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第十六話 出会い
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「なあ、冒険者ギルドに行くんだよな」
「当たり前じゃないっすか」
「いや、でもあれって城だぞ」
「そっすね」
ビバティースが向かう先は小高い丘。そこには中世ヨーロッパ風の巨大建築物が待ち構えている。上端が尖っている所謂ザ・キャッスルである。
「いやだから、俺は王様には用がないんだけど」
「何を言ってるっすか? 王はあそこじゃないっすか」
ビバティースが顔を向けた先は天を突きさす巨塔。《天界への道》だ。
「ああ、そうだった。じゃああれは何だ?」
「だから冒険者ギルドっす!」
「まじか? なんであんなにデカいんだよ」
「この国のギルドの総本山っすからね」
「にしても仰々しくないか」
「冒険者ギルドはこの国を二分するほどの勢力っすよ。ギルド長は王と対等の立場にあるんすよ」
「へー、それは凄いな。他の国もそうなのか?」
「おいらも行ったことないから正確なことはわからないっす。でも、聞くところによると他も同じような感じらしいっす」
「そうか、機会があったら他の国にも行ってみたいな」
「そんな気軽に行けないっすよ」
「なんで?」
「ルイスって本当にこの国の国民っすか?」
疑わしい眼差しを送ってきやがった。
「そうだけど。ド田舎の小さな村に住んでたから世情に疎いんだよ」
「国民の他国への移動は基本的に禁じられているっす」
「でも冒険者は自由なんじゃないのか? それこそ国を二分する勢力なんだろ」
「それが国との合意事項っす。もちろん、例外もあるっす」
「それは?」
「ギルドランクB以上になることっす。Bはギルドに申請して許可が下りれば移動できるっす。A以上は完全にフリーっす」
「破格の扱いだな」
「というかギルドも国も彼らには何も言えないっす。敵に回すと小さな国なら傾きかねないっすから」
すげーなAランク。一国の軍事力に匹敵するのかよ。まあでも当面の目標が決まった。国に縛られるなんてまっぴらだ。
「まずはギルドランクを上げることからだな」
「あ、FからEランクはすぐに試験を受けれるっすよ」
「おお、そうなのか」
「中身は……。知りたいっすか?」
手の平を俺に差し出して来た。
「またかよ」
「十倍返しでもいいなら取らないっすよ」
「確かに情報は貴重なのは認めるけど。いくらなんだ?」
「銀貨一枚っす」
つまり一万ギルだ。俺の手持ちは残り五万ギル。
「あーもう。ほらよ」
「まいどー」
「実はですね……」
試験の詳細を事細かに教えてくれた。なんでこいつそんなこと知っているんだ。
「なるほど、しかしやっかいだな」
「そうっすね。あっ! 奇遇にもここにこんなカプセルが」
「それはなんだ?」
「よくぞ聞いてくれたっす。これはっすね――」
確信犯だった。ギルドに行くと聞いて初めからこれを持ってきたのだろう。
「一万ギルっす」
「くっ……。わかったよ」
懐がどんどん寂しくなっていく……。早く稼がないと破産だ。
「さて、登録窓口に着いたっす」
「うお、すげー広いな! つーか、ただの広場じゃねーか」
「最低ランクだから仕方ないっす。有象無象っす」
「確かに犇めいているな」
広場のあちこちに建てられたテント。仮設感満載だ。ギルドの受付だけでなく、屋台まででていた。テントの下で酒盛りする冒険者たち。ばか騒ぎしている光景はまるで盗賊の酒盛り。うーん、さすが底辺。まあ、国中から一攫千金を狙って力自慢とか、荒くれ者が集っているのだろう。
「あ、ちょっといいっすか」
「なんでしょうか?」
列の整理をしている男性係員にビバティースが歩み寄る。
「こっちの人がギルドに登録したいんだけど」
「それでしたら、あちらのテントに行ってください」
係員は列が乱れないように区切っていた鎖を外し、人が疎らなテントを指さした。
「おい、お前いま」
「時は金なりっす。こんなところで数時間待たされるとかありえないっす」
係員に金を握らせたようだ。向こうの対応も慣れたものだった。おそらくこの街では普通のことなんだろう。日本人気質としてはついつい狡いと思ってしまう。郷に入っては郷に従えだよな。
「それではこの書類に記入してください」
申請書は前回と同じだ。出身地はビバティースの助言に従って適当に記入した。年齢は十八にでもしておくか。さて問題は家名だな。ファイゴスにはできない。そもそもギルドに改めて登録し直す理由がそれを変えたかったからだ。行方不明の俺がこの名で活動すれば、ギルドを通じて誰かにバレてしまうかもしれない。
「はい、人族のセノオウ=ルイスさんですね」
「ああ」
結局、前世の苗字にしてしまった。嫌な思い出ばかりしかない。それでもその名で呼ばれるとしっくりくるのだ。この世界でのルイスと前世の妹尾の記憶が混じり合ったのが今の俺だ。ならば苗字に向こうの名を使ってもいいだろう。
「身元保証人はおいらがなるっす」
ビバティースが商人カードを係員に渡す。銀色のカードだった。それがペーペーなのかベテランなのかは俺にはわからない。ただ、保証人とは認められたようだ。
「では、こちらがギルドカードになります」
いま俺が持っているのとまったく同じだった。当たり前か。
「じゃあ、おいらは店に戻るっす。これ以上、客を待たせるわけにはいかないっす」
「客いなかったけどな」
「失礼っす!」
「冗談だよ。ありがとう。マジで助かった」
「礼はこれでお願いっす。期待して待っているっすよ」
手の平を裏返し、人差し指と親指で輪っかを作るビバティース。こっちの世界でも銭を意味するようだな。まあ、この場合は金目のアイテムということだろうが。
走り去るビバティースを見送ると、再びカウンターへと向き直る。
「それで、ランクアップ試験を受けたいんだけど」
「こちらは登録専用なので、あちらのカウンターでお願いします」
げ、正規の登録窓口よりも長蛇の列じゃねーかよ。数時間は待つことになりそうだ。
「いやー、そこを何とか」
「仕方ないですねー。今回だけですよ」
カウンターに銀貨一枚を置いたらすんなりいった。この野郎。
「FからEのランクアップ試験はある魔物を倒すことです」
「ふむ」
「地界への穴の二階の最奥。そこにいる魔物を討伐して魔結晶を持ち帰ること。それが合格の条件です」
「ふむ、それで魔物の種類は?」
「生憎ですが、それを含めて試験なので教えられません」
ビバティースの言う通りだった。地下二階なんだから誰かに聞けばすぐにわかるじゃん。そう思うが、その通路はギルドの試験専用で入れないらしい。しかも魔物の種類はその日その日で代わると来たものだ。商人のビバティースはなぜか今日の魔物の種類を知っていた。腐っても商人ってことか。
「よし、じゃあ行って来る」
「あ、お待ちください。まだ説明は終わっておりません」
「まだあるのか?」
「ええ、試験は試験官の立ち合いの元で行われます」
「え? 聞いてないぞ」
「ええ、だからいま説明しているのです」
そんな情報は聞いていない。
「それと、二人一組でパーティを組んで頂きます」
「えっ……」
それも聞いていないぞ。あの野郎。中途半端な情報を掴ませやがって。これで魔物の種類まで違っていたら、出っ歯をぶん殴って矯正してやるからな。
「ルイスさんはこの街の出身じゃなかったですね」
「ああ、申告の通りだ」
どこの出身って書いたっけ。やべー思い出せない。
「この街に来てからどの程度たちますか?」
「着いたのは昨日だ」
「そうですか。ならちょうどいいですね」
「なにが?」
「知り合いと組むのはNGなんです。では、あちらの椅子に腰かけている女性と組んでもらいます。いま試験官を呼んできますんで、一緒に待っていてください」
「えっ。あ、おい――」
係員はそそくさと城の方へと歩いていってしまった。
「あー、もう」
頭を掻きながら隣のテントに近づく。見ず知らずの人に声をかけるのは正直苦手だ。しかも女性ときたもんだ。汚らわしい目で見るなとか言われたらどうしよう。
「あのー、すみません」
「えっ? 私?」
ぼーっと座っていた少女が首を傾げる。このテントには君しかいないよ。他に誰に声をかけるというのか。
「あなたと一緒にランクアップ試験を受けるように言われ――」
「ほんと!? やったやった! よろしくね!」
両手を掴まれてぶんぶん振り回された。ゴールドな髪が揺れ、日の光を浴びてキラキラと輝く。眩しいほどの満面の笑みだ。おお、ゴールドな瞳って初めて見たかも。歳は中三くらいか。ああ、前世の妹もこのくらい可愛げがあれば……。
「あ、俺はルイスっていうんだ」
「私はアンヘレスよ。なかなか人が見つからなくって……。三時間もここで待たされたのよ」
「うへー。逆に俺はすぐに見つかってラッキーだったということか」
「そうね! あなたはラッキーよ!」
クスクスと笑う少女。随分と明るい子だな。まったくもって冒険者に似つかわしくない。
「それであなたの得意な属性は? あ、私は光よ」
「あ、えっと……」
いや、普通気づくよね?
