人生ひっそり長生きが目標です 〜異世界人てバレたら処刑? バレずにスローライフする!〜

MIRICO

文字の大きさ
147 / 196
第二章

60−2 本

しおりを挟む
「加護があったので、それを壊しましたら、思った以上に壊れてしまったんです」
 なんの言い訳。それに加護とは? なんの話をしているのかと思ったが、祈祷師に祈りを願ったのでしょう? と言われて察した。フェルナンがかけてくれた魔法のことだ。雷などで家が壊れたりしないという、あれだ。

「祈祷師の加護には家を守る力があります。かなり強い力だったので、こちらも力を入れてしまいました」
 それは笑う話か? ローディアが微笑むので、脱力する。
「どなたに加護をいただいたのですか? かなりの力の持ち主のようですが」
「フェルナンさんです」
「フェルナン・アシャールですか。狩りの時に思いましたが、親しいようですね」

 言わない方がよかったか。ローディアが一瞬目をそばめた。神官なのだから、フェルナンのことは知っているはずだ。しかし、神官でありながら神官の仕事をしていないフェルナンに当たりが強いこともある。

「一人で住んでいるので、気にしてもらってるんです。ところで、どんなご用ですか?」
 フェルナンの話は広げないようにして、もう一度用件を聞いた。相手は貴族。お茶でも出した方がいいのかもしれないが、高級なお茶っぱなんてないし、お湯を沸かしている時間を作りたくない。
 椅子に座るくらいは促して、ローディアが座ってから自分も座る。ここで礼儀云々言われるとは思わないが、最低限の礼儀はわきまえていた方がいいだろう。その礼儀も玲那の常識とは違うかもしれないのが怖いが、今更言ってもだ。

 ローディアは相変わらずの不遜な笑顔を見せた。この嘘くさいニコニコ笑顔が怖い。一体全体どうしてここに来たのだろう。どこでこの家を知ったやらだ。

「面白いものが多いですね」
 ご用はどうした。ローディアが部屋を見回す。掃除はしてあるが物の多い部屋だ。織り機や手織り機、紙を作るためのハンドチョッパーや作業途中の編み物などが置いてある。草木などは倉庫に置いてあるが、物は多い。変な物は置いてないよな。と不安になりながら、ローディアの視線の先を追った。一周回って、玲那をじっと見つめる。こちらを見つめるのもやめてほしい。と言うより、さっさと帰ってほしい。
 自分の家なのに、居心地の悪さを感じる。

「こちらにはお一人でお住まいですか?」
「そうですけど」
「元は他国の方だそうですね」
「ええ、まあ」

 そのあたりは使徒の呪い、もとい暗示が効くので、変なことを問われても修正されるだろう。それだけは安心だ。力の強い神官には効かないとかないよね?
 ローディアはふっと微笑んで、どこからか大きな本を出した。物を移動させるテレポート的な魔法だろう。突如現れて、どさりと机の上に置かれる。

「こちらの本をお持ちしました。よかったら読みませんか?」
 なんの本か言わず、玲那の前に押し出す。断る理由もないが、これが用なのかと思うと警戒心が増した。
「失礼します」
 おそるおそる触れて、厚めの表紙を開く。普通のハードブックのように目次はない。最初から文が始まって、玲那は文字を追った。ヴェーラーの本のようだ。

 しかし、読みにくい。ルビが古くさい訳になっている。堅苦しくて、なじみのない日本語だ。いとおかしとは書いていないが、言い回しが古い。古典などを読んでいるような気分になってくる。難しい本なのだろうか。

「どうして、私にこれを?」
「異世界人に興味があられたようなので」

 それは間違いではないが、そんなことのためにわざわざこの家に来て、鍵まで壊して入り込んだのか?
 他に目的がないとは思えない。なにか企みがあるのか、それとも異世界人ではないかと疑われているのか。どちらもあり得て、緊張で身体に力が入る。
 怖すぎるのだが。

