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2、生い立ち
「あら、エリアーヌ、素敵なお召し物ですこと。パーティにもそのような格好で出席するつもりかしら?」
「そんな格好で出かけるとは、恥ずかしいと思わないのか? まさか、その姿で王女などと口にしているのではあるまいな?」
声をかけてきたのは、兄のヘンリッキと、二番目の姉ジュリエッタだ。
部屋に戻る途中、ほとんど顔を合わせることのない二人がエリアーヌを見つけて、すぐに罵ってくる。
これから夜会にでも出席するのだろうか。装いが派手だ。いや、この人たちはいつもどこかしらのパーティや夜会に出席している。普段通りだろう。
相変わらずこの二人も変わらないのだなと思いながら、エリアーヌは無表情のまま彼らを見つめた。
エリアーヌが黙っていると、ヘンリッキが苛立たしげにして、目を眇めた。
「何か言ったらどうだ?」
「私の行うことに、そんなに興味がおありだとは思いもしませんでしたわ」
「ふんっ。存在感の薄いお前のことなど、誰も興味など持たんだろうな。だが、明日はパーティが行われる。そのような恥ずかしい格好で現れたりするなよ!」
「ふふ、お姉様のお下がりのドレスが届いているはずよ。ちゃんといらっしゃいな」
そのような格好と言いながら、お下がりのドレスを着てこいとは。矛盾しすぎだろう。
一番上の姉アンゲリカは、エリアーヌより身長が高い。サイズが違うのだから、サイズの合った平民の格好の方が、まだ良い気がする。
「二度とそんなみすぼらしい格好でうろつくな」
「ほんと、恥ずかしいわ。こんなのが妹なんてね」
ヘンリッキとジュリエッタは言いたいことだけ言って、通り過ぎていった。
彼らの罵りはいつものことだ。エリアーヌの何が憎いのか、顔を見るだけで何かしら言ってくる。
幼い頃は傷付き、腹も立てていたが、今はもうなんの気持ちも起きない。彼らはああいうもので、あれ以外になれないのだ。そう割り切らなければ、やっていけない。
部屋に戻れば、言われた通り、アンゲリカから荷物が届いていた。
「お優しいお姉様ですね。普段のみずぼらしい格好を哀れに思い、送ってくださったのでしょう。まあ、ずいぶんと、懐かしいドレスですこと」
ボニーは荷物を開いて、ドレスをわざわざ見せてくれる。
懐かしいと言うのは、流行の懐かしさを言っていた。何年も前にはやったドレスで、鈴蘭の花弁のように盛り上がって膨らんだスカートが特徴だ。最近は生地の重ねでボリュームを出すのが主流である。
もしエリアーヌがそのドレスを着てパーティに出席すれば、笑いものになるのが想像できた。
ボニーは嬉しそうに荷物を衣装部屋に持っていく。衣装部屋と言っても、エリアーヌが持っている衣装などたかが知れていて、数えるくらいのドレスがあるだけ。その内の数着は平民の服で、外出するときに使った。
その平民の服を脱いで、普段の衣装に着替える。その衣装も、何年もずっと着てるドレスだった。
ヘンリッキの言う通り、なんとみすぼらしい。衣装のせいだけではない。この王宮にいるせいで、心までみすぼらしくなっていく。
ベルジュロン王国。魔導武器を駆使して周囲の国々を蹴散らし、国土を広げ、祖父の代で唯一の大国となった。当時開発された魔法と武器を合体させた魔導武器は、圧倒的強さを持っていたからだ。
僻地にあった小国のサンテール王国は武力に屈し、娘を差し出した。当時まだ十歳だったエリアーヌの母親は、人質として王子に嫁がされた。しかしその後、すぐに滅ぼされる。魔導武器を作るための魔石が多く産出される土地だったからだ。
母親の嘆きはいかほどだっただろう。
人質にもならず、王宮で一人。王子の妻でありながら、何の価値もない者として放置された。
だが、母親が滅ぼされた国の王女であると忘れ去られた頃、王となった王子は、なぜかその王女を思い出し、触手を伸ばしたのである。
そうして生まれたのがエリアーヌだった。
母親は自国を滅ぼした憎き男の子供を産んだことで、一気に体を弱らせて、あっという間に死んでしまった。
残ったエリアーヌがどんな立場に立たされたか、誰でも想像できるだろう。
