18 / 27
18
しおりを挟む
「ふむ」と紅の一族第六位はリリーベルを見た。
「あの魔物と術者の正体について、か。かまわないが、どうせ人間側で調査するのでは?」
「調査自体は、はじまっています。聖殿は浄化作業と並行して、あの魔物を造りあげた術式の解析の準備を行っていますし、スノーパール城伯も、城伯の人脈で情報収集にあたっているはずです。一介の白騎士でしかない私に、出る幕はありません。だからこそ、です」
リリーベルは語りに悔しさと不甲斐なさをにじませる。
「今回、出現したのはあの二体でしたが、死体はまだ大量に埋まっていました。おそらく、第三、第四の出現が可能でしょう。むろん、聖殿もそれを座視するつもりはありません。用意が整い次第、あの一帯と死体の浄化作業に入りますし、私も浄化に全力を注ぎます。ですが…………逆に言えば、それくらいしか私にできることはないのです」
籠手をはめた手をにぎったため、金属がこすれ合う音が響く。
「あれだけ多くの死体が…………多くの人々が犠牲になりました。遺体の状態から見ても、墓場から掘りかえされた屍ではありません。むろん、それも死者に対する冒涜ですけれど、今回は生きている人間が大勢、犠牲になっています。浄化によって、魔物化を止めることはできます。ですが、おそらく術者本人を捕えない限り、同じことがくりかえされ、犠牲者は増えつづけるでしょう」
「だから俺に協力してほしい、と?」
「これ以上の犠牲を防ぐために、一刻も早く術者を発見し、その目的を明らかにしなければなりません。悔しいですが…………私には調査の能力はありません。私にできる程度の調査は、聖殿や城伯達が早々に済ませるでしょう。人の手で可能なことは、すでに行われているんです。だったら…………」
「紅の一族にしかできない調査をやりたい、ということか」
「あの魔物は、紅の一族の造り出したものではない、と、あなたもおっしゃったでしょう? 仲間が関わっているのでなければ、あなたも差し障りないのでは? どうか、その…………力を、貸していただきたいのです」
最後の一言を口に出す時、リリーベルは城壁から飛び降りるような覚悟が要った。
「貴女の願いなら、一族が関わっていても問題ないな」
紅の一族第六位はあっさり、笑って答える。
「事情はわかった。調査など、貴女が職務の範囲を越えてまでする必要のあることとは思えないが、貴女が望むなら叶えよう。貴女は真面目だな」
「真面目などではなくて。これ以上の犠牲を出したくないだけです」
「それを真面目と言うのでは? あ、『優しい』とか『誠実』のほうが良かったか?」
「そうではなくて…………」
「『親切』『親身』『篤実』、それとも『世話好き』か……………いろいろあるな」
「話を進めます」
指折り考える魔物の話を、リリーベルは無理やり打ち切った。そしてぼそりと、独り言のように付け足す。
「…………魔物に家族と村を奪われれば、だいたいの人はこうなりますよ…………」
赤い瞳がリリーベルを見る。
「とにかく」とリリーベルは意識して強い口調を作った。
「あなたが協力してくださるなら、心強いです。紅の一族の調査方法は存じませんが…………早速、とりかかっていただけませんか? 一刻も早く、術者をつきとめたいのです」
「術者に関しては、問題ない。動機は見当がつかないが。ただ…………」
白い長い指がリリーベルの顎に触れ、くい、と持ちあげる。
「俺が貴女に、望むものを捧げたとして。貴女はなにを報酬にくださるんだ?」
リリーベルは言葉に詰まった。
(やはり、そうなるわよね…………)
予想してた展開だが、いざ、その時になると、追い詰められた感がすごい。
「…………聖殿や…………ひょっとしたら、スノーパール城伯から報酬が…………」
「そいつらから依頼を受けたのなら、それでもかまわないが。俺は貴女の依頼をうけ、貴女のために動くのだから、貴女からいただきたい」
「…………でしょうね…………」
白皙の美貌が近づく。赤い瞳がこの上なく甘く、艶やかに輝く。
「貴女は、貴女のために骨を折った男に対して、なにを返していただけるのだろう?」
リリーベルは進退窮まった。
「お礼の言葉なら…………いくらでも述べる用意があるのですが…………」
視線をそらす。
我ながら、往生際が悪いと思う。