「この国で、どんな異世界人が現れたのか、ご存知ですか? ほら、ここに」
 ローディアはページをめくった。一文を指差して、ここから読めと促してくる。

 目的がわからない。疑り深くローディアを確認してから、玲那はその文を読み始めた。
 この国の最初の聖女の出現。ヴェーラーが預言者となったきっかけについて書かれている。ヴェーラーが、王に語る一説だ。

『この女性は、この国を救う力を持っている』

 初代聖女は、ヴェーラーがいた頃と同じ時期に現れた。時代とすればかなり昔の話なのだろう。始まりの神たちの話のように、物語調に書かれている。

「最初の聖女って、いつぐらいの話なんですか?」
「千年ほど前になりますね」
「あれ? 二番目が物作りの聖女ですよね。五十年以上前でしたっけ?」
「行方不明になったのが、五十四年前。聖女が現れたのは八十四年前です」
「最初の聖女から次に来た聖女まで、長い間聖女は現れなかったんですね」

 初代ヴェーラーがいた頃に現れた聖女だ。相当昔なわけだが、それに比べると二代目はずい分直近だ。初代から二代目聖女までの間が長く離れている。

「二代目聖女から現代に至って、異世界人が多く現れすぎなのですよ。八十四年間で三人です」
「そっか。直近で三人か。その前は全然現れてないんですね」
 聖女二人、勇者一人。計三人の異世界人が、この八十四年で現れている。その三人が連続で問題になっているのだから、イメージが悪くなるわけだ。

「他の国では現れていますがね」
「そうなんですか?」
「自国に現れていないのですか?」
「さ、さあ。どうでしょ。私、病がちだったので、世間の話を知らなくて」

 異世界人はこの国の話だけではなかった。あはは、と空笑いをするが、ローディアは目を眇めてきた。誤魔化せていなすぎる。

「他国の異世界人出現の話は入ってきますが、本当かはわかりませんね」
 ローディアの微笑みに寒気しかしない。しかし、本当かはわからないというのはどういうことだろう。眉を傾げると、国が傾きそうな頃に出やすいので、と口にした。なおさら意味がわからない。

「他国では国の有事に現れることが多いんです。どうしてだと思いますか?」
 使徒のミスが偶然重なっただけだと思うが。それは言わず、それっぽい答えを探す。
「救済の役目を持ってるからじゃないんですか? すごい力を持つ人たちばかりだから」
「いいえ、国民を欺くためです」
「欺くため? それは、本物じゃない、ってことですか?」

 ローディアは正しい答えだと、不遜に笑った。玲那に対してではなく、他国のそれについて馬鹿にした顔だ。異世界人が現れたと発表する他国のやり方を、ローディアは馬鹿にしているのだ。

 どうして異世界人が現れたと偽るのだろう。
 異世界人が現れたと偽る理由? しかも有事に限りだ。

 戦争などの危機に面した時に、力のある異世界人が現れたと言えば、国民は歓喜するだろう。この国は救われる。戦争に勝てる。けれどそれは偽物だ。なんの力もない。そうしたら、国民は気落ちする。期待とは違い、使えない異世界人が現れただけ。
 国がそれを行う理由。なんとなく想像できて、嫌悪が顔に出た。ローディアがクスリと笑う。

「あなたの考えた通り、国民の不満を発散させるために名乗らせるのです」
 異世界人はこの世界の者とは違うが、多種多様。ひとえにどんな力が期待できるとは言えない存在。とはいえ、そんな存在でも特異な力を持った者ばかり。それが有事に現れたと発表される。

 国民は期待するだろう。やっと救済される。そう思い期待したら、それほどではなかった。その時、国民はどんな行動をするだろう。期待した分、落胆は大きい。そうなれば、

「憎む相手として断罪されて、国民は溜飲が下がるんです」
「それって……」

 ガス抜きのための、人身御供だ。国の中枢への不満の矛先を、その偽の異世界人に向けさせる。
 異世界人という目立った存在を使い、矢面に立たせる。それが本物であろうが偽物であろうが、関係はない。力のない救世主を不満の捌け口にして、国民の憤りを異世界人に向けさせることで、国の体制を整えるのだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...