妹を殺そうとした毒姉になったので逃亡することにした

MIRICO

文字の大きさ
15 / 48

9 外出

しおりを挟む
「すごいわ。こんなデザイン」
「あ、ありがとうございます」
「これ、どうやってるんですか。繊細な模様だし、時間かかりそう。これも素敵」

 店主や店員たちに製作したレースのハンカチを見せれば、反応は上々だった。むしろ褒められすぎて恐縮してしまう。
 屋敷の庭園に植物園があり、祖母が色々な花を育てていた。モチーフはそこから得られることが多く、今でもスケッチをしてデザインを増やしていた。その甲斐があったようだ。

「あの、花嫁衣装も素敵でした。初めて見た時、あんなドレスを着たいなって思うくらいに」
 店員の一人が頬を染めながら、憧れるように口にする。それだけで、あの衣装が無駄ではなかったと思えた。
 もう一人の店員が小突くのを見て、ジョアンナは気にしないでいいと微笑んだ。もう過去のことで、この衣装はただの作品でしかないのだからと。
(もう着ることはないけれど、作品として褒められるならばそれで良いわ)

 別に、レオハルトのために作ったわけではない。自分が作りたくて、製作をするのが楽しくて、つい凝ってしまっただけだ。あれを着られれば良かったもしれないが、レオハルトのために着ることがなくて、結果として良かった。

「ジョアンナ様の衣装を飾って、お持ちになられた小物や、このレースを周りに飾るのはどうですか? それを窓際に置くんです。外から見えるように」
「それは、いい案だけれど」

 ちらりと横目で見られるが、むしろそれらを店の目玉のように見せて良いのか不安になる。しかし店主はぜひ置かせてほしいと懇願してきた。置いてもらうのは構わないのだが、本当に良いのだろうか。

「今は一つでも素晴らしい商品が必要なんです。ドレスをまた作れと言われては難しいから、レースの部分をカーテンのように飾って、周りにレースのハンカチを並べましょう。あなたたちはジョアンナ様と同じレースを作ってちょうだい。ジョアンナ様は新しい案を考えつつ、この子たちの腕が上がるように協力してくれませんか!?」
「私でよければ」
 二つ返事をすれば、わっと店の人たちが喜んだ。

 自分が教えるなんて考えたことはないが、店の人たちは嬉しそうだ。
 趣味のレベルではないともてはやされて恥ずかしくもなるが、自分が役に立てると思えると、ジョアンナも嬉しくなってきた。







 窓にジョアンナの作品を飾って一日も経たないうちに、客が入るようになった。
 途端、ジョアンナは忙しくなった。デザインを考えながら自分で製作し、その合間に他の人たちの進み具合も確認する。
 初めての経験だが、それが負担ではなかった。集中すればあっという間に時間が過ぎて、充実しているからだ。なによりも無心でいられる。ジョアンナは没頭した。

「あの、忙しいのにごめんなさい。この部分がどうしても難しくて。なにか、コツとかありますか?」
 店の者たちも初めは遠巻きにしていたが、忙しさもあって積極的に声をかけてくれるようになった。
 噂は店の者たち全員が知っていることであり、最初は近づく女性も少なかったが、店で品が売れていけば、ジョアンナを受け入れてくれる人は増えた。

(マリアンは元気かしら)
 なにかあればここまで来てくれると言っていたため、なにも起きていないのだろう。そう思うことにした。どちらにしても、しばらく部屋から出ることはないのだから。






「ジョアンナさん、少し休憩したらどう?」
 あっという間に一ヶ月が過ぎ、いつも通りと製作に精を出していると、店主のモニカがジョアンナの部屋にやってきた。

「先ほど休憩しましたよ」
「いえ、そうじゃなくてね。あなたがこの店に来てから一月。こんを詰めすぎるくらいに働いてるのだから、少しはゆっくりした方がいいと思うのよ」
「なにかに集中していた方が、気が楽なんです」

 それは嘘ではない。マリアンが一度だけ店に訪れたが、なにも起きておらず、ジョアンナのことも気づかれていなかった。悲しく思う気持ちもなくなり、むしろ気づかれていないことに安心した。気持ちの整理もつく。あの家に、いる必要はないのだと。
 けれど、それがこのまま続くかはわからない。だとしたら、できるかぎり働いてお金を貯めたいのだ。
 数ヶ月働いた程度で家が借りれるわけではないし、マリアンを雇って生活など夢のまた夢だが、できる限りのことはしたい。

「はあ、なら、お使いをお願いします。生地を見たり、糸を見たりしてきてください」
 そう言って、半ば強制的に外に出された。

(気を利かせてしまったわね)

 この一ヶ月、ずっと部屋に閉じこもって作業を行なっていた。最初モニカはジョアンナ様と呼んでいたが、さん付けに変えてもらった。それに慣れるくらいの時間が経ったのだ。

 ずっと椅子に座り、針と糸を持って編んだり縫ったりをし続けた。趣味でやっているときと違い、妥協は許されない。誰かに贈る物なのだから、丹精込めて作る必要があった。
 手に取った人が少しでも喜んでくれるものを作りたい。それはいつも考えながら作っているが。

 そう考えると、子供たちを思い出す。しばらく訪れていない。店の者たちに教えるように子供たちにも編み方を教えていた。それを続けられていないことが申し訳なかった。

「はあ。ダメね。せっかくモニカが気にして外に出してくれたんだもの。少しは気分転換しなきゃ」
 顔を出すことを気にすると思ったか、顔が隠れるようなつばの広い帽子も渡してくれた。それをしっかり被って、生地屋へ歩き出す。

 町を歩くなど久しぶりだ。前はよくマリアンと一緒に生地を見たりしに行っていたのだが。
 そして、二人でお茶を飲むこともあった。まるで遠い昔のことのようだ。
 人々を眺めて、はやりも確認した方がいいだろうか。高級街を歩けばその様子もわかる。けれど、今の格好では浮いてしまい、逆に目立つことに気づいた。

 行きつけの店を横にして、足早に過ぎ去る。ドレスを着ているわけではないし、帽子も深く被っている。どう見ても平民に見えるだろう。だから気づかれることはない。そう思っていても、気持ちが焦る。

 やましいことなど、なにもないはずなのに。
 逃げるように道を外れ高級街を出る。地面を舐めるように見るのは、心がやましいからだ。周囲を歩く人に顔を見られたくない。そんな気持ちが、心の底にあるからに違いない。
 下を向いていると涙が流れてくる。ポケットからハンカチを出して、軽く拭うと、目の前に別のハンカチがひらりと落ちてきた。

「あの、ハンカチを落とされて」
 顔を上げて、ジョアンナはどきりとした。帽子の先に見えるのは男性の胸元で、顔が見えない。けれど格好が貴族のものだった。上質な生地を見るだけで、上位の貴族だとわかる。もう少し顔を上げれば、見覚えのある顔が目に入った。

「ああ、これは、失礼を」
「い、いえ」

 すぐに顔を下げる。手の中にあるハンカチに長い指が届いて、そっとそのハンカチを手にした。
 震える手に気づかれていないだろうか。怯えるただの平民だと思われるだろうか。それの方がよほど良い。

(どうして、この方が)

 アルヴェール・ギルメット。現王を伯父に持ち、第三継承権を持つ人だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます

天宮有
恋愛
 聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。  それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。  公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。  島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。  その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。  私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。  ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

処理中です...