魔物とはいえ、理は相手のほうにある。こちらから頼んで働いてもらうのだから、こちらが相応の報酬や謝礼を用意するのは当然だし、物品を用意せずに言葉だけで済まそうというのは、厚顔無恥というものだ。
(だけど、この人が望むのは、たぶん…………)
だがリリーベルの予想に反して、魔物の青年からは無欲な言葉がかえってきた。
「まあ、言葉だけでもかまわないが」
「え。本当に?」
「貴女のために動くなら、貴女の言葉があれば充分だ。むしろ、どんな宝も、誰の血も不要。言葉でも血でも、貴女自身からもらえるものだけが欲しい」
長い指が動いて、顎から耳に移動する。指先がそっと、頬をなでる。
「どうせなら、愛の言葉をいただきたい。人間達の言う『愛している』でも『お慕いしております』でも『あなたが欲しい』でも。結婚の誓いでもいい。俺の妻になると言ってくれ」
「言いません!」
ちょっとでも都合のよい想像をした自分を叩いてやりたい。この魔物が、そんな扱いやすい存在なわけがないではないか。
「だいたい、あなた、前に『愛するという感覚がわからない』と言っていませんでしたか? わからないのに愛の言葉など聞いても、意味ないでしょう」
「ああ。俺の話を覚えてくれていたのか」
「違っ…………」
重要なのはそこではない、とリリーベルは心の中で叫ぶ。
「愛はわからないが、恋はわかった。貴女を独占したい、他の男に渡したくない、ずっとそばに置いておきたい。俺だけを見て、俺のことだけを考えていてほしい。そういう心持ちを『恋』と呼ぶのだろう? だったら、俺は貴女に恋している」
アルベルテュスの白い手がリリーベルの頬をはさむ。
「いったん理解できれば、話は簡単だ。俺が貴女に想うこと、同じことを、貴女が俺に対して想ってほしい。それだけで、俺はこの上ない喜びを味わうと思う。俺が貴女に恋するように、貴女にも俺に恋してほしい」
「し…………しません!」
リリーベルはうしろにさがって、アルベルテュスの手から逃れる。
「うーん」とアルベルテュスは本気で困ったような唸り声を出した。
「人間は腹を割った話し合いで心を通わせ、物事を解決することを尊ぶ、と思っていたんだが。貴女は俺がいくら本心を語っても、心を開いてくれないな」
「開いていますよ! 本心を述べています! 私は人間で、白騎士! あなたは紅の一族! 恋も結婚もできないと、はじめから言っているでしょう!?」
「それは違う。俺は貴女に恋することができた」
「あなたにはできても、私にはできないんです!!」
リリーベルは『密かな話し合い』という状況を忘れて、声をはりあげていた。頭が爆発しそうだ。顔に血と熱が集まっている。
毎回毎回、どうしてこの人は、なにを言っても通じないのだろう。ゆらがないのだろう。
「そもそも、妻とか結婚とか…………どういう儀式か、理解しているのですか? 紅の一族が、誰に、どうやって、何を誓うつもりですか!!」
「貴女が俺の妻になるなら、聖殿で神に誓うくらい、やってのける覚悟と魔力はあるつもりだが?」
「聖殿を汚す気ですか、いと高き、我らの昼の王を侮辱するつもりですか!」
「冗談ではなく。貴女が望むなら、あの程度の聖殿ごとき、いくらでも突破し、破壊してみせる」
胸に手をあて、悪戯めいた表情を浮かべながらも、赤い瞳には不敵な本気の光がまたたいている。
その光に、リリーベルはようやく、目の前の青年が魔物の中でも頂点に位置する一族の一員であり、一族の中でも一握りの実力者だという事実を思い出した。
背筋に緊張が走り、頭部に集まっていた熱と興奮が一気に引いていく。
おそらくこの青年は、本人の言うとおり、本気になれば聖殿の防御などやすやすと突破してしまうに違いない。
(第六位で、その実力なんて…………)
はたして、人間がこの大地から魔物を追い払い終える時代など、来るのだろうか。
リリーベルが表情をくもらせると、アルベルテュスは要求を変えた。
「まあ、いそぐ気持ちはあるが、貴女を困らせたくないのも事実だ。今回は、別のもので我慢するとしよう」
「別のもの…………ですか?」
「そうだな…………事が済んだら、貴女に花とドレスと靴と…………まあ、着る物と飾る物を一式贈るから、それを着た姿を見せてくれ。それで、どうだろう?」
「…………それくらいでしたら…………」
予想よりは、ずっと簡単な報酬だろう。
リリーベルは手を打った。
が、先手も打っておく。
