6 / 9
6、発表
パーティには多くの貴族たちが集まっていた。
その中でエリアーヌの顔を知っている者はどれほどいるだろう。警備の兵士に何度か止められたため、王宮の中でもほとんどの者がエリアーヌの顔を知らないのがわかる。
「何、あの格好」
「いつのドレスを着ているのかしら。どこの令嬢?」
そんな声が届くので、多くの者が知らないと思った方が良さそうだ。なにせ前回人々の前に姿を現したのがいつだったか、エリアーヌも覚えていない。
ジュリエッタの結婚祝いのパーティということで、広間の豪華さは目が痛くなるほどだった。それに集まる者たちも派手さは負けていない。女性たちのドレスや装飾品は、総合で幾らの価値があるだろう。
この国は大国になって、一極集中型になった。
富は王宮に集まり、都に権力者が集まった。多くの貴族がこぞって都に建物を建てる。誰もが王に近い場所にいようと、躍起になった。
大国であるが故に、国内で全てが回り、外交なども必要ない。王が興味あるのは、この王宮が潤うことだけ。一部が潤い、遠い田舎の領地などはその恩恵を得られない。
それがわかりやすいほどわかるパーティだ。
「エリアーヌ? まあずいぶんと、目立っているみたいねえ」
嘲るような声が届いて、エリアーヌは振り向いた。一番上の姉、アンゲリカだ。ヘンリッキとジュリエッタもいる。
「お久しぶりです。アンゲリカお姉様」
「ドレスは、だぶついているようだけれど。貧相な体だから、私のでは合わなかったみたいね」
「でも、とっても目立っているわ。いいじゃない。ねえ、お兄様」
「飾りくらい着けてこれなかったのか? いつも装飾がなさすぎだろう。それくらい渡してやらなかったのか?」
「ネックレスもイヤリングもあげたわよ。お好みじゃなかったかしら?」
「着け方、知らないんじゃないの?」
一通り三人の罵りを聞いてから、エリアーヌはこてりと首を傾げて見せる。
「ネックレスとイヤリングですか。何のことでしょう?」
「何って、一緒に送っているはずよ。お前には余りあるものを送ってやったのに、気に入らないなら気に入らないって言えばいいじゃない」
言ったら文句ばかりと言うくせに。それは口から出さないように閉じていると、ヘンリッキが疑わしげな視線を向けてきた。
ヘンリッキは、エリアーヌに関しては除き、不正を嫌う。だからすぐに気付いたのだろう。贈られた物は、ドレスと靴だけだったのか? と問うてくれた。
「ええ。ボニーが渡してくれたのはこのドレスと、靴だけですわ。髪飾りも何もないからと、リボンで結んでくれました」
「ボニーはどこにいる?」
「さあ? 着替えを終えたら、忙しそうに部屋を出ていったきりです。あの子はいつも忙しいようで、私の側にはほとんどいませんから」
アンゲリカとヘンリッキは顔を見合わせた。
妹を卑下するのは良いが、アンゲリカの贈った物を盗むのは良くないらしい。ヘンリッキがすぐに兵士を呼び、ボニーを捕えるように命令した。アンゲリカが眉を逆立てて、今までの宝石も盗まれているのではと、爪を噛む。
ボニーに奪われるのが想定できていなかったのだろうか。
予算がほとんど回ってこないエリアーヌについているメイドだ。給料などかなり少ないに違いない。だがエリアーヌの側にいる。他の者たちはさっさといなくなっているのに。
それを考えたら、何を望んでいるかくらいわかるだろう。
ヘンリッキがエリアーヌを睨むと、なぜかエリアーヌを咎めてきた。
「どうして言わなかったのだ」
「どうしてと言われましても、ボニーがそんなことをするとは思わなかったので」
「馬鹿者が。そんなだから、そのような衣装でこんなところに来れるのだ」
ヘンリッキは苛立たしげに言ってくる。それを右から左に聞いて、エリアーヌは困ったような表情を続けた。
ボニーを訴えるなど、いつでもできた。それをしなかったのは、ボニーは都合が良かったからだ。
乳母がいなくなって、エリアーヌの生活は様変わりした。
乳母の手助けによって、まともな生活が送れていたのだ。いなくなればエリアーヌの何もかもが放置される。
やってきたボニーは、まずエリアーヌに割り当てられたお金から手を付け始めた。
まだ幼い子供のエリアーヌにはわからなかった。エリアーヌが悪い子だから食事が少なくなり、着る服もなくなるのだと言われ続けていたのだから。
ひもじくても、着る物がなくても、お風呂に入れてもらえなくても、エリアーヌがどう対抗するというのだろう。エリアーヌには乳母しかおらず、その乳母がいなくなれば、ボニーしかいないのだから。
もしも、部屋に閉じ込められていれば、エリアーヌが置かれていた状況はそのままだっただろう。
だから、放置してくれたボニーには感謝している。
自由があったおかげで、他の兄姉がどんな生活をしているのか、エリアーヌの立場がどのように扱われているのか、気付くことができたのだから。
今頃王宮を出ていて、持っていた宝石を売っている頃だろう。逃げ切るには早めの行動が必要だ。とはいえ、町を出る前に捕まるだろうが。
余罪も多いため、ボニーは死刑になる。アンゲリカの物を売った罪は重い。
エリアーヌにとって、どうでも良いことだが。
