【R18】魔王陛下とわたし~キャバ嬢から魔王の妃に転職します~

塔野明里

文字の大きさ
3 / 45
第一章

2話 

しおりを挟む
 2話 

 その日私は常連の原田さんのテーブルについていた。よく私を指名してくれるおじさまで会社での中間管理職の大変さをたくさん話してくれる。お客様はみんな話を聞いてほしくてやってくる。話の内容は会社の愚痴、家族の愚痴、はたまた猥談までなんでもあり。どんな内容でも楽しそうに興味深そうに聞くこと、そして相槌をうつこと。それができたらだいたい大丈夫。私はそう思っている。

 明日は朝イチで大事な会議があるからと早めに帰る原田さんを外まで見送り、店に戻ると入口でオーナーから声をかけられた

「アヤお疲れ様。いま大丈夫?」
「オーナーお疲れ様です。」

 オーナーは白髪混じりの髪を綺麗に真ん中分けにしたひと昔前の俳優さんみたいな渋い人。この『アイリス』の他にも2店舗キャバクラを経営している。私はもともとオーナーの他のお店で働いていて、1年くらい前このアイリスが開店する時に移ってきた。

「この後指名入ってる?」
「いえ、今日の指名はこれで終わりです。」
「じゃあこのあとアリサのVIPテーブルに入ってくれる?大事なお客様なんだ。」
「VIPですね、わかりました。」

 笑顔で応えると、そのまま店内に戻る。

 アリサはうちのナンバー1キャバ嬢だ。派手な金髪の巻き髪に胸元がガバッとあいた、体にぴったりしたロングドレス。鼻筋の通った派手な美人。お客様の名前をしっかりと覚え、自身の容姿を磨くことに努力を惜しまない不動のナンバーワン。そのアリサがついているということは相当大事なお客様なんだろう。粗相のないようにしないと。

 そう思いながら店内の奥に向かうと、入口近くのボックス席から不穏な話し声が聞こえた。

「お前、俺だけだって言ったよな。」
「当たり前じゃん、リュウジだけだよ。」

 声を荒げるホスト風の男と隣に座っているのは、うちの店のナンバー2のユリだ。ユリはアゴのラインで切り揃えた茶髪に色白で切れ長の目が印象的な和風美人。客あしらいが上手く、指名客も多いが同じくらいトラブルも多い。客とすぐ関係をもち、恋人になる。それだけならまだいいが、同時に何人も関係をもち、バレて最後はドロドロの修羅場。店で客同士が揉め出したこともある。ナンバー2だからと見逃してもらっているが、オーナーも頭を悩ませていた。

(また揉めてるよ。いい加減そういう男はやめればいいのに。)

 そんなことを思いながら、店の一番奥にあるVIP席に近づく。

「失礼します。アヤです。よろしくお願いします。」

 そう言って小さくお辞儀をする。顔をあげると、アリサが

「うちの可愛い系ナンバーワンのアヤです。アヤ、こちらに座って。」
「はーい。」

 パッとテーブルを観察する。目を引くのはアリサの左隣の外国人だ。ソファに座っているのに立っている私と目線があまり変わらないくらい背が高い。褐色の肌に彫りの深い顔、色素の薄いグレーがかった瞳と同じ色の波打つ髪を伸ばしゆるく結わいて後ろに下ろしている。パッと見はアラブ系のようにも見えるが、どこの国の人かはわからない。高そうなスーツを着崩しているが胸板の厚みがすごい、マッチョなハリウッド俳優のようだ。その外国人の隣には真面目そうなサラリーマン風の日本人、アリサの右隣には茶髪でチャラそうなホスト風の男が座っている。

