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機械仕掛けの人形は泣かない

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 母方の祖母は偉大な発明家だったらしい。なぜ身内なのに「らしい」と曖昧な表現にするのかというと、理由は簡単であまり交流がなかったからだ。

「へぇ、こんな場所に住んでいたんだ」

 祖母の屋敷に入ることができたのは、祖母の葬式が終わり、それから二日後のこと。
 いつもは眼中にない祖母の屋敷に、私はなぜか興味を抱いてしまった。
 祖母は眠るように逝ったそうだ。大病を患ったわけでもなく、事故でもない。人それぞれに与えられた時間を使い終え、安らかに眠ったそうな。
 葬式で見た祖母は、ごく普通の老人だった。顔中に皺があり、手足は痩せ細り、髪は白かった。
 けれど、彼女にはどこか気品があった。知性を滲ませた表情を見て「なんでお婆ちゃんって頭いいのに、私はバカなの?」と悲しみに明け暮れる母に耳打ちをした。

「ルルさま。その機器には触れないようにしてください」

 そんな祖母の屋敷を訪ねた私は、メイドであるアンネに導かれ、祖母の仕事場へ足を運んでいた。
 部屋には、どんな用途があるのか分からない機械が置いてある。私の小さな脳みそで使い道を考えてみたが、答えを導き出せなかった。
 けれど、私はこの機械……いや、屋敷に懐かしさを覚えていた。
 もしかしたら、幼い頃に訪れたことがあるのかもしれない。

「ちょっとでも触れちゃダメ?」
「えぇ、ダメです」

 キッパリとアンネにそう言われ、私は伸ばしかけた手を下ろし、頭の後ろで組んだ。
 アンネは祖母が作り出した機械仕掛けの人形である。パッと見、本当に人間とは区別が付かない作りをしている。何も言わなければ、そこら辺にいる召使いと何ら変わりない。
 祖母の技能の高さに圧倒されつつ、部屋をぐるりと見渡した。
 アンネは何か言いたげに口を開閉させていたが、ピンと張った背筋を崩すことはなかった。眼球で私を追い、動向を気にしている。
 動きの一つ一つが本当に人間のようで、私は恐怖さえ感じた。
 息を吐き出し、近くにあった椅子へ腰を下ろす。察するにその椅子は祖母が愛用していたものだろう。年季を感じる椅子は瑞々しい私とは真逆だった。座るだけで、まるで若さを吸い取られそうである。
 こちらを見つめているアンネに、口を開いた。

「アンネは、泣けるの?」
「……はい?」

 アンネは首を傾げた。訝しげな表情に、私は息を吐き出す。

「いやさ、機械って泣けるのかなぁ……って」
「……いえ、機械は泣けません」
「じゃあ、アンネはお婆ちゃんが死んでも泣けなかったの?」
「……」
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