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異形の魔物は七人の白魔術の使い手達によって浄化され、その肉体は炭化して霧散した。
かわりに白っぽい小山が、役目を果たした魔術陣の中に残っている。
魔術陣を囲む白魔術師達が肩で息をする中、騎士ベイジルは呼吸を整え、弓兵達に「弓をおろせ」と手で合図を送る。
そして目の前の小山をしげしげと見おろした。
「…………骨?」
黒い魔物が浄化されて消え、現れたのは白っぽい骨の山。
一体二体どころではない。数十はあろうかという骨の山だ。
「死体に魔力が宿って魔物化、ですか」
「いや。それにしては不自然だ。こういう状況は初めて見る」
一人の白魔術師の呟きに、別の一人が否定する。
「死体が魔力を得て『生きた屍』になることは、ままある。スノーパールでも何度もあった。だから死人が出ると、できるだけ死体は回収して聖水をかけて埋葬し、墓場周りにも聖水を撒いて、魔物が寄ってこないようにする。それでも運悪く魔物化した場合、死体そのものが動き出す。骨だけだったり、まだ腐ってもいない状態だったり…………状態は魔物化した時点によりけりだが、とにかく、個々で動き出す。このように何十体もが集まって一体化して…………というのは、はじめての経験だ」
最年長の壮年の白魔術師も重々しくうなずく。
「それに、場所も気になる。死体が魔物化したなら、出てくるのは墓場からだ。だが、この魔物は墓場から離れた城壁の影から出てきた。一般に、一日中、日の当たらないような場所に遺体は埋めない。土が太陽の力をためないからな。そういう土地に死体を埋めると、魔物化しやすい。だから、聖水が手に入らないような貧しい者でも、陽のあたる場所に死体を埋めることだけは欠かさない。城壁は定期的にあちこちに聖水を垂らしているが、それでも全体の聖化にはほど遠い。影に死体を埋めるなど言語道断、良くない事情があったとしか思えん。しかも、これほど多量に」
「良くない事情、とは…………」
「犯罪か、もしくは黒魔術か…………」
一同、口をつぐむ。
人間が太陽や月の光の力を借りて行使する魔術を『白魔術』という。
逆に良からぬ目的のため、闇の力を借りて行使する魔術は『黒魔術』と呼ばれる。
ちなみに紅の一族など、魔物が行使する魔術は便宜上、『紅魔術』と呼んで区別している。
「この魔物が、真昼に姿を現したのも気になります。魔物が活動するのは夜なのに…………」
「おそらく、我々が魔術陣を描いていたからだ。すぐ近くに強い白魔術の気配を感じ、わずらわしく思ったか、危険を感じたかはわからないが、とにかく無視できなかったのだろう」
コーデリア=ホワイトの疑問に騎士ベイジルが推測を述べる。
「この件は精査が必要だ。骨もそうだが、出てきた場所も調査すべきだろう。ひとまず、ここと城壁の出現跡に見張りを置く。それから、聖殿長と城伯にも報告して…………」
最年長の白魔術師が指示を出していく。
謎が残りはしたものの、一息ついたリリーベルは肩をぽん、と叩かれた。
「お手柄だな、騎士リリーベル。そなたがお告げを受けなければ、あそこにあのような魔物が潜んでいると気づかぬままだった」
「そうですよ、騎士リリーベル。あの魔物が、たとえば月のない夜に目覚めて城壁を登っていたらと思うと、ぞっとします」
「真昼に発見できたのは幸運だったな。これが夜だったら、魔術陣を用意していても、こんなにうまくはいかなかったろう」
「え…………はい、いえ、その…………」
同僚達が口々に感謝と称賛の言葉をかけてくる。
(いたたまれない…………)
事後処理にとりかかった兵士達の中にも、きらきらした憧憬の視線を向けてくる者がいて、リリーベルはひたすら胸の痛みに耐えるしかなかった。
(それにしても…………本当に、あんな近くにあんな魔物が眠っていたなんて…………いったい、どうして…………まさか本当に、誰かが黒魔術を…………?)
だとすれば、心から許せそうにない。
人々が魔物の脅威にさらされるこの国、今の時代に、自ら魔物を増やす行為に手を染めるなんて。
それからは、手分けして細々とした作業に入った。
骨の山と魔物が出てきた地面を見張る兵士を選び、白魔術師達は聖水の残りを数え、残る兵士達の鎧や武器に聖化の白魔術をほどこしていく。
聖殿の習慣では、そろそろ正餐の時間(午後三時ごろ)だったので、合間に食事もはさんだ。パンと腸詰肉とゆで卵、それに果実と葡萄酒を手早く口に入れていく。リリーベルは酒が苦手なので、牛乳だ。
やがて空になった聖水の小瓶を片付けながら、リリーベルは(次は、どんな口実を作ろう…………)と肩を落とした。
未発見の危険な魔物を、犠牲を出さずに浄化できたのは幸いだった。
しかし、これで「神のお告げです」という口実を使ってしまったので、あの紅の一族第六位を倒すには、一から計画を練り直さなければならない。「また、お告げがありました」というのは少々苦しくないか。
(他の方々の協力は絶対必要…………でも、もう月も下弦の半月を過ぎて、これからは白魔術での夜の戦いは苦しくなる一方…………真昼に呼び出せればいいけれど、でも…………)
もんもんと悩むリリーベルの耳に、騎士ベイジルの指示の声が届く。
「城壁近くの、魔物が出てきた土にも聖水を撒いておけ。残った聖水の一部は、見張りに残る兵士達に渡していく。いそげ、日が暮れはじめた」
いつの間にか周囲は薄暗くなり、それぞれの影が長く伸びて、西の空のかなり低い位置に太陽が移動している。兵士達の間にも緊張が生じているのがわかる。
リリーベルも気になり、すでに数人の兵士達が立っている城壁の影の中の地面を見に行った。
影の中に入ると、しゃがんで右の籠手を外し、ひやりと湿った地面に直接、触れる。
(薄いけれど、魔物の気配を感じる…………あの魔物の魔力の残りかしら? 浄化しておこう)
リリーベルは一本だけ持っていた聖水の瓶の蓋を開け、湿った地面に撒く。滴が点々と散って黒い染みを作る。
小瓶を置き、浄化の白魔術を行おうとして――――気づいた。
(魔力? 魔物の気配!?)
残りではない、と感知した時には遅かった。
一度、巨大な魔物が抜け出してやわらかくなっていた土の中から、新たな芋虫が現れた。
リリーベルは勢いよく出てきた魔物に引っかけられて、一瞬、宙を飛ぶ。背中から地面に叩きつけられた。
胸当と腰当のおかげで大事にはいたらなかったが、打った痛みで息が詰まる。
「まだ、いたのか!!」
兵士達の悲鳴が聞こえる。
(魔術陣は…………!)
ない。昼間に使ったばかりである。
リリーベルは痛みをこらえて上体を起こし、空を見あげた。西側にまだ少し、太陽の光が残っている。今夜は二十日余りの月で、陽が沈んでも月の出までにかなり時間がかかる。
(今、浄化してしまうしかない…………!)
魔術陣を描いている余裕はないだろう。
くらくらする頭を叱咤して立ちあがり、外していた籠手をはめる。
見ると、出てきた魔物は見た目こそ昼間の魔物とほぼ同じだったが、大きさが違う。先ほどの魔物に比べて半分の高さしかないし、長さにいたっては半分以下だ。
夜の闇が迫っているためか、動きは活発だが、兵士達を襲おうとして聖化された槍に阻まれている。
(これなら…………!)
リリーベルは剣を抜くと、近くにいた兵士の一人に駆け寄り、持っている聖水を出させる。
剣の刃に、柄を握る籠手に、両腕に、胸当に、顔と額に聖水をかける。
幸い、魔物は兵士達に気が向いて、リリーベルには背をむけている(たぶん)。
リリーベルは意識を集中し、体内をめぐる白魔術の力を操る。
昼間、すでに大掛かりな儀式のために多量の力を消費していたが、自らかけた聖水が残った力を強化、増幅してくれる。
(とにかく、一撃。一撃、大きく深い傷を負わせられれば、あとは他の人達が…………!!)
