灯のないところで

石嶺経

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一章(4)

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 僕らの通う午時高校の周囲は山に囲われていて、まるで時代に取り残されたかのように停滞し続けている。駅前にあるいくつかのカラオケやゲーセンを除けば、学生が遊び行くようなところは無いと言ってもいいぐらいだ。流行を追いたい学生共は放課か、休みの日になると電車に乗って出かけていく。一時間ほど電車に揺られ山を越えると、人々がぎらぎらとした光の中を歩く「街」に出ることが出来る。僕はその街の出身だが、別に今更未練も無く、引っ越して以来立ち入っていなかった。

 人が多い所は好きじゃない。

 それに、流行さえ追わないと決めてしまえばここでも生きていけるものだ。午時高校の同級生はまだ頑張っているようだが、漏れ聞いた噂によると、二年に上がる頃には誰もが諦めるらしい。そして、ここをいつの日か出てやると決意する。たいていの場合は大学進学の場合だ。この辺りに大学は無い。

 まあ、よくある話だと思う。

 僕は窓の外の景色から視線を外す。秋野は僕の目の前に、鞄を大事そうに抱えながら座っている。会話は全く無い。同級生共に見られても、たまたま乗り合わせただけ、と言い訳するための措置……。ではない。そもそも、見られて困るような奴もいない。あんまりは。

 けたたましい音がして車内が真っ暗になる。
 夜がもう来てしまったかと思ったけど、電車がトンネルに入っただけだ。一瞬で視界が消えるので、引っ越してきたときは驚いたものだ。あの時と今では、進行方向が逆だ。秋野はどんな表情をしているだろうか。

 やがて周りが明るくなり、目的の駅に着く。僕は目で合図すると、秋野は頷いて立ち上がる。こいつ結構背が高いよな。胸も有るし。

「どうしたの?」

「いや、何でもない」

 人々が行き交うホームを、ぶつかりそうになりながら出口へと歩く。そうそう、こんなだった。半年しか離れていないのに、懐かしくなってくる。

 駅の改札を抜けると色んな匂いが飛び込んでくる。喫煙所からの煙草の匂い、きつすぎる香水の匂い、中年の整髪料の匂い、ファーストフードの匂い、高架下特有の湿った匂い……ちょっと気分が悪くなってきた。
 僕は眉を顰めたが、秋野はもっと不快そうな顔をしていた。有体に言えば退屈でたまらないといった感じだ。つまりは、いつも通りだ。

「街に来たのは初めて?」

「……何度か」

 そうなのか。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。
 それにしても、街がどうとか、周りからしたら意味が分からないだろうな。

「少し歩いたところにショッピングモール? みたいなのがあるから、そこに行こう。制服も売ってる」

 僕もそこで買った。どんな気持ちだったかは覚えていないが、期待に胸を膨らませていたわけではないのは確かだ。
 歩き出した僕の後ろを、秋野が黙って着いて来る。陰気な表情も相俟って、まるで背後霊だ。死んだわけでもないのに、と思うとちょっと面白かった。秋野に悟られないように笑う。

「……?」

 尋常じゃない既視感に思わず立ち止まる。小学生の頃に戻ったような……。辺りを見回して小汚い佇まいの駄菓子屋を見つけて納得する。遅れてソースとマヨネーズの匂いが鼻をくすぐる。ああ、成る程。小学校の頃好きだった駄菓子屋だ。何故か駄菓子の他にお好み焼きやたこ焼きを売っていて、僕はそれを塾の帰りに食べるのが楽しみだった。まだやっていたのか。

「お腹でも空いたの?」

 知らぬ間に横に居た秋野に顔を覗き込まれる。

「いや、懐かしくて」

「ふうん」

 再び歩き始めるが、僕と身長が変わらない秋野は歩幅も変わらないらしく、しばらく並んで歩く形になった。これこそ恋人同士に見えるのではないか。なんだ、最近恋だの好かれているだの。飢えているのか僕は。

「この店?」

 悶々としていたら、いつの間にか目的地に着いていた。陽が落ちたとはいえ、まだ蒸し暑い中、手をつないで入っていく人で溢れている。お盛んなことで。僕はさっきの自分を棚に上げる。棚に上げるのは僕の特技の一つだ。

「うん」

「じゃあ、案内してね」

 案内ねえ。甘えすぎじゃないだろうか。
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