人生ひっそり長生きが目標です 〜異世界人てバレたら処刑? バレずにスローライフする!〜

MIRICO

文字の大きさ
57 / 196
第一章

28−2 認可局

しおりを挟む
「物を作ることに天才的な聖女が、多くの役立つ物を作って、それが登録されることになったのよ。模倣した粗悪品をなくすために。認可局の制度は、聖女が作った物の偽物が出回らないために作られたの。だから、登録料も高いのよ。聖女だったらなんでも登録できるでしょう?」

 ここにも聖女の弊害が。しかし、新しい物を作るたびに製作物に高額な税金を課していたら、クリエイターが衰退してしまうのではないだろうか。

「良心的な店主がいる店なんて、そんなにないわ。職人が直接店を作るしかないの。でも、私みたいな新人は店なんて持てないし、私がお世話になっていた師匠は店を持っていないの。だから、どうにもならないのよ」
 税金の取り方は売上にもかかるので、一人で店を持つにはハードルが高いのだ。独立するためにも、まずは店に入り、その店の職人として働くのが一番良い。ただし、その店主のモラルに左右される。

 なんとかならないものなのか。あまりにもエミリーが不憫だ。
「ちなみに、エミリーさんは、何を作ってるんですか?」







 エミリーの家は、道の作りが変わる辺り、土から石畳に変わるところの、直立した建物の三階にあった。
 弟と二人で住んでいるらしく、部屋は二間。ダイニングキッチンと一部屋で過ごしている。その一部屋にはベッドが一つ。そこに所狭しと、カバンやベルトなどが置いてあった。

「革のカバンですか。うわー、うわー。すごーい」
「冒険者用のカバンなの。遠征用だったり、商人用だったり。色々ね」

 リュックのように背負えるものから、アタッシュケースのような形のもの。腰に巻くベルトタイプなどがある。
 革の種類はいくつかあるようで、色や毛並みが違った。
 革の加工がされている商品だ。

「エミリーさんて、革の加工、されるんですか?」
「もちろんよ」
 エミリーは当然だと頷いた。革の加工の仕方を知っている人が、ここにいる。話を聞いて良いだろうか。作り方を、聞いて良いだろうか。

 食いつくように縋りついて話を聞きたいが、今はエミリーの問題が先だ。弟のエリックが不安そうな顔をしてベッドに座っている。弟は少し年が離れているようで、顔が幼い。十代半ばのようだ。髪色はエミリーと同じ栗色で、顔もよく似ていた。

 二人は製作を一緒に行なっているそうで、お互いに案を出し、それの試作品を作っていた。
 姉弟二人で職人となり、エミリーは売る店ができて喜んでいたのに、結果がこのようになってしまい、落胆どころではないだろう。

「あのカバンだって、売れ行きが上がって利益になっているのに」
 エリックは拳を握りしめる。エミリーの視線の先にあるカバンは、斜めがけのリュックのようなカバンで、後ろ手で物が取れるようになっている。ポケットのたくさんあるカバンだ。認可局で許可をもらっているため、あのカバンについては利益をもらえていたそうだ。エミリーたちのカバンが売れるとわかり、今回の登録がなされなかったのだろう。

「あのカバンは、何用ですか?」
「魔物討伐の狩人用ですよ」
「狩人用。騎士ではなく?」
「討伐隊騎士はこんなカバン使わないですよ。やつらは森に行くふりをして、飲み屋で飲んでばかりだし。山向こうにたまにでかいのが出るから、それを遠征って行って、たまに遠出するだけ」
「私の知っている人は、森でよくうろついてますけど」
「そいつらが奇特なだけですよ。貧乏貴族の次男とかじゃないのかな」

 エリックは肩を竦める。下っ端の討伐隊騎士は森にいることがあるようだ。オレードとフェルナンは貧乏貴族なのだろうか。それはともかく、魔物討伐に行く一般人がいるようだ。
 巣の糸などを取りに行ったりするのかもしれない。貴族の服は魔物の巣を使っているのだから、そのために森に入る者たちもいるだろう。

 その狩人用のカバンが、よく売れているそうだ。使い勝手が良いと評判で、職人たちが手分けして作っているほどだった。今まで、そういったカバンがなかったからだ。

「狩人が持つカバンって、普通は腰に巻く形の物が多いんです。獲物は背負うから。けど、体にピッタリとしたカバンだったら、問題ないじゃないですか。腰のカバンよりも物が入るし、カバンに紐が引っ掛けられるようにしてあるから、獲物を巻き付けられるんです。だから、結構売れてるんですよ」

 エリックが力説した。このカバンを作った時の反響は、とても大きかったそうだ。夢を語る姿は目がキラキラ輝いているように見える。しかし、すぐにその瞳は濁ってしまった。もう、自分たちの手から離れてしまったと言って。

「レナさんでしたっけ。レナさんのそのカバンも、とても珍しいですよね。外国の製品ですか?」
「これは、私が適当に作ったので、買ったわけじゃないです」
「うそっ! 作ったんですか!?」
「自分で作ったんですか!?」

 エリックとエミリーの声が重なった。エミリーはしんみりしたまま話を聞いていたのだが、突然立ち上がり、玲那のカバンを手に取って眺めはじめる。

「これを、自分で? カゴよね。それに、レースの編みが素敵。絞りもあって、簡単に開けられないようになっているし、斜めにかけることで歩くのに邪魔にならない。これを、適当に作ったですって?」
 なんだか大袈裟に誉められているようだが、カギ編みさえできれば、適当に作れるものだ。大した技術ではない。しかし、発想が素晴らしいと珍しがられた。なんだか恥ずかしい。

「こういうカバンって、こっちにはないんですか?」
「カバンなんて、聖女が考えて初めて出てきて、それ以降はずっと似たような物を使ってきたのよ。聖女のカバン以上にすごいものなんて、誰も作れないもの」

 出た、聖女。いつの聖女か。物作りの聖女か。色々な物を作ったらしい聖女は、カバンも作っていたようだ。
 そのカバンは庶民用ではなく、騎士用で、今でも遠征に行く騎士が使っている。オレードとフェルナンがカバンを持っていたか思い出せないのだが、よく使われている形のカバンがあるのだ。ただ、かなり遠くへ行くために使うカバンなので、実用性はあっても、その辺で使うような形ではないとか。

 想像するに、登山用とか、キャンプ用のカバンみたいなものだろうか。よくわからない。
 だが、案外、普通の物を作っている。

「すごいのよ。熱いお湯をそのまま持っていけたり、冷えたままになったり。領主の宮殿の台所にもあるそうだけど、材料を保管することができる魔法が、完璧なんですって」
「まほー、ですか??」
「そうよ。カバンに特別な魔法をかけるの。誰も考えなかった方法だわ。魔法を持続させるために、魔導具を作ったとか。真似できないわよね」

 聖女の作る物が、普通の物のはずなかった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

処理中です...