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第二十四話 昇格
しおりを挟む「はあっ!」
剣を横薙ぎすると、極大の真空刃が発生し邪竜を襲う。
グガァァアア!?
「ちっ、うまいこと躱しやがったな」
でも、右足を斬り落とすことに成功した。
ドガガガガガガガガガガガ!
あ、またこのパターンかよ……。
真空刃が止まらない。どこまでもダンジョンの壁をぶち抜いていく。
うん、新しいダンジョンってこうやってできるんだな。
「なら、これならどうだ!」
アイテムボックスに剣をしまい、代わりに新たな物を取り出す。直径二十センチほどのリング状の武器だ。右手で挟み持ち、勢いよく投擲した。
おお、高速回転しながら輪がデカくなっていく。直撃する寸前には直径が数メートルにもなっていた。
ギガァアアアアア!?
ぶっとい尻尾を失い激痛にのたうち回るドラゴン。
「うーん、やっぱり狙いがそれたか」
狙いは頭部だったが、あらぬ方向へと飛んでいった。的が異常に大きいから当たってよかったよ。チャクラムなんて生まれて初めてだもん。見た事もなかったし。そして二度と投げることはないかもしれない。
なぜなら、それもまた新しいダンジョンを生み出しつつ壁の奥へと消えていったからだ。
「んじゃー、気を取り直してこれいってみよう」
左手に鎌を持ち、右手の鎖をぐるんぐるん回す。ひゅんひゅんという風切り音が格好いいかも。
「そらよ! あっ!?」
鎖の先端の分銅が灼熱に輝き、ドラゴンの頭を砕く――。ことはなく天井を突き破っていった。
「良かったよ。飛んでいったのが上で……」
後ろにはパーティメンバーが控えていたからな。
「お、鎖は自動で伸びていくのか。なら引っ張れば戻ってくるかな。うりゃっ!」
ドゴォォオオオオオオオン!
グギィィイイイイイィィィィ――ィ――。
「うん、狙い通りだな」
三十メートルほどもあった高い天井が崩れ落ち、邪龍を押潰した。身動きのとれなくなったところに直径五メートルサイズの灼熱の分銅が襲いかかり、止めを刺した。もう、頭がぐしゃっとね……。気持ち悪い。
「そんな嘘ですわ」
失礼だな。俺は頭を狙い。最終的にちゃんと潰したぞ。
「あれほど強力な魔導具はそうそうないですわ。一介の冒険者に過ぎないルイスさんがなぜあれほど保有していらっしゃるの」
ああ、そっち。
「ちょっとわけありでな。うちの故郷に大量の魔武具が隠されていたんだよ。俺はそれを発掘したのさ」
「そんな。でしたら……。まだ他にも魔導具を?」
「ああ、持ってるぞ。いくつあるかはヒミツだけどな」
魔導具を繰り返し使える《インフィニティ》の異能。それがバレるのだけは阻止したかった。ならば魔道具を何個も隠しもっている怪しい奴と思われた方がまだましだ。だから繰り返し発動させることは止めて、武器を取り変えたのだ。
「た、た、助かったの?」
「あははは、良かった、良かったですぅ」
「ああっ!? さすがのわたくしでも強力な魔力が流れ込んでくるのを感じますわ」
よかった。不感症ではなかったみたい。
「あ、兄貴ぃぃいいいい! ぐはっ!?」
「ルイスさん。なぜレッドさんを殴ったのかしら」
「ばっちいからに決まってるだろ!」
鼻水と涙に塗れた顔。百歩譲ってそれは大目に見てもいい。いや見れないけど。でも問題はそこじゃない。三人が腰を抜かしていた場所には黄金色の水たまりが出来ていたのだ。もう下半身がぐしょぐしょなんだよ。
「お前ら、とりあえずまずはクリーンをかけろ」
「えっ!? きゃぁああ!?」
「あ、あ、あ、も、申し訳ありません!」
股間を押さえて顔を真っ赤にする二人。いや、なんか申し訳ない。俺はとりあえず後ろを向くことにした。
「ねえ、ルイス……」
「あ? なんだ終わったか?」
振り向くと目の前でモジモジするアンヘレス。なんだあんなに漏らしたのにまだし足りないのか? あれ? 狐のお面はどこいった? あ、黄金の池に浮いている……。
「あんなはしたない姿みられちゃった……。わたしもう御嫁にいけないよ……」
「気にするな。俺は何も見なかった」
「ううん、もう駄目なの。だから責任とって私の王子様になって!」
いや、私のじゃなくて本当の王子様になりそうな予感がするからお断りします。
「ああそれなら心配するな。あれは全部、レッドの小便だ。お前らはその上に座っていて濡れただけだぞ。勘ちがいするな」
「えっ、そうなの?」
「あ、兄貴! 俺一人じゃあんなに――。ぐがぁっ!?」
馬鹿犬は余計なことを言うな。空気をよみやがれ。
「まさかルイスさんがこんな隠し玉を持っていたなんて、びっくりしましたわ」
「ま、それはいいからさ。さっさと地上に戻ろうぜ。さすがに疲れた」
「そうですわね」
みなも一斉に頷く、邪竜との闘いで肉体よりも精神的な摩耗が激しいのだ。
