妹を殺そうとした毒姉になったので逃亡することにした

MIRICO

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15−2 レオハルト

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「アルヴェール様、お見事!」
 木々の隙間から褒め言葉が聞こえて、そちらに視線をやると、再び嫌な男が視界に入った。
 アルヴェール・ギルメットだ。

 矢を使わず魔法で弓を射ったのか、獲物に矢が刺さっていない。
 格好をつけた仕留め方だ。矢では届かないからじゃないのか? と心の中で揶揄して、レオハルトは手綱を引いた。アルヴェールを背にして進みはじめる。同じ方向へ行きたくない。
 なんならここから矢を射ってやりたいが、持っている矢ではすぐに誰が犯人か気づかれてしまう。

 アルヴェールが倒したのは、人の体も何倍もある大型の獣だった。
 どの狩猟大会でも参加すれば必ず結果を出していたが、魔法であれば誰がやったかなどわからない。矢のように各々の印が入っていないからだ。
 今回は王が趣向を凝らし、物珍しい獣を放っていると聞いていたが、随分と巨大な獣を放っている。それを一撃で倒したのだろうか。

(どうせ、他の騎士たちが協力したんだろう)
 アルヴェールは部下を数人つけている、それらが手助けしてもわからない。

「レオハルト様、あちらに獣の足跡が。大物ですよ」
 人の頭くらいある足跡が地面に残っている。急に走り出したのか、つま先が土の中に埋もれていた。体重のある大型の獣だ。
 前回は大物を仕留めることができた。王から褒美を得たほどだ。驚くほど凶暴な獲物が大人しく現れたこともあり、たやすく射止められたのだ。

「もっと奥へ行くか。この足跡の主を探す」
 レオハルトは騎士たちを促すと、足跡を辿った。少し進めば木陰に気配を感じて、矢をつがえる。しかし出てきたのは野うさぎだ。しかも放った矢は、かすることなく土に突き刺さった。

「ま、的が小さすぎましたね」
「わざと外したんだ。さっさと大物を探すぞ」

 弓を持つのは久しぶりだった。まだ扱い方に慣れていないかもしれない。
 前回はいつ頃狩りに行ったか思い出せば、直近でラスペードと二人で狩り場に行った時だった。
 結婚前ということで二人で狩りがしたいと言い出したため、仕方なく付き合ったのだ。事業の経営権を渡してくるのかと思っていたが、セディーン家の借金について追求された。

 余計なことを聞いてくるものだ。
 気分は最悪だったが、獲物は大きめの鹿を数頭得られた。あのラスペードですら、レオハルトの腕を褒めてきたくらいだ。

「あ。また外れてしまいましたね」
「大物を探しているんだ! あんな小物は必要ない!」
 今度は子鹿を逃した。大物はどこへ行ったか、足跡も見失ってしまった。
 いら立ちがつのってくる。

「弓の具合が悪いんじゃないか?」
 野うさぎすらとれないとは。
「狩りが始まってどれくらい経った?」
「ふた時ほど経ったと思います」
「ちっ、しけているな」
 さすがにそろそろ鹿の一頭くらい狩っておかなければ。これではなんの土産もないままになってしまう。

「我々でなにか捕らえましょうか」
「うるさい! 僕が大物を獲ると言っているだろう!」
 叫んだ瞬間、木陰で草を掻き分ける音が聞こえた。弓に矢をつがえる。
 近寄ってくる足音が草から出た瞬間、この右手を離すのだ。
 ザッと矢が放たれた。

「しまっ!」
 放った矢が、人影に飛んだ。
 ガキンと、弾ける音がする。レオハルトの矢を剣で退けたのだ。
「申し訳な、」
 即座に謝ろうとしたが、見えた黒髪に言葉を止めた。
(ちっ。嫌なやつに)

「はは、申し訳なかった。手が滑ってしまって」
 よりにもよって、アルヴェール・ギルメットに矢を放ってしまった。周囲の騎士たちが気色ばんだが、アルヴェールが軽く手を振って抑える。

「よく見たらどうだ」
(くそ。偉そうに)

 内心舌打ちして、にこやかな笑顔を見せてから、馬の方向を変えた。近くにいるだけでむしゃくしゃするからだ。
 さっさと離れとうとした瞬間だった。
 ゴオオ、と突風が鳴ったような音が轟いた。

「な、なんだ!?」
「警戒しろ!」

 レオハルトが驚きの声を上げると同時、アルヴェールが剣を手にした。
 なんの警戒だ。そう口にしようとする前に、目の前が急に暗くなった。顔を上げれば、馬の背よりも遥かに高い場所から見下ろす、大型の獣、魔物が足を振り落とすところだった。

「うわあっ!」
「レオハルト様!!」

 間一髪、その太い足から逃げおおせたが、馬から転がり落ちて、馬が走り去る。再び巨体が日差しをさえぎった。レオハルトの騎士たちが矢を射ったが、壁に当たったように跳ね返った。開いた口から牙を見せつけるようにしてその騎士に振り向くと、前脚を上げて踏み抜こうとする。

「うわっ!」
 レオハルトのように馬から転げ落ちた騎士が、腰を抜かしたように這いつくばって走り出す。
「おいっ、主人を置いて先に逃げるな!!」

 その声に、魔物が反応した。
 濃い紺色の、象のように固く大きな体。太い足。鼻から伸びた鋭い角。金色に光る目。それが全てレオハルトに向いた。

「ひ。ひいっ!」
 日差しをさえぎる巨体が、レオハルトにのしかかろうとしていた。
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