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第二章
58−3 勇者
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食料確保のための狩りに同行していたローディアは、フェルナンに負けじとその強さを見せつけていた。他の騎士たちがローディアの魔法に感嘆していたくらいだ。そのローディアがお世辞でもなく、会ってみたかったと言うのだから、相当だったのだろう。この土地で勇者のイメージが悪い中、そんなことを口にするのだから。
「異世界人って、本当にすごいんですね」
「ですが、その四年後、勇者は殺されました。当時苦楽を共にした討伐隊騎士の一人に」
それが、オクタヴィアンの祖父になるわけだ。
ローディアは別の本を持ってきて、魔物討伐の歴史が載っていると教えてくれる。
建国当時、ほとんどの土地に魔物が住んでいたようだ。都や、各領地の中心街以外は、道を行き来するのも命懸けだった。近代になってそれも減ったが、それでも魔物は多い。当時、勇者は全国をならすように、全国的な魔物退治に出発する。土地の規模はわからないが、十五年でほとんど全国を渡り歩いた。
魔物が人の住む場所に現れないようにするため、山に追いやったり全滅させたりしたようだ。
「当時の討伐隊騎士は、貴族でも次男などの家を継げない者たちや身分の低い者が多く、土地を持てない者ばかりでした。褒美をもらえると考え勇者と共にしたのに、戦いが終わって都に戻っても、十五年の間戦った褒美で土地を得たのは勇者だけ。討伐隊騎士が国中の魔物と戦っている間、都は平和で、戻ってきた討伐隊騎士を労う心もありませんでした。彼らは勇者についていき、この土地に留まることしかできなかったのです」
そして、この土地で得られた金を使い、腐ることしかできなかったのだ。
「当時の王が、彼らをここに閉じ込めたようなものなんですよ」
「なんで、そんなことを」
「都は安全で魔物の恐怖は感じませんでしたが、地方は違います。恐れずに戦う勇者たちを歓迎していました。そんな勇者と共の者たちを各地に散らばせたならば、のちの火種になるかもしれない。彼らは英雄。地方から力をつけられては困るのです。だから、一つにとどまらせて、勇者だけに多くの褒美を与えました」
「それって、つまり……」
「勇者がいなければどうにもならない状態だったので、彼への褒美は当然です。とはいえ、褒美は土地と少しの金だけで微々たる物でした。それでも、他の者たちからすれば羨望される。羨望ではありませんね。妬まれる。共の者たちには少ない褒美しか与えられなかったのですから」
「それで、勇者は殺されたんですか」
「彼は異世界人で、戦いに特化していましたが、それだけ。こちらの世界のことや貴族のことについて教える者はおらず、教養など、こちらの規律を学べなかった。なにもわかっていない者に領地を渡したのです。王はそれも考えていたのでしょう。戦いを共にした勇者の仲間たちは、この領地で勇者を羨んでばかりで助けもせず、勇者の言うことも聞かない。そんな者たちが増えていったのです。勇者自体、腐っていく。そこで裏切りが出て、瓦解したのです」
「その裏切り者が、領主になったんですよね。他の人たちは納得できたんですか?」
「その後も醜い争いが起きていますよ。お互いで殺し合っています」
勇者は生きている間に、仲間たちに家や土地を与えてはいたそうだ。その土地の少なさに憤った者もいれば、事情を組んだ者たちもいた。
勇者の事情を理解している者たちは中立であったり、勇者を庇ったりもしていたが、反意を翻した者たちは元々この領地に住んでいる貴族たちを唆し、勇者を殺した。
それなのに、その一人が領主になったのだ。しかも、領主は聖女に傾倒し、領地の金を浪費しはじめた。怒りに拍車がかかった者たちは、今度はその領主の子供を使い、領主も殺してしまう。
それらがボードンたちで、中立だった者たちがフェルナンの父親などの家になる。勇者を擁護する者たちは少なく、結果勇者を弑する者たちを止めることができなかった。
