帰ってきた聖女〜300年前魔王に嫁いだはずの聖女が今だに純潔だった件〜

塔野明里

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11話〜メリンダ〜

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 11話~メリンダ~

「オスカー?一体何を言っているの?」

「ずっと…ずっと憧れていました。メリンダ様に相応しい男になりたいとここまで精進してきたのです。」

 出逢った頃と変わらない森の色の瞳。あんなに小さかった男の子がこんなに大きくなって。魔界ではたった3年。しかし人間界では300年という月日が経ったのだと改めて実感させられます。

「魔王ハデスならば、貴女を世界一愛していると言った御方ならばメリンダ様を幸せにできると信じておりました。…諦めようと思ったのです。
 しかしこんなことになった今、自分の想いを抑えることなどできましょうか?できるはずがありません!」

 * * *

 私はこの世界に生まれた瞬間から、世にも珍しい治癒の力を持っていました。

 この世界には魔力を持つ者と持たざる者がいます。それは生まれつき決まっているものです。遺伝的要因もなく、いつ誰に現れるかも分からない。そんな不思議な力です。

 炎、水、風、雷、大地。ほとんどの魔力はこの5つに分類されます。一部の例外を除いて。その例外が私の治癒の力です。
 私の魔力は聖の力なのだそうです。

 私が初めてその力を使ったのは、3歳になった頃だと言われています。その時のことはほとんど覚えておりません。

「メリンダ…!一体なにをしたんだい?」

 お父様と庭で遊んでいた私は、薔薇の棘が刺さり血が出ていたお父様な手のひらを小さな両手で包み込みました。すると手の中が光を放ち、お父様の手のひらの傷は跡形もなく消えていたそうです。


 その頃、このバーランシー王国はたくさんの問題を抱えていました。人間と魔族の争い。国境での小競り合いから始まり戦争は勢いを増し、日に日にたくさんの人を傷つけていました。

 国王陛下のおかげで、王国は比較的被害が少なかったそうです。しかし、14歳で初めて戦地に赴いた私はそのあまりの悲惨さに言葉を失いました。

 一人でも多くの人を救いたい。私の想いはただそれだけでした。

 オスカーのいる集落を訪れたのは、それから一年ほど後のことです。

 エルフは争いを嫌い、人里離れた場所で暮らしていました。屋敷でメイドとして働くスフィーレはとても珍しいエルフなのです。

 その集落が他国の争いに巻き込まれ、人間に襲われたと知ったときいてもたってもいられなくなりました。

 私を見て、エルフたちは皆警戒していました。しかし、美しいその体は傷だらけでどうしても助けたかったのです。

「私の息子を…どうか助けてください。」

 血まみれのオスカーを抱いた母親は、自らもボロボロでした。

「必ず助けますわ。」

 全身全霊をかけて私は祈りました。オスカーの傷が消え、すやすやと優しい寝息が聞こえ始めたとき母親は泣き崩れました。

 それから私は何度もその集落を訪れました。元気になったオスカーは私をメリ姉さまと呼び、一緒に遊んだり、森を散策したりしました。 

 まさかその小さな男の子に求婚される日が来るなんて、誰が想像したでしょう。

 * * *

「必ず幸せにします。年齢差も寿命の差も関係ありません。メリンダ様だけを想い続けると誓います。」

 どうしましょう。私のなかでオスカーはいつまでも小さな男の子なのです。男性と意識したことも結婚なんて考えたこともありません。

「オスカー殿!まだハデス様の浮気が決まったわけではないのです!メリンダ様をそのように口説くのはどうかと…?」

「イーサン様。メリンダ様は泣いているのです。それだけで裏切りではないのですか?愛する女性を悲しませることが魔王陛下のすることでしょうか?」

 イーサンは黙り込んでしまいました。私の手を握り、オスカーはじっと私を見つめています。

「お慕いしております。どうか私と一緒に来てくださいませんか?」


『貴様……!メリンダから離れろ!』


 地響きのような声。突然の風に窓ガラスがビリビリと振動しています。

『その手に触れていいのは俺だけだ!』

 夜空から降り立った漆黒の竜。大きな翼を広げる風圧で大きな窓にヒビが入りました。

「あぁ!僕の屋敷が!」

 イーサンが真っ青な顔でヒビの入った窓を押さえています。

「魔王ハデス…。そうやって威圧すれば皆言いなりになるとでもお思いですか?私はメリンダ様を悲しませた貴方を許しません。」

『生意気なことを…!』

 ハデスの周りを黒い霧が覆いました。するとその姿はみるみると小さくなり、ふわりとバルコニーに降り立ちます。

「エルフごときが、俺を侮辱するつもりか?」

 現れたのは人の姿になったハデスです。見慣れた姿に、私の胸がギュッと痛みました。

 漆黒の髪と瞳、朝黒い肌。その身を包むのもまた漆黒の衣装です。

「その手を離せ。メリンダに触れるな。」

「魔王陛下にそんな命令をする権利がおありですか?」

 ギリギリと音がするほど歯を噛み締め、ハデスは怒りをあらわにしています。

「おやめください。ここは私の家族の大切な屋敷です。争うことは許しません。」

 するとようやく少しだけ緊張感が和らぎました。

「メリンダ!ついに見つけたんだ!」

 ハデスが合図を送ると、ふわふわと空から何かが飛んできます。

「…!この方は、?」

「とうとう見つけた!君が見たのはこいつだろう?」

 ハデスの部下に両脇を抱えられ連れてこられたのは、美しいピンクの髪をした一人の少女でした。

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