悪くないように思える。店主以外に人がいたのか、階段を降りてきた女性が事情を聞いて同じように作品を手に取る。
「腕は確かだと思います。このデザイン、細かい作業ですね。この発想はなかったわ」
「そうね。この辺りとか、とても素人の腕ではないわ」
「すごいですよね。かなりの腕です」
店主と女性が頷き合う。では、採用してもらえるのか、そう口にしようとした瞬間、店主がジョアンナを見据えた。
「失礼ですが、ラスペード家のご令嬢ですよね。令嬢が妹を殺そうとしたという噂がありますが、本当ですか?」
「そ、それは、」
「いえ、真実とかどうでもいいんです。妹を殺そうとした。そんな噂がある方が作ったドレスを、着たいと思われるでしょうか?」
きっぱりと言われて、ジョアンナは返す言葉がなかった。
「デザインや腕はとても素晴らしいと思います。ですが、当店でお嬢様の製作した品を扱うことは難しい。お分かりいただけますよね?」
とぼとぼと、一人、ジョアンナは帰路についていた。
マリアンと相談して、良い物を選んできたつもりだったが、そんなことの前に、ジョアンナの素行が問題になる。それくらい、想像できたことなのに。
「泣いてはダメよ」
自分に言い聞かせる。
「泣いてはダメ」
けれど、泣きたい。
「ううっ」
自分の部屋から抜け出して、意気揚々とやってきたのに、結果はこれだ。
自分が何か悪いことをしたのだろうか。考えても詮無いことなのに、そればかりを考えてしまう。
子供みたいに泣きじゃくって、鼻を啜りながら誰にも見つからないように窓から部屋に戻った。部屋に誰かが来た様子はない。なんとか鞄を部屋に入れて、そのままクローゼットの奥に押し込む。
涙が流れて仕方がない。声を押し殺して泣き続けた。
「お嬢様、お食事です」
どれくらい経ったのか。マリアンが食事を持ってきた。ジョアンナが部屋にいることにマリアンは安堵の顔を見せるが、こちらの顔色で察したのだろう。なにも言わずに食事の用意をしてくれる。
「屋敷の中が、静かね。クリスティーンは、まだ、意識はないの?」
「はい。屋敷の中はとても静かでしたから、眠ったままかと」
クリスティーンが目覚めたら、母親が大騒ぎするだろう。静かであれば眠ったままなのだ。
クリスティーンが目覚めて、ジョアンナのせいではなかったと言ってくれはしないか、そんな望みで口にして、まだ眠っていると聞いてがっかりする自分に、嫌気がさす。そんなことで妹の意識が戻ってくれないかと祈るだなんて。
「お母様は、まだ、あの子の部屋に?」
「おそらく、ずっといらっしゃるのだと思います」
この部屋には一度も、父親も母親も来てくれないのに、クリスティーンの部屋には母親がいるのだ。
それも恨めしく思って、すぐに俯いた。
心が真っ黒になった気がしてくる。
「お嬢様、他に、なにか、手を考えましょう」
「ええ。ええ」
後から溢れる涙を、マリアンはそっとハンカチで拭ってくれた。
それならば家を出て、手に職を持った方がよいのではと考えた。その方が、よほど自由がある。
巷でも有名で、令嬢たちがよく訪れるブティック。だが、デザイナーを他店に奪われて大変だとか。最近は良い噂も聞かず、良いデザインが減って質も悪くなっているとか。
「ここなら、」
自分の作品を買ってくれないだろうか。
ジョアンナは両手に鞄を持って、意を決した。
「いらっしゃいませ!」
「あの、購入しにきたのではないのだけれど、これを見ていただけないでしょうか」
店に入った途端、主人らしき女性が飛びつくように声を上げて迎え入れた。その姿にばつが悪い。客ではないことを含めて鞄を開き、今まで製作してきた中で出来の良い、レースや刺繍されたスカーフ、ドレスを取り出す。
「デザインを見ていただきたいの」
「花嫁衣装をご自分で?」
