妹を殺そうとした毒姉になったので逃亡することにした

MIRICO

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 再び部屋を抜け出して、訪れた先、前に会った店主は深々と頭を下げてジョアンナを迎え入れた。

「やはり、デザインを手伝ってほしいのです。一度断っておいて、なにを今さらとお思いでしょうが。失礼なこととは存じております。ですが、どうか力を貸していただけないでしょうか!」
「あの、頭を上げてください」

 いきなり謝られて、ジョアンナは面食らった。断られたのは当然だ。後から考えても、なぜ思いつかなかったと思うような理由だ。人殺しと思われている者が作る衣装や小物など、令嬢が欲しがるわけがない。そんなデザイナーが作っていると知れたら、店はつぶれてしまうだろう。
 だから断られて当然で、それに思い至らなかったことを恥じた。

 しかし店主はそれでも力を貸して欲しいと思ったのだろう。それほど店の状況は芳しくないのだ。
「ご存知だとは思いますが、デザイナーが多く抜けて、店の質はレベルが下がる一方なんです。その上、そのデザイナーのファンも多かったため、顧客もそのままデザイナーにいついていくようになり」

 それから客の足は遠のき、店の質は落ちるばかり。新しいデザイナーを探そうにも、今までのクオリティを保つことができるような人は見つからない。

「よくよく考えて、やはり見せていただいた品の素晴らしさは間違いなく、できればこのような作品を作られる方と仕事ができればと思った次第です」
 店主は申し訳なさそうにしながら、言いにくそうに言葉を続けた。

「身勝手な話だと思います。ですが、どうしても、お嬢様の作品は勿体無い。これならばお客様を満足させることができるところか、新たな顧客もつかめるでしょう。ただ、衆目があるのも事実。誰が製作しているか、それを知られた時、売れなくなるどころか店が潰れる可能性が高いのも事実なんです」

 苦肉の策、けれど、その事実を公にはできない。でも、デザイナーはほしい。店主は矛盾を抱えながらも、ジョアンナに頭を下げることにしたようだ。葛藤があったのは間違いない。
 言いたいことはよくわかった。つまり、顔を出さないでほしいということなのだろう。当然のことだ。

「ですので、ほとぼりが覚めるまで、製作していただいたものを、こちらで購入するというのはいかがでしょうか」
「買っていただけるならば助かりますけれど」
「けれど?」
「実は、住み込みで働ける場所を探しているんです。家を、出る必要があるので」

 たとえ屋敷で製作するとしても、生地や糸などを仕入れなければならない。そのための商人を呼んでは父親に気づかれてしまうし、製作したものを外に出すとしても苦労がいる。
 その製作中に修道院行きが決まってしまうかもしれない。家を出る必要があるのだ。

「デザイナーを、出さずに作るというのは? 別の名を語るというのはダメでしょうか?」
 ジョアンナの提案に、店主は目を大きく広げてぱちぱちと瞬きした。






「ご令嬢に住まわせるような部屋ではないのですが」
 店主は空いた一部屋に案内してくれた。小さな作業台とベッドがある、小ぢんまりとした部屋だ。けれど窓は上部にあり大きく、日差しの入る温かな部屋だった。
 裁縫道具に刺繍糸。生地や糸のサンプル、スケッチ用の紙やペンまで用意されていた。

「充分です。これなら窓から顔を出すこともないし、この部屋に誰かいるかわからないでしょう。ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらです。なにか必要なものがあれば言ってください。大体の物は用意してありますから。それから、しばらくこちらの服を着ていただいて」

 食事付きの住み込みの仕事。部屋も一人部屋。ここで集中して仕事が行える。
 渡された服は平民が着るような一枚ものの上下とエプロン。これを着させるわけにはいかないと店主は思ったようだが、ドレスを着て作業するより楽そうだ。
 着飾るのが嫌いなわけではないが、そこまでの抵抗はなかった。

「食事は二階で、お客様の入る部屋は一階だけですから、そちらには入らないようにしていただいて」
「もちろんです。早速作業を始めますね。なにから作ったら良いかしら。まずはデザインを出して見ていただいた方が? その話し合いをされます?」
 ジョアンナが問えば、店主は真顔で止まっていた。なにかまずいことを口にしたのかと思ったが、すぐに指示をくれる。

「では最初に、デザインを書いてもらって、そこから厳選して製作していただくのはいかがでしょう」
「わかりました」
 まずはレースのハンカチの案を出して欲しいと頼まれて、その作業に入ることにする。その前に渡された服に着替えることにした。
 店主はジョアンナのことを詳しく聞かず、働かせてくれるのだ。恩に報いたい。





「これから、ここで住み込みで働くのね」
 ジョアンナが屋敷を出ても、マリアン以外部屋に入らないのだから気づかれない。誰かが訪れることもない。
 よくよく考えれば、事件が起こる前からマリアンしか部屋に入ることはなかった。

「ふ。おばあ様はよく私の部屋に来ていたのに」
 亡くなった祖母はジョアンナの刺繍を喜んでくれていた。ジョアンナに特別優しかったわけではないが、厳しくとも優しいところはあった。その祖母は母親と折り合いが悪かった。祖母が言うには見目ばかりを気にし、なにも学ぼうとしないからということだった。レース編みなどを教えるのが好きな祖母を邪険にしたこともあったようだ。
 代わりにジョアンナに教えるようになって、ジョアンナはあっという間に上達した。

(褒めてもらえるのが嬉しかったのよね。両親に褒められたことなどないから)

 ジョアンナが作ったハンカチを持つと体調が良いなどと言ってくれるほどだった。
 その代わり、母親を罵っていたが。なにもできない嫁だと言って。それもあり、母親はジョアンナを祖母ごと嫌悪していたのだ。

 あの屋敷は、ジョナンナにとって息苦しかった。だからジョアンナも関わらないようにして、刺繍に没頭したり、外に出たりばかりしていた。祖母以外の家族と仲が良くないのは当然かもしれない。
 クリスティーンも母親から嫌われているジョアンナを同じ目で見ていた。
 クリスティーンが眼を覚ます様子はない。もしかしたら、ジョアンナがクリスティーンのようになっていたかもしれない。

「運が良かったと言っていいのかしら……」
 そう口にして、ぶんぶんと首を振った。
「やめよう。ここでしっかり働いて、続けることができたら、マリアンと一緒に住む場所を見つけましょう」

 マリアンを置いて行ったのは気がかりだ。
 マリアンは、屋敷の情報は私にお任せください! と胸を張った。もし誰かにジョアンナがいないと気づかれてしまったら、知らぬふりをすると言い張って。

「頑張ろう。すべてを諦める必要なんてないわ。私のために、マリアンのために!」
 まずはデザインだ。ジョアンナは用意された紙に思いつくだけデザインを描いて、店主に渡すことにした。
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