ある程度のフォローはしていても、少ない人数で勇者をフォローすることはできなかった。そこには身分があり、身分の高い者たちが特に反意を持っていたからだ。
貴族たちはそれを知っているが、平民にとってはそんな話どうでもいい。暮らしが悪くなることへの不満は勇者が領主になってからだと決めつけた。勇者が来る前は、魔物だらけで生きるのも危険な土地だったのに。
「平民が歴史を学ぶことはありません。親から子へ伝わるだけ。勇者が魔物を倒した頃は、英雄だったと褒め称えていたでしょう。しかし、勇者の共の者たちは暴挙を繰り返した。それを止められなかった勇者は、殺されてしまいます。その後、勇者を殺した領主は聖女になびき、金を浪費して、この領地は困窮しました。平民は領主を呪ったことでしょう。討伐隊騎士はその領主を殺しましたが、領主の子供は病で貴族のいいなり。暮らしは良くなる兆候がない。
遡って、あの時勇者がしっかりしていれば。そう考える平民は多いのです。そして、勇者への評価は悪いままで伝わっているのです」
当時のことなどどうでもいい。今が苦しい。目立った立場である勇者が矢面に立たされる。平民にとって文句の言いやすい、有名な異世界人。
「それは、聖女もですか?」
「さて、それは存じません」
「勇者のことには詳しいんですね」
「私も調べましたので」
そして、微笑む。うん。やはり嘘くさいので、ここはもう退散した方がいいだろう。ローディアの言っていることが真実とは限らないが、女性騎士たちの話とも合うので、間違いなさそうだ。
「他に気になることはありますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。理解できました」
立ち上がり、本を片付けようとすると、ローディアが戻しておくと言うので、そのまま渡して礼を言った。深々と頭を下げようと思ったが、こちらには頭を下げる習慣がないようなので、礼を言うだけにとどめておいた。
扉を出て、やっと息をつく。
「絶対、目、つけられたよ。はあ、なんかやらかしたかなあ。今の、大丈夫かなあ」
勇者の話を聞いただけだ、おかしな真似はしていないと思うが。
それだけで異世界人とは思われない、と思いたい。
やはり、近づくのは危険だ。できるだけ近寄らないようにしなければ。心に誓い、やっと帰路に着くことにした。
「異世界人って、本当にすごいんですね」
「ですが、その四年後、勇者は殺されました。当時苦楽を共にした討伐隊騎士の一人に」
それが、オクタヴィアンの祖父になるわけだ。
ローディアは別の本を持ってきて、魔物討伐の歴史が載っていると教えてくれる。
建国当時、ほとんどの土地に魔物が住んでいたようだ。都や、各領地の中心街以外は、道を行き来するのも命懸けだった。近代になってそれも減ったが、それでも魔物は多い。当時、勇者は全国をならすように、全国的な魔物退治に出発する。土地の規模はわからないが、十五年でほとんど全国を渡り歩いた。
魔物が人の住む場所に現れないようにするため、山に追いやったり全滅させたりしたようだ。
「当時の討伐隊騎士は、貴族でも次男などの家を継げない者たちや身分の低い者が多く、土地を持てない者ばかりでした。褒美をもらえると考え勇者と共にしたのに、戦いが終わって都に戻っても、十五年の間戦った褒美で土地を得たのは勇者だけ。討伐隊騎士が国中の魔物と戦っている間、都は平和で、戻ってきた討伐隊騎士を労う心もありませんでした。彼らは勇者についていき、この土地に留まることしかできなかったのです」
そして、この土地で得られた金を使い、腐ることしかできなかったのだ。
「当時の王が、彼らをここに閉じ込めたようなものなんですよ」
「なんで、そんなことを」
「都は安全で魔物の恐怖は感じませんでしたが、地方は違います。恐れずに戦う勇者たちを歓迎していました。そんな勇者と共の者たちを各地に散らばせたならば、のちの火種になるかもしれない。彼らは英雄。地方から力をつけられては困るのです。だから、一つにとどまらせて、勇者だけに多くの褒美を与えました」