出したドレスは、ジョアンナが最近まで製作していた、花嫁衣装の一部だ。きまりが悪いが、ここ最近で一番の出来だった。まだ途中だが、あしらったレースや刺繍はマリアンが褒めてくれたし、ジョアンナ自身も最高傑作だと鼻を高くして自慢したいくらいには上手く作れている。
「その、メインデザイナーが他店に奪われたと聞いて、デザインを手伝わせていただきたいんです」
「あなたが、ですか?」
「ええ、私が」
途端、店主は思案顔になった。
デザインが悪いのか、糸の処理が下手なのか、そもそも論外なのか。ありとあらゆる暗い考えが頭の中を駆け巡る。マリアンは素敵だと言ってくれたし、自分も自信はあったが、プロの目にかかれば大したことのない物だっただろうか。
一時の間。店主が考える仕草をして、戸惑ったような、けれど、興味深げにドレスを手に取って眺めた。印象は悪くないように思える。店主以外に人がいたのか、階段を降りてきた女性が事情を聞いて同じように作品を手に取る。
「腕は確かだと思います。このデザイン、細かい作業ですね。この発想はなかったわ」
「そうね。この辺りとか、とても素人の腕ではないわ」
「すごいですよね。かなりの腕です」
店主と女性が頷き合う。では、採用してもらえるのか、そう口にしようとした瞬間、店主がジョアンナを見据えた。
「失礼ですが、ラスペード家のご令嬢ですよね。令嬢が妹を殺そうとしたという噂がありますが、本当ですか?」
「そ、それは、」
「いえ、真実とかどうでもいいんです。妹を殺そうとした。そんな噂がある方が作ったドレスを、着たいと思われるでしょうか?」
きっぱりと言われて、ジョアンナは返す言葉がなかった。
「デザインや腕はとても素晴らしいと思います。ですが、当店でお嬢様の製作した品を扱うことは難しい。お分かりいただけますよね?」
とぼとぼと、一人、ジョアンナは帰路についていた。
マリアンと相談して、良い物を選んできたつもりだったが、そんなことの前に、ジョアンナの素行が問題になる。それくらい、想像できたことなのに。
「泣いてはダメよ」
自分に言い聞かせる。
「泣いてはダメ」
けれど、泣きたい。
「ううっ」
自分の部屋から抜け出して、意気揚々とやってきたのに、結果はこれだ。
自分が何か悪いことをしたのだろうか。考えても詮無いことなのに、そればかりを考えてしまう。
子供みたいに泣きじゃくって、鼻を啜りながら誰にも見つからないように窓から部屋に戻った。部屋に誰かが来た様子はない。なんとか鞄を部屋に入れて、そのままクローゼットの奥に押し込む。
涙が流れて仕方がない。声を押し殺して泣き続けた。
「お嬢様、お食事です」
どれくらい経ったのか。マリアンが食事を持ってきた。ジョアンナが部屋にいることにマリアンは安堵の顔を見せるが、こちらの顔色で察したのだろう。なにも言わずに食事の用意をしてくれる。
「屋敷の中が、静かね。クリスティーンは、まだ、意識はないの?」
「はい。屋敷の中はとても静かでしたから、眠ったままかと」
クリスティーンが目覚めたら、母親が大騒ぎするだろう。静かであれば眠ったままなのだ。
クリスティーンが目覚めて、ジョアンナのせいではなかったと言ってくれはしないか、そんな望みで口にして、まだ眠っていると聞いてがっかりする自分に、嫌気がさす。そんなことで妹の意識が戻ってくれないかと祈るだなんて。
「お母様は、まだ、あの子の部屋に?」
「おそらく、ずっといらっしゃるのだと思います」
この部屋には一度も、父親も母親も来てくれないのに、クリスティーンの部屋には母親がいるのだ。
それも恨めしく思って、すぐに俯いた。
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後から溢れる涙を、マリアンはそっとハンカチで拭ってくれた。
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