「彼は無能です」
「うひやっ!?」
いつのまにか背後に人が立っていた。なにこいつ無表情で不気味なんだけど。
「あなた……。何をしにこんな所まで」
「もちろん、ランクアップの試験官ですよ」
「なんであなたが!」
「私は冒険者ギルドの一員でもあるのです。こう見えてBランクなんですよ」
父と同じ階級だ。確かに背後をとられたのに全然気づかなかった。かなりの腕なのだろう。しかし、こいつが現れてからアンヘレスが完全に不機嫌になったな。知り合いっぽいけど。
「じゃあ、そろそろ行こうぜ」
「えっ。そ、そうね!」
藪蛇になるので突っ込みはしない。無駄に関わらず、サクッと試験を終わらせよう。
「ああ、ちょっと待ってください」
「まだなんかあるの?」
「高性能な武器に頼ることがないように武器が統一されているのです。きみの武器は?」
「剣だ」
「そうですか。申し訳ないですが、これを使ってください」
試験官が片手剣を差し出す。
「え、これって……」
「ええ、銀の剣です。さすがに鉄の剣だと心許ないので、属性がよく通るこれを使用することになっています」
「鉄製の剣はないの?」
「申し訳ありませんが、これで規格が統一されています」
「そっか、なら仕方ないな」
属性の通らない銀の剣……。
鉄の方が何倍もましじゃねーか!
統一しているのは商業ギルドとの兼ね合いもあるのかもしれないな。この街の特産でもある銀。それを多量に捌くルートの一つなんじゃないか。こういう役所仕様って美味しいんだよ。定期的に一定量はけるし、値段もほぼ決まっている。ぼったくることは期待できないかもしれないが、安定した商売だよな。
学校給食とか冠婚葬祭の仕出しとかも安定した商売らしい。
「ねー、早くいこうよ!」
アンヘレスがうずうずしていた。肩をぶんぶん回している。いや、きみ魔法使いだよね。
ほんとこの娘ってなんで冒険者なんかやっているんだろ?
「当たり前じゃないっすか」
「いや、でもあれって城だぞ」
「そっすね」
ビバティースが向かう先は小高い丘。そこには中世ヨーロッパ風の巨大建築物が待ち構えている。上端が尖っている所謂ザ・キャッスルである。
「いやだから、俺は王様には用がないんだけど」
「何を言ってるっすか? 王はあそこじゃないっすか」
ビバティースが顔を向けた先は天を突きさす巨塔。《天界への道》だ。
「ああ、そうだった。じゃああれは何だ?」
「だから冒険者ギルドっす!」
「まじか? なんであんなにデカいんだよ」
「この国のギルドの総本山っすからね」
「にしても仰々しくないか」
「冒険者ギルドはこの国を二分するほどの勢力っすよ。ギルド長は王と対等の立場にあるんすよ」
「へー、それは凄いな。他の国もそうなのか?」
「おいらも行ったことないから正確なことはわからないっす。でも、聞くところによると他も同じような感じらしいっす」
「そうか、機会があったら他の国にも行ってみたいな」
「そんな気軽に行けないっすよ」
「なんで?」
「ルイスって本当にこの国の国民っすか?」
疑わしい眼差しを送ってきやがった。
「そうだけど。ド田舎の小さな村に住んでたから世情に疎いんだよ」
「国民の他国への移動は基本的に禁じられているっす」
「でも冒険者は自由なんじゃないのか? それこそ国を二分する勢力なんだろ」
「それが国との合意事項っす。もちろん、例外もあるっす」
「それは?」
「ギルドランクB以上になることっす。Bはギルドに申請して許可が下りれば移動できるっす。A以上は完全にフリーっす」
「破格の扱いだな」
「というかギルドも国も彼らには何も言えないっす。敵に回すと小さな国なら傾きかねないっすから」
すげーなAランク。一国の軍事力に匹敵するのかよ。まあでも当面の目標が決まった。国に縛られるなんてまっぴらだ。
「まずはギルドランクを上げることからだな」
「あ、FからEランクはすぐに試験を受けれるっすよ」
「おお、そうなのか」
「中身は……。知りたいっすか?」
手の平を俺に差し出して来た。
「またかよ」
「十倍返しでもいいなら取らないっすよ」
「確かに情報は貴重なのは認めるけど。いくらなんだ?」
「銀貨一枚っす」
つまり一万ギルだ。俺の手持ちは残り五万ギル。
「あーもう。ほらよ」
「まいどー」
「実はですね……」