そうこうしてる間に王がやってきて、ジュリエッタの相手とジュリエッタが舞台に上がった。結婚の祝いの言葉は儀礼的で、王はさほど興味なさそうだった。
この国は大きくなりすぎて、都に全てが集まっている状態だ。王族の結婚相手に外部の者は選ばれない。王の見知った部下の息子。当たり前すぎて、目新しいものはない。だから王も当然と思っているのだろう。
エリアーヌの婚約相手が外部の者になったのは、王がエリアーヌのことを忘れていたからだ。公妃からの婚約打診がなければ、エリアーヌも思い出されなかった。
「ここで、もう一つ発表がある。第三王女のエリアーヌの婚約が決まった」
王の言葉に、貴族たちがざわついた。第三王女がまだいたのかという顔だ。そして、その第三王女がどこにいるのか、周囲を見回す。
オルヴォ・メリカントが、エリアーヌの前にやってきた。
髪の毛が薄いので、王より年上に見える。身長は高いが、丸々太った牛のようだった。
その中でエリアーヌの顔を知っている者はどれほどいるだろう。警備の兵士に何度か止められたため、王宮の中でもほとんどの者がエリアーヌの顔を知らないのがわかる。
「何、あの格好」
「いつのドレスを着ているのかしら。どこの令嬢?」
そんな声が届くので、多くの者が知らないと思った方が良さそうだ。なにせ前回人々の前に姿を現したのがいつだったか、エリアーヌも覚えていない。
ジュリエッタの結婚祝いのパーティということで、広間の豪華さは目が痛くなるほどだった。それに集まる者たちも派手さは負けていない。女性たちのドレスや装飾品は、総合で幾らの価値があるだろう。
この国は大国になって、一極集中型になった。
富は王宮に集まり、都に権力者が集まった。多くの貴族がこぞって都に建物を建てる。誰もが王に近い場所にいようと、躍起になった。
大国であるが故に、国内で全てが回り、外交なども必要ない。王が興味あるのは、この王宮が潤うことだけ。一部が潤い、遠い田舎の領地などはその恩恵を得られない。
それがわかりやすいほどわかるパーティだ。
「エリアーヌ? まあずいぶんと、目立っているみたいねえ」
嘲るような声が届いて、エリアーヌは振り向いた。一番上の姉、アンゲリカだ。ヘンリッキとジュリエッタもいる。
「お久しぶりです。アンゲリカお姉様」
「ドレスは、だぶついているようだけれど。貧相な体だから、私のでは合わなかったみたいね」
「でも、とっても目立っているわ。いいじゃない。ねえ、お兄様」
「飾りくらい着けてこれなかったのか? いつも装飾がなさすぎだろう。それくらい渡してやらなかったのか?」
「ネックレスもイヤリングもあげたわよ。お好みじゃなかったかしら?」
「着け方、知らないんじゃないの?」
一通り三人の罵りを聞いてから、エリアーヌはこてりと首を傾げて見せる。
「ネックレスとイヤリングですか。何のことでしょう?」
「何って、一緒に送っているはずよ。お前には余りあるものを送ってやったのに、気に入らないなら気に入らないって言えばいいじゃない」
言ったら文句ばかりと言うくせに。それは口から出さないように閉じていると、ヘンリッキが疑わしげな視線を向けてきた。
ヘンリッキは、エリアーヌに関しては除き、不正を嫌う。だからすぐに気付いたのだろう。贈られた物は、ドレスと靴だけだったのか? と問うてくれた。
「ええ。ボニーが渡してくれたのはこのドレスと、靴だけですわ。髪飾りも何もないからと、リボンで結んでくれました」
「ボニーはどこにいる?」
「さあ? 着替えを終えたら、忙しそうに部屋を出ていったきりです。あの子はいつも忙しいようで、私の側にはほとんどいませんから」
アンゲリカとヘンリッキは顔を見合わせた。
妹を卑下するのは良いが、アンゲリカの贈った物を盗むのは良くないらしい。ヘンリッキがすぐに兵士を呼び、ボニーを捕えるように命令した。アンゲリカが眉を逆立てて、今までの宝石も盗まれているのではと、爪を噛む。
ボニーに奪われるのが想定できていなかったのだろうか。
予算がほとんど回ってこないエリアーヌについているメイドだ。給料などかなり少ないに違いない。だがエリアーヌの側にいる。他の者たちはさっさといなくなっているのに。
それを考えたら、何を望んでいるかくらいわかるだろう。
ヘンリッキがエリアーヌを睨むと、なぜかエリアーヌを咎めてきた。
「どうして言わなかったのだ」
「どうしてと言われましても、ボニーがそんなことをするとは思わなかったので」
「馬鹿者が。そんなだから、そのような衣装でこんなところに来れるのだ」
ヘンリッキは苛立たしげに言ってくる。それを右から左に聞いて、エリアーヌは困ったような表情を続けた。
ボニーを訴えるなど、いつでもできた。それをしなかったのは、ボニーは都合が良かったからだ。
乳母がいなくなって、エリアーヌの生活は様変わりした。
乳母の手助けによって、まともな生活が送れていたのだ。いなくなればエリアーヌの何もかもが放置される。
やってきたボニーは、まずエリアーヌに割り当てられたお金から手を付け始めた。
まだ幼い子供のエリアーヌにはわからなかった。エリアーヌが悪い子だから食事が少なくなり、着る服もなくなるのだと言われ続けていたのだから。
