11 / 11
11 譲れないもの
しおりを挟む
「疲れた……」
戦闘訓練をするよりも疲れた。
一人になって室内着も脱ぎ捨てて、キャミソールと短いドロワーズ姿でベッド上に体を投げ出すと、楽になって気持ちも軽くなる。
一息ついた直後だった。
「やぁ。こんばんは」
男の声が聞こえ、咄嗟に傍に置いていた剣を構えていた。
「いい反応だね」
バルコニーに繋がる窓から入ってきた黒い影は、まだ若い男の姿をしていた。
月明かりの下で、瞳が光って見える。
髪の色は茶色か?赤毛か?
剣を向けたままゆっくりとベッドから降りた。
「オレの所に夜這いに来るとは、命はいらないらしいな」
「いや、命惜しいよ。長生きしたいし。俺、絶対にここの家主に怒られるよ」
侵入者は、室内に一歩入った状態で止まっている。
そこから中には、今のところ入る気はないようだ。
「イザークが入れ揚げてる雌がどんな子か、見にきたかったんだ」
「それで、不法侵入とは、帝国の躾の程度が窺い知れるし、公爵家も大したことはないな。お前も獣人か。私が、躾け直してやろうか?」
侵入者は私の言葉を聞いているのかいないのか、クンクンと鼻を動かしている。
「ふーん?雄の匂いが二種類?一人はイザークの匂いじゃない。それだけ男の匂いが染み付くまで一緒にいて、よくイザークが許したね」
二種類ねぇ……
「イザークが知らないわけないよね。ねぇ、その男と何をしてたの?イザークのいない時に?とんだ淫乱姫様が来たものだ」
憎しみ、怒りをぶつけるように呟いた。
「お前は、イザークの友人か何か?」
「そうだよ。だから、イザークを裏切るのなら、許さない」
「好きに言ってろ」
「認めるんだ」
男は私を睨みつけてくる。
男同士の固い友情でここに来たようだけど、勘違いも甚だしい。
相手にするのも疲れるから、一戦を交えるというのなら受けて立つつもりだった。
まぁ、でも、そこで邪魔が入ったわけで……
「ルードヴィク!!」
バンと扉が開き、イザークが鬼の形相で割り込んできた。
「エリスに近付くな!!」
イザークは駆け寄ってくると、私の前に立って視界を塞ぐ。
「エリス、他の奴に肌を見せないで」
それでイザークの上着がかけられたりもしたけど、すぐさまそれはベッドの向こうに投げ捨ててやった。
「俺はそんな女認めないからな!」
ルードヴィクと呼ばれた男が、イザークに抗議の声をあげる。
「お前はもう、帰れ!!次、エリスを驚かせたら、俺が容赦しない!!」
「お前とは絶交だ!!」
ルードヴィクはそこを涙目で叫んでおり、なんだかなぁ……と怒る気持ちも失せる。
外に出てバルコニーの縁に足をかけ、飛び降りる寸前の奴の背中に声をかけた。
「おい、ルー。次は窓からじゃなくてちゃんと玄関から来いよ」
「……」
ルードヴィクは無言で、その姿を闇夜の中に消していた。
「で、お前は何で不貞腐れているんだ?」
視線をイザークに向けると、不満げな顔は誰に向けたものなのか。
「ルードのことを、ルーと呼ばないで」
「は?」
「ルゥって呼び方は、俺だけのものだ」
「…………」
さっきの奴とは随分と仲良しのようだな。
「お前たち、乳兄弟か何かか?」
「……7歳まで、一緒に育ったってだけだ。獣人領で……」
色んな思惑の奴がいるのは仕方のないことだけど、
「まさかあいつに、命を狙われたりはしないだろうな……」
嫉妬のあまり。
「そんな事はあり得ないし、絶対にさせない!」
まぁ、あの様子を見るに悪人ってわけじゃなさそうだし、
「イザーク。お前は明日にでもルードヴィクの所にでも行って、誤解を解いてこい。あいつは私が他の男とイチャコラしていると勘違いしている。他の男の匂いがするからと言ってな」
「わかった」
「それで、仲直りをすれば解決だろ。じゃあ、私は寝る。お前はさっさと出て行け」
剣をしまうと、当然のようにイザークが出ていくと思っていたので、ベッドの中に潜り込んだ。
今の現実を忘れて夢の中に逃亡するつもりだった。
なのに、イザークの気配は外には向かわずに室内を移動していて……
