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第四章
32話
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32話
それは突然のことだった。
その日、魔王城は騒然としていた。城内に侵入者があり、みなその対処に追われていたのだ。
幸い、誰かが襲われたという報告もなく、なにかが盗まれたわけでもない。目的が分からぬまま、侵入者は逃走。魔王選りすぐりの護衛隊員が犯人探しをすることに決まり、すぐに犯人も捕まるだろうと城内は落ち着いたかに見えた。
しかし、事件はそこから始まっていた。侵入者騒ぎの翌日。魔王陛下の伴侶である綾様が、城から忽然と姿を消したのだ。
魔人国内だけでなく、獣人国、死霊国、魔界全体にそのニュースが伝えられ、しかしなんの手掛かりもないまま1日が経とうとしていた。
「どうして!?なぜ何も分からない!」
魔王陛下執務室、綾様がいなくなり、そろそろ24時間が経とうとしています。私、綾様の侍女であるリリエラは、なにもできず立ち尽くすことしかできません。
昨日、侵入者騒ぎのため、綾様は居室から出ることを禁じられ、ずっと私と過ごしておりました。
その間いつもと変わった様子はなく、もちろん侵入者と鉢合わせになることもありませんでした。騒ぎの対処のため、いつもより大分遅くいらっしゃった陛下とお休みになられてから朝になるまで、城内の警備は完璧でした。
騒ぎの後のため、いつもより警戒されていたことは確かです。しかし、アヤ様はいなくなり、なんの手掛かりもありません。
本来なら血の盟約で結ばれている陛下は魔力をつかうことで、綾様の居場所を探すことができます。しかし、なぜか綾様の魔力を感じることができないのです。陛下はひどく疲労したご様子です。朝からなにも召し上がっていません。
「城下町では見つかりませんでした。捜索範囲を広げますが、そうなると人員確保が難しいかもしれません。」
報告を聞きながら、陛下は頭を抱えられます。なぜこんなことが、一体なにが起こっているのでしょう。
「本当に手掛かりはないのか、なにか、あるはずだ。」
居室には、綾様の荷物は残されたまま、綾様だけがいません。しかし誘拐などの痕跡もありませんでした。
「もう一度、綾様の持ち物を調べさせていただいてもよろしいでしょうか?」
何かしていなくては、私もどうにかなりそうです。
「頼む。なにかあればすぐに報告を。」
私はすぐに、陛下と綾様のお部屋に向かいます。しかし、そもそも綾様の私物は多くはありません。それでももう一度、ありとあらゆるところまで調べました。しかし、なにも見つかりません。
ふと、本棚の本が目に留まりました。それは綾様が魔界の言葉を勉強するために使っていた教本です。こちらに来て、綾様は魔界の言葉をずいぶん覚えられ、その教本はしばらく使われていません。
しかし、その本が少し動かされているように感じたのです。それを手にとり、パラパラと捲ると、中に1通の手紙が入っていました。
その手紙は封筒に宛名も差出人もなく、便箋が1枚入っています。しかし、その内容を読むことができません。魔界の言葉ではない文字で書かれています。その文字は綾様のいた世界、日本の言葉のように見えました。
私はすぐに、執務室に走りました。
『魔王陛下伴侶
ただちに魔王城を出よ。
誰にも告げてはならない。
さもなくばお前の家族の命はない。』
それは突然のことだった。
その日、魔王城は騒然としていた。城内に侵入者があり、みなその対処に追われていたのだ。
幸い、誰かが襲われたという報告もなく、なにかが盗まれたわけでもない。目的が分からぬまま、侵入者は逃走。魔王選りすぐりの護衛隊員が犯人探しをすることに決まり、すぐに犯人も捕まるだろうと城内は落ち着いたかに見えた。
しかし、事件はそこから始まっていた。侵入者騒ぎの翌日。魔王陛下の伴侶である綾様が、城から忽然と姿を消したのだ。
魔人国内だけでなく、獣人国、死霊国、魔界全体にそのニュースが伝えられ、しかしなんの手掛かりもないまま1日が経とうとしていた。
「どうして!?なぜ何も分からない!」
魔王陛下執務室、綾様がいなくなり、そろそろ24時間が経とうとしています。私、綾様の侍女であるリリエラは、なにもできず立ち尽くすことしかできません。
昨日、侵入者騒ぎのため、綾様は居室から出ることを禁じられ、ずっと私と過ごしておりました。
その間いつもと変わった様子はなく、もちろん侵入者と鉢合わせになることもありませんでした。騒ぎの対処のため、いつもより大分遅くいらっしゃった陛下とお休みになられてから朝になるまで、城内の警備は完璧でした。
騒ぎの後のため、いつもより警戒されていたことは確かです。しかし、アヤ様はいなくなり、なんの手掛かりもありません。
本来なら血の盟約で結ばれている陛下は魔力をつかうことで、綾様の居場所を探すことができます。しかし、なぜか綾様の魔力を感じることができないのです。陛下はひどく疲労したご様子です。朝からなにも召し上がっていません。
「城下町では見つかりませんでした。捜索範囲を広げますが、そうなると人員確保が難しいかもしれません。」
報告を聞きながら、陛下は頭を抱えられます。なぜこんなことが、一体なにが起こっているのでしょう。
「本当に手掛かりはないのか、なにか、あるはずだ。」
居室には、綾様の荷物は残されたまま、綾様だけがいません。しかし誘拐などの痕跡もありませんでした。
「もう一度、綾様の持ち物を調べさせていただいてもよろしいでしょうか?」
何かしていなくては、私もどうにかなりそうです。
「頼む。なにかあればすぐに報告を。」
私はすぐに、陛下と綾様のお部屋に向かいます。しかし、そもそも綾様の私物は多くはありません。それでももう一度、ありとあらゆるところまで調べました。しかし、なにも見つかりません。
ふと、本棚の本が目に留まりました。それは綾様が魔界の言葉を勉強するために使っていた教本です。こちらに来て、綾様は魔界の言葉をずいぶん覚えられ、その教本はしばらく使われていません。
しかし、その本が少し動かされているように感じたのです。それを手にとり、パラパラと捲ると、中に1通の手紙が入っていました。
その手紙は封筒に宛名も差出人もなく、便箋が1枚入っています。しかし、その内容を読むことができません。魔界の言葉ではない文字で書かれています。その文字は綾様のいた世界、日本の言葉のように見えました。
私はすぐに、執務室に走りました。
『魔王陛下伴侶
ただちに魔王城を出よ。
誰にも告げてはならない。
さもなくばお前の家族の命はない。』
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