試験の詳細を事細かに教えてくれた。なんでこいつそんなこと知っているんだ。
「なるほど、しかしやっかいだな」
「そうっすね。あっ! 奇遇にもここにこんなカプセルが」
「それはなんだ?」
「よくぞ聞いてくれたっす。これはっすね――」
確信犯だった。ギルドに行くと聞いて初めからこれを持ってきたのだろう。
「一万ギルっす」
「くっ……。わかったよ」
懐がどんどん寂しくなっていく……。早く稼がないと破産だ。
「さて、登録窓口に着いたっす」
「うお、すげー広いな! つーか、ただの広場じゃねーか」
「最低ランクだから仕方ないっす。有象無象っす」
「確かに犇めいているな」
広場のあちこちに建てられたテント。仮設感満載だ。ギルドの受付だけでなく、屋台まででていた。テントの下で酒盛りする冒険者たち。ばか騒ぎしている光景はまるで盗賊の酒盛り。うーん、さすが底辺。まあ、国中から一攫千金を狙って力自慢とか、荒くれ者が集っているのだろう。
「あ、ちょっといいっすか」
「なんでしょうか?」
列の整理をしている男性係員にビバティースが歩み寄る。
「こっちの人がギルドに登録したいんだけど」
「それでしたら、あちらのテントに行ってください」
係員は列が乱れないように区切っていた鎖を外し、人が疎らなテントを指さした。
「おい、お前いま」
「時は金なりっす。こんなところで数時間待たされるとかありえないっす」
係員に金を握らせたようだ。向こうの対応も慣れたものだった。おそらくこの街では普通のことなんだろう。日本人気質としてはついつい狡いと思ってしまう。郷に入っては郷に従えだよな。
「それではこの書類に記入してください」
申請書は前回と同じだ。出身地はビバティースの助言に従って適当に記入した。年齢は十八にでもしておくか。さて問題は家名だな。ファイゴスにはできない。そもそもギルドに改めて登録し直す理由がそれを変えたかったからだ。行方不明の俺がこの名で活動すれば、ギルドを通じて誰かにバレてしまうかもしれない。
「はい、人族のセノオウ=ルイスさんですね」
「ああ」
結局、前世の苗字にしてしまった。嫌な思い出ばかりしかない。それでもその名で呼ばれるとしっくりくるのだ。この世界でのルイスと前世の妹尾の記憶が混じり合ったのが今の俺だ。ならば苗字に向こうの名を使ってもいいだろう。
「身元保証人はおいらがなるっす」
ビバティースが商人カードを係員に渡す。銀色のカードだった。それがペーペーなのかベテランなのかは俺にはわからない。ただ、保証人とは認められたようだ。
「では、こちらがギルドカードになります」
いま俺が持っているのとまったく同じだった。当たり前か。
「じゃあ、おいらは店に戻るっす。これ以上、客を待たせるわけにはいかないっす」
「客いなかったけどな」
「失礼っす!」
「冗談だよ。ありがとう。マジで助かった」
「礼はこれでお願いっす。期待して待っているっすよ」
手の平を裏返し、人差し指と親指で輪っかを作るビバティース。こっちの世界でも銭を意味するようだな。まあ、この場合は金目のアイテムということだろうが。
走り去るビバティースを見送ると、再びカウンターへと向き直る。
「それで、ランクアップ試験を受けたいんだけど」
「こちらは登録専用なので、あちらのカウンターでお願いします」
げ、正規の登録窓口よりも長蛇の列じゃねーかよ。数時間は待つことになりそうだ。
「いやー、そこを何とか」
「仕方ないですねー。今回だけですよ」
カウンターに銀貨一枚を置いたらすんなりいった。この野郎。
「FからEのランクアップ試験はある魔物を倒すことです」
「ふむ」
「地界への穴の二階の最奥。そこにいる魔物を討伐して魔結晶を持ち帰ること。それが合格の条件です」
「ふむ、それで魔物の種類は?」
「生憎ですが、それを含めて試験なので教えられません」
ビバティースの言う通りだった。地下二階なんだから誰かに聞けばすぐにわかるじゃん。そう思うが、その通路はギルドの試験専用で入れないらしい。しかも魔物の種類はその日その日で代わると来たものだ。商人のビバティースはなぜか今日の魔物の種類を知っていた。腐っても商人ってことか。
「よし、じゃあ行って来る」
「あ、お待ちください。まだ説明は終わっておりません」
「まだあるのか?」
