灯のないところで

石嶺経

文字の大きさ
22 / 25

二章(9)

しおりを挟む
「うおおおおおおおおお!」

 風がビシビシと体を叩く。
 見慣れた景色が物凄い速度で通り過ぎていく。

 安全運転はするな、確かに僕はそう言ったが、余りにも容赦がない。自転車にも自動車にも乗ったことが有るので、まあ、その中間ぐらいの乗り心地だろうと思っていたが、甘かった。

 カーブの度に傾けるのはわざとなのか? そうしないと曲がれないものなのか?

 気が付いた時には少しだけ、涙が出ていた。

「楽しんでる?」

 秋野の声。

 その声はいつもの秋野そのもので、教室で退屈そうな表情をしながら言っているかのようだ。

 違うとすれば、秋野は他人が楽しんでいるかどうかなんて、気にするような奴じゃないってことだ。

 教室では見れない一面。
 それを見られるのが僕。嬉しいのかどうか、分からない。だって、今目の前の状況があまりにも怖すぎて、ちょっとそれどころじゃない。

 返事の代わりに、掴んでいた秋野の服から手を離し、両腕で抱きしめる。
 いや、なんでバイクってこんなに防御力低いんだ? これ横からちょっと突かれたら死ぬよね。だから、仕方ないんだ。

「……」

 秋野はそれを、どう解釈したのか分からないが、さらに速度を上げ、すっかり知らない場所へと到達していた。

 好きにしてくれ、もう。



「お疲れ様」

 何時間経っただろう。やっとバイクから降りた僕は、丸太を模したベンチの上にへたりこんでいた。秋野が買ってきた甘ったるいコーヒーを飲みながら。全く情けない。

「ああ、疲れた……」

「ふふふ。初めてだと、そうかもね」

 秋野は隣のベンチに座っている。この距離感が心地良い。隣に座ろうものなら、多分、僕は拒絶してしまうだろうから。

「サボったなぁ……」

「そうだね。サボっちゃったね」

 遠くの方で電車が走っている。秋野がバイクを停めた此処は、山と言うのもおこがましい。丘でも言い過ぎな気がする。ちょっと周辺より地面が盛り上がっている、ぐらいで留めた方が適切だ。例の山々が邪魔で、あんまり景色も良くない。

 それでも、ベンチはあるし、自動販売機も、トイレもある。駐車場はないが、別にどこに停めても良いだろう。秋野みたいな不良ライダーが溜まり場にしやすい親切設計だ。

「この後、どうしよっか」

 あんまりにも無防備な秋野の言葉。
 駆け落ちでもするか、とか言ったら、普通に付いてきそうだ。あ、いや、僕が付いて行く側か。と言うより、しがみつくというか。

「どうするって、帰って寝る時間でもないしな。飯でも食うか?」

 言いながら、飯食うようなところあったっけな、とか思った。普通の人なら言いそうなことを適当に言ってみただけだ。自分ってものがありゃしない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた

月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...