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第一章
3話
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3話
その瞬間、田中さんと佐々木さんがバッと立ち上がりギルさんを庇う位置に立つ。
(すごい、ボディーガードみたい。)
さっきまでオドオドしているように見えた田中さんもチャラチャラしてた佐々木さんも別人のようだ。
(ギルさんって何者なんだろ)
そう思った次の瞬間、大声をあげた男がウェイターを殴るのが見えた。それをユリが止めようとしている。あれはユリといた男だ。
「社長、いってきます」
ギルさんは落ち着いた様子で頷き、田中さんと佐々木さんは2人で男を止めにいく。店内は騒然として男を遠巻きに見ていた。私は多分…冷めた目をして見てたのだと思う。
「怖くないのですか?」
突然ギルさんに聞いかれて驚いた。
「えっ?」
「アヤさんは、怖くないのですか?」
言われて、周りの女の子たちを見てみるとみんな怯えた顔で目をそらしていた。
「女性の方は人が殴られてるのを見ると、逃げるか、逃げられない時は目をそらします。アヤさんはじっと見てますね。」
言われてハッとした。そんなこと考えたこともなかった。たしかにそれが普通の反応かもしれない。
「あっ、えーっと…」
どう言おうか考えているとじっと目を見つめられた。場違いなのは分かっているが綺麗な目だなとか思ってしまった。
「こんなところでお話するようなことじゃないんですけど…」
こんな状況だし、変に誤魔化すこともないだろう。
「私、両親を小さい頃に亡くしてて、ずっと施設で暮らしてたんですけど。そこに人を殴ってばっかりの男の子がいて、本当に日常茶飯事だったっていうか、見慣れてしまってて…」
(その子は女の子を殴ることはなかったが、同じ施設にいた男の子や男性職員はほとんどみんなやられてた。今までずっと忘れてたな。こんなタイミングで思い出すなんて)
「すみません、変なことを聞いてしまいました。」
「あっ全然大丈夫です。気にしないでください。」
そのとき、ずっと触っていて離すタイミングを逃していた手を握られ
「もうひとつお伺いしてもいいですか?」とまた見つめられた。
「はい……?」
「アヤさんはあんまり笑いませんね?どうしてですか?」
その言葉に私はまた、経験論好きな先輩を思い出してた。
「昔、同じ仕事をしている先輩に言われたんです。まだこの仕事を始めたばっかりの時に。どのお客様にも同じようにニコニコしてたらダメだって。」
ギルさんは不思議そうな顔をしていた。
「どうしてダメなんですか?」
「お客様の顔を見なさいと言われました。笑ってる人にはニコニコしててもいいけど、疲れた顔してる人とか笑ってない人にニコニコしても逆に疲れさせるだけだって。
今日ギルさんにお会いして、顔は笑ってらっしゃるけどすごい疲れているように見えたので…」
アリサに紹介された時から、彼は人に会うのに疲れているような印象だった。自然と笑顔を抑えめにしていたのだ。
「お客様にご指摘されるなんて、接客業失格ですね。すみませんでした。」
そう言って頭を下げる私に
「違うんです、怒っているわけではないんです。頭をあげてください。」
顔をあげると、今日初めてちゃんと笑っているギルさんの顔を見たような気がした。
「素晴らしい先輩ですね。それを実行しているアヤさんも素晴らしいです。」
「…ありがとうございます。嬉しいです。」
私も精一杯の笑顔で答えた。
そこに男を止めに行っていた田中さんと佐々木さんが戻り、オーナーとウェイターがやってきた。
「本日はお見苦しいものをお見せして申し訳ございませんでした。良ければボトルを一本サービスさせていただきたいのですが…。」
「今日はもう結構です。」
そう言って立ち上がると、田中さん佐々木さんも立ち上がる。オーナーの顔が青ざめていた。
「そのお酒はまた次に来たときにお願いします。その時は…
アヤさんを指名させていただいていいですか?」
私も立ち上がり、見上げるようなギルさんに
「もちろんです!」と今日一番の笑顔で答えた。
「では、また近いうちに」
颯爽と去っていくギルさんたちを私とオーナーで見送った。オーナーにどんな話をしたんだと聞かれたが、どう言っていいか分からなかった。
でも、このときはまさか本当にすぐに会いに来てくれるなんて思ってもいなかった。
その瞬間、田中さんと佐々木さんがバッと立ち上がりギルさんを庇う位置に立つ。
(すごい、ボディーガードみたい。)
さっきまでオドオドしているように見えた田中さんもチャラチャラしてた佐々木さんも別人のようだ。
(ギルさんって何者なんだろ)
そう思った次の瞬間、大声をあげた男がウェイターを殴るのが見えた。それをユリが止めようとしている。あれはユリといた男だ。
「社長、いってきます」
ギルさんは落ち着いた様子で頷き、田中さんと佐々木さんは2人で男を止めにいく。店内は騒然として男を遠巻きに見ていた。私は多分…冷めた目をして見てたのだと思う。
「怖くないのですか?」
突然ギルさんに聞いかれて驚いた。
「えっ?」
「アヤさんは、怖くないのですか?」
言われて、周りの女の子たちを見てみるとみんな怯えた顔で目をそらしていた。
「女性の方は人が殴られてるのを見ると、逃げるか、逃げられない時は目をそらします。アヤさんはじっと見てますね。」
言われてハッとした。そんなこと考えたこともなかった。たしかにそれが普通の反応かもしれない。
「あっ、えーっと…」
どう言おうか考えているとじっと目を見つめられた。場違いなのは分かっているが綺麗な目だなとか思ってしまった。
「こんなところでお話するようなことじゃないんですけど…」
こんな状況だし、変に誤魔化すこともないだろう。
「私、両親を小さい頃に亡くしてて、ずっと施設で暮らしてたんですけど。そこに人を殴ってばっかりの男の子がいて、本当に日常茶飯事だったっていうか、見慣れてしまってて…」
(その子は女の子を殴ることはなかったが、同じ施設にいた男の子や男性職員はほとんどみんなやられてた。今までずっと忘れてたな。こんなタイミングで思い出すなんて)
「すみません、変なことを聞いてしまいました。」
「あっ全然大丈夫です。気にしないでください。」
そのとき、ずっと触っていて離すタイミングを逃していた手を握られ
「もうひとつお伺いしてもいいですか?」とまた見つめられた。
「はい……?」
「アヤさんはあんまり笑いませんね?どうしてですか?」
その言葉に私はまた、経験論好きな先輩を思い出してた。
「昔、同じ仕事をしている先輩に言われたんです。まだこの仕事を始めたばっかりの時に。どのお客様にも同じようにニコニコしてたらダメだって。」
ギルさんは不思議そうな顔をしていた。
「どうしてダメなんですか?」
「お客様の顔を見なさいと言われました。笑ってる人にはニコニコしててもいいけど、疲れた顔してる人とか笑ってない人にニコニコしても逆に疲れさせるだけだって。
今日ギルさんにお会いして、顔は笑ってらっしゃるけどすごい疲れているように見えたので…」
アリサに紹介された時から、彼は人に会うのに疲れているような印象だった。自然と笑顔を抑えめにしていたのだ。
「お客様にご指摘されるなんて、接客業失格ですね。すみませんでした。」
そう言って頭を下げる私に
「違うんです、怒っているわけではないんです。頭をあげてください。」
顔をあげると、今日初めてちゃんと笑っているギルさんの顔を見たような気がした。
「素晴らしい先輩ですね。それを実行しているアヤさんも素晴らしいです。」
「…ありがとうございます。嬉しいです。」
私も精一杯の笑顔で答えた。
そこに男を止めに行っていた田中さんと佐々木さんが戻り、オーナーとウェイターがやってきた。
「本日はお見苦しいものをお見せして申し訳ございませんでした。良ければボトルを一本サービスさせていただきたいのですが…。」
「今日はもう結構です。」
そう言って立ち上がると、田中さん佐々木さんも立ち上がる。オーナーの顔が青ざめていた。
「そのお酒はまた次に来たときにお願いします。その時は…
アヤさんを指名させていただいていいですか?」
私も立ち上がり、見上げるようなギルさんに
「もちろんです!」と今日一番の笑顔で答えた。
「では、また近いうちに」
颯爽と去っていくギルさんたちを私とオーナーで見送った。オーナーにどんな話をしたんだと聞かれたが、どう言っていいか分からなかった。
でも、このときはまさか本当にすぐに会いに来てくれるなんて思ってもいなかった。
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