「おい。何故貴様はまだそこにいる?」
体を起こして見ると、ソファーの上で横になっていたのだ。
「エリスの護衛のためだ」
「貴様から自分の身を守る必要があるだろう」
「皇族は成人になるまで」
「婚約者との性行為は禁止だと?なんの保証にもならない。うっかり一線を越えたらどうするんだ?私はポイか?」
「絶対に、そんなことはない!そうなったら、俺が皇族籍を捨てる!」
ガバリと起き上がったイザークの顔は真剣そのものだ。
「最初から別々の部屋で寝ればいいだけだろ」
「嫌だ。やっとエリスと一緒にいられるのに、離れたくない」
「バカか!もう、いい!」
掛布を引っ張って、胴体に巻き付けて横になった。
これなら気付かない内に何かされていることはないだろう。
これは、野外訓練を思い出せばいい。
人の気配がする場所での睡眠は慣れている。
いつものように完全に熟睡しなければいいのだからと思っていると、それから朝まで爆睡してしまった自分に驚いたのは、朝を迎えて目が覚めてからだった。
戦闘訓練をするよりも疲れた。
一人になって室内着も脱ぎ捨てて、キャミソールと短いドロワーズ姿でベッド上に体を投げ出すと、楽になって気持ちも軽くなる。
一息ついた直後だった。
「やぁ。こんばんは」
男の声が聞こえ、咄嗟に傍に置いていた剣を構えていた。
「いい反応だね」
バルコニーに繋がる窓から入ってきた黒い影は、まだ若い男の姿をしていた。
月明かりの下で、瞳が光って見える。
髪の色は茶色か?赤毛か?
剣を向けたままゆっくりとベッドから降りた。
「オレの所に夜這いに来るとは、命はいらないらしいな」
「いや、命惜しいよ。長生きしたいし。俺、絶対にここの家主に怒られるよ」
侵入者は、室内に一歩入った状態で止まっている。
そこから中には、今のところ入る気はないようだ。
「イザークが入れ揚げてる雌がどんな子か、見にきたかったんだ」
「それで、不法侵入とは、帝国の躾の程度が窺い知れるし、公爵家も大したことはないな。お前も獣人か。私が、躾け直してやろうか?」
侵入者は私の言葉を聞いているのかいないのか、クンクンと鼻を動かしている。
「ふーん?雄の匂いが二種類?一人はイザークの匂いじゃない。それだけ男の匂いが染み付くまで一緒にいて、よくイザークが許したね」
二種類ねぇ……
「イザークが知らないわけないよね。ねぇ、その男と何をしてたの?イザークのいない時に?とんだ淫乱姫様が来たものだ」
憎しみ、怒りをぶつけるように呟いた。
「お前は、イザークの友人か何か?」
「そうだよ。だから、イザークを裏切るのなら、許さない」
「好きに言ってろ」
「認めるんだ」
男は私を睨みつけてくる。
男同士の固い友情でここに来たようだけど、勘違いも甚だしい。
相手にするのも疲れるから、一戦を交えるというのなら受けて立つつもりだった。
まぁ、でも、そこで邪魔が入ったわけで……
「ルードヴィク!!」
バンと扉が開き、イザークが鬼の形相で割り込んできた。
「エリスに近付くな!!」
イザークは駆け寄ってくると、私の前に立って視界を塞ぐ。
「エリス、他の奴に肌を見せないで」
それでイザークの上着がかけられたりもしたけど、すぐさまそれはベッドの向こうに投げ捨ててやった。
「俺はそんな女認めないからな!」
ルードヴィクと呼ばれた男が、イザークに抗議の声をあげる。
「お前はもう、帰れ!!次、エリスを驚かせたら、俺が容赦しない!!」
「お前とは絶交だ!!」
ルードヴィクはそこを涙目で叫んでおり、なんだかなぁ……と怒る気持ちも失せる。
外に出てバルコニーの縁に足をかけ、飛び降りる寸前の奴の背中に声をかけた。
「おい、ルー。次は窓からじゃなくてちゃんと玄関から来いよ」
「……」
ルードヴィクは無言で、その姿を闇夜の中に消していた。
「で、お前は何で不貞腐れているんだ?」
視線をイザークに向けると、不満げな顔は誰に向けたものなのか。
「ルードのことを、ルーと呼ばないで」
「は?」
「ルゥって呼び方は、俺だけのものだ」
「…………」