剣が白く輝きを放つ。
「ハアァッ!!」
跳び出した。
魔物の背中? に生えていた顔がリリーベルに気がつき、声をあげる。その声につられて、魔物が振り向こうとした時には、もう遅い。
白く輝く刃はチーズを切るようにやすやすと、魔物の黒い皮膚を裂き、魔物の内側で灼熱の爆発を起こして、目覚めたての魔物にすさまじい苦痛を与えた。
魔物は高くのけぞって棒立ちになり、おぞましい悲鳴をあげる。芋虫のような体にぽかりと大きな穴があき、炭化した傷口からぼろぼろと欠片が落ちていく。
(やった!)と思った途端、リリーベルの膝が折れて、その場に倒れ込む。体と白魔術の力の使い過ぎだった。指にも足にも力が入らない。
「騎士リリーベル!!」
黒い太い柱のように立っていた巨体がかしぎ、こちらへと迫ってくる。
「危ない!!」
誰かが叫んだが、リリーベルは動けなかった。
うつぶせに倒れたまま、かたく目をつぶる。
魔物は多量の土をまき散らして、大音響と共に地面にあおむけ(おそらく)に倒れた。地面がふるえ、もうもうと土ぼこりが舞いあがる。
「騎士リリーベル!!」
「すぐに魔物に止めを!!」
兵士達が聖化された刃をふるい、持っている聖水をかけて、巨体の消滅を試みる。駆けつけた白魔術師達も、残っていた聖水にさらに白魔術をかけて投げ、白騎士のベイジルは白く輝く刃をふるう。
暮れていく空の下で、巨大な魔物の体のあちこちから白い煙があがり、炭化した箇所がみるみる広がっていく。
「…………?」
リリーベルは不審に思った。
体力を使い果たし、倒れてきた巨体とその重量になす術はなく、せめて体を小さくして衝撃に備えようと、覚悟して待っていたのに、予想した痛みや重みは襲ってこない。
風が頬にあたる。
「気を失ったか?」
低い美声にぱちっと目があいた。
「意識はあるのか。良かった」
輝く赤い瞳が目に飛び込んでくる。
夕暮れの空を背に、黒髪をなびかせた白皙の美貌がリリーベルを見おろし、安堵の笑みを浮かべていた。
「あなたは…………!!」
四日ぶりの紅の一族第六位である。
かわりに白っぽい小山が、役目を果たした魔術陣の中に残っている。
魔術陣を囲む白魔術師達が肩で息をする中、騎士ベイジルは呼吸を整え、弓兵達に「弓をおろせ」と手で合図を送る。
そして目の前の小山をしげしげと見おろした。
「…………骨?」
黒い魔物が浄化されて消え、現れたのは白っぽい骨の山。
一体二体どころではない。数十はあろうかという骨の山だ。
「死体に魔力が宿って魔物化、ですか」
「いや。それにしては不自然だ。こういう状況は初めて見る」
一人の白魔術師の呟きに、別の一人が否定する。
「死体が魔力を得て『生きた屍』になることは、ままある。スノーパールでも何度もあった。だから死人が出ると、できるだけ死体は回収して聖水をかけて埋葬し、墓場周りにも聖水を撒いて、魔物が寄ってこないようにする。それでも運悪く魔物化した場合、死体そのものが動き出す。骨だけだったり、まだ腐ってもいない状態だったり…………状態は魔物化した時点によりけりだが、とにかく、個々で動き出す。このように何十体もが集まって一体化して…………というのは、はじめての経験だ」
最年長の壮年の白魔術師も重々しくうなずく。
「それに、場所も気になる。死体が魔物化したなら、出てくるのは墓場からだ。だが、この魔物は墓場から離れた城壁の影から出てきた。一般に、一日中、日の当たらないような場所に遺体は埋めない。土が太陽の力をためないからな。そういう土地に死体を埋めると、魔物化しやすい。だから、聖水が手に入らないような貧しい者でも、陽のあたる場所に死体を埋めることだけは欠かさない。城壁は定期的にあちこちに聖水を垂らしているが、それでも全体の聖化にはほど遠い。影に死体を埋めるなど言語道断、良くない事情があったとしか思えん。しかも、これほど多量に」
「良くない事情、とは…………」
「犯罪か、もしくは黒魔術か…………」
一同、口をつぐむ。
