出来損ないと呼ばれた公爵令嬢の結婚

奏千歌

文字の大きさ
17 / 27

17 見るな

しおりを挟む
 何とか鼻で呼吸が可能になったメリンダは、未だ地面を転がっています。

 その横に立つハーバートさんが、メイソン子爵の指示を受けたからなのか、こちらに杖の先端を向けました。

 明らかに正常な状態にないハーバートさんをどうすればいいのか、胸の前で自身の拳を握りしめていると、そんな私の横で、


「うーん……薬じゃないね」

「ですね。あれは、何かしらの魔法です。初めて見ました」

「それなら、?」




 美味しいお菓子を分け合うようなお二人の会話でしたが、そんな微笑ましいものではないのは分かります。

 アタナシアさんとイライアス様とのそんな会話が繰り広げられている最中でも、ハーバートさんはどこを見ているのか、でも杖の先端を向けている方向は私がいる場所で、

「加護が動く。大丈夫だよ」

 イライアス様ののんびりとした言葉が聞こえて、竦み上がる間もなくその杖の先から放たれた火球は、目の前で、私を守るように出現した光に弾かれて消滅しました。

 私の身の上には、何も起きていません。

 空気すら震えていませんでした。

「────!」

 今度は、アタナシアさんが聞き取れない言葉を発すると、掲げた杖の先から放たれたが、ハーバートさんの体を貫いて消えました。

 膝をついて、胸を押さえたハーバートさんに、思わず駆け寄ります。

「ハーバートさん!!」

 俯いていた顔は苦悶に歪んでいました。

「すまない……俺は……よりにもよってエリを、傷つけるところだった……」

 でも、私を見る眼差しは光を宿し、気遣うような優しげなものでした。

 良かった。いつものハーバートさんです。

「私は大丈夫です。守ってくださったのも、ハーバートさんです。お怪我は、ありませんか?」

「大丈夫だ。心配をさせてしまった。依頼を受けた帰りに襲撃を受けて、記憶を奪われそうになって、咄嗟に自分の記憶を封印して、焦るあまりに大切なエリとの思い出もしまい込んでしまったから、こんな状況になってしまったんだ。すまなかった。エリを傷付けてしまって」

「ハーバートさんが謝る必要など、何一つありません。ハーバートさんが無事なら」

 そんな会話をする私達の背後には、“計画が狂った”と、ワナワナと震えている人達がいました。

 今度はハーバートさんが怒りを滾らせて、彼らを見つめています。

 それは、今まで見たことがないほど憎悪に満ちたもので、背筋を冷や汗が伝っていきます。

 ふらつきながらも立ち上がるハーバートさんを支えると、視線は子爵達を睨んだまま、片腕で私の頭を抱き寄せて、顔を自身の胸に押しつけて、それはまるで何も見るなと言うようで……

 視界が閉ざされると、ハーバートさんの杖を握っていた腕が動く気配がありました。

 それからすぐに聞こえてくる、断続的な男女の悲鳴。

 何が起きているのか、ハーバートさんが、今、どんな顔で、何をしているのか、私には知る術がありません。

 鼓動がやたらと近くで聞こえているのを、自分以外の体温と共に感じていることしかできませんでした。

 どれだけそうされていたのか、ハーバートさんの体が離れ、視界が開放されると、誘拐の主犯の二人は、宙をみつめて、ボーッとしています。

 口の端から涎を垂らし、目からは光が失われていました。

 二人が座りこんでいる地面には、不自然なシミも生まれています。

 あーとか、うーとか、言葉ではない声も発しています。

 その姿に、本能的な怖れを感じ、思わずハーバートさんの服にしがみついていました。

「エリ」

 安心させるように名前を呼んでくれた人を見上げると、見慣れたハーバートさんの姿です。

「ハーバートさんはね、自分にかけられた禁術をラーニングして、そのままあの人達にやり返したんだよ。だからもう、あの人達は、ハーバートさんのことを忘れているよ。しばらく動けないだろうね」

 それだけではなかったのだと思いますが、アタナシアさんが簡単には説明してくれました。

「やぁ。他国の魔法使いさんだね」

 今度はそんな声が聞こえてそちらを見ると、イライアス様が人好きのする笑顔で残された魔法使いに話しかけていました。

 もう一人残っているのを、すっかり忘れていました。

「私はこの国の第一王子だ。君は、我が国の登録魔法使いを無断で連れ出そうとしていたのかな?国際条約以前の問題で、問答無用で拘束されてもおかしくないよね。たとえ、フロンティア公国の魔法使いだとしても。今なら、記憶を奪うだけで帰してあげるけどどうする?でも、その前に全て話してもらわないとならないかなぁ。最近、獣人の傭兵団が大量に流入してあちこちで騒ぎを起こしているんだ。何か知ってるかな?ああ、でも、君は、禁呪を使用する魔法使いなんだよね。君自身が問題を運んでいる可能性もあるのかな?困ったなぁ。あ、もしかして君、今流行りの“梟”だったりする?」

 少しも困ったような表情ではなく、相変わらず微笑を浮かべたままです。

 大人しくしていると思った魔法使いが攻撃するように杖を掲げて、思わず声をあげそうになりました。

 そうして放たれたではありましたが、イライアス様は剣を一振りしただけで、涼しい顔をしています。

「さぁ、話を聞こうかな」

 それで分かったことを簡単に言うと、子爵家の当主が、司祭から司教に推薦してもらう為の賄賂として、知識を持ったハーバートさんを差し出すといったものでした。

 何かを実行するための協力者を大公家令息が探していて、その為に獣人の傭兵と、この魔法使いを駆り出したそうです。

 でも、何を実行しようとしているのかは、わかりません。

 幸い、いい土産があると言っただけで、ハーバートさんの情報はまだどこにも伝えていないので、この場だけの処理でどうにかなるようでした。

 という内容の情報を、アタナシアさんが無力化している間に、ハーバートさんが頭に手を乗せるだけで抜き取ってしまっていました。

 魔法使いさんが三人もいれば、本当に色んなことができるようです。

 国が一人でも多くの魔法使いを囲いたがるはずでした。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした

鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました 幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。 心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。 しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。 そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた! 周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――? 「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」 これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

【完結】私を捨てた国のその後を見守ってみた。

satomi
恋愛
侯爵令嬢のレナは公然の場でというか、卒業パーティーで王太子殿下イズライールに婚約破棄をされた挙句、王太子殿下は男爵令嬢のラーラと婚約を宣言。 殿下は陛下や王妃様がいないときを狙ったんでしょうね。 レナの父はアルロジラ王国の宰相です。実家にはレナの兄が4名いますがみんなそろいもそろって優秀。 長男は領地経営、次男は貿易商、3男は情報屋、4男は…オカマバー経営。 レナは殿下に愛想をつかして、アルロジラ王国の行く末を見守ろうと決意するのです。 次男監修により、国交の断絶しているエミューダ帝国にて。

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました

丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、 隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。 だが私は知っている。 原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、 私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。 優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。 私は転生者としての知識を武器に、 聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、 王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。 「婚約は……こちらから願い下げです」 土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。 私は新しい未来を選ぶ。

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

処理中です...