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◇
駅前のカフェ。辿り着いた私はゴクリと唾液を嚥下した。
──本当に、誰か来るのだろうか。
身を乗り出し、窓からカフェ内を見てみる。中はいつも通りの風景が広がっていて、なんら不穏な点は無い。
扉を開け、中に入る。同時に「いらっしゃいませ」と店員が走ってきた。にこやかな笑みが敵の思惑のように思え、しかしそれは被害妄想だと自分に言い聞かせた。
「待ち合わせです」とぶっきらぼうに答え、店員の横を通り過ぎる。カツカツと店内を歩き回っていると、私の姿に気がついた誰かが「おーい」と声を張り上げた。席から立ち上がり、手を大きく振っている誰かに視線を投げる。
「……天崎、まゆ!?」
私は叫ぶと同時に口を塞いだ。周りをキョロキョロと見渡す。気にせず、あまゆゥは手を振っている。
彼女の格好を見る限り、芸能人がするような変装をしていない。どこからどう見てもあまゆゥだし、それを隠そうともしていない。
だが、周りの誰もが彼女に気がついていない。みんなそれぞれ食事やおしゃべりに夢中だ。
この国のトップアイドルである天崎まゆは、どこにでも漂う空気のようにそこに存在していた。
──何故? 何故みんな、気がついていないの?
そっくりさんという可能性もあるかもしれない。しかし、歩みを進めるたびにその考えは消え失せた。近くで見ると、テレビで見るあまゆゥがそこには居た。
唇を戦慄かせ表情を固まらせた私を見て、あまゆゥが席に座り、頬杖をつく。
「さっさと座んなよ」
ひどく冷たい声でそう言われ、体が跳ねた。彼女に穴が開くほど見つめていた私は、渋々腰を下ろした。
──マジもんの、あまゆゥだ。
白い肌、大きな瞳。スラリとした鼻に、形のいい唇。私は目を擦り、頬を叩いてみる。
「ちょっと。分かりやすい反応すんの、やめてくれる?」
声も本物のあまゆゥだ。だが、テレビの中で見る彼女とは態度が違った。不貞腐れたような表情は、底冷えするほど怖い。
薄ピンクのネイルが施された指先をテーブルにトントンと叩きつけながらじっとりと睨む彼女に、頬を引き攣らせた。
「……本物?」
「に、決まってんじゃん。こんなに可愛い女、他にいる?」
ふふんと鼻を鳴らし、顎を上げた彼女に眉を歪める。テレビで見る彼女は、どちらかというと清楚でおとなしく上品な女性であった。王道の「アイドル」を貫いている。
しかし、目の前にいるあまゆゥはひどく高飛車に見えた。コップに刺さったストローを咥え、ズズズと音を立て飲む彼女はイメージとは程遠い。
──仮に本物のあまゆゥだとして、どうして私にメッセージを? どうして私のことを、知っているの?
わからないことだらけでパンクしそうな頭に、彼女の声が浸透した。
「ここにアンタを呼び出したのは他でもない」
あまゆゥがスッと目を鋭くさせた。じっと見つめられ、背中に汗が滲む。
「アンタ、洗脳が解けてるでしょ?」
射るような瞳に、喉の奥が狭まる。ぐわんと頭の奥が揺れ、目の前が霞んだ。
口を何度か開閉させた私を見て、面倒くさそうにため息を漏らす。
「……こんなやつが、私の洗脳を解いたなんて。信じられない」
背もたれに深く座り気怠げに肩を竦めたあまゆゥに、前のめりになって言葉を投げる。
「やっぱり、洗脳してたの?」
「そうだよ、私は宇宙人。この星を侵略するために送られた」
「し、侵略?」
「うん。この地球を乗っ取って、洗脳し続けてる。ほら、あの店員を見てみて」
私は顔を傾けた。そこには、制服を着た店員が居た。
「あれも、宇宙人だよ。私と同郷」
──どこからどう見ても普通の店員だ。それなのに、あの人が宇宙人……?
