現代文ドラッグ

書房すけ

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心を育む物

かけがえのないもの

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 これまでの人生の中で、きっと貴方は大事なもの、かけがえのないものを見つけたことだろう。例えばそれは、親や親友の様に、実体のあるものかもしれないし、夢や思い出の様に、実体がないものかもしれない。──今回取り上げるのは、実体のある物についてである。


 一つ、貴方の大切なものを想像して欲しい。実体があるものが好ましい。


──想像した?


 想像できたら、今から私の言う指示に忠実に従うことによって、どこか懐かしい気持ちに浸って欲しい。

 

 まず始めに、その大事な物との初めての出会いを振り替えってみて欲しい。──そして、そのときの感情を思い出してみて。──ビックリしてる?楽しんでる?



 次に、その大事な物が目の前にあるという状況を想像して欲しい。──貴方は今何を感じてる?──いとおしい?改めて好ましく感じる?



 次は、その大事なものが、貴方のちょっと遠くにある。──貴方は今何を感じてる?──一層いとおしい?届くまで手を伸ばしたい?



 次は、その大事なものが、再び貴方の手の中に戻ってきた。──そして貴方はこう思った。──『いとおしい、いとおしくて、食べちゃいたい』──ある研究によれば、人間は、食べ物じゃない物に対しても、それがいとおしいなら、食べたくなることがあるのだという。



 次は、貴方の胃の中に、その大事なものがある。──貴方はこの状況を、どのように推理する?──『いとおしい余りに、思わず食べてしまった』?



 いとおしくて、大事なものを食べちゃった。──食べ物を食べるときは、よく噛んだ方がいい。



 いとおしい、むしゃむしゃ、いとおしい、むしゃむしゃ、ゴックン。あー、美味しかった。



 でも、勢いよく食べすぎた。吐きそうだ。おえぇ。──吐いちゃった。消化物はどろどろと地面を覆っている。大事なものは、もう胃酸に溶かされ、微かに原形をとどめるだけである。そして、薄い肌色のどろどろしたものがそこにかかっている。



 そのせいで部屋が汚れてしまった。悲しい。──この汚い物を処理しよう。でもゴミ箱が無い、どうしよう。



 ──あ、靴なら汚れてもいいや。──貴方は暫くの間、それを無心で踏み続けた。



──ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ、──ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ
 
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