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■ 後見人、ヨシュア・クインの訪問
※①と③を繋ぐ話です。
エリュドランに移り住む準備が整う中、俺は帝国内のある家を訪れていた。
郊外にある小さな家で、そこでひっそりと暮らす年若い二人の元を訪ねていた。
「ヨシュア様。ようこそお越しくださいました。あの子も待っています。大体の事情は伝えてあります。とても聡い子ですから、幼くてもちゃんと話せば理解できます」
成人を迎えたばかりのダイアナは、酷いことをした男の誰よりも近い身内の俺を、嫌な顔をせずに出迎えてくれた。
ダイアナに案内されて居間に入ると、椅子にちょこんと行儀よく座っている男の子がいた。
褐色の肌色は、母親とは似なかったらしい。
黒髪に黒目も、父親と同じ特徴だ。
俺を見た途端に立ちあがろうとしたから、座ったままでいいよと手で制した。
「はじめまして。君のことを知っているけど、じっさいに会うのは初めてだね」
「はじめまして。ヨシュアさま」
あまり笑わない子という印象だ。
表情が変わらない。
「緊張しなくていいよ。ダイアナと同じように接してくれたら、嬉しいかな」
とは言っても、緊張とはまた別の感じがした。
小さな男の子は、まだ5歳だと言うのに利発そうに見える。
でも、黒い澄んだ双眸が俺を見上げるから、汚れた大人達の事情に振り回させてしまって、申し訳なく思った。
せめて俺は、君の味方でありたいけど。
しゃがんで、目線を合わせて話しかける。
「聞いての通り、君に大事な話をしに来たわけだけど、俺はね、素敵な女性との結婚が決まって、エリュドランに引っ越すことになったんだ。その女性ってのがね、本当に素晴らしい女性で、女神と見間違うほどで、もちろん君のおばさんだって帝国が誇る美人だけど。あ、見間違うほどって言っても、俺にとっての女神は本当にその女性で」
「ヨシュア様」
おっと。
五歳児相手に、アリアナの素晴らしさを語り尽くそうとしたら、ゴホンと咳払いをされてしまった。
「それで、俺はこれから存分に幸せになる予定だけど、君も、俺と一緒にエリュドランに行った方がいいと思って、だから今日ここに来たんだ」
じっと、俺を見つめて話を聞いている。
五歳児がこんなに人の話をちゃんと聞けるのもすごいと思う。
「君の気持ちが一番だけど、ここに居たら、良くないことに巻き込まれるかもしれないんだ」
「それは、ダイアナも?」
「うん。そうなるかもだね。俺が直接君を守ってあげられるのは、これが最後になるかもしれないから」
考え込むように、ちょっとだけ眉を寄せている。
それは子どもらしい表情だけど、考えさせていることは、選択を迫っていることは、非情に酷なことかもしれない。
生まれ故郷を捨てろと言っているのだから。
「おれがエリュドランに行けば、ダイアナもいっしょに行かなければならない?」
「そうだね。ダイアナだけを置いていくのも心配だし、君を一人だけ連れていくのも心配だと思うよ。それから、俺のお手伝いさんが必要だから、ダイアナに手伝ってほしいなって思っているよ。君達の生活の心配は何もいらないけど、何か知りたいことはある?」
「エリュドランは、どんな国?」
「うーん、自分次第で何にでもなれる国、かな」
「良い国ってこと?」
「うん。そうだよ。それに、初めて見るものがたくさんあるはず」
「ダイアナが困らないのなら……ヨシュア様が帰った後に、もう一度ダイアナと相談してもいい?」
「いいよ。どんな選択でも君の気持ちが一番だし、君の力になれるように頑張るよ。あ、もう許可だけはもらっているのだけどね」
不安がらせている。
もう、エリュドランに連れて行く事を前提に話しているようなものだし。
結局、俺が安心したいから、この子を連れて行きたいんだ。
すまないと、思っている。
「じゃあ、今日はもうこれで帰るね。遅い時間まで待っててくれてありがとう」
立ち上がって部屋から出ようとする、その去り際のことだ。
「ヨシュア様。俺とダイアナを、救ってくれてありがとう」
どこまでの事情を聞かされているのか、こんな小さな子供に、当たり前のことなのにお礼なんか言わせてしまって、俺はちゃんと笑えていたかが心配だった。
結局、ダイアナが躊躇なくエリュドラン行きをを選択してくれたから、あの子も一緒に移住してくれる事になった。
俺がエリュドランに移住するにあたって、付き人や護衛は誰も連れて行かない。
ダイアナと、あの子と、あとは、強引についてきたアーネストくらいだ。
「私は貴方に傾倒していますので、貴方以外に仕える気はありません」
ちょっとうるさいくらいで、アーネストは嫌いじゃないから別にいいけど。
それよりも、小さな移住者にとってエリュドランでの生活が良いものであってほしいと願うよ。