「ええ、試験は試験官の立ち合いの元で行われます」
「え? 聞いてないぞ」
「ええ、だからいま説明しているのです」
そんな情報は聞いていない。
「それと、二人一組でパーティを組んで頂きます」
「えっ……」
それも聞いていないぞ。あの野郎。中途半端な情報を掴ませやがって。これで魔物の種類まで違っていたら、出っ歯をぶん殴って矯正してやるからな。
「ルイスさんはこの街の出身じゃなかったですね」
「ああ、申告の通りだ」
どこの出身って書いたっけ。やべー思い出せない。
「この街に来てからどの程度たちますか?」
「着いたのは昨日だ」
「そうですか。ならちょうどいいですね」
「なにが?」
「知り合いと組むのはNGなんです。では、あちらの椅子に腰かけている女性と組んでもらいます。いま試験官を呼んできますんで、一緒に待っていてください」
「えっ。あ、おい――」
係員はそそくさと城の方へと歩いていってしまった。
「あー、もう」
頭を掻きながら隣のテントに近づく。見ず知らずの人に声をかけるのは正直苦手だ。しかも女性ときたもんだ。汚らわしい目で見るなとか言われたらどうしよう。
「あのー、すみません」
「えっ? 私?」
ぼーっと座っていた少女が首を傾げる。このテントには君しかいないよ。他に誰に声をかけるというのか。
「あなたと一緒にランクアップ試験を受けるように言われ――」
「ほんと!? やったやった! よろしくね!」
両手を掴まれてぶんぶん振り回された。ゴールドな髪が揺れ、日の光を浴びてキラキラと輝く。眩しいほどの満面の笑みだ。おお、ゴールドな瞳って初めて見たかも。歳は中三くらいか。ああ、前世の妹もこのくらい可愛げがあれば……。
「あ、俺はルイスっていうんだ」
「私はアンヘレスよ。なかなか人が見つからなくって……。三時間もここで待たされたのよ」
「うへー。逆に俺はすぐに見つかってラッキーだったということか」
「そうね! あなたはラッキーよ!」
クスクスと笑う少女。随分と明るい子だな。まったくもって冒険者に似つかわしくない。
「それであなたの得意な属性は? あ、私は光よ」
「あ、えっと……」
いや、普通気づくよね?
「彼は無能です」
「うひやっ!?」
いつのまにか背後に人が立っていた。なにこいつ無表情で不気味なんだけど。
「あなた……。何をしにこんな所まで」
「もちろん、ランクアップの試験官ですよ」
「なんであなたが!」
「私は冒険者ギルドの一員でもあるのです。こう見えてBランクなんですよ」
父と同じ階級だ。確かに背後をとられたのに全然気づかなかった。かなりの腕なのだろう。しかし、こいつが現れてからアンヘレスが完全に不機嫌になったな。知り合いっぽいけど。
「じゃあ、そろそろ行こうぜ」
「えっ。そ、そうね!」
藪蛇になるので突っ込みはしない。無駄に関わらず、サクッと試験を終わらせよう。
「ああ、ちょっと待ってください」
「まだなんかあるの?」
「高性能な武器に頼ることがないように武器が統一されているのです。きみの武器は?」
「剣だ」
「そうですか。申し訳ないですが、これを使ってください」
試験官が片手剣を差し出す。
「え、これって……」
「ええ、銀の剣です。さすがに鉄の剣だと心許ないので、属性がよく通るこれを使用することになっています」
「鉄製の剣はないの?」
「申し訳ありませんが、これで規格が統一されています」
「そっか、なら仕方ないな」
属性の通らない銀の剣……。
鉄の方が何倍もましじゃねーか!
統一しているのは商業ギルドとの兼ね合いもあるのかもしれないな。この街の特産でもある銀。それを多量に捌くルートの一つなんじゃないか。こういう役所仕様って美味しいんだよ。定期的に一定量はけるし、値段もほぼ決まっている。ぼったくることは期待できないかもしれないが、安定した商売だよな。
学校給食とか冠婚葬祭の仕出しとかも安定した商売らしい。
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相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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