さっきの奴とは随分と仲良しのようだな。
「お前たち、乳兄弟か何かか?」
「……7歳まで、一緒に育ったってだけだ。獣人領で……」
色んな思惑の奴がいるのは仕方のないことだけど、
「まさかあいつに、命を狙われたりはしないだろうな……」
嫉妬のあまり。
「そんな事はあり得ないし、絶対にさせない!」
まぁ、あの様子を見るに悪人ってわけじゃなさそうだし、
「イザーク。お前は明日にでもルードヴィクの所にでも行って、誤解を解いてこい。あいつは私が他の男とイチャコラしていると勘違いしている。他の男の匂いがするからと言ってな」
「わかった」
「それで、仲直りをすれば解決だろ。じゃあ、私は寝る。お前はさっさと出て行け」
剣をしまうと、当然のようにイザークが出ていくと思っていたので、ベッドの中に潜り込んだ。
今の現実を忘れて夢の中に逃亡するつもりだった。
なのに、イザークの気配は外には向かわずに室内を移動していて……
「おい。何故貴様はまだそこにいる?」
体を起こして見ると、ソファーの上で横になっていたのだ。
「エリスの護衛のためだ」
「貴様から自分の身を守る必要があるだろう」
「皇族は成人になるまで」
「婚約者との性行為は禁止だと?なんの保証にもならない。うっかり一線を越えたらどうするんだ?私はポイか?」
「絶対に、そんなことはない!そうなったら、俺が皇族籍を捨てる!」
ガバリと起き上がったイザークの顔は真剣そのものだ。
「最初から別々の部屋で寝ればいいだけだろ」
「嫌だ。やっとエリスと一緒にいられるのに、離れたくない」
「バカか!もう、いい!」
掛布を引っ張って、胴体に巻き付けて横になった。
これなら気付かない内に何かされていることはないだろう。
これは、野外訓練を思い出せばいい。
人の気配がする場所での睡眠は慣れている。
いつものように完全に熟睡しなければいいのだからと思っていると、それから朝まで爆睡してしまった自分に驚いたのは、朝を迎えて目が覚めてからだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
おしどり夫婦の茶番
Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。
おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。
一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。
【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。
BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。
何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」
何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。
百度目は相打ちで
豆狸
恋愛
「エスポージト公爵家のアンドレア嬢だな。……なにがあった? あんたの目は死線を潜り抜けたものだけが持つ光を放ってる。王太子殿下の婚約者ってのは、そんなに危険な生活を送ってるのか? 十年前、聖殿で会ったあんたはもっと幸せそうな顔をしていたぞ」
九十九回繰り返して、今が百度目でも今日は今日だ。
私は明日を知らない。
巻き戻り側妃の二・三周目
神田柊子
恋愛
戦争に負けた祖国から勝った元敵国に嫁いできたクラウディア。側妃として過ごすが、祖国に情報を流していたとして処刑される。
そして、気が付くと結婚する前に戻っていた。
ループもの、ホラー風味。異世界恋愛ベースのショートショートみたいな。
※処刑されたり、刺されたりするのでご注意ください。
※小説家になろう様にも掲載中。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる