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第二章
68 狩り
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ローディアは狩りで怪我をした時のために、神官たちと一緒にいた。王族の陣営、テントが張ってあるのだが、その近くに陣を構えている。
オクタヴィアンがいるテントはずっと離れた場所に作られていて、それが貴族たちの覇権争いから外れていることを示唆していた。王都から離れた地方の田舎の領地だ。注視されていないと言わんばかりの場所に置かれているが、オクタヴィアンは気にした様子はない。王都に深く関わる気がないのだろう。都に出てやろうという野望はまったくないようだ。父親があの状態なので、都デビューなどどうでもいいと言ったところか。
玲那はこの陣営にずっといたので、来る時にローディアを見かけただけだが、アシュトンがローディアの反応を見るために玲那を連れてくるよう仕向けたとしても、ローディアはまったく驚かないだろう。完全にアシュトンの杞憂だ。ローディアは玲那が異世界人だと疑っているだけのこと。なにかをするために、城に玲那を連れたわけではない。
アシュトンはなにか誤解して玲那を狩りに呼んだのではと、オクタヴィアンは想定している。
それはあり得る。というか、それしかあり得ない。
オクタヴィアンが言うには、ローディアは第三継承権を持っているので、アシュトンからすれば牽制したくなる相手。ローディアは次期大神官とも言える若手の実力者。目の上のたんこぶとまでは言わないが、目障りなのだ。
たったそれだけでローディアが構った玲那を引きずり出してきたのかとは思ったが、他にも要因があるのだろうと、オクタヴィアン。それについては詳しく話そうとしなかった。因縁でもあるのかどうか。どちらにしても、玲那を巻き込まないでほしいところだ。それ以上にオクタヴィアンが思っている。
「なんていうか、ぱっつんな格好ですよね」
「なんだよ。ぱっつんて」
「ピッチピチって言うか。オクタヴィアン様、よくこの生地でガロガちゃんに乗れますね。動きにくくないですか?」
「慣れれば大したことないだろ」
ジャージが恋しい。白パンツはぴちぴちだし、黒のロングブーツはともかく、シャツはひらひらの襟付きで、胸元までひらひらだし、上着はベルベットのような生地で腕の可動域が狭いし、動きにくいとしか思えない。
伸縮性のない生地なのに、オクタヴィアンは難なくガロガに乗った。様になっている。かっこいー、と褒めてから、玲那はガロガに跨る前についズボンを引っ張る。ゆるみがないと足を広げられない。すぐにだせえ真似するなとオクタヴィアンに叱られる。
伸縮性のある糸がほしい。これを履いていて思い出した。森で立ったり座ったりが多いため、ズボンをストレッチ素材にしたいのだ。しかし、木の繊維で糸を作っている手前、そんな簡単に伸縮のある糸など作れない。狩り用のズボンでも硬いのだから、そういった糸はないのだろうか。毛糸はあったのに。
「糸の編み方変えれば、ストレッチ性の糸になるのかなあ。あれってどうやって作るんだろ」
「またなんか作るのか?」
「伸び縮みする糸あったらいいなあって」
「王子からもらった服に文句つけて、糸から探そうって神経に感服するわ」
オクタヴィアンが呆れ顔でそんなことを言ってきて、ガロガの腹を蹴り上げた。ぷおん、とラッパのような音が鳴り響くのが聞こえた。狩りが始まったのだ。
玲那はフェルナンのガロガに乗せてもらった。
お墓から帰ってきてから食事は無理に食べさせたが、あれから話しておらず、フェルナンは今日もうつろで無言のままだ。顔色はそこまで悪くなかったが、いいわけでもない。
大丈夫ですか? と聞くのはやめた。聞いても意味がないからだ。聞かなくとも調子が悪そうなのはわかるし、前よりはまともな顔色なので、まだましだと思いたい。
隣にはなぜかフェルナンの父親、アシャールがいた。名前は知らない。オクタヴィアンと行動を共にしているが、オクタヴィアンは狩り自体はやる気があるので、はしゃぎすぎないように親のように近くで見守っているのかもしれない。
親子二人はなにを話すこともないまま、オクタヴィアンの後を追った。
フェルナンさんて母親似なのかな。
髪色は同じで黒だが、顔はあまり似ていない。フェルナンの父親は騎士のような体格をしているが、若干垂れ目なので優しそうな雰囲気を持っている。人が良さそうと言うべきか。それでもオクタヴィアンと一緒にいる時は、静かながら周囲を素早く確認する鋭さがあるので、ただ優しいだけのようには見えなかった。
雰囲気は似てるかも?
