2 / 2
お久しぶりです
しおりを挟む
リゼ曰く、ドレスは女性の戦闘服だそうだ。
殿方を虜にするためだとか、同性に見下されないようにするためだとか、そんな理由らしい。
19歳にもなって社交界に全く縁のない私には、よく理解できない感覚だ。
だから、されるがまま身支度を整えてもらって、待ち人がいる客間へと足を運んだ。
そもそもクラム伯爵家の当主であり、ここの主人であるはずの旦那様が客間で待たされているのもおかしな話ではあるけど。
「お待たせしました、旦那様」
部屋に入ると、私の旦那様であるメルキオールさんはソファーに座っていた。
座ったまま、部屋に入った私をガン見した。
旦那様の御先祖が他国の方だったから、その容姿は黒い髪に褐色の肌が異国情緒あふれる魅力を醸し出していて、それでいて上品で優しげな目元を強調する青い瞳。
うん。
客観的に見ても素敵な男性だから、私が妻なのが今さらながらに申し訳ないな。
メルキオールさんの祖父である侯爵様の命令で私と結婚させられた可哀想なこの方は、世の貴婦人に大人気のとても端正な顔立ちをされている。
物腰も柔らかい方だから、尚の事たくさんの女性を惹きつけているらしい。
「君は……本当にアシーナなのか?」
「はい、アシーナです」
「随分と……ふっくらしたんだな……」
その言葉を聞いて、自分を一度見下ろして、また顔を上げてメルキオールさんを見た。
猫とゴロゴロしてばかりの生活で、懸念していた事ではあった。
「はい、おかげさまで、何不自由ない生活を送らせてもらえたので……ごめんなさい……太り過ぎですか?」
「いや、すまない、失言だった。別に、太っていると言ったつもりはない」
メルキオールさんは、気まずさを誤魔化すように視線をテーブルに置かれたカップに向けた。
気を取り直して。
「それで、ご用件は……?」
「ああ……その……」
人がいい旦那様は、言い出しにくいのかな。
「離縁についてでしょうか?」
「君は、離婚したいのか?」
その言葉を聞き、さも驚いたかのように旦那様は目を見開いた。
あれ?
違ったのかな?
間を取り持つように、こほんと咳払いをした旦那様は、
「いや、その……仕事がひと段落したから、君の様子を見に来たんだ」
三年ぶりにですか?
と、思ったままを口にはできなかった。
嫌味のようだから。
決して、メルキオールさんに不満を言うつもりはない。
それは、本当だ。
季節ごとの手紙のやり取りはあったし、私が領地から出る事をメルキオールさんが嫌がっていたというだけで、強要もされていないし、その他の嫌なことなど何もされていない。
向かい合って座ったメルキオールさんが、今度こそ何を言うのか。
端正なお顔だからいくらでも黙って見つめていられるけど、離婚の話じゃないのなら、なんなのかな?
「まず謝罪したいのは、先触れもなしに訪れてしまったことだ。連絡が行き違ったようで、君に送った手紙が道中の橋の崩落で届かなかったらしい」
では、メルキオールさんがここに辿り着くのも大変だったのでは?
きっと随分と迂回したはずだから、なるほど、改めて先触れを出すくらいなら直接訪れるか。
ここはメルキオールさんの家なのだから。
「はぁ、それは大変でしたね。気になさらないでください」
「それから、今まで君をここに放置してすまなかった」
「ふぇ」
まさか、それも謝罪されるとは思わずに変な声が出てしまった。
そもそも、謝罪されるようなことは何もない。
「旦那様が謝ることは何もありません。私はここで何不自由なく穏やかに過ごせています」
「旦那様ではなく、メルキオールと名前で呼んでもらえるかな」
「はい、では遠慮なく」
「僕が、君のことを面倒だと思って放置していたのは確かなんだ」
いやいや、メルキオールさんは正直過ぎでしょう。
「本当の放置とはどんなものか知っているので、メルキオールさんのこれは放置とは言いませんよ」
それを伝えると、メルキオールさんはますます表情を曇らせてしまった。
慌てて言葉を付け足す。
「なので、私はまったく気にしていません!ところで、メルキオールさんは何かご用件があったのではないですか?」
少しだけ表情を和らげたメルキオールさんは、再び話し始めた。
「僕が今日ここを訪れたのは、君に頼み事があってなんだ」
うーん、離婚の話ではない頼み事とは。
はて?と首を傾げると、
「実は、君に、タウンハウスへ来てもらいたいんだ」
「タウンハウスへ、ですか」
タウンハウスとは、つまり、王都の屋敷へということだ。
「私が何かお力になれることがあるとは思いませんが?」
学校に通ってなくて、教養もあまりない私が、女主人としての役目を果たせるわけでもなく、王都に出向いたところで何ができるかな?
