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第三章
25話 御前試合
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25話 御前試合
「ごぜんじあい…?」
エルとリリが同時に首を傾げた。その動きは首の角度までがぴったり揃っていて、可愛くてたまらない。
俺の目の前で兄貴は手で顔を覆い、にやけ面を隠している。最近兄貴もあの親父に似てきた気がするのは俺だけか?
「この国には、4つの騎士団があるんだ。普段はそれぞれ別の仕事をしてて、揃うことはほとんどないんだが。いまちょうど全部の隊が首都に揃っててな。共同訓練をしようって話があったんだが。」
「それなら、国王の前で試合をしようということになったんだ。」
御前試合は何年かに一度、式典や祭りに合わせて行われていた。しかし、ここ最近は地方の災害支援などで俺たち第4騎士団が首都を離れていることが多く開催されていない。
普段の顔に戻った兄貴がリリに向き合い、優しく笑いかけた。
「しあいって、なにをするの?」
春の暖かな陽射しの降り注ぐリビングで、ソファに腰かけ4人揃って彼女たちの作った菓子を食べていた。2人がクッキーと呼ぶその菓子は、口に入れるとほろほろと崩れる。普段甘いものを食べない俺たちも、その美味しさに手が止まらなかった。
「まぁ剣やら体術やらの試合だな。4つの騎士団のトーナメント戦だ。」
それぞれ先鋒、中堅、大将の3人を選別し試合をする。優勝した騎士団には、国王からの名誉が与えられる。そんなものより、俺は休みが欲しい。
「ガロンとシオンもでる?」
隣に座るエルの口元に付いているクッキーの欠片を、俺は舌で舐めとり、そのまま口にふくんだ。いろんな意味で甘い。
「そうだな。まぁ騎士団の試合って言っても、結局騎士団長たちが国王の前で試合するのが大事なんだろ。」
貴族の名誉、プライド。家名のアピールなどなど、正直どうでもいい。
「わたしたちも、みにいっていいの?」
問題はそこだ。面倒なことに、国王直々に2人に招待が来ている。エルに応援してもらいたい気持ちはもちろんあるが、それ以上に騎士団のむさ苦しい男どもに彼女を見られるのがイヤだった。それに…。
「もちろんいい。でもライモレノも来る。あの当主が来るかは分からないが…。」
一瞬彼女たちの瞳に怯えが見えた。
「イヤなら無理しなくていい。あいつらに何かさせるつもりはないが。2人に悲しい顔はさせたくないんだ。」
エルとリリはお互い顔を見合わせた。その微笑んだ瞳のなかにはもう恐怖の色はなかった。
「だいじょうぶ、おいしいおべんとうつくっておうえんにいくね。」
彼女の小さな額に唇を寄せる。正直イヤなのは俺の方だ。ライモレノだけでなく、他の男が彼女をどんな目で見るか。
立場などどうでもいい、どんな野郎でも叩き切ってやる。
「ごぜんじあい…?」
エルとリリが同時に首を傾げた。その動きは首の角度までがぴったり揃っていて、可愛くてたまらない。
俺の目の前で兄貴は手で顔を覆い、にやけ面を隠している。最近兄貴もあの親父に似てきた気がするのは俺だけか?
「この国には、4つの騎士団があるんだ。普段はそれぞれ別の仕事をしてて、揃うことはほとんどないんだが。いまちょうど全部の隊が首都に揃っててな。共同訓練をしようって話があったんだが。」
「それなら、国王の前で試合をしようということになったんだ。」
御前試合は何年かに一度、式典や祭りに合わせて行われていた。しかし、ここ最近は地方の災害支援などで俺たち第4騎士団が首都を離れていることが多く開催されていない。
普段の顔に戻った兄貴がリリに向き合い、優しく笑いかけた。
「しあいって、なにをするの?」
春の暖かな陽射しの降り注ぐリビングで、ソファに腰かけ4人揃って彼女たちの作った菓子を食べていた。2人がクッキーと呼ぶその菓子は、口に入れるとほろほろと崩れる。普段甘いものを食べない俺たちも、その美味しさに手が止まらなかった。
「まぁ剣やら体術やらの試合だな。4つの騎士団のトーナメント戦だ。」
それぞれ先鋒、中堅、大将の3人を選別し試合をする。優勝した騎士団には、国王からの名誉が与えられる。そんなものより、俺は休みが欲しい。
「ガロンとシオンもでる?」
隣に座るエルの口元に付いているクッキーの欠片を、俺は舌で舐めとり、そのまま口にふくんだ。いろんな意味で甘い。
「そうだな。まぁ騎士団の試合って言っても、結局騎士団長たちが国王の前で試合するのが大事なんだろ。」
貴族の名誉、プライド。家名のアピールなどなど、正直どうでもいい。
「わたしたちも、みにいっていいの?」
問題はそこだ。面倒なことに、国王直々に2人に招待が来ている。エルに応援してもらいたい気持ちはもちろんあるが、それ以上に騎士団のむさ苦しい男どもに彼女を見られるのがイヤだった。それに…。
「もちろんいい。でもライモレノも来る。あの当主が来るかは分からないが…。」
一瞬彼女たちの瞳に怯えが見えた。
「イヤなら無理しなくていい。あいつらに何かさせるつもりはないが。2人に悲しい顔はさせたくないんだ。」
エルとリリはお互い顔を見合わせた。その微笑んだ瞳のなかにはもう恐怖の色はなかった。
「だいじょうぶ、おいしいおべんとうつくっておうえんにいくね。」
彼女の小さな額に唇を寄せる。正直イヤなのは俺の方だ。ライモレノだけでなく、他の男が彼女をどんな目で見るか。
立場などどうでもいい、どんな野郎でも叩き切ってやる。
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