「失礼しまーす。」

サラリーマン風の男の前を通り、外国人との間に座る。

「こちら貿易会社社長のギルバートさん、出張で日本に来ているんですって。そちらは秘書の田中さんと、こちらは運転手の佐々木さん」

アリサが順番に紹介してくれる。サラリーマン風の男が秘書の田中、チャラ男が運転手の佐々木。この見た目で運転手なんだ。

「初めまして、アヤです。よろしくお願いします。」

 仕事用の名刺を取り出し、社長だというギルバートに手渡す。すると、

「初めまして、ギルバートです。ギルと呼んでいただいて大丈夫ですよ。」

 ものすごい流暢な日本語で返ってきた。笑顔と白い歯がまぶしい。

「日本語お上手なんですね。びっくりしました。じゃあ…ギルさん?」
「はい、仕事相手が日本人の方が多くて、たくさん勉強しました。」

 そう言ってまた笑顔。ちょーイケメン。

「お仕事だけじゃないじゃないですかー。田中さん困ってますよー。」

 そう言いながらアリサが話し出す。

「ギルさん、いま結婚相手探し中なんだって!日本に来た目的は仕事よりそっちがメインなんですって!」

 そう言いながらアリサがスッとギルさんの膝に手を置いた。

「でも、会う人会う人みーんなお断りしてるって。」
「私にはもったいない人ばかりだったので。」

 ギルさんは苦笑いしながら、さっとアリサの手をどけた。

(なるほど、足は触られたくないのか)

 私は前のお店で先輩キャバ嬢から言われたことを思い出す。

『男の人ってボディタッチ好きだけど、どこでもいいから触ればいいってもんじゃないのよ。』
 そう言った先輩は自らの経験論を話すのが好きな人だった。
『まず、その人が女の子のどこを触ってるかみるのよ、肩を抱いてくる人は肩、太ももさわってくる人は太もも、その人が触るところってその人が触ってほしいところなのよ。
 逆に触られてイヤそうなところはすぐやめたほうがいいわね。軽いやつって思われるわ。』
 なるほどと思った私はこの経験論を結構活用している。

 ギルさんは足はイヤと、なら手はどうかな…と手を伸ばそうとしたタイミングでウェイターが近づいてきた。

「失礼します。すみません、アリサさんご指名です。」
「はーい。ギルさん、田中さん、佐々木さん、ちょっとだけ失礼しまーす。」

 アリサは立ち上がっていく。今日もナンバーワンは忙しいらしい。

「すみません。私で我慢してください。」

 そう言ってギルさんのグラスにお酒をそそぐ。

「我慢なんてとんでもない。アヤさんとても綺麗です。」

 笑顔が作り物みたいに整っていて、お世辞でも嬉しい。

「こんなにかっこよかったら、お相手なんてよりどりみどりですね。」

 そう隣の田中さんに話を振ると、困り顔で

「お相手の女性は乗り気でも本人がどうも……」
と額の汗を拭っている。

「社長、理想が高いんじゃないですかー。今日会った人だってめっちゃ美人だったのにー。」
と運転手の佐々木さん。社長にその言葉遣いでいいの?

「理想なんて…ただもう少し考えたいんだよ…」

 運転手の言葉遣いなんて気にせず、当の本人はだいぶ疲れた顔をしている。

「いい方が見つかるといいですね。」

 ギルさんの手をスッと握ってみる。
少し驚いた顔をしながらも、手を離されたりはしなかった。

「明日は…」と話をつづけようとしたそのとき…


「てめぇ、ふざけんのもいい加減にしろよ!!」


 入口あたりから大声が聞こえた。


    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件

こいなだ陽日
恋愛
病んだ男を引き寄せる凶相を持って生まれてしまったメーシャ。ある日、暴漢に襲われた彼女はアルと名乗る祭司の青年に助けられる。この事件と彼の言葉をきっかけにメーシャは祭司を目指した。そうして二年後、試験に合格した彼女は実家を離れ研修生活をはじめる。しかし、そこでも彼女はやはり病んだ麗しい青年たちに淫らに愛され、二人の恋人を持つことに……。しかも、そんな中でかつての恩人アルとも予想だにせぬ再会を果たして――!?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...