第三王女の婚約

MIRICO

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6、発表

 パーティには多くの貴族たちが集まっていた。
 その中でエリアーヌの顔を知っている者はどれほどいるだろう。警備の兵士に何度か止められたため、王宮の中でもほとんどの者がエリアーヌの顔を知らないのがわかる。

「何、あの格好」
「いつのドレスを着ているのかしら。どこの令嬢?」

 そんな声が届くので、多くの者が知らないと思った方が良さそうだ。なにせ前回人々の前に姿を現したのがいつだったか、エリアーヌも覚えていない。

 ジュリエッタの結婚祝いのパーティということで、広間の豪華さは目が痛くなるほどだった。それに集まる者たちも派手さは負けていない。女性たちのドレスや装飾品は、総合で幾らの価値があるだろう。

 この国は大国になって、一極集中型になった。
 富は王宮に集まり、都に権力者が集まった。多くの貴族がこぞって都に建物を建てる。誰もが王に近い場所にいようと、躍起になった。

 大国であるが故に、国内で全てが回り、外交なども必要ない。王が興味あるのは、この王宮が潤うことだけ。一部が潤い、遠い田舎の領地などはその恩恵を得られない。
 それがわかりやすいほどわかるパーティだ。

「エリアーヌ? まあずいぶんと、目立っているみたいねえ」

 嘲るような声が届いて、エリアーヌは振り向いた。一番上の姉、アンゲリカだ。ヘンリッキとジュリエッタもいる。

「お久しぶりです。アンゲリカお姉様」
「ドレスは、だぶついているようだけれど。貧相な体だから、私のでは合わなかったみたいね」
「でも、とっても目立っているわ。いいじゃない。ねえ、お兄様」
「飾りくらい着けてこれなかったのか? いつも装飾がなさすぎだろう。それくらい渡してやらなかったのか?」
「ネックレスもイヤリングもあげたわよ。お好みじゃなかったかしら?」
「着け方、知らないんじゃないの?」

 一通り三人の罵りを聞いてから、エリアーヌはこてりと首を傾げて見せる。

「ネックレスとイヤリングですか。何のことでしょう?」
「何って、一緒に送っているはずよ。お前には余りあるものを送ってやったのに、気に入らないなら気に入らないって言えばいいじゃない」

 言ったら文句ばかりと言うくせに。それは口から出さないように閉じていると、ヘンリッキが疑わしげな視線を向けてきた。
 ヘンリッキは、エリアーヌに関しては除き、不正を嫌う。だからすぐに気付いたのだろう。贈られた物は、ドレスと靴だけだったのか? と問うてくれた。

「ええ。ボニーが渡してくれたのはこのドレスと、靴だけですわ。髪飾りも何もないからと、リボンで結んでくれました」
「ボニーはどこにいる?」
「さあ? 着替えを終えたら、忙しそうに部屋を出ていったきりです。あの子はいつも忙しいようで、私の側にはほとんどいませんから」

 アンゲリカとヘンリッキは顔を見合わせた。
 妹を卑下するのは良いが、アンゲリカの贈った物を盗むのは良くないらしい。ヘンリッキがすぐに兵士を呼び、ボニーを捕えるように命令した。アンゲリカが眉を逆立てて、今までの宝石も盗まれているのではと、爪を噛む。

 ボニーに奪われるのが想定できていなかったのだろうか。
 予算がほとんど回ってこないエリアーヌについているメイドだ。給料などかなり少ないに違いない。だがエリアーヌの側にいる。他の者たちはさっさといなくなっているのに。

 それを考えたら、何を望んでいるかくらいわかるだろう。
 ヘンリッキがエリアーヌを睨むと、なぜかエリアーヌを咎めてきた。

「どうして言わなかったのだ」
「どうしてと言われましても、ボニーがそんなことをするとは思わなかったので」
「馬鹿者が。そんなだから、そのような衣装でこんなところに来れるのだ」

 ヘンリッキは苛立たしげに言ってくる。それを右から左に聞いて、エリアーヌは困ったような表情を続けた。
 ボニーを訴えるなど、いつでもできた。それをしなかったのは、ボニーは都合が良かったからだ。

 乳母がいなくなって、エリアーヌの生活は様変わりした。
 乳母の手助けによって、まともな生活が送れていたのだ。いなくなればエリアーヌの何もかもが放置される。

 やってきたボニーは、まずエリアーヌに割り当てられたお金から手を付け始めた。
 まだ幼い子供のエリアーヌにはわからなかった。エリアーヌが悪い子だから食事が少なくなり、着る服もなくなるのだと言われ続けていたのだから。

 ひもじくても、着る物がなくても、お風呂に入れてもらえなくても、エリアーヌがどう対抗するというのだろう。エリアーヌには乳母しかおらず、その乳母がいなくなれば、ボニーしかいないのだから。
 もしも、部屋に閉じ込められていれば、エリアーヌが置かれていた状況はそのままだっただろう。

 だから、放置してくれたボニーには感謝している。
 自由があったおかげで、他の兄姉がどんな生活をしているのか、エリアーヌの立場がどのように扱われているのか、気付くことができたのだから。

 今頃王宮を出ていて、持っていた宝石を売っている頃だろう。逃げ切るには早めの行動が必要だ。とはいえ、町を出る前に捕まるだろうが。

 余罪も多いため、ボニーは死刑になる。アンゲリカの物を売った罪は重い。
 エリアーヌにとって、どうでも良いことだが。

 そうこうしてる間に王がやってきて、ジュリエッタの相手とジュリエッタが舞台に上がった。結婚の祝いの言葉は儀礼的で、王はさほど興味なさそうだった。
 この国は大きくなりすぎて、都に全てが集まっている状態だ。王族の結婚相手に外部の者は選ばれない。王の見知った部下の息子。当たり前すぎて、目新しいものはない。だから王も当然と思っているのだろう。

 エリアーヌの婚約相手が外部の者になったのは、王がエリアーヌのことを忘れていたからだ。公妃からの婚約打診がなければ、エリアーヌも思い出されなかった。

「ここで、もう一つ発表がある。第三王女のエリアーヌの婚約が決まった」

 王の言葉に、貴族たちがざわついた。第三王女がまだいたのかという顔だ。そして、その第三王女がどこにいるのか、周囲を見回す。

 オルヴォ・メリカントが、エリアーヌの前にやってきた。
 髪の毛が薄いので、王より年上に見える。身長は高いが、丸々太った牛のようだった。
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