人間が太陽や月の光の力を借りて行使する魔術を『白魔術』という。
逆に良からぬ目的のため、闇の力を借りて行使する魔術は『黒魔術』と呼ばれる。
ちなみに紅の一族など、魔物が行使する魔術は便宜上、『紅魔術』と呼んで区別している。
「この魔物が、真昼に姿を現したのも気になります。魔物が活動するのは夜なのに…………」
「おそらく、我々が魔術陣を描いていたからだ。すぐ近くに強い白魔術の気配を感じ、わずらわしく思ったか、危険を感じたかはわからないが、とにかく無視できなかったのだろう」
コーデリア=ホワイトの疑問に騎士ベイジルが推測を述べる。
「この件は精査が必要だ。骨もそうだが、出てきた場所も調査すべきだろう。ひとまず、ここと城壁の出現跡に見張りを置く。それから、聖殿長と城伯にも報告して…………」
最年長の白魔術師が指示を出していく。
謎が残りはしたものの、一息ついたリリーベルは肩をぽん、と叩かれた。
「お手柄だな、騎士リリーベル。そなたがお告げを受けなければ、あそこにあのような魔物が潜んでいると気づかぬままだった」
「そうですよ、騎士リリーベル。あの魔物が、たとえば月のない夜に目覚めて城壁を登っていたらと思うと、ぞっとします」
「真昼に発見できたのは幸運だったな。これが夜だったら、魔術陣を用意していても、こんなにうまくはいかなかったろう」
「え…………はい、いえ、その…………」
同僚達が口々に感謝と称賛の言葉をかけてくる。
(いたたまれない…………)
事後処理にとりかかった兵士達の中にも、きらきらした憧憬の視線を向けてくる者がいて、リリーベルはひたすら胸の痛みに耐えるしかなかった。
(それにしても…………本当に、あんな近くにあんな魔物が眠っていたなんて…………いったい、どうして…………まさか本当に、誰かが黒魔術を…………?)
だとすれば、心から許せそうにない。
人々が魔物の脅威にさらされるこの国、今の時代に、自ら魔物を増やす行為に手を染めるなんて。
それからは、手分けして細々とした作業に入った。
骨の山と魔物が出てきた地面を見張る兵士を選び、白魔術師達は聖水の残りを数え、残る兵士達の鎧や武器に聖化の白魔術をほどこしていく。
聖殿の習慣では、そろそろ正餐の時間(午後三時ごろ)だったので、合間に食事もはさんだ。パンと腸詰肉とゆで卵、それに果実と葡萄酒を手早く口に入れていく。リリーベルは酒が苦手なので、牛乳だ。
やがて空になった聖水の小瓶を片付けながら、リリーベルは(次は、どんな口実を作ろう…………)と肩を落とした。
未発見の危険な魔物を、犠牲を出さずに浄化できたのは幸いだった。
しかし、これで「神のお告げです」という口実を使ってしまったので、あの紅の一族第六位を倒すには、一から計画を練り直さなければならない。「また、お告げがありました」というのは少々苦しくないか。
(他の方々の協力は絶対必要…………でも、もう月も下弦の半月を過ぎて、これからは白魔術での夜の戦いは苦しくなる一方…………真昼に呼び出せればいいけれど、でも…………)
もんもんと悩むリリーベルの耳に、騎士ベイジルの指示の声が届く。
「城壁近くの、魔物が出てきた土にも聖水を撒いておけ。残った聖水の一部は、見張りに残る兵士達に渡していく。いそげ、日が暮れはじめた」
いつの間にか周囲は薄暗くなり、それぞれの影が長く伸びて、西の空のかなり低い位置に太陽が移動している。兵士達の間にも緊張が生じているのがわかる。
リリーベルも気になり、すでに数人の兵士達が立っている城壁の影の中の地面を見に行った。
影の中に入ると、しゃがんで右の籠手を外し、ひやりと湿った地面に直接、触れる。
(薄いけれど、魔物の気配を感じる…………あの魔物の魔力の残りかしら? 浄化しておこう)
リリーベルは一本だけ持っていた聖水の瓶の蓋を開け、湿った地面に撒く。滴が点々と散って黒い染みを作る。
小瓶を置き、浄化の白魔術を行おうとして――――気づいた。
(魔力? 魔物の気配!?)
残りではない、と感知した時には遅かった。
一度、巨大な魔物が抜け出してやわらかくなっていた土の中から、新たな芋虫が現れた。
リリーベルは勢いよく出てきた魔物に引っかけられて、一瞬、宙を飛ぶ。背中から地面に叩きつけられた。
胸当と腰当のおかげで大事にはいたらなかったが、打った痛みで息が詰まる。
「まだ、いたのか!!」
兵士達の悲鳴が聞こえる。
(魔術陣は…………!)
ない。昼間に使ったばかりである。
リリーベルは痛みをこらえて上体を起こし、空を見あげた。西側にまだ少し、太陽の光が残っている。今夜は二十日余りの月で、陽が沈んでも月の出までにかなり時間がかかる。
(今、浄化してしまうしかない…………!)
魔術陣を描いている余裕はないだろう。
くらくらする頭を叱咤して立ちあがり、外していた籠手をはめる。
見ると、出てきた魔物は見た目こそ昼間の魔物とほぼ同じだったが、大きさが違う。先ほどの魔物に比べて半分の高さしかないし、長さにいたっては半分以下だ。
夜の闇が迫っているためか、動きは活発だが、兵士達を襲おうとして聖化された槍に阻まれている。
(これなら…………!)
リリーベルは剣を抜くと、近くにいた兵士の一人に駆け寄り、持っている聖水を出させる。
剣の刃に、柄を握る籠手に、両腕に、胸当に、顔と額に聖水をかける。
幸い、魔物は兵士達に気が向いて、リリーベルには背をむけている(たぶん)。
リリーベルは意識を集中し、体内をめぐる白魔術の力を操る。
昼間、すでに大掛かりな儀式のために多量の力を消費していたが、自らかけた聖水が残った力を強化、増幅してくれる。
(とにかく、一撃。一撃、大きく深い傷を負わせられれば、あとは他の人達が…………!!)
剣が白く輝きを放つ。
「ハアァッ!!」
跳び出した。
魔物の背中? に生えていた顔がリリーベルに気がつき、声をあげる。その声につられて、魔物が振り向こうとした時には、もう遅い。
白く輝く刃はチーズを切るようにやすやすと、魔物の黒い皮膚を裂き、魔物の内側で灼熱の爆発を起こして、目覚めたての魔物にすさまじい苦痛を与えた。
魔物は高くのけぞって棒立ちになり、おぞましい悲鳴をあげる。芋虫のような体にぽかりと大きな穴があき、炭化した傷口からぼろぼろと欠片が落ちていく。
(やった!)と思った途端、リリーベルの膝が折れて、その場に倒れ込む。体と白魔術の力の使い過ぎだった。指にも足にも力が入らない。
「騎士リリーベル!!」
黒い太い柱のように立っていた巨体がかしぎ、こちらへと迫ってくる。
「危ない!!」
誰かが叫んだが、リリーベルは動けなかった。
うつぶせに倒れたまま、かたく目をつぶる。
魔物は多量の土をまき散らして、大音響と共に地面にあおむけ(おそらく)に倒れた。地面がふるえ、もうもうと土ぼこりが舞いあがる。
「騎士リリーベル!!」
「すぐに魔物に止めを!!」
兵士達が聖化された刃をふるい、持っている聖水をかけて、巨体の消滅を試みる。駆けつけた白魔術師達も、残っていた聖水にさらに白魔術をかけて投げ、白騎士のベイジルは白く輝く刃をふるう。
暮れていく空の下で、巨大な魔物の体のあちこちから白い煙があがり、炭化した箇所がみるみる広がっていく。
「…………?」
リリーベルは不審に思った。
体力を使い果たし、倒れてきた巨体とその重量になす術はなく、せめて体を小さくして衝撃に備えようと、覚悟して待っていたのに、予想した痛みや重みは襲ってこない。
風が頬にあたる。
「気を失ったか?」
低い美声にぱちっと目があいた。
「意識はあるのか。良かった」
輝く赤い瞳が目に飛び込んでくる。
夕暮れの空を背に、黒髪をなびかせた白皙の美貌がリリーベルを見おろし、安堵の笑みを浮かべていた。
「あなたは…………!!」
四日ぶりの紅の一族第六位である。
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