「君は、ただタウンハウスにいてくれるだけでいい。ここと同じように過ごしてもらって一向に構わない。欲を言えば、一度だけ一緒に夜会に参加してもらえたらと思うけど」
メルキオールさんは、人が多く集まる場所が嫌いだと聞いた。
滅多に夜会やお茶会には参加しないと。
そんな方が、私と夜会に?
「メルキオールさんの期待に沿えるかはわかりませんが、お望みとあらば、どこへでも行きます」
今まで楽して過ごさせてもらったお礼に、何か一つくらいは恩返しをしたいとは思っていた。
殿方を虜にするためだとか、同性に見下されないようにするためだとか、そんな理由らしい。
19歳にもなって社交界に全く縁のない私には、よく理解できない感覚だ。
だから、されるがまま身支度を整えてもらって、待ち人がいる客間へと足を運んだ。
そもそもクラム伯爵家の当主であり、ここの主人であるはずの旦那様が客間で待たされているのもおかしな話ではあるけど。
「お待たせしました、旦那様」
部屋に入ると、私の旦那様であるメルキオールさんはソファーに座っていた。
座ったまま、部屋に入った私をガン見した。
旦那様の御先祖が他国の方だったから、その容姿は黒い髪に褐色の肌が異国情緒あふれる魅力を醸し出していて、それでいて上品で優しげな目元を強調する青い瞳。
うん。
客観的に見ても素敵な男性だから、私が妻なのが今さらながらに申し訳ないな。
メルキオールさんの祖父である侯爵様の命令で私と結婚させられた可哀想なこの方は、世の貴婦人に大人気のとても端正な顔立ちをされている。
物腰も柔らかい方だから、尚の事たくさんの女性を惹きつけているらしい。
「君は……本当にアシーナなのか?」
「はい、アシーナです」
「随分と……ふっくらしたんだな……」
その言葉を聞いて、自分を一度見下ろして、また顔を上げてメルキオールさんを見た。
猫とゴロゴロしてばかりの生活で、懸念していた事ではあった。
「はい、おかげさまで、何不自由ない生活を送らせてもらえたので……ごめんなさい……太り過ぎですか?」
「いや、すまない、失言だった。別に、太っていると言ったつもりはない」
メルキオールさんは、気まずさを誤魔化すように視線をテーブルに置かれたカップに向けた。
気を取り直して。
「それで、ご用件は……?」
「ああ……その……」
人がいい旦那様は、言い出しにくいのかな。
「離縁についてでしょうか?」
「君は、離婚したいのか?」
その言葉を聞き、さも驚いたかのように旦那様は目を見開いた。
あれ?
違ったのかな?
間を取り持つように、こほんと咳払いをした旦那様は、
「いや、その……仕事がひと段落したから、君の様子を見に来たんだ」
三年ぶりにですか?
と、思ったままを口にはできなかった。
嫌味のようだから。
決して、メルキオールさんに不満を言うつもりはない。
それは、本当だ。
季節ごとの手紙のやり取りはあったし、私が領地から出る事をメルキオールさんが嫌がっていたというだけで、強要もされていないし、その他の嫌なことなど何もされていない。
向かい合って座ったメルキオールさんが、今度こそ何を言うのか。
端正なお顔だからいくらでも黙って見つめていられるけど、離婚の話じゃないのなら、なんなのかな?
「まず謝罪したいのは、先触れもなしに訪れてしまったことだ。連絡が行き違ったようで、君に送った手紙が道中の橋の崩落で届かなかったらしい」
では、メルキオールさんがここに辿り着くのも大変だったのでは?
きっと随分と迂回したはずだから、なるほど、改めて先触れを出すくらいなら直接訪れるか。
ここはメルキオールさんの家なのだから。
「はぁ、それは大変でしたね。気になさらないでください」
「それから、今まで君をここに放置してすまなかった」
「ふぇ」
まさか、それも謝罪されるとは思わずに変な声が出てしまった。
そもそも、謝罪されるようなことは何もない。
「旦那様が謝ることは何もありません。私はここで何不自由なく穏やかに過ごせています」
「旦那様ではなく、メルキオールと名前で呼んでもらえるかな」
「はい、では遠慮なく」
「僕が、君のことを面倒だと思って放置していたのは確かなんだ」
いやいや、メルキオールさんは正直過ぎでしょう。
「本当の放置とはどんなものか知っているので、メルキオールさんのこれは放置とは言いませんよ」
それを伝えると、メルキオールさんはますます表情を曇らせてしまった。
慌てて言葉を付け足す。
「なので、私はまったく気にしていません!ところで、メルキオールさんは何かご用件があったのではないですか?」
少しだけ表情を和らげたメルキオールさんは、再び話し始めた。
「僕が今日ここを訪れたのは、君に頼み事があってなんだ」
うーん、離婚の話ではない頼み事とは。
はて?と首を傾げると、
「実は、君に、タウンハウスへ来てもらいたいんだ」
「タウンハウスへ、ですか」
タウンハウスとは、つまり、王都の屋敷へということだ。
「私が何かお力になれることがあるとは思いませんが?」
学校に通ってなくて、教養もあまりない私が、女主人としての役目を果たせるわけでもなく、王都に出向いたところで何ができるかな?
「君は、ただタウンハウスにいてくれるだけでいい。ここと同じように過ごしてもらって一向に構わない。欲を言えば、一度だけ一緒に夜会に参加してもらえたらと思うけど」
メルキオールさんは、人が多く集まる場所が嫌いだと聞いた。
滅多に夜会やお茶会には参加しないと。
そんな方が、私と夜会に?
「メルキオールさんの期待に沿えるかはわかりませんが、お望みとあらば、どこへでも行きます」
今まで楽して過ごさせてもらったお礼に、何か一つくらいは恩返しをしたいとは思っていた。
37
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
お父様、ざまあの時間です
佐崎咲
恋愛
義母と義姉に虐げられてきた私、ユミリア=ミストーク。
父は義母と義姉の所業を知っていながら放置。
ねえ。どう考えても不貞を働いたお父様が一番悪くない?
義母と義姉は置いといて、とにかくお父様、おまえだ!
私が幼い頃からあたためてきた『ざまあ』、今こそ発動してやんよ!
※無断転載・複写はお断りいたします。
病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します
佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。
セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。
婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。
「君を愛することはない」と言った夫と、夫を買ったつもりの妻の一夜
有沢楓花
恋愛
「これは政略結婚だろう。君がそうであるなら、俺が君を愛することはない」
初夜にそう言った夫・オリヴァーに、妻のアリアは返す。
「愛すること『は』ない、なら、何ならしてくださいます?」
お互い、相手がやけで自分と結婚したと思っていた夫婦の一夜。
※ふんわり設定です。
※この話は他サイトにも公開しています。
尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜
ともどーも
恋愛
「今回で最後だ。誓うよ」
これは二度目の『結婚式キャンセル』の時に言われた言葉。
四年間、愛する婚約者ディートリッヒのため尽くし続けてきたイリス。
だがディートリッヒは、イリスの献身を当然のものとし、やがて初恋の令嬢エレノアを優先するようになる。
裏切り、誤解、そして理不尽な糾弾。
心も身体も限界を迎えた夜、イリスは静かに決意した。
──もう、終わらせよう。
ディートリッヒが「脅しのつもり」で差し出した婚約解消の書類を、イリスは本当に提出してしまう。
すべてを失ってから、ようやく自分の愛に気づいたディートリッヒ。
しかしもう、イリスは振り返らない。
まだ完結まで執筆が終わっていません。
20話以降は不定期更新になります。
設定はゆるいです。
私が彼から離れた七つの理由・完結
まほりろ
恋愛
私とコニーの両親は仲良しで、コニーとは赤ちゃんの時から縁。
初めて読んだ絵本も、初めて乗った馬も、初めてお絵描きを習った先生も、初めてピアノを習った先生も、一緒。
コニーは一番のお友達で、大人になっても一緒だと思っていた。
だけど学園に入学してからコニーの様子がおかしくて……。
※初恋、失恋、ライバル、片思い、切ない、自分磨きの旅、地味→美少女、上位互換ゲット、ざまぁ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうで2022年11月19日昼日間ランキング総合7位まで上がった作品です!
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?
久遠りも
恋愛
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?
※一話完結です。
ゆるゆる設定です。
いざ離婚!と思ったらそもそも結婚していなかったですって!
ゆるぽ
恋愛
3年間夫婦としての実態が無ければ離婚できる国でようやく離婚できることになったフランシア。離婚手続きのために教会を訪れたところ、婚姻届けが提出されていなかったことを知る。そもそも結婚していなかったことで最低だった夫に復讐できることがわかって…/短めでさくっと読めるざまぁ物を目指してみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる