【R18】魔王陛下とわたし~キャバ嬢から魔王の妃に転職します~

塔野明里

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第四章

33話

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 33話

 魔界中央、魔人国アルデバランから北へ1日ほど進むと一年中白い雪に覆われた山脈が見えてくる。その山脈の麓に広がる都市が死霊国の首都シュブリマである。そのシュブリマに、まるで闘技場のような大きな円形の建物が建っている。魔界に限らず人間界までの書物をすべて網羅していると噂されるゴシカ国立図書館である。

 その図書館の地下に、図書館の幽霊しか知らない秘密の地下室がある。
 その地下室で、私は綺麗なお姉さんの着せ替え人形になっていた。

 「まぁ!やっぱり黒が一番似合います!このフリルにはたくさんパニエを入れないとダメですわね!」

 パニエとはスカートをふわっとさせるために、スカートの中に着るアンダースカートだ。首もと、袖、裾、すべてにふりっふりのフリルがついた膝丈のワンピース、パニエは三枚重ね。リボンと揃いのエプロンドレス。いわゆるゴシックロリータのワンピースを着た私は、いまは髪型を整えられているところだ。

「やっぱり綾様のような可愛らしい方が着てはじめて、こういう服は輝くのです。素晴らしいですわ。」

 慣れた手つきで髪をツインテールにされ、頭にヘッドドレスを付けられる。この地下室には鏡がないが、自分のこの格好が場違いなのはよくわかった。

「ラディアルさん?本当にこれで過ごすんですか?」

 図書館の地下室はもともと牢獄であったらしく、小さな明かり取りの窓には鉄格子が嵌め込まれ、唯一のドアは外からしか開かない構造になっている。部屋自体は意外と広くお風呂、トイレ、キッチンまでついている。

「綾様には、一番似合う格好で過ごしていただきたいのです。」

 ニコニコと笑うこの人は、この死霊国ゴシカ宰相オアゾ・ローゼンフェルドの第二秘書官ラディアル・ルーさんだ。

 しかし、私がここにいることは、このラディアルさんしか知らない。

 綺麗な黒髪をお団子にまとめ、黒い瞳に大きなメガネをかけている。人間界なら30歳くらいだろうか。すごく仕事ができそうなキャリアウーマン。しかし、このゴスロリの衣装は全てラディアルさんの私物であるらしい。

「ラディアルさんが着ても似合いそうなのに。」

「まさか!私が着てもこの服は喜びません!」

 それからこの服の素晴らしさを力説され、そのままこの格好で過ごすことになった。まさかこんなことになるなんて、誰が思うだろう。

 * * *

 魔王城での侵入者騒ぎの後、私の使い古した教本がなぜか机に置かれていることに気づいた。手に取るとハラリと白い封筒が落ちる。

 中を見て、私は目の前が真っ暗になった。

 誰が書いたのか、誰が置いたのか、まったく分からなかったけれど、私の大切なものが壊されてしまうかもしれない。その恐怖だけで、手が震えてしまう。こわいよ、でもどうしたらいい?この魔界で私が頼れるのは、ここにしかない。

 悩んでいる間に、部屋をノックする音がした。とっさに手紙を本に挟み、本棚に押し込んだ。

「アヤ?入るよ?」

 ギルの顔を見て、泣きそうになる。でも、ここで全てを話したら、本当にすべてが壊れてしまうかもしれない。

「ギル、お疲れ様。大丈夫だった?」

「もう大丈夫だよ。アヤはなにも心配いらない。」

 ギルの優しさがひどく心に染みる。

「アヤ?」

「うん?ちょっと疲れちゃったかも。」

「もう休もう。ずっと一緒にいるから。」

 ギルの腕のなかで、たくさんたくさん考えた。ギルの寝息が聞こえ始めた頃、ゆっくりと起き上がる。ギルは私の前でだけは心から休んでくれる。そのことが嬉しくて、いまはひどく寂しかった。

「ごめんなさい。許して。」

 彼の額に触れ、ベッドから離れた。

 警備の目を盗んで、人間界に向かう門をくぐった。走って走って、千春のマンションに向かう。明け方に着いたとき、その部屋には誰も居なかった。

「どうして……どこにいるの?」

 連れ去られた?どこに?誰が?私の頭は疑問でいっぱいだった。どうしたらいい?私になにができるの?


「こんばんは。」


 頭を抱える私に声がかかった。振り替えると綺麗な女性が立っている。その瞳が怪しく揺れていた。

「もう、おはようございますでしょうか?綾様。お迎えにあがりました。」


 それから丸2日が経った。ギルはどれだけ心配しているだろう。でも、帰れない。いまは、まだ。

「ラディアルさん、千春は見つかりましたか?」

「いま、全力を尽くし、お探ししています。もう少しだけお待ちくださいませ。」

 ラディアルさんを信じることが危険なことは分かってる。それでも、私にはこれしかない。私は、ただ私にできることをするだけ。

「あの、昨日言ってたクッキーを焼いてみたんですけど、良かったら召し上がりますか?」

「わあ!本当に作ってくださったんですか?なんということでしょう!」

 死霊族の人は、基本的に人間の模倣をすることしかできない。料理なども、レシピ通りにしか作れないそうだ。なんというか、オリジナリティというものがすごく好きなのだそうで。私のうろ覚えで作ったクッキーにこんなに喜んでもらえるとは。

「素晴らしい。やはり綾様は我々にとって大切な存在です。」

「こんなもので喜んでいただけて、嬉しいです。今度はケーキでも焼きますね。」

 すると、ラディアルさんの目が輝く。

「ケーキ!なんということでしょう!今日の仕事も頑張れそうです!」

 仕事と聞いて、ある人の顔が浮かんだ。

「あの…本当にローゼンフェルドさんには私のこと……。」

「大丈夫です!絶対バレないように致しますから。バレたら綾様の全てが危ないですから。」

 あの蛇のような黄色の瞳を思い出し、ぞくりとする。

「よろしくお願いします。」

 ぺこりと頭を下げると、ツインテールがふわりと揺れる。

「あぁ…!なんと可愛らしいのでしょう。その服も、飾りもすべて貴女様のためにあるようですわ。美しく清らかな貴女はなにも悩むことはありません。私に全ておまかせください。貴女様はただ美しいお人形でいてくだされば、それでいいのです。」

 ラディアルさんは美しく笑う。これさえなければ、すごくいい人なんだけどな。
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