「あれ、レナちゃん!? レナちゃんも来ていたの?」
声をかけてきたのはオレードだ。どうしてここにいるのか、フェルナンを見やる。見ても答えは得られないので、玲那が軽く説明をした。
「殿下に目を付けられたの? さすがと言うかだね」
「はは。さすがですかー」
オレードも目を付けられたと思うのか。それを聞くと問題が大きいような気がしてきた。その上で思い出した。
「あ、あとあと、オレードさんに、申し訳ないことをしてしまい」
「他になにかあったの?」
「王子さん、殿下に、銀聖を見られてしまいまして」
アシュトンは玲那の首にかけてあった銀聖に気付き、しっかり見たのだから、その紋章は覚えただろう。紋章が誰の家の物なのか知っているかもしれない。オレードは考えるような仕草をした。
「すみません。見せろと言われて断れなくて」
「断ったら問題だよ。わかった。教えてくれてありがとう。でもなおさら、それは持っておいた方がいいからね。殿下が衣装を送ったと聞いて、面倒をかけてくる人間がいるかもしれない。それよりレナちゃん、ちょっとこっちおいで」
「え? わっ!」
オレードがいきなり手を伸ばしてくると、玲那を軽々抱き上げて、オレードの前に乗せた。フェルナンがなにか言おうとして、後ろにいた人に気付くと伸ばしていた手を引っ込める。
「ちょっと、先に行こうか」
オレードはガロガのスピードを上げた。後ろには数人男性がいたが、一人の男性の他は護衛だ。四、五十代くらいの男性で、身分は高いに違いない。怖そうな顔をしているわけではないのに、威厳のようなものを感じた。
フェルナンと父親のアシャール、その男性を置いて、オレードはその場を離れた。
「レナちゃんにはお礼を。フェルナンについていってくれてありがとう」
「ただ一緒に歩いただけなので、役に立ったかどうかは」
「でも花畑までは行ったんでしょう? そのくらいの時間は戻ってこなかったって聞いてるよ」
玲那たちが戻ってくるまでガロガ車が待っていたので、その時間をオレードに告げたのか。迎えはオレードがよこしたものだ。そんな報告をさせてまで、あの場所に行かせる必要があったのか?
あの場所が、誰の墓だったのか。聞いてオレードは答えてくれるだろうか。
オクタヴィアンがいるテントはずっと離れた場所に作られていて、それが貴族たちの覇権争いから外れていることを示唆していた。王都から離れた地方の田舎の領地だ。注視されていないと言わんばかりの場所に置かれているが、オクタヴィアンは気にした様子はない。王都に深く関わる気がないのだろう。都に出てやろうという野望はまったくないようだ。父親があの状態なので、都デビューなどどうでもいいと言ったところか。
玲那はこの陣営にずっといたので、来る時にローディアを見かけただけだが、アシュトンがローディアの反応を見るために玲那を連れてくるよう仕向けたとしても、ローディアはまったく驚かないだろう。完全にアシュトンの杞憂だ。ローディアは玲那が異世界人だと疑っているだけのこと。なにかをするために、城に玲那を連れたわけではない。
アシュトンはなにか誤解して玲那を狩りに呼んだのではと、オクタヴィアンは想定している。
それはあり得る。というか、それしかあり得ない。
オクタヴィアンが言うには、ローディアは第三継承権を持っているので、アシュトンからすれば牽制したくなる相手。ローディアは次期大神官とも言える若手の実力者。目の上のたんこぶとまでは言わないが、目障りなのだ。
たったそれだけでローディアが構った玲那を引きずり出してきたのかとは思ったが、他にも要因があるのだろうと、オクタヴィアン。それについては詳しく話そうとしなかった。因縁でもあるのかどうか。どちらにしても、玲那を巻き込まないでほしいところだ。それ以上にオクタヴィアンが思っている。
「なんていうか、ぱっつんな格好ですよね」
「なんだよ。ぱっつんて」
「ピッチピチって言うか。オクタヴィアン様、よくこの生地でガロガちゃんに乗れますね。動きにくくないですか?」
「慣れれば大したことないだろ」
ジャージが恋しい。白パンツはぴちぴちだし、黒のロングブーツはともかく、シャツはひらひらの襟付きで、胸元までひらひらだし、上着はベルベットのような生地で腕の可動域が狭いし、動きにくいとしか思えない。
伸縮性のない生地なのに、オクタヴィアンは難なくガロガに乗った。様になっている。かっこいー、と褒めてから、玲那はガロガに跨る前についズボンを引っ張る。ゆるみがないと足を広げられない。すぐにだせえ真似するなとオクタヴィアンに叱られる。
