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第三十七話 天界への道
しおりを挟むしゃがみ込んで手を伸ばす。うん肌ざわりが心地いい。さすが高級魔導具だけはあって、元となる生地も一流品のようだ。でも深紅な色が派手すぎて趣味が悪いよな。いやまあ、うちの家族は好きなんだろうけどさ。
何をしているかと聞かれたら、地面に置いたマントを皺なく伸ばしているとしか答えれない。
「よし、綺麗に敷けたな。では、よっと!」
深紅のマントに力を籠めると端の方から漆黒へと徐々に塗りつぶされていく。『鉄壁マント』と呼ばれるものだ。発動後は一定時間の間、どんなに強力な物理攻撃であれど一度限りなら無効にできるという代物だ。
あれ? それって俺が着ければ無敵じゃねーの? と思ったが。あまりに強力な攻撃を受けると使用後に布地がボロボロになるらしい。やはりそこまで都合はよくないようだ。
俺は立ち上がると、布の上に土足であがる。なんか綺麗なマントに土足で乗るのって気が引ける。
「さて……。うまくいくかな」
左右を見回し改めて周囲に誰も居ないことを確認する。目の前には黒い壁。首を傾け頭上を見上げる。目の前の壁は何処までも上に続き天を貫いていた。向上された視力でもその先端はやはり見えなかった。
「さて、やるか……」
俺は膝を曲げると、渾身の力を籠めて跳躍する。もの凄い爆発音が足元であがった。
「ぐぅ……」
とてつもないGを感じた。もの凄いスピード高度が上がって行く。完全に人間ロケットだなこれ……。人気を避けて入口とは反対側の裏手に回って良かった。
雲をいくつか突っ切った。
やべー、なんか息苦しくなってきた。下を俯くと自分がどれだけ高い位置を飛んでいるかがわかる。おそらく高度数万メートルに達しているんじゃないだろうか。
「ふう、だいぶ速度が落ちて来たか。あ、でも息苦しいのは増してるかも。空気が相当薄いのか」
俺は人間がいや全ての生物が達することのできない高度にまで到達していた。しかし――。
「これでも先端が見えないのかよ……」
この塔は本当に天界に通じているのだろうか。いや、もしかしたら宇宙に繋がっているのかもしれない。数は違えど月はあるんだしな。
さらに五分ほど経過した。
上昇スピードがかなり落ちてきた。この速度だとよくわかる。塔は一定間隔の長さで継ぎ目が見て取れる。まさか人工物なのか。
お、もう少しでベクトルが逆向きになりそうだ。俺はアイテムボックスから黒い穂先の槍を取り出し、塔の壁を勢いよく突く。このままでは落ちるだけだしな。
「お、刺さった。あ、駄目だ……。早くしないと気を失うレベルだなこれ……」
異世界に来て強靭な肉体となっても、さすがにこのレベルの酸素の薄さには耐えられなさそうだ。意識が朦朧としてきた。
左手で槍の棒部分を掴み、ぶら下がりながら右手に新たなアイテムを取り出す。
「ゼェ…ゼェ……ゼェ……。次はこれだ……」
鎖付きの鉄球を何度も前後に揺すり、思いっきり壁に叩きつけた。
「おお、いけた……」
小さいながらもぽっかりと白い穴があいた。酸欠に