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第三章
31話
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31話
埼玉県郊外、小高い丘にある墓地に彼女の両親は眠っている。2人で小さな墓を掃除し、花を添えた。
手を合わせる彼女の隣で、私も手を合わせる。もし彼女の両親が生きていたなら、私と一緒にいることを許してくれただろうか。そもそも私と出会うことすらなかったかもしれないと思うとひどく複雑な気持ちだった。
彼女に起こった不幸が私たちを出逢わせてくれたのなら、私は二度と彼女を悲しませない。強く心に誓った。
昨日、彼女の姉、千春と初めて会った。とても気さくでよく笑う、面白い女性だ。サッシャは不思議がっていたが、田中が惹かれるのも分かる気がした。
まだ千春には、我々の世界、正体については教えていない。それはアヤの望みだった。この先、田中と千春の関係が発展するのかは分からないが、必要な時に教えればいいと。いつ教えても多分大丈夫だよと笑う彼女は優しげで、それは千春の前でしか見せない妹の顔なのかもしれない。
千春のマンションで、姉妹の幼い頃の話をたくさん聞いた。アヤは恥ずかしがったが、写真も見せてもらった。幼い顔も、学生の頃の顔も、見たことのないアヤを見るのは楽しかった。楽しそうに笑う千春から何枚か写真をもらったことは、アヤには内緒だ。
「今日は一緒に来てくれてありがとう。」
この笑顔のために、仕事を片付けた。毎日この速度で仕事をしろと田中からもサッシャからも怒られたが。
「今日アヤと来られて良かった。千春ともたくさん話せて、アヤのことたくさん聞けた。こうやってご両親にも挨拶できた。本当に嬉しい。」
彼女の手を取ると、そのまま歩き出した。
「こうやって手を繋いで歩くの、初めてだね。不思議。」
「これから、こうやっていろんな所へ行こう。アヤの行きたいところ全部。」
嬉しそうに笑う彼女の笑顔は千春のそれとよく似ていた。血が繋がっていなくとも、2人にはたしかな絆を感じた。
「ふふっ、いつか千春も魔界に連れて行けたらいいんだけど。」
「それは田中次第だ。帰ったらいろいろ聞きたいことができた。」
「たしかに。絶対答えてくれないと思うけど。」
2人で笑いあう時間が、ただただ温かかった。
* * *
綾がプロポーズされたと泣いた日。あぁ、とうとうこの日が来たと思った。
綾は子どもの頃から周りの大人の顔色をよく見る子どもだった。施設の職員や学校の教師は、みんな綾をいい子だと言った。手のかからない聞き分けのいい子どもだと。
でも、私は知っていた。誰にも迷惑がかからないように、綾がひとりで泣いていること。どんなに嫌なことがあっても、誰にも言わないこと。そんな自分はなんの特技もない、つまらないやつだと思っていることも。
高校でいじめられていた時、一年もの間、施設の誰も綾がいじめられていることに気づかなかった。私も含めて。
綾が階段から落ちて骨折したと聞いて、私はバカだと思った。どうせ、ボーッとして足でも滑らせたんだろうって。
その頃の私は、いわゆる反抗期ってやつで、夜な夜な施設を抜け出してバイクで暴走したりしてた。悪いやつらとつるんで、たくさん悪さもした。
だから、綾のことなんか全然気にしてなかった。グレてめんどくさい私に普通に話しかけてたのは、その頃は綾だけだったのに。
驚いた。綾が階段から落ちたのは誰かに突き飛ばされたからだって知ったとき。それを学校が信じてないこと。一年もいじめられていたのに誰にも言わなかったこと。綾にも学校にもめちゃくちゃ腹が立って、何よりも綾が学校で必死に頑張ってたときにバカなことばかりしてた自分に死ぬほどムカついた。
結局、綾をいじめてたやつをボコボコにして、私の反抗期は終わった。私のせいで、綾も学校から怒られて大変だったけど、綾は私にありがとうと言って笑った。
守らなきゃと思ったんだ。このバカな妹を。
背は伸びないくせに、胸ばっかでかくなりやがって。くだらない男に引っ掛かるわ、いじめのせいで友達もいないわ。それでも、綾がいいやつだってことは私がよく分かってる。いつか、それを分かるやつが現れるまで、私がコイツを守る。そう思ってたんだ。
プロポーズされたと聞いて、反対しないとは言ったけど、正直騙されてると思った。出会って1ヶ月でプロポーズって、小説じゃあるまいし。
でも、綾はそいつのこと本気で信じてるみたいだったし、嬉しそうに笑うから。騙されたなら、慰めればいいだけだ。
でも、綾は幸せそうだった。あんなに可愛い妹は初めて見た。ギルバートさんに会って、綾の選択は間違ってなかったと確信した。人を見る目だけはあったみたいだ。私が綾を守らなくても、綾はもう一人じゃない。
そう思ったら、私の方が寂しくなった。これからどうしよっかな。