伸縮性のある糸がほしい。これを履いていて思い出した。森で立ったり座ったりが多いため、ズボンをストレッチ素材にしたいのだ。しかし、木の繊維で糸を作っている手前、そんな簡単に伸縮のある糸など作れない。狩り用のズボンでも硬いのだから、そういった糸はないのだろうか。毛糸はあったのに。
「糸の編み方変えれば、ストレッチ性の糸になるのかなあ。あれってどうやって作るんだろ」
「またなんか作るのか?」
「伸び縮みする糸あったらいいなあって」
「王子からもらった服に文句つけて、糸から探そうって神経に感服するわ」
オクタヴィアンが呆れ顔でそんなことを言ってきて、ガロガの腹を蹴り上げた。ぷおん、とラッパのような音が鳴り響くのが聞こえた。狩りが始まったのだ。
玲那はフェルナンのガロガに乗せてもらった。
お墓から帰ってきてから食事は無理に食べさせたが、あれから話しておらず、フェルナンは今日もうつろで無言のままだ。顔色はそこまで悪くなかったが、いいわけでもない。
大丈夫ですか? と聞くのはやめた。聞いても意味がないからだ。聞かなくとも調子が悪そうなのはわかるし、前よりはまともな顔色なので、まだましだと思いたい。
隣にはなぜかフェルナンの父親、アシャールがいた。名前は知らない。オクタヴィアンと行動を共にしているが、オクタヴィアンは狩り自体はやる気があるので、はしゃぎすぎないように親のように近くで見守っているのかもしれない。
親子二人はなにを話すこともないまま、オクタヴィアンの後を追った。
フェルナンさんて母親似なのかな。
髪色は同じで黒だが、顔はあまり似ていない。フェルナンの父親は騎士のような体格をしているが、若干垂れ目なので優しそうな雰囲気を持っている。人が良さそうと言うべきか。それでもオクタヴィアンと一緒にいる時は、静かながら周囲を素早く確認する鋭さがあるので、ただ優しいだけのようには見えなかった。
雰囲気は似てるかも?
「あれ、レナちゃん!? レナちゃんも来ていたの?」
声をかけてきたのはオレードだ。どうしてここにいるのか、フェルナンを見やる。見ても答えは得られないので、玲那が軽く説明をした。
「殿下に目を付けられたの? さすがと言うかだね」
「はは。さすがですかー」
オレードも目を付けられたと思うのか。それを聞くと問題が大きいような気がしてきた。その上で思い出した。
「あ、あとあと、オレードさんに、申し訳ないことをしてしまい」
「他になにかあったの?」
「王子さん、殿下に、銀聖を見られてしまいまして」
アシュトンは玲那の首にかけてあった銀聖に気付き、しっかり見たのだから、その紋章は覚えただろう。紋章が誰の家の物なのか知っているかもしれない。オレードは考えるような仕草をした。
「すみません。見せろと言われて断れなくて」
「断ったら問題だよ。わかった。教えてくれてありがとう。でもなおさら、それは持っておいた方がいいからね。殿下が衣装を送ったと聞いて、面倒をかけてくる人間がいるかもしれない。それよりレナちゃん、ちょっとこっちおいで」
「え? わっ!」
オレードがいきなり手を伸ばしてくると、玲那を軽々抱き上げて、オレードの前に乗せた。フェルナンがなにか言おうとして、後ろにいた人に気付くと伸ばしていた手を引っ込める。
「ちょっと、先に行こうか」
オレードはガロガのスピードを上げた。後ろには数人男性がいたが、一人の男性の他は護衛だ。四、五十代くらいの男性で、身分は高いに違いない。怖そうな顔をしているわけではないのに、威厳のようなものを感じた。
フェルナンと父親のアシャール、その男性を置いて、オレードはその場を離れた。
「レナちゃんにはお礼を。フェルナンについていってくれてありがとう」
「ただ一緒に歩いただけなので、役に立ったかどうかは」
「でも花畑までは行ったんでしょう? そのくらいの時間は戻ってこなかったって聞いてるよ」
玲那たちが戻ってくるまでガロガ車が待っていたので、その時間をオレードに告げたのか。迎えはオレードがよこしたものだ。そんな報告をさせてまで、あの場所に行かせる必要があったのか?
あの場所が、誰の墓だったのか。聞いてオレードは答えてくれるだろうか。
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