価値のない、第三王女。頼る国も人もいない。ただ第三王女という立場だけは残って、後ろ指差されながら生きてきた。
「そんな格好で出かけるとは、恥ずかしいと思わないのか? まさか、その姿で王女などと口にしているのではあるまいな?」
声をかけてきたのは、兄のヘンリッキと、二番目の姉ジュリエッタだ。
部屋に戻る途中、ほとんど顔を合わせることのない二人がエリアーヌを見つけて、すぐに罵ってくる。
これから夜会にでも出席するのだろうか。装いが派手だ。いや、この人たちはいつもどこかしらのパーティや夜会に出席している。普段通りだろう。
相変わらずこの二人も変わらないのだなと思いながら、エリアーヌは無表情のまま彼らを見つめた。
エリアーヌが黙っていると、ヘンリッキが苛立たしげにして、目を眇めた。
「何か言ったらどうだ?」
「私の行うことに、そんなに興味がおありだとは思いもしませんでしたわ」
「ふんっ。存在感の薄いお前のことなど、誰も興味など持たんだろうな。だが、明日はパーティが行われる。そのような恥ずかしい格好で現れたりするなよ!」
「ふふ、お姉様のお下がりのドレスが届いているはずよ。ちゃんといらっしゃいな」
そのような格好と言いながら、お下がりのドレスを着てこいとは。矛盾しすぎだろう。
一番上の姉アンゲリカは、エリアーヌより身長が高い。サイズが違うのだから、サイズの合った平民の格好の方が、まだ良い気がする。
「二度とそんなみすぼらしい格好でうろつくな」
「ほんと、恥ずかしいわ。こんなのが妹なんてね」
ヘンリッキとジュリエッタは言いたいことだけ言って、通り過ぎていった。
彼らの罵りはいつものことだ。エリアーヌの何が憎いのか、顔を見るだけで何かしら言ってくる。
幼い頃は傷付き、腹も立てていたが、今はもうなんの気持ちも起きない。彼らはああいうもので、あれ以外になれないのだ。そう割り切らなければ、やっていけない。
部屋に戻れば、言われた通り、アンゲリカから荷物が届いていた。
「お優しいお姉様ですね。普段のみずぼらしい格好を哀れに思い、送ってくださったのでしょう。まあ、ずいぶんと、懐かしいドレスですこと」
ボニーは荷物を開いて、ドレスをわざわざ見せてくれる。
懐かしいと言うのは、流行の懐かしさを言っていた。何年も前にはやったドレスで、鈴蘭の花弁のように盛り上がって膨らんだスカートが特徴だ。最近は生地の重ねでボリュームを出すのが主流である。
もしエリアーヌがそのドレスを着てパーティに出席すれば、笑いものになるのが想像できた。
ボニーは嬉しそうに荷物を衣装部屋に持っていく。衣装部屋と言っても、エリアーヌが持っている衣装などたかが知れていて、数えるくらいのドレスがあるだけ。その内の数着は平民の服で、外出するときに使った。
その平民の服を脱いで、普段の衣装に着替える。その衣装も、何年もずっと着てるドレスだった。
ヘンリッキの言う通り、なんとみすぼらしい。衣装のせいだけではない。この王宮にいるせいで、心までみすぼらしくなっていく。
ベルジュロン王国。魔導武器を駆使して周囲の国々を蹴散らし、国土を広げ、祖父の代で唯一の大国となった。当時開発された魔法と武器を合体させた魔導武器は、圧倒的強さを持っていたからだ。
僻地にあった小国のサンテール王国は武力に屈し、娘を差し出した。当時まだ十歳だったエリアーヌの母親は、人質として王子に嫁がされた。しかしその後、すぐに滅ぼされる。魔導武器を作るための魔石が多く産出される土地だったからだ。
母親の嘆きはいかほどだっただろう。
人質にもならず、王宮で一人。王子の妻でありながら、何の価値もない者として放置された。
だが、母親が滅ぼされた国の王女であると忘れ去られた頃、王となった王子は、なぜかその王女を思い出し、触手を伸ばしたのである。
そうして生まれたのがエリアーヌだった。
母親は自国を滅ぼした憎き男の子供を産んだことで、一気に体を弱らせて、あっという間に死んでしまった。
残ったエリアーヌがどんな立場に立たされたか、誰でも想像できるだろう。
価値のない、第三王女。頼る国も人もいない。ただ第三王女という立場だけは残って、後ろ指差されながら生きてきた。
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