双子獣人は番も双子でした。。~少女たちは、異世界で虎に溺愛され初めての愛を知る~

塔野明里

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第三章

32話 断罪

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 32話 断罪

 エルを母とリリに預け、メルヴィンの執務室に着いたところで俺は元の姿に戻った。

「おっ、戻った。」

「ガロンって元々そんなに魔力なかったのに、よく元祖返りなんてできたよね。愛の力ってやつ?」

 ソファに腰かけるメルヴィンの後ろで、兄貴が目の前に座る2人を思い切り睨み付けている。
 肩に手をあて痛みを堪えるシュトヘルと何の表情も浮かべていないキース・ライモレノ。
 やはり片腕くらい引きちぎっておけば良かった。兄貴に倣い2人を睨み付けながら、横に並ぶ。

「さぁ、これで揃ったね。まずはシュトヘルの言い訳から聞こうかな。」

 メルヴィンの言う断罪とは、何に対しての罪だ?エルにしたことへの罰なら俺のなかでは死刑が確定している。

「メルヴィン殿下。シュトヘルはともかく私が呼ばれる理由が分かりかねます。」

「いやぁ、もう隠せないかなぁと思って。自白してもらえると助かるんですけど。」

 俺には話がまったく読めない。メルヴィンは何の話をしているんだ?
 
「自白?何を仰っているのか分かりません。」

 無表情に答えるキースの横で、シュトヘルの顔が青ざめている。結局こいつは自分の権力や地位を振りかざすことしかできない。

「メルヴィン。私たちに分かるように話してくれ。」

 俺と同じように兄貴も何の話かわからないらしい。

「…まぁそうなるよね。とりあえずこれ読んで。」

 渡された紙の束。びっしりと書かれたその書類にはとんでもないことが書かれていた。

「はぁ?なんだよこれ?」

 〇月〇日、精霊の呼び人リーリア、リーエルの乗る馬車を襲撃、その後歓楽街を抜け郊外で馬に乗り換え他国へ逃走。

 *月*日、ロックスフォード屋敷へ侍女を派遣。食事に毒物を混入させ、昏倒した所を誘拐。

 などなど…………。

 そこに書かれていたのはリーエルとリーリアの誘拐計画。細かな逃走経路と協力者の氏名。驚くほどの数の計画が書かれている。

 しかし、その日付は全て過去のものだ。

「僕が未然に防いだものもいくつかあるけど、ほとんどは彼女たちの偶然の行動で失敗に終わったものばかりだよ。精霊の加護なのか、本当に偶然なのかは分からないけどね。」

 たとえば、リーエルが魔法を使って初めて花を咲かせた日。メアリに物語を聞かせるためにこの城に泊まることになった日だ。帰り道、2人の乗る馬車の御者が協力者となり、馬車を歓楽街に誘導しそこで襲撃される計画になっている。
 ロックスフォードの屋敷に侍女を派遣する計画も2人が使用人を断ったことで計画変更を余儀なくされている。