「信じられないって顔、してるね。我らはすでに、地球に潜伏
している。アンタの友達が、宇宙人の可能性もあるのよ」
驚きのあまり「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。
駅前のカフェ。辿り着いた私はゴクリと唾液を嚥下した。
──本当に、誰か来るのだろうか。
身を乗り出し、窓からカフェ内を見てみる。中はいつも通りの風景が広がっていて、なんら不穏な点は無い。
扉を開け、中に入る。同時に「いらっしゃいませ」と店員が走ってきた。にこやかな笑みが敵の思惑のように思え、しかしそれは被害妄想だと自分に言い聞かせた。
「待ち合わせです」とぶっきらぼうに答え、店員の横を通り過ぎる。カツカツと店内を歩き回っていると、私の姿に気がついた誰かが「おーい」と声を張り上げた。席から立ち上がり、手を大きく振っている誰かに視線を投げる。
「……天崎、まゆ!?」
私は叫ぶと同時に口を塞いだ。周りをキョロキョロと見渡す。気にせず、あまゆゥは手を振っている。
彼女の格好を見る限り、芸能人がするような変装をしていない。どこからどう見てもあまゆゥだし、それを隠そうともしていない。
だが、周りの誰もが彼女に気がついていない。みんなそれぞれ食事やおしゃべりに夢中だ。
この国のトップアイドルである天崎まゆは、どこにでも漂う空気のようにそこに存在していた。
──何故? 何故みんな、気がついていないの?
そっくりさんという可能性もあるかもしれない。しかし、歩みを進めるたびにその考えは消え失せた。近くで見ると、テレビで見るあまゆゥがそこには居た。
唇を戦慄かせ表情を固まらせた私を見て、あまゆゥが席に座り、頬杖をつく。
「さっさと座んなよ」
ひどく冷たい声でそう言われ、体が跳ねた。彼女に穴が開くほど見つめていた私は、渋々腰を下ろした。
──マジもんの、あまゆゥだ。
白い肌、大きな瞳。スラリとした鼻に、形のいい唇。私は目を擦り、頬を叩いてみる。
「ちょっと。分かりやすい反応すんの、やめてくれる?」
声も本物のあまゆゥだ。だが、テレビの中で見る彼女とは態度が違った。不貞腐れたような表情は、底冷えするほど怖い。
薄ピンクのネイルが施された指先をテーブルにトントンと叩きつけながらじっとりと睨む彼女に、頬を引き攣らせた。
「……本物?」
「に、決まってんじゃん。こんなに可愛い女、他にいる?」
ふふんと鼻を鳴らし、顎を上げた彼女に眉を歪める。テレビで見る彼女は、どちらかというと清楚でおとなしく上品な女性であった。王道の「アイドル」を貫いている。
しかし、目の前にいるあまゆゥはひどく高飛車に見えた。コップに刺さったストローを咥え、ズズズと音を立て飲む彼女はイメージとは程遠い。
──仮に本物のあまゆゥだとして、どうして私にメッセージを? どうして私のことを、知っているの?
わからないことだらけでパンクしそうな頭に、彼女の声が浸透した。
「ここにアンタを呼び出したのは他でもない」
あまゆゥがスッと目を鋭くさせた。じっと見つめられ、背中に汗が滲む。
「アンタ、洗脳が解けてるでしょ?」
射るような瞳に、喉の奥が狭まる。ぐわんと頭の奥が揺れ、目の前が霞んだ。
口を何度か開閉させた私を見て、面倒くさそうにため息を漏らす。
「……こんなやつが、私の洗脳を解いたなんて。信じられない」
背もたれに深く座り気怠げに肩を竦めたあまゆゥに、前のめりになって言葉を投げる。
「やっぱり、洗脳してたの?」
「そうだよ、私は宇宙人。この星を侵略するために送られた」
「し、侵略?」
「うん。この地球を乗っ取って、洗脳し続けてる。ほら、あの店員を見てみて」
私は顔を傾けた。そこには、制服を着た店員が居た。
「あれも、宇宙人だよ。私と同郷」
──どこからどう見ても普通の店員だ。それなのに、あの人が宇宙人……?
「信じられないって顔、してるね。我らはすでに、地球に潜伏
している。アンタの友達が、宇宙人の可能性もあるのよ」
驚きのあまり「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。
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