エリュドランに移り住む準備が整う中、俺は帝国内のある家を訪れていた。
郊外にある小さな家で、そこでひっそりと暮らす年若い二人の元を訪ねていた。
「ヨシュア様。ようこそお越しくださいました。あの子も待っています。大体の事情は伝えてあります。とても聡い子ですから、幼くてもちゃんと話せば理解できます」
成人を迎えたばかりのダイアナは、酷いことをした男の誰よりも近い身内の俺を、嫌な顔をせずに出迎えてくれた。
ダイアナに案内されて居間に入ると、椅子にちょこんと行儀よく座っている男の子がいた。
褐色の肌色は、母親とは似なかったらしい。
黒髪に黒目も、父親と同じ特徴だ。
俺を見た途端に立ちあがろうとしたから、座ったままでいいよと手で制した。
「はじめまして。君のことを知っているけど、じっさいに会うのは初めてだね」
「はじめまして。ヨシュアさま」
あまり笑わない子という印象だ。
表情が変わらない。
「緊張しなくていいよ。ダイアナと同じように接してくれたら、嬉しいかな」
とは言っても、緊張とはまた別の感じがした。
小さな男の子は、まだ5歳だと言うのに利発そうに見える。
でも、黒い澄んだ双眸が俺を見上げるから、汚れた大人達の事情に振り回させてしまって、申し訳なく思った。
せめて俺は、君の味方でありたいけど。
しゃがんで、目線を合わせて話しかける。
「聞いての通り、君に大事な話をしに来たわけだけど、俺はね、素敵な女性との結婚が決まって、エリュドランに引っ越すことになったんだ。その女性ってのがね、本当に素晴らしい女性で、女神と見間違うほどで、もちろん君のおばさんだって帝国が誇る美人だけど。あ、見間違うほどって言っても、俺にとっての女神は本当にその女性で」
「ヨシュア様」
おっと。
五歳児相手に、アリアナの素晴らしさを語り尽くそうとしたら、ゴホンと咳払いをされてしまった。
「それで、俺はこれから存分に幸せになる予定だけど、君も、俺と一緒にエリュドランに行った方がいいと思って、だから今日ここに来たんだ」
じっと、俺を見つめて話を聞いている。
五歳児がこんなに人の話をちゃんと聞けるのもすごいと思う。
「君の気持ちが一番だけど、ここに居たら、良くないことに巻き込まれるかもしれないんだ」
「それは、ダイアナも?」
「うん。そうなるかもだね。俺が直接君を守ってあげられるのは、これが最後になるかもしれないから」
考え込むように、ちょっとだけ眉を寄せている。
それは子どもらしい表情だけど、考えさせていることは、選択を迫っていることは、非情に酷なことかもしれない。
生まれ故郷を捨てろと言っているのだから。
「おれがエリュドランに行けば、ダイアナもいっしょに行かなければならない?」
「そうだね。ダイアナだけを置いていくのも心配だし、君を一人だけ連れていくのも心配だと思うよ。それから、俺のお手伝いさんが必要だから、ダイアナに手伝ってほしいなって思っているよ。君達の生活の心配は何もいらないけど、何か知りたいことはある?」
「エリュドランは、どんな国?」
「うーん、自分次第で何にでもなれる国、かな」
「良い国ってこと?」
「うん。そうだよ。それに、初めて見るものがたくさんあるはず」
「ダイアナが困らないのなら……ヨシュア様が帰った後に、もう一度ダイアナと相談してもいい?」
「いいよ。どんな選択でも君の気持ちが一番だし、君の力になれるように頑張るよ。あ、もう許可だけはもらっているのだけどね」
不安がらせている。
もう、エリュドランに連れて行く事を前提に話しているようなものだし。
結局、俺が安心したいから、この子を連れて行きたいんだ。
すまないと、思っている。
「じゃあ、今日はもうこれで帰るね。遅い時間まで待っててくれてありがとう」
立ち上がって部屋から出ようとする、その去り際のことだ。
「ヨシュア様。俺とダイアナを、救ってくれてありがとう」
どこまでの事情を聞かされているのか、こんな小さな子供に、当たり前のことなのにお礼なんか言わせてしまって、俺はちゃんと笑えていたかが心配だった。
結局、ダイアナが躊躇なくエリュドラン行きをを選択してくれたから、あの子も一緒に移住してくれる事になった。
俺がエリュドランに移住するにあたって、付き人や護衛は誰も連れて行かない。
ダイアナと、あの子と、あとは、強引についてきたアーネストくらいだ。
「私は貴方に傾倒していますので、貴方以外に仕える気はありません」
ちょっとうるさいくらいで、アーネストは嫌いじゃないから別にいいけど。
それよりも、小さな移住者にとってエリュドランでの生活が良いものであってほしいと願うよ。
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