「これ全部コイツらが考えたってことか?」

「考えただけじゃないよ、しっかり実行してるんだ。でもことごとく失敗して焦ったんでしょ?それで今日あんな馬鹿なことしたんだよね?」

 シュトヘルの怯えの理由。なぜお前が怯えた顔をする?エルの感じた恐怖を考え、改めて殺意を覚える。やはり殺しておけば良かった。

「なんで今まで教えなかったんだよ!」

「教えたらすぐ乗り込んで、ボコボコにするんでしょ?ガロンたちにそういうことされると困るんだよね。」

 彼女たちを危険な目に合わせて、ボコボコで済むわけがない。

「それで?メルヴィン殿下がここまでされるのなら証拠がおありなんでしょう?」

「てめぇ!?ここまでしといて知らないとでも言うのかよ?」

 まったくの無表情な父親の横で、馬鹿息子はブルブルと震えている。

「まぁ計画も実行もほとんどシュトヘル一人でやったみたいだけど、まさか息子だけに責任取ってもらう訳にはいかないでしょう?」

「シュトヘルの首で許されるなら喜んで差し出しますが?」
「父上?!」

 シュトヘルの青い顔から、さらに血の気がひいて白くなっている。

「申し訳ないけど、精霊の呼び人への危害なんて他国に知られたら本当に困るんだよね。分からないわけじゃないでしょ?」

 シュトヘルもラッセルも馬鹿だよな。権力も地位もある自分なら何をしても許されると本気で思っているのか。

「ライモレノ家は貴族の地位を剥奪。貴方たちは国外追放だよ。これは僕の意思じゃない。国王の意思だ。」

 ガタガタと震えだしたシュトヘルの横で、キース・ライモレノはそれでも無表情を崩さなかった。

 * * *
 
「ガロンたちは知らないと思うけど、2人が災害支援に行ってる間にちょっと僕の周りで面倒くさい話題が持ち上がったんだ。」

 俺たちがカーフェの町でエルとリリに出会った頃。次の近衛隊長は誰になるのかという話がこの城内で持ち上がったらしい。
 もちろん親父はまだまだ現役だが、それでも60歳手前そろそろ次の隊長を決めてもおかしくない時期ではないかと。

 そこで自ら名乗りをあげたのが、第1騎士団長のラッセル・コーディだった。

「へぇ、アイツが近衛隊長か。よかったな、次が決まって。」
「そうだな、忙しい役職だから早めに決まって良かったじゃないか。」

「ほら!絶対そう言うと思った!ガロンもシオンも絶対やりたくないって言うでしょ!ロックスフォードの家名なんて関係ないとか平気でさ!
 困るんだよ。近衛隊長は僕だけじゃなく、メアリやシルヴィアの護衛でもあるんだよ?それがラッセルだなんて、本当に無理!ありえない!今日さらにそう思ったね!」

 メルヴィンは俺たちの実力を知っている。しかし、他の貴族や騎士団員で知ってるやつは少ない。
 この状況で俺たちがどうやったら近衛隊長を引き受けてくれるのか。そして貴族たちにそれを納得させるにはどうしたらいいのか。

 メルヴィンがそんなことを考えているなんて、まったく知らないところに、俺たちが番を連れて帰ってきたわけだ。

「本当にびっくりしたよ。精霊の呼び人ってだけで驚きなのにすぐに婚姻の宣言でしょ?その上、彼女たちの情報が漏れたら、貴族も騎士の位も捨てて国を出るとか言うし、頭を抱えたよ。」

 そんなに困ってたのか。正直メルヴィンの困ったところなんてほとんど見たことないからな。もっと困らせれば良かった。

「でも横やり入れてくる貴方たちを見て、これは使えるなって思ったんです。」

 メルヴィンが腹黒王子の顔になった。悪いことをしてる時ほどコイツは愉しそうに笑う。

「貴方たちは神殿を買収したり脅したりして、彼女たちの過去を聞き出したり、誘拐計画立てたり。でもびっくりするくらい失敗してさ。僕、報告聞いてこんなに笑ったの初めてだったよ。本当に精霊っているんだなって思ったね。」

「すぐに言えよ。そういう大事なことは。笑ってる場合じゃねぇだろ。」

 エルの腕についた手形。こんなことなら一人なんてしなかった。

「我々とロックスフォードを天秤にかけたのですか?」

 今まで一言もしゃべらなかったキースがそのとき初めて口を開いた。

「まぁ、そうなりますね。貴方たちのような力のある貴族なら他にたくさんいますけど、この2人みたいに貴族なのにお人好しで馬鹿正直なのは探してもなかなかいませんから、居なくなるのはちょっと困るんです。」

「なぁそれ褒めてないよな?」

「褒めてるよ!今までにないくらい褒めてるでしょ!」

 まったく納得いかない。

「それでこの馬鹿正直な2人にこの国にいてもらうには、もう返しきれないくらいの貸しを作らせればいいかと思って。
 結婚宣言のための謁見から、リーエルさんとリーリアさんの誘拐計画の阻止でしょ?今日の御前試合でガロンとシオンの実力は貴族たちも認めただろうし、充分すぎるくらいのお膳立てをしたよ。」

 今日の御前試合も、全部この腹黒王子の差し金だったのか。


「たとえ我々を追放しても、またすぐに別の者が同じようなことを考えるでしょう。精霊の加護だけでどこまで守れますか?」

「精霊だけじゃない。何度だって守る。お前らみたいな馬鹿からな。」


 それから間もなく、ライモレノの追放が国中に伝えられた。あわせて第1騎士団の評判も、ラッセルの評判も最悪なものになった。


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