墓参りを終えて、綾たちは帰っていった。連絡は取れないけど、田中さんが近況教えてくれるし、まぁいっか。
埼玉県郊外、小高い丘にある墓地に彼女の両親は眠っている。2人で小さな墓を掃除し、花を添えた。
手を合わせる彼女の隣で、私も手を合わせる。もし彼女の両親が生きていたなら、私と一緒にいることを許してくれただろうか。そもそも私と出会うことすらなかったかもしれないと思うとひどく複雑な気持ちだった。
彼女に起こった不幸が私たちを出逢わせてくれたのなら、私は二度と彼女を悲しませない。強く心に誓った。
昨日、彼女の姉、千春と初めて会った。とても気さくでよく笑う、面白い女性だ。サッシャは不思議がっていたが、田中が惹かれるのも分かる気がした。
まだ千春には、我々の世界、正体については教えていない。それはアヤの望みだった。この先、田中と千春の関係が発展するのかは分からないが、必要な時に教えればいいと。いつ教えても多分大丈夫だよと笑う彼女は優しげで、それは千春の前でしか見せない妹の顔なのかもしれない。
千春のマンションで、姉妹の幼い頃の話をたくさん聞いた。アヤは恥ずかしがったが、写真も見せてもらった。幼い顔も、学生の頃の顔も、見たことのないアヤを見るのは楽しかった。楽しそうに笑う千春から何枚か写真をもらったことは、アヤには内緒だ。
「今日は一緒に来てくれてありがとう。」
この笑顔のために、仕事を片付けた。毎日この速度で仕事をしろと田中からもサッシャからも怒られたが。
「今日アヤと来られて良かった。千春ともたくさん話せて、アヤのことたくさん聞けた。こうやってご両親にも挨拶できた。本当に嬉しい。」
彼女の手を取ると、そのまま歩き出した。
「こうやって手を繋いで歩くの、初めてだね。不思議。」
「これから、こうやっていろんな所へ行こう。アヤの行きたいところ全部。」
嬉しそうに笑う彼女の笑顔は千春のそれとよく似ていた。血が繋がっていなくとも、2人にはたしかな絆を感じた。
「ふふっ、いつか千春も魔界に連れて行けたらいいんだけど。」
「それは田中次第だ。帰ったらいろいろ聞きたいことができた。」
「たしかに。絶対答えてくれないと思うけど。」
2人で笑いあう時間が、ただただ温かかった。
* * *
綾がプロポーズされたと泣いた日。あぁ、とうとうこの日が来たと思った。
綾は子どもの頃から周りの大人の顔色をよく見る子どもだった。施設の職員や学校の教師は、みんな綾をいい子だと言った。手のかからない聞き分けのいい子どもだと。
でも、私は知っていた。誰にも迷惑がかからないように、綾がひとりで泣いていること。どんなに嫌なことがあっても、誰にも言わないこと。そんな自分はなんの特技もない、つまらないやつだと思っていることも。
高校でいじめられていた時、一年もの間、施設の誰も綾がいじめられていることに気づかなかった。私も含めて。
綾が階段から落ちて骨折したと聞いて、私はバカだと思った。どうせ、ボーッとして足でも滑らせたんだろうって。
その頃の私は、いわゆる反抗期ってやつで、夜な夜な施設を抜け出してバイクで暴走したりしてた。悪いやつらとつるんで、たくさん悪さもした。
だから、綾のことなんか全然気にしてなかった。グレてめんどくさい私に普通に話しかけてたのは、その頃は綾だけだったのに。
驚いた。綾が階段から落ちたのは誰かに突き飛ばされたからだって知ったとき。それを学校が信じてないこと。一年もいじめられていたのに誰にも言わなかったこと。綾にも学校にもめちゃくちゃ腹が立って、何よりも綾が学校で必死に頑張ってたときにバカなことばかりしてた自分に死ぬほどムカついた。
結局、綾をいじめてたやつをボコボコにして、私の反抗期は終わった。私のせいで、綾も学校から怒られて大変だったけど、綾は私にありがとうと言って笑った。
守らなきゃと思ったんだ。このバカな妹を。
背は伸びないくせに、胸ばっかでかくなりやがって。くだらない男に引っ掛かるわ、いじめのせいで友達もいないわ。それでも、綾がいいやつだってことは私がよく分かってる。いつか、それを分かるやつが現れるまで、私がコイツを守る。そう思ってたんだ。
プロポーズされたと聞いて、反対しないとは言ったけど、正直騙されてると思った。出会って1ヶ月でプロポーズって、小説じゃあるまいし。
でも、綾はそいつのこと本気で信じてるみたいだったし、嬉しそうに笑うから。騙されたなら、慰めればいいだけだ。
でも、綾は幸せそうだった。あんなに可愛い妹は初めて見た。ギルバートさんに会って、綾の選択は間違ってなかったと確信した。人を見る目だけはあったみたいだ。私が綾を守らなくても、綾はもう一人じゃない。
そう思ったら、私の方が寂しくなった。これからどうしよっかな。
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