「それって、つまり……」
「勇者がいなければどうにもならない状態だったので、彼への褒美は当然です。とはいえ、褒美は土地と少しの金だけで微々たる物でした。それでも、他の者たちからすれば羨望される。羨望ではありませんね。妬まれる。共の者たちには少ない褒美しか与えられなかったのですから」
「それで、勇者は殺されたんですか」
「彼は異世界人で、戦いに特化していましたが、それだけ。こちらの世界のことや貴族のことについて教える者はおらず、教養など、こちらの規律を学べなかった。なにもわかっていない者に領地を渡したのです。王はそれも考えていたのでしょう。戦いを共にした勇者の仲間たちは、この領地で勇者を羨んでばかりで助けもせず、勇者の言うことも聞かない。そんな者たちが増えていったのです。勇者自体、腐っていく。そこで裏切りが出て、瓦解したのです」
「その裏切り者が、領主になったんですよね。他の人たちは納得できたんですか?」
「その後も醜い争いが起きていますよ。お互いで殺し合っています」
勇者は生きている間に、仲間たちに家や土地を与えてはいたそうだ。その土地の少なさに憤った者もいれば、事情を組んだ者たちもいた。
勇者の事情を理解している者たちは中立であったり、勇者を庇ったりもしていたが、反意を翻した者たちは元々この領地に住んでいる貴族たちを唆し、勇者を殺した。
それなのに、その一人が領主になったのだ。しかも、領主は聖女に傾倒し、領地の金を浪費しはじめた。怒りに拍車がかかった者たちは、今度はその領主の子供を使い、領主も殺してしまう。
それらがボードンたちで、中立だった者たちがフェルナンの父親などの家になる。勇者を擁護する者たちは少なく、結果勇者を弑する者たちを止めることができなかった。
ある程度のフォローはしていても、少ない人数で勇者をフォローすることはできなかった。そこには身分があり、身分の高い者たちが特に反意を持っていたからだ。
貴族たちはそれを知っているが、平民にとってはそんな話どうでもいい。暮らしが悪くなることへの不満は勇者が領主になってからだと決めつけた。勇者が来る前は、魔物だらけで生きるのも危険な土地だったのに。
「平民が歴史を学ぶことはありません。親から子へ伝わるだけ。勇者が魔物を倒した頃は、英雄だったと褒め称えていたでしょう。しかし、勇者の共の者たちは暴挙を繰り返した。それを止められなかった勇者は、殺されてしまいます。その後、勇者を殺した領主は聖女になびき、金を浪費して、この領地は困窮しました。平民は領主を呪ったことでしょう。討伐隊騎士はその領主を殺しましたが、領主の子供は病で貴族のいいなり。暮らしは良くなる兆候がない。
遡って、あの時勇者がしっかりしていれば。そう考える平民は多いのです。そして、勇者への評価は悪いままで伝わっているのです」
当時のことなどどうでもいい。今が苦しい。目立った立場である勇者が矢面に立たされる。平民にとって文句の言いやすい、有名な異世界人。
「それは、聖女もですか?」
「さて、それは存じません」
「勇者のことには詳しいんですね」
「私も調べましたので」
そして、微笑む。うん。やはり嘘くさいので、ここはもう退散した方がいいだろう。ローディアの言っていることが真実とは限らないが、女性騎士たちの話とも合うので、間違いなさそうだ。
「他に気になることはありますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。理解できました」
立ち上がり、本を片付けようとすると、ローディアが戻しておくと言うので、そのまま渡して礼を言った。深々と頭を下げようと思ったが、こちらには頭を下げる習慣がないようなので、礼を言うだけにとどめておいた。
扉を出て、やっと息をつく。
「絶対、目、つけられたよ。はあ、なんかやらかしたかなあ。今の、大丈夫かなあ」
勇者の話を聞いただけだ、おかしな真似はしていないと思うが。
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