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機械仕掛けの人形は泣かない

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◇◇◇

 大体の機械仕掛けの人形たちは自分を「機械である」と認識している。
 だが、まれに。そう、ごく稀に自分を「人間である」と認識するエラー品も存在している。
 それが、ルルだ。
 彼女は出来上がった当初から自分を人間だと思い込んでいた。
 自分自身を生みの親であるマーガレット氏の孫であると認識し、召使いである私を機械仕掛けの人形だと思い込んでいた。
 彼女の記憶は都合のいいように改竄され続けた。日々生きている中で、自分の中にある矛盾を、矛盾と認識しなくなっていた。
 マーガレット氏の娘であるソフィア氏を母だと思い込み、ソフィア氏の家で生活をし、学校へ向かい、同年代と同じ生活を送っていると思い込んでいる。
 しかし、実際のところ、彼女はマーガレット氏のお屋敷に住んでいる。毎日マーガレット氏や私と顔を合わせ、日々を過ごしている。
 だが、彼女の頭の中では自分はソフィア氏の子供で、この屋敷には遊びに来ているという設定になっている。
 そしてそれが毎朝、リセットされる。都合のいいように改善され続けているのだ。
 私はマーガレット氏に訊ねたことがある。彼女を処分した方がいいのでは、と。今はまだ粗悪な機械式人形で済むが、いつかとんでもない暴走をするかもしれない。他人に迷惑をかけた時、責任は製造者であるマーガレット氏が追わされる。
 けれど、彼女はそれを拒んだ。

「確かに彼女はエラー品よ。でも、私には見捨てることができない」

 彼女は偉大な発明家だった。反面、様々な点で甘かった。その甘さが仇となり、特許を勝手に取られたりもした。
 「ダメね、私って」と苦そうに笑う彼女を、私は何度も見てきた。

「エラー品だからって、破棄するの? それは身勝手すぎる。現に私は、あの子から日々、元気をもらっているわ」

 そう笑う彼女に、私は眉を顰めた。私はマーガレット氏のような寛大な心を抱いていない。失敗した品物は処分されるべきだと思っている。
 やがて、マーガレット氏は亡くなった。眠るみたいにこの世を去った。
 去り際に彼女が「ルルを頼んだ」と私に告げた。
 私は、混乱した。彼女の置き土産がまさか、出来損ないの機械仕掛け人形だなんて。
 案の定、ルルはマーガレット氏の死去から葬式まで、まるで他人事のようであった。
 機械仕掛けの人形であるから、涙は出ない。しかし、少しでも悲しんでいいだろうと私は憤りを感じていた。
 だが、日を追うにつれて、彼女に変化が見られた。
 いつも通りリセットされ改善される記憶の中、ルルが発したのだ。「胸の奥にぽっかりと穴が空いたような、そんな感じ」と。
 私は言葉を聞いた時、衝撃を受けた。その後に呟かれる言葉の数々は、マーガレット氏の死によって心を掻き乱されていることにより発せられるものばかりであった。
 その時、私はなぜか希望を見出していた。
 彼女は出来損ないだ。人間の病気のように治るものではなく、根本的に不具合を抱えている。
 正直なところ、私はマーガレット氏がいなくなった後、ルルを処分する予定だった。
 しかし、生みの親であるマーガレット氏の死去が引き金で、何かが動き始めたのだ。
 もしかしたらマーガレット氏はこうなることまで予想していたのかもしれない……いや、考えすぎか。

「アンネ。私、お婆ちゃんみたいな発明家になりたい」

 マーガレット氏の死去後、彼女は記憶改善が減った。今では「祖母の屋敷に居座る孫」という設定らしい。
 私はマーガレット氏の死の記憶が彼女に定着していることにひどく驚きつつ、言葉を受けた。

「それは……とても大変な道のりだと思いますよ」
「大丈夫よ。私、お婆ちゃんの頭脳を受け継いでいるのよ! 楽勝に決まってる!」

 胸板をどん、と拳で叩き、勝ち誇ったような笑みを浮かべるルルを見て、私まで笑ってしまった。
 出来損ないの機械仕掛け人形が、発明家か────そういう展開も、悪くないだろう。
 私はルルの肩をポンと叩き「さすがはマーガレットさまのお孫さまですね」と、はにかんだ。
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