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7−2 手紙
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店に卸すことはできなかったが、針を動かしてしまうのはもう習慣だ。
ジョアンナは器用にレースをするすると編んでいく。
趣味が高じて子供たちに服を作ることもあったが、自分の衣装を製作するのも好きで、マリアンと共に生地や糸を買いに行くほどだった。
(私には、これしか取り柄がなかったのに)
不意にノックの音が聞こえた。抑えた音ではなく、珍しく焦ったようなノックの仕方だ。クリスティーンが目覚めたのだと思ってすぐに部屋に入らせると、マリアンが封筒を抱えたまま入ってきた。
「お、お嬢様!」
「どうしたの。その手紙は?」
まさか嫌がらせの類でも届いているのか。そう不安めいたことを口にすると、マリアンは大きくかぶりを振って否定する。
「違います! とにかく読んでください!」
広げられた手紙を一枚、手にして読むと、ジョアンナはふるふると震えた。
クリスティーンと、レオハルトとのやりとり。
『ジョアンナを殺すなんて、恐ろしいことは言ってはいけない。君が犯罪者になってしまうよ。ジョアンナは素直な人だ。彼女を説得して、婚約し直せばいい』
『君が心配だ。思い詰めて恐ろしいことはしないでくれ』
『ジョアンナは優しい人だから、きっと良い方向に向かうだろう。短気を起こしてはいけない。姉を殺そうなんてしてはいけないよ』
何度も、何度も。レオハルトがクリスティーンをなだめる文が記されている。
「これを、どこで?」
「ご主人様が燃やせと仰ったんです! 私がお嬢様付きのメイドと気づかなかったのか、誰にも言わずさっさと燃やせと言って!」
「そんな」
この手紙は、クリスティーンとレオハルトの不貞の証拠。しかも、クリスティーンがジョアンナを殺したがっていることに対するレオハルトの返答だ。つまり、何度もレオハルトに、ジョアンナを殺したいと綴っていたのだろう。
その証拠を、父親は燃やせと命じたのだ。
証拠隠滅を図るために。
「は、はは」
「お嬢様?」
なぜか笑いが溢れてくる。
ジョアンナがクリスティーンを殺そうとしたわけではない、その証拠なのに、そんなものがあっても意味などなかった。
今さらクリスティーンがジョアンナを殺そうとしたとわかっても、父親にとってはどちらでもいいのだ。どちらが誰を殺そうとしたとか、そんなことはどうでもいい。
クリスティーンが崖から落ちて大怪我をしたのは事実で、それはすでに世間に噂されているからだ。
これ以上の情報は、醜聞に醜聞を重ねるだけ。だったら、今わかった事実はなかったことにしたい。
「私は、本当に、この家で誰にも愛されていないのね」
「お嬢様……」
泣きすぎて頭が痛い。泣いてもどうにもならないというのに。
クリスティーンは未だ意識が戻らない。レオハルトも姿を表していないようだった。
「お父様が断っているのかしら」
手紙を燃やすように指示したのだから、そうかもしれない。争いの原因はレオハルトだ。
「もっと早く、彼との婚約破棄をお父様に伝えていれば、こんなことにならなかったのに」
後悔しても遅い。ジョアンナは基本受け身で、自ら動くことはしなかった。動いても父親に止められるし、母親には嫌味を言われる。妹に至ってはジョアンナが目立つことに異様に腹を立てた。
差し障りないように生きること。それが子供の頃に養われて、そこから変わろうとも思わなかった。思っても無駄だと、諦めていたからだ。けれど、それがこんな結果となるとは。
「お嬢様!」
再びマリアンが走って部屋に入ってきた。外にいる警備の男たちは何事かと顔をのぞかせるが、部屋の中を見られないようにすぐに扉を閉める。
「また、なにか見つかったの?」
マリアンは手紙を持っていた。読みたくない。自分を殺す算段をしている手紙など、見たくもなかった。
「いいから読んでください!」