ひもじくても、着る物がなくても、お風呂に入れてもらえなくても、エリアーヌがどう対抗するというのだろう。エリアーヌには乳母しかおらず、その乳母がいなくなれば、ボニーしかいないのだから。
もしも、部屋に閉じ込められていれば、エリアーヌが置かれていた状況はそのままだっただろう。
だから、放置してくれたボニーには感謝している。
自由があったおかげで、他の兄姉がどんな生活をしているのか、エリアーヌの立場がどのように扱われているのか、気付くことができたのだから。
今頃王宮を出ていて、持っていた宝石を売っている頃だろう。逃げ切るには早めの行動が必要だ。とはいえ、町を出る前に捕まるだろうが。
余罪も多いため、ボニーは死刑になる。アンゲリカの物を売った罪は重い。
エリアーヌにとって、どうでも良いことだが。
そうこうしてる間に王がやってきて、ジュリエッタの相手とジュリエッタが舞台に上がった。結婚の祝いの言葉は儀礼的で、王はさほど興味なさそうだった。
この国は大きくなりすぎて、都に全てが集まっている状態だ。王族の結婚相手に外部の者は選ばれない。王の見知った部下の息子。当たり前すぎて、目新しいものはない。だから王も当然と思っているのだろう。
エリアーヌの婚約相手が外部の者になったのは、王がエリアーヌのことを忘れていたからだ。公妃からの婚約打診がなければ、エリアーヌも思い出されなかった。
「ここで、もう一つ発表がある。第三王女のエリアーヌの婚約が決まった」
王の言葉に、貴族たちがざわついた。第三王女がまだいたのかという顔だ。そして、その第三王女がどこにいるのか、周囲を見回す。
オルヴォ・メリカントが、エリアーヌの前にやってきた。
髪の毛が薄いので、王より年上に見える。身長は高いが、丸々太った牛のようだった。
あなたにおすすめの小説
二年間の花嫁
柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。
公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。
二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。
それでも構わなかった。
たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。
けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。
この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。
彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。
やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。
期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。
――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。
【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―
柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。
しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。
「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」
屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え――
「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。
「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」
愛なき結婚、冷遇される王妃。
それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。
――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―
柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。
最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。
しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。
カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。
離婚届の上に、涙が落ちる。
それでもシャルロッテは信じたい。
あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。
すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。