短編集

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機械仕掛けの人形は泣かない

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 彼女は黙り込んだ。唇を閉ざし、目を伏せる。私は変なことを聞いてしまった、と慌てて背もたれから体を起こした。

「違う、アンネがどうこうって話じゃなくて……えっと、本題はね」

 私は姿勢を正した。アンネが視線を上げ、私を射るように見つめる。
 アンネと私は、ほぼ初対面だ。祖母が生きている間に何度か会ったことがあるが、会話どころか目も合わせたことがない。
 今、初めてこうやって向き合って会話をしている。
 しかし、なぜか懐かしい気持ちが私を支配していた。初めてではなく、ずっと前から、知り合いだったような。そんな感覚に蝕まれる。

「私、お婆ちゃんが死んでも泣けなかったんだ」
「……あまり接点がないからでは?」
「そうだね、それもある。でも、悲しいって気持ちはあるんだ。胸の奥にぽっかりと穴が空いたような感じ」

 私は自身の胸に手を当てた。
 祖母の葬式を思い出す。崩れるまで泣き続ける母、見守る父。会ったことない親戚もハンカチを目元に当てて泣いていた。
 溢れんばかりに押し寄せていた関係者たちも、それぞれ涙を目に滲ませていた。
 でも、私は泣けなかった。胸が押しつぶされそうなほどの痛みと苦しみがあるのに、どうしても泣けなかった。

「……どうして、こんなに胸が苦しくなるのかな。お婆ちゃんとほとんど面識がなかったのに。何でだろう……」

 私はこの胸の痛みをどう処理していいか分からなかった。きっと、母が死んだ時でもここまで胸が痛むことはないだろう。
 それほどの痛みが私を支配している。

「……泣きたい。でも、泣けない。どうしてここまで苦しいのか、分からない」

 声を震わせた私に、アンネが近づいた。背中に手を這わせ、ゆっくりと撫でる。その暖かさと皮膚の感覚が本物の人間のようで、頭の隅っこで祖母の技術力に拍手を送っていた。

「……無理なさらなくてもいい。まだ若いから、死という場面に混乱しているんです」
「……」

 そうなのかもしれない。私は今まで、死というセンシティブな事柄に遭遇したことがなかった。だから、苦しんでいるのかもしれない。

「……ありがとう。何だかちょっとスッキリした」

 アンネが私の頬に手を伸ばした。ゆっくりと撫で「……お役に立てて良かったです」と一言つぶやく。
 その手の柔らかさと、胸に蝕む喪失感から、目の奥がグッと熱くなった。
 しかし、私は泣けなかった。
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