死体あっての脚本部

石嶺経

文字の大きさ
上 下
18 / 39
第二章

事件翌日(6)

しおりを挟む
 今回の、ね。また起こると思っているような言い方だな。

「御守りの効果か」

「そうかもね」

 前守は立ち上がり制服から『御守り』を次々取り出す。
 カッターナイフ、十得ナイフ、小型の剪定鋏、彫刻刀、何かの針、警棒、空気銃、スタンガン、ライター。
 目の前が危ないもので埋め尽くされていく。
 どこから入手したのか手裏剣やブラスナックル何ていうものあるまである。もうコイツが犯人だろ。

「こういうの持ってたら、いつか何かに巻き込まれると思っていたのよね。まあ、直接巻き込まれた訳じゃないけど、傍観者っていうのもアリね」

「聞き込みまでしたら傍観者じゃないと思うぞ」

「犬一、細かい」

 さいで。しかしよくこんなに集めたものだ。オレはブラスナックルを手に取り、握ってみる。ふむ、確かに殴ってみたくなる。

「これ、弾入ってる?」

 姫宮は空気銃を弄っていた。手の中に隠せそうなサイズだったが、姫宮の手には余っている。

「入っているけど、撃たな――」

 ぱあん。
 乾いた音がして、前守の隣のクッションがへこむ。弾が戻ってこないところを見ると貫いて中に落ちたのだろう。

「――いでね。改造してるから……ああ」

 ほう、凄い威力だ、と姫宮。興味深そうに空気銃を弄る。前守はクッションを見て固まっている。何なんだコイツら。

「はいはい、危ないからもう仕舞えよ」

 ブラスナックルをテーブルに投げ、片づけを促す。危なくて仕方がない。

「そうね。これ以上撃たれたら堪らないわ」

 言って、目の前の刃物シリーズを避け、ブラスナックルを手に取り、仕舞う。順番があるらしい。あっという間に目の前の山が小さくなる。意識して見れば収納前と収納後で輪郭が違う。具体的に言えば収納後は胸が多少大きく見える。

「うん。じゃあ今日はこれで解散しようか」

 最後に空気銃を仕舞ったところで姫宮が言って、誰も反対しないので今日は解散となった。
 オレは三人分のグラスを片付け、玄関まで二人を送った。
 アイツらって二人きりの時に会話あるんだろうか。いや、そもそも姫宮を紹介したのが前守なんだから無いとおかしい。想像はつかないが。
 


 一人きりになってオレは考えた。

 犯人探しではなく、物語作りになったのは良い。安全で。しかし、その過程で(例えば聞き込みとやらで)犯人に恨まれるということはないだろうか。粗探しをするオレ達を疎ましく思うだろうし、もしかしたら実力で排除しに来るかもしれない。一人も二人も同じだ、と気が狂った犯人に殺されることもあるかもしれない。そうなったら危険は犯人探しと代わらないことになる。そもそも校内に犯人が居るとも限らない。前守の言うように校外からの襲撃者って可能性もある。
 ……考えすぎか?
 どうしても、自分が殺される可能性があるってのが信じられない。探偵ではないけど、被害者役だとも思えない。傍観者がお似合いだ。
 まあ、精々用心することにしよう。そうだな、明日辺り『御守り』の内の一つを借りることにしよう。
しおりを挟む

処理中です...