ずずいと出されて、ジョアンナは恐る恐るそれを受け取った。中身を読んで、マリアンの顔を見上げる。
「これは、」
一筋の光が、見えた気がした。
ジョアンナは器用にレースをするすると編んでいく。
趣味が高じて子供たちに服を作ることもあったが、自分の衣装を製作するのも好きで、マリアンと共に生地や糸を買いに行くほどだった。
(私には、これしか取り柄がなかったのに)
不意にノックの音が聞こえた。抑えた音ではなく、珍しく焦ったようなノックの仕方だ。クリスティーンが目覚めたのだと思ってすぐに部屋に入らせると、マリアンが封筒を抱えたまま入ってきた。
「お、お嬢様!」
「どうしたの。その手紙は?」
まさか嫌がらせの類でも届いているのか。そう不安めいたことを口にすると、マリアンは大きくかぶりを振って否定する。
「違います! とにかく読んでください!」
広げられた手紙を一枚、手にして読むと、ジョアンナはふるふると震えた。
クリスティーンと、レオハルトとのやりとり。
『ジョアンナを殺すなんて、恐ろしいことは言ってはいけない。君が犯罪者になってしまうよ。ジョアンナは素直な人だ。彼女を説得して、婚約し直せばいい』
『君が心配だ。思い詰めて恐ろしいことはしないでくれ』
『ジョアンナは優しい人だから、きっと良い方向に向かうだろう。短気を起こしてはいけない。姉を殺そうなんてしてはいけないよ』
何度も、何度も。レオハルトがクリスティーンをなだめる文が記されている。
「これを、どこで?」
「ご主人様が燃やせと仰ったんです! 私がお嬢様付きのメイドと気づかなかったのか、誰にも言わずさっさと燃やせと言って!」
「そんな」
この手紙は、クリスティーンとレオハルトの不貞の証拠。しかも、クリスティーンがジョアンナを殺したがっていることに対するレオハルトの返答だ。つまり、何度もレオハルトに、ジョアンナを殺したいと綴っていたのだろう。
その証拠を、父親は燃やせと命じたのだ。
証拠隠滅を図るために。
「は、はは」
「お嬢様?」
なぜか笑いが溢れてくる。
ジョアンナがクリスティーンを殺そうとしたわけではない、その証拠なのに、そんなものがあっても意味などなかった。
今さらクリスティーンがジョアンナを殺そうとしたとわかっても、父親にとってはどちらでもいいのだ。どちらが誰を殺そうとしたとか、そんなことはどうでもいい。
クリスティーンが崖から落ちて大怪我をしたのは事実で、それはすでに世間に噂されているからだ。
これ以上の情報は、醜聞に醜聞を重ねるだけ。だったら、今わかった事実はなかったことにしたい。
「私は、本当に、この家で誰にも愛されていないのね」
「お嬢様……」
泣きすぎて頭が痛い。泣いてもどうにもならないというのに。
クリスティーンは未だ意識が戻らない。レオハルトも姿を表していないようだった。
「お父様が断っているのかしら」
手紙を燃やすように指示したのだから、そうかもしれない。争いの原因はレオハルトだ。
「もっと早く、彼との婚約破棄をお父様に伝えていれば、こんなことにならなかったのに」
後悔しても遅い。ジョアンナは基本受け身で、自ら動くことはしなかった。動いても父親に止められるし、母親には嫌味を言われる。妹に至ってはジョアンナが目立つことに異様に腹を立てた。
差し障りないように生きること。それが子供の頃に養われて、そこから変わろうとも思わなかった。思っても無駄だと、諦めていたからだ。けれど、それがこんな結果となるとは。
「お嬢様!」
再びマリアンが走って部屋に入ってきた。外にいる警備の男たちは何事かと顔をのぞかせるが、部屋の中を見られないようにすぐに扉を閉める。
「また、なにか見つかったの?」
マリアンは手紙を持っていた。読みたくない。自分を殺す算段をしている手紙など、見たくもなかった。
「いいから読んでください!」
ずずいと出されて、ジョアンナは恐る恐るそれを受け取った。中身を読んで、マリアンの顔を見上げる。
「これは、」
一筋の光が、見えた気がした。
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