人生ひっそり長生きが目標です 〜異世界人てバレたら処刑? バレずにスローライフする!〜

MIRICO

文字の大きさ
93 / 196
第一章

43−2 紋章

しおりを挟む
「フェルナンさんって、神官なんですか。敬虔な信徒とは聞いてたけど。じゃあ、誰かを治療したり?」
「それが、まったく行っていないんです。だからなおさら、よく思われていなくて」

 神官は治療士以上の力があるため、難しい病や怪我の治療が主な仕事であり、その行為と権威でヴェーラーの神殿が潤うわけだが、フェルナンは神官の資格を持ちながら、その責務を果たしていない。そこがそもそも白い目で見られるのだが、さらに貴族でありながら平民の子供ということで忌避されている。

 けれどオレードと親しいものだから、扱いに困る相手ということだ。
 そして、神官でありながら、フェルナンはとても強いらしい。

「討伐隊騎士の中で一、二を争うほど強いらしいですよ。神官で治療もできて腕もある。後ろ盾になっているグロージャン様もいるから文句が言えない。だから浮いてるんです」
 妬まれていると言った方が良いのではないだろうか。身分はないが、力がある。盾となるオレードがいる。周りはなんの文句も言えない。表立ってフェルナンを貶めれば、オレードが控えているということだ。フェルナン自体に力があるものなので、やはり何もできない。

 しかし、神官の責務を果たしていないとなると、貴族からは疑問視されるのだろう。討伐隊騎士なのだから問題もないように思えるのだが、そこにはやはり妬みがあるので、追求しやすい問題なのだ。

「でも、オレードさんとフェルナンさんにあの小瓶を渡したら、変なことにはならないってことですよね」
「わからないわ。この領土は問題だらけで、それをなんとかしようとするわけでもないもの」
「領主があれだから、グロージャン家の次男がいてもどうにもならないんですよ。だとしたら、その小瓶っていうのも捨てられているかもしれません」

 謎の存在なのだから、目立つことはしないだろう。エリックはそう言いたいようだ。
 この領土は、領主ではない力のある貴族が実権を握っている。領主はその貴族の言いなりで、その手下と言われるのが討伐隊騎士だ。何かしてくれるとは考えにくい。
 けれど、小瓶はとっくの昔に渡してしまった。それに、持っていても玲那がなにかを調べることはできない。そんな技術は持っていない。
 調べられるとしたら、

「この紋章が入った物を持ってる人、他に知りませんか?」
「知ってはいるけれど、仲間だと思うの? 信徒はたくさんいるから、関わっていない可能性の方がずっと高いわよ」
「まあ、そうですよね」
 それを言ったらフェルナンだって犯人の一人になってしまう。がくりと肩を下ろす。しかし、あの男の身元がわかる物がこれしかなかったのだ。

「レナさん、これから認可局に行くつもりだったので、一緒に来ますか? あそこなら信徒もいますよ」
「認可局に? エリックさんは何用で?」
「商品の確認ですよ。新しい物を作るにも、変にかぶったら困りますから」

 そういうチェックもしなければならないのか。それもそうだ。日本でだって、同じ商品を売れば訴訟問題になる。
 認可局に行ってみるくらいなら、問題ないだろう。
 エリックの提案に、玲那は大きく頷いた。








「あれが、認可局、ですか」

 認可局は、銀行の近くに位置し、窓ガラスのあるレンガ造りの建物だった。
 荘厳な建物。明るい色の建物はこちらで初めて見る。銀行のように神殿風ではないため、同じ町にある建物とは思えないほど、趣向が違った。赤色のレンガ。白色の窓枠。建物の周囲は回廊になっており、警備をしている者たちがうろついた。出入り口にも二人、警備がいる。

「厳重ですね」
「いつもはこんなではないですよ。誰か来るんでしょうね」

 普段は、警備は扉の前くらいで、ここまで多くないらしい。エリックは警備に気にすることなく、扉に手をかける。警備はじろりとこちらを睨んだだけで、特に何も言わず二人を通した。
 エミリーは一緒についてこなかった。前の店の件もあり、裏で手を組んでいる職員に気付かれたくないからだ。資料を漁っているのを見られれば、目を付けられるかもしれない。もし認可を受けたくなって訪れた時、再び邪魔されたくないからだ。

 エリックは顔を知られていないため、エリックが資料を確認している。
 中に入ると、思ったより人がいた。受付カウンターのようになっており、何人かが銀行のように木の札を持って順番を待っている。

「あんなに認可取る人がいるんですか?」
「全員が全員ではないですよ。使用許可を得たり、相談に来たり、許可を得た人が支払いをしたり」
「お金を扱ってるから、部屋にも警備がいるんですね」

 部屋の中でうろついている警備がいる。警備だとわかるのは、槍を持って同じ格好をしているからだ。高い襟の黒のシャツ。焦茶色のチョッキを着て、ベルトで固定している。厚手のチョッキだ。防弾チョッキのようなものだろうか。
 エリックは二階に上がる。二階は資料室で、ここはあまり人がいなかった。図書館のようになっており、資料を片手に読み漁っている人が数人いる。この部屋はかなり広いが、三階も同じように資料の部屋になっているそうだ。

「すごいですね。全部資料ですか」
「国中の認可申請がされている物が載っていますからね。今もほら、追加していますよ」

 職員らしき人が、薄い板を本棚に収めた。すぐに誰かが手に取って確認する。近くの板を手に取ってみると、二つ折りの板に手書きで展開図や説明が書かれていた。著作権を持っている店の印もある。認可局にお金を払った業者名が記されているのだろう。
 印刷の概念がないのか、手書きで複製を作っているそうだ。原本は認可を受けた認可局に置き、複製した物を都にある宮廷認可局に送付する。齟齬が起きないようにするため、中枢にある特別な認可局で何枚も同じ物を描いて、各認可局に送られる。

「もしかして、これを全部確認するんですか?」
「もちろんですよ」

 検索機能はない。手作業ですべて確認するらしい。大変な作業だ。
 エリックは新しい考えが浮かぶかもしれないと、楽しんで読んでいるそうだ。他の人の作品を見て、インスピレーションを養っているわけである。面白そうなものがあれば、エミリーに伝えるためにその場で模写する。それが許されているので、机もあった。

 板は番号順に収められており、古いものは奥に、新しいものは手前に入れられていく。
 最初の目的を忘れて、玲那は資料を眺めた。奥の方の資料、つまり古い資料を眺めていると、ほとんど聖女が製作者になっているのに気づいた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。 しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた! しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思った矢先…何故か色々な事に巻き込まれてしまい……?! 「これ…スローライフ目指せるのか?」 この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!

おせっかい転生幼女の異世界すろーらいふ!

はなッぱち
ファンタジー
赤ん坊から始める異世界転生。 目指すはロマンス、立ち塞がるのは現実と常識。 難しく考えるのはやめにしよう。 まずは…………掃除だ。

処理中です...