「ああ、なんか生きて帰ってきたって気がします」
「太陽さんいつもありがとー!」
転移結晶に触れると一瞬でダンジョンの外。照りつける真昼の日差しが徹夜明けの目に痛い。
「さっさとギルドに行って今日は解散するぞ」
*****
「こちらが新しいギルドカードになります」
お? いつもと違う受付嬢だな。スーツをびしっと着込んだ姿は日本でのキャリアウーマンみたいだ。
「おっし! たった二回でギルドランクが上がったぞ」
ダンジョンに泊まり込んだかいがあった。一番の苦闘は一晩中続く歯ぎしりだったけどな。あれなら徹夜で戦っていた方が随分ましだ。
「やったね! この調子ならあっという間にAランクだね!」
アンヘレスも満面の笑顔――。だと思う。
だって狐のお面の口元は吊り上がり常に怪しく嗤って見えるからさ。声音で判断するしかないんだよね。しかし、クリーンをかけたとはいえ、よくそのお面を被れるね……。
「こんなに早く昇格することは通常ありえません」
ギルドの受付嬢の顔が若干引き攣っていた。
「あれ? このカード違わないか?」
「いえ間違いございません」
「あれ、Dランクって青じゃなかったけ?」
「その通りでございます」
「いや、これ紫色だけど」
他のメンバーの色も確認するが、俺だけじゃなくみんな同じだった。
「ええそうですね」
「これってCランクじゃねーの?」
「ええそうですね」
「なんで?」
「Cランクへの昇格条件は累積ギルドポイントが一万五千です。皆様のいまのポイントはおおよそ二万となっております。ですから、EランクからCランクへの昇格となります」
「兄貴やったな!」
「凄いです! Dランクを飛び越してしまいました!」
「わたしギルドランクってこんな簡単に上がるって知らなかった!」
「ですから! こんなに早く上がることはありえません!」
たしかに、ダンジョンの魔物はほぼ全て殲滅してきたけど。さすがにこれは早すぎるよな。
「通常であれば皆様はまだEランクのままです」
「ならなんで?」
「ルイスさん。お分かりにならないのですか? あなたの所業ですわ」
「えっ?」
「エルダードラゴンのなかでも災厄級の邪竜。あれの討伐ポイントは一体で九万ポイントになります」
「そ、そんなになるのか……」
「報酬もパーティカードに入れておきました」
「うそっ!?」
受け取った手が震えてしまった。カードに印字されていた数字。それは、10,014,000ギル。日本円に換算するとほぼ一億円だ。五人で等分しても一人二百万ギルだ。いっきに大金持ちになってしまった。
「うわぁああ! すごいです! お肉が山ほど食べれます!」
「お代わり十回はできるな!」
レッドのおつむには脳みそが詰まってないこと確定。いや知ってたけど。
「それとギルドマスターがお呼びです」
「え?」
「災厄級の魔物を倒したのです。なぜあのような階に出た事も含め、ご報告ねがいます」
「いや、それは遠慮しておく」
「いいからギルドマスターの所へいってください!」
「俺は帰って寝るからまたいつかな」
「は!? ふざけるなこの野郎!?」
キャリアウーマンがブチ切れるとあれだね。ちょっと怖いね。
「ルイスさんたちは帰ってもらっても構いませんわ。私が代表で行ってまいります」
「勝手に決めないでください! メンバー全員参加しなさい! これはギルド命令です!」
「貴方。そんな口聞いて後悔しないのかしら。狐のお面さんにもそれ言ってるのよね」
「は!? なにを――。えっ……。あ、いえ……」
「あれ? どうしたの?」
アンヘレスはこてっと小首を傾げる。いや、その面でされても可愛くないからね。
「ということなので私だけ行ってきます」
「そりゃ助かるけど……」
「大丈夫です。くれぐれもあの事は口外しませんわ」
「そうか、ならよろしく頼む」
正直、眠くてだるくてフラフラしているんだよ。まともに会話できる自信もない。徹夜明けでインフィニティを何度か発動させたからだろうか。
まあ、レオーラならうまくやってくれるだろう。それなりの身分だし、実力もピカイチだからな。
早々に皆と別れて宿へと戻った。装備を脱ぎ、下着を着替えようかと思ったがあまりのだるさにベッドに体を埋める。
「やっぱり使ったのは不味かったかな。まあでもあと一ランクだ」
Bランクになれば国外に出ることも可能だ。でも、レオーラ以外のメンバーを強化しないとやばいな。あいつらCランクに上がったはいいけど実力が伴っていない。このままではどこかで命を落とす危険がある。
あ、でも今日の邪竜を倒した魔力が共有できていれば相当強くなっているのかな。
とりとめもないことを考えていたら、いつのまにか眠りに落ちていた。
一人で寝るのって最高――。
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