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5 名ばかり婚
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「おい」
その不機嫌そうな声に、ハッとした。
する事がないから、座り込んで花壇を眺めてボーっとしていたみたいだ。
声のした方を見上げると、私の斜め後ろに、怒っているような、不機嫌さを露わにしたユリウスが立っていた。
その近くには、見慣れた側近の姿もある。
確か、アンベールさんとラザールさんで、彼等は護衛も兼ねている。
彼らの私を見る目は冷ややかだ。
そんな側近達の思いを知った上で敢えての行動なのか、ユリウスは私に声をかけてきた。
「花が好きなのか?」
「食べられないお花は、そんなに好きじゃないかな?暇だから、見てただけ」
ルゥがよく花とか草を食べていたなぁって、頭の中の大部分はルゥの事だから。
私の言葉に、ユリウスよりは、後ろに立つ側近二人の方が呆れた視線を投げかけてきた。
王子殿下にそんな口を利くなと、言いたいらしい。
生憎、育ちが悪いからこんな口の利き方しかできない。
「暇か。暇だよな。何もさせてもらえないお前は。羨ましい」
それにほら。王子様もなかなかの意地悪だ。
それこそ暇なんだよ。
わざわざ嫌味を言いに来るくらいには。
お飾りの王子妃に与えられる役目なんかない。
ここにきて3ヶ月になるけど、させてもらえる事もない。
移動できる範囲も限られている。
雑用とか、掃除をしていた方がまだマシだけど、それもできない。
毎日が暇を持て余す時間との闘いだった。
「暇ならこっちに来い。お前に課題を与えてやる」
返事を待たずに腕を取られると、半ば強引にその部屋に連れて行かれていた。
そこはユリウスに与えられた部屋の一つで、机に座らされると目の前にドサドサと分厚い本が積み重ねられていった。
「これを書き写して覚えろ」
「えっ!?これ全部?無理だよ」
鬼か!
「どうせ暇だろ。やれ。じゃないと、オヤツ抜きだ」
えぇ……
唯一の楽しみのオヤツ抜きになるならやるしかないけど……
難しそうな歴史書を開く。
それを紙に書き写す作業を始めると、ユリウスは少しの間だけ私の手元を見ていたけど、後で来ると言い残して、側近を連れて出て行ってしまった。
何をさせたいのか分からなかったけど、どうせ暇だし大人しく従う。
慣れない事に手が痛くなる中、課題の最中に“ハンター”の事を詳しく知る事ができたのは私の1番の収穫で、決してこれは無意味な時間ではなかった。
屋敷に閉じ込められ、城に閉じ込められて、今世の常識に疎い私が、色々な知識を身につける時間となった。
前世でリシュアが使えたストップの魔法が、魔法が存在しないこの世界でも使える事は確認している。
薄氷の上を歩く私の人生が危機に瀕したら、躊躇なく使って逃げる手段に使うつもりだ。
この書き写して覚える作業が逃げる時に役立つと思えば、案外苦にはならなくなっていた。
早くこの無意味な生活を終わらせたいとは思う。
結婚してから一度も、ユリウスのことを夫だとか、家族だとは思った事はない。
あっちもそうだろう。
お互いそう思えないのは当たり前だ。
で、自分がいつ排除の対象になるか分からなかったから、おちおち誰かに気を許すこともない。
私の家族で、大切な存在はルゥだけだ。
前世は前世として、今の自分とは切り離している部分もあったけど、でも、ルゥの事だけは切り離せなかったな。
あの後どうなったんだろうって、元気に生きて、天寿を全うしていてくれたらいいなぁって、いつも思っていた。
ルゥと過ごした2年余りは、私にとってもかけがえの無い大切な記憶だった。
その不機嫌そうな声に、ハッとした。
する事がないから、座り込んで花壇を眺めてボーっとしていたみたいだ。
声のした方を見上げると、私の斜め後ろに、怒っているような、不機嫌さを露わにしたユリウスが立っていた。
その近くには、見慣れた側近の姿もある。
確か、アンベールさんとラザールさんで、彼等は護衛も兼ねている。
彼らの私を見る目は冷ややかだ。
そんな側近達の思いを知った上で敢えての行動なのか、ユリウスは私に声をかけてきた。
「花が好きなのか?」
「食べられないお花は、そんなに好きじゃないかな?暇だから、見てただけ」
ルゥがよく花とか草を食べていたなぁって、頭の中の大部分はルゥの事だから。
私の言葉に、ユリウスよりは、後ろに立つ側近二人の方が呆れた視線を投げかけてきた。
王子殿下にそんな口を利くなと、言いたいらしい。
生憎、育ちが悪いからこんな口の利き方しかできない。
「暇か。暇だよな。何もさせてもらえないお前は。羨ましい」
それにほら。王子様もなかなかの意地悪だ。
それこそ暇なんだよ。
わざわざ嫌味を言いに来るくらいには。
お飾りの王子妃に与えられる役目なんかない。
ここにきて3ヶ月になるけど、させてもらえる事もない。
移動できる範囲も限られている。
雑用とか、掃除をしていた方がまだマシだけど、それもできない。
毎日が暇を持て余す時間との闘いだった。
「暇ならこっちに来い。お前に課題を与えてやる」
返事を待たずに腕を取られると、半ば強引にその部屋に連れて行かれていた。
そこはユリウスに与えられた部屋の一つで、机に座らされると目の前にドサドサと分厚い本が積み重ねられていった。
「これを書き写して覚えろ」
「えっ!?これ全部?無理だよ」
鬼か!
「どうせ暇だろ。やれ。じゃないと、オヤツ抜きだ」
えぇ……
唯一の楽しみのオヤツ抜きになるならやるしかないけど……
難しそうな歴史書を開く。
それを紙に書き写す作業を始めると、ユリウスは少しの間だけ私の手元を見ていたけど、後で来ると言い残して、側近を連れて出て行ってしまった。
何をさせたいのか分からなかったけど、どうせ暇だし大人しく従う。
慣れない事に手が痛くなる中、課題の最中に“ハンター”の事を詳しく知る事ができたのは私の1番の収穫で、決してこれは無意味な時間ではなかった。
屋敷に閉じ込められ、城に閉じ込められて、今世の常識に疎い私が、色々な知識を身につける時間となった。
前世でリシュアが使えたストップの魔法が、魔法が存在しないこの世界でも使える事は確認している。
薄氷の上を歩く私の人生が危機に瀕したら、躊躇なく使って逃げる手段に使うつもりだ。
この書き写して覚える作業が逃げる時に役立つと思えば、案外苦にはならなくなっていた。
早くこの無意味な生活を終わらせたいとは思う。
結婚してから一度も、ユリウスのことを夫だとか、家族だとは思った事はない。
あっちもそうだろう。
お互いそう思えないのは当たり前だ。
で、自分がいつ排除の対象になるか分からなかったから、おちおち誰かに気を許すこともない。
私の家族で、大切な存在はルゥだけだ。
前世は前世として、今の自分とは切り離している部分もあったけど、でも、ルゥの事だけは切り離せなかったな。
あの後どうなったんだろうって、元気に生きて、天寿を全うしていてくれたらいいなぁって、いつも思っていた。
ルゥと過ごした2年余りは、私にとってもかけがえの無い大切な記憶だった。
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