「あまり高価な品は用意しないでくださいね」
「貴女なら似合うと思うが」
「そうではなく。高価な品をいただく理由がないと言っているんです」
「理由はある。俺が貴女に贈りたい、着せたい」
「着て見せたあとは、お返しします」
そんな風に長々と脱線していた時だった。
街の方、城壁の方から叫び声と思しき人の声が聞こえ、次いで、大きな重い音が響いた。
「なにが…………」
「ああ。例の汚らわしい魔物だな。三体目だ」
アルベルテュスは城壁を見やり、月のない夜空の下、こともなげに看破する。
リリーベルは顔色を変えて、踵をかえした。
一瞬早く、アルベルテュスの手が彼女の二の腕をつかむ。
「どこへ行く」
「城壁です! 離してください!」
魔物の青年はため息をついたかもしれない。
「危ないと言っても、貴女は行くのだろうな。俺も行こう」
「あなたが?」
「調査の約束もあるしな。といっても、正体はつかめているんだが。新手が動き出したなら、ちょうどいい機会だ」
「え…………」
どういう意味だ、と訊きかえす隙もなく、リリーベルはアルベルテュスの腕に抱きあげられる。昨夜もされた、結婚式で花婿が花嫁を抱える時の抱き方である。
「なにを…………今、そういう時では…………!」
「あそこに行きたいのだろう?」
言うと、紅の一族第六位はふわりと浮かんだ。
城壁へと、地上からの流れ星のように弧を描いて飛ぶ。
「あの魔物と術者の正体について、か。かまわないが、どうせ人間側で調査するのでは?」
「調査自体は、はじまっています。聖殿は浄化作業と並行して、あの魔物を造りあげた術式の解析の準備を行っていますし、スノーパール城伯も、城伯の人脈で情報収集にあたっているはずです。一介の白騎士でしかない私に、出る幕はありません。だからこそ、です」
リリーベルは語りに悔しさと不甲斐なさをにじませる。
「今回、出現したのはあの二体でしたが、死体はまだ大量に埋まっていました。おそらく、第三、第四の出現が可能でしょう。むろん、聖殿もそれを座視するつもりはありません。用意が整い次第、あの一帯と死体の浄化作業に入りますし、私も浄化に全力を注ぎます。ですが…………逆に言えば、それくらいしか私にできることはないのです」
籠手をはめた手をにぎったため、金属がこすれ合う音が響く。
「あれだけ多くの死体が…………多くの人々が犠牲になりました。遺体の状態から見ても、墓場から掘りかえされた屍ではありません。むろん、それも死者に対する冒涜ですけれど、今回は生きている人間が大勢、犠牲になっています。浄化によって、魔物化を止めることはできます。ですが、おそらく術者本人を捕えない限り、同じことがくりかえされ、犠牲者は増えつづけるでしょう」
「だから俺に協力してほしい、と?」
「これ以上の犠牲を防ぐために、一刻も早く術者を発見し、その目的を明らかにしなければなりません。悔しいですが…………私には調査の能力はありません。私にできる程度の調査は、聖殿や城伯達が早々に済ませるでしょう。人の手で可能なことは、すでに行われているんです。だったら…………」
「紅の一族にしかできない調査をやりたい、ということか」
「あの魔物は、紅の一族の造り出したものではない、と、あなたもおっしゃったでしょう? 仲間が関わっているのでなければ、あなたも差し障りないのでは? どうか、その…………力を、貸していただきたいのです」
最後の一言を口に出す時、リリーベルは城壁から飛び降りるような覚悟が要った。
「貴女の願いなら、一族が関わっていても問題ないな」
紅の一族第六位はあっさり、笑って答える。
「事情はわかった。調査など、貴女が職務の範囲を越えてまでする必要のあることとは思えないが、貴女が望むなら叶えよう。貴女は真面目だな」
「真面目などではなくて。これ以上の犠牲を出したくないだけです」
「それを真面目と言うのでは? あ、『優しい』とか『誠実』のほうが良かったか?」
「そうではなくて…………」
「『親切』『親身』『篤実』、それとも『世話好き』か……………いろいろあるな」
「話を進めます」
指折り考える魔物の話を、リリーベルは無理やり打ち切った。そしてぼそりと、独り言のように付け足す。
「…………魔物に家族と村を奪われれば、だいたいの人はこうなりますよ…………」
赤い瞳がリリーベルを見る。
「とにかく」とリリーベルは意識して強い口調を作った。
「あなたが協力してくださるなら、心強いです。紅の一族の調査方法は存じませんが…………早速、とりかかっていただけませんか? 一刻も早く、術者をつきとめたいのです」
「術者に関しては、問題ない。動機は見当がつかないが。ただ…………」
白い長い指がリリーベルの顎に触れ、くい、と持ちあげる。
「俺が貴女に、望むものを捧げたとして。貴女はなにを報酬にくださるんだ?」
リリーベルは言葉に詰まった。
(やはり、そうなるわよね…………)
予想してた展開だが、いざ、その時になると、追い詰められた感がすごい。
「…………聖殿や…………ひょっとしたら、スノーパール城伯から報酬が…………」
「そいつらから依頼を受けたのなら、それでもかまわないが。俺は貴女の依頼をうけ、貴女のために動くのだから、貴女からいただきたい」
「…………でしょうね…………」
白皙の美貌が近づく。赤い瞳がこの上なく甘く、艶やかに輝く。
「貴女は、貴女のために骨を折った男に対して、なにを返していただけるのだろう?」
リリーベルは進退窮まった。
「お礼の言葉なら…………いくらでも述べる用意があるのですが…………」
視線をそらす。
我ながら、往生際が悪いと思う。
魔物とはいえ、理は相手のほうにある。こちらから頼んで働いてもらうのだから、こちらが相応の報酬や謝礼を用意するのは当然だし、物品を用意せずに言葉だけで済まそうというのは、厚顔無恥というものだ。
(だけど、この人が望むのは、たぶん…………)
だがリリーベルの予想に反して、魔物の青年からは無欲な言葉がかえってきた。
「まあ、言葉だけでもかまわないが」
「え。本当に?」
「貴女のために動くなら、貴女の言葉があれば充分だ。むしろ、どんな宝も、誰の血も不要。言葉でも血でも、貴女自身からもらえるものだけが欲しい」
長い指が動いて、顎から耳に移動する。指先がそっと、頬をなでる。
「どうせなら、愛の言葉をいただきたい。人間達の言う『愛している』でも『お慕いしております』でも『あなたが欲しい』でも。結婚の誓いでもいい。俺の妻になると言ってくれ」
「言いません!」
ちょっとでも都合のよい想像をした自分を叩いてやりたい。この魔物が、そんな扱いやすい存在なわけがないではないか。
「だいたい、あなた、前に『愛するという感覚がわからない』と言っていませんでしたか? わからないのに愛の言葉など聞いても、意味ないでしょう」
「ああ。俺の話を覚えてくれていたのか」
「違っ…………」
重要なのはそこではない、とリリーベルは心の中で叫ぶ。
「愛はわからないが、恋はわかった。貴女を独占したい、他の男に渡したくない、ずっとそばに置いておきたい。俺だけを見て、俺のことだけを考えていてほしい。そういう心持ちを『恋』と呼ぶのだろう? だったら、俺は貴女に恋している」
アルベルテュスの白い手がリリーベルの頬をはさむ。
「いったん理解できれば、話は簡単だ。俺が貴女に想うこと、同じことを、貴女が俺に対して想ってほしい。それだけで、俺はこの上ない喜びを味わうと思う。俺が貴女に恋するように、貴女にも俺に恋してほしい」
「し…………しません!」
リリーベルはうしろにさがって、アルベルテュスの手から逃れる。
「うーん」とアルベルテュスは本気で困ったような唸り声を出した。
「人間は腹を割った話し合いで心を通わせ、物事を解決することを尊ぶ、と思っていたんだが。貴女は俺がいくら本心を語っても、心を開いてくれないな」
「開いていますよ! 本心を述べています! 私は人間で、白騎士! あなたは紅の一族! 恋も結婚もできないと、はじめから言っているでしょう!?」
「それは違う。俺は貴女に恋することができた」
「あなたにはできても、私にはできないんです!!」
リリーベルは『密かな話し合い』という状況を忘れて、声をはりあげていた。頭が爆発しそうだ。顔に血と熱が集まっている。
毎回毎回、どうしてこの人は、なにを言っても通じないのだろう。ゆらがないのだろう。
「そもそも、妻とか結婚とか…………どういう儀式か、理解しているのですか? 紅の一族が、誰に、どうやって、何を誓うつもりですか!!」
「貴女が俺の妻になるなら、聖殿で神に誓うくらい、やってのける覚悟と魔力はあるつもりだが?」
「聖殿を汚す気ですか、いと高き、我らの昼の王を侮辱するつもりですか!」
「冗談ではなく。貴女が望むなら、あの程度の聖殿ごとき、いくらでも突破し、破壊してみせる」
胸に手をあて、悪戯めいた表情を浮かべながらも、赤い瞳には不敵な本気の光がまたたいている。
その光に、リリーベルはようやく、目の前の青年が魔物の中でも頂点に位置する一族の一員であり、一族の中でも一握りの実力者だという事実を思い出した。
背筋に緊張が走り、頭部に集まっていた熱と興奮が一気に引いていく。
おそらくこの青年は、本人の言うとおり、本気になれば聖殿の防御などやすやすと突破してしまうに違いない。
(第六位で、その実力なんて…………)
はたして、人間がこの大地から魔物を追い払い終える時代など、来るのだろうか。
リリーベルが表情をくもらせると、アルベルテュスは要求を変えた。
「まあ、いそぐ気持ちはあるが、貴女を困らせたくないのも事実だ。今回は、別のもので我慢するとしよう」
「別のもの…………ですか?」
「そうだな…………事が済んだら、貴女に花とドレスと靴と…………まあ、着る物と飾る物を一式贈るから、それを着た姿を見せてくれ。それで、どうだろう?」
「…………それくらいでしたら…………」
予想よりは、ずっと簡単な報酬だろう。
リリーベルは手を打った。
が、先手も打っておく。
「あまり高価な品は用意しないでくださいね」
「貴女なら似合うと思うが」
「そうではなく。高価な品をいただく理由がないと言っているんです」
「理由はある。俺が貴女に贈りたい、着せたい」
「着て見せたあとは、お返しします」
そんな風に長々と脱線していた時だった。
街の方、城壁の方から叫び声と思しき人の声が聞こえ、次いで、大きな重い音が響いた。
「なにが…………」
「ああ。例の汚らわしい魔物だな。三体目だ」
アルベルテュスは城壁を見やり、月のない夜空の下、こともなげに看破する。
リリーベルは顔色を変えて、踵をかえした。
一瞬早く、アルベルテュスの手が彼女の二の腕をつかむ。
「どこへ行く」
「城壁です! 離してください!」
魔物の青年はため息をついたかもしれない。
「危ないと言っても、貴女は行くのだろうな。俺も行こう」
「あなたが?」
「調査の約束もあるしな。といっても、正体はつかめているんだが。新手が動き出したなら、ちょうどいい機会だ」
「え…………」
どういう意味だ、と訊きかえす隙もなく、リリーベルはアルベルテュスの腕に抱きあげられる。昨夜もされた、結婚式で花婿が花嫁を抱える時の抱き方である。
「なにを…………今、そういう時では…………!」
「あそこに行きたいのだろう?」
言うと、紅の一族第六位はふわりと浮かんだ。
城壁へと、地上からの流れ星のように弧を描いて飛ぶ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました
七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。
「お前は俺のものだろ?」
次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー!
※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。
※全60話程度で完結の予定です。
※いいね&お気に入り登録励みになります!
捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~
水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。
彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。
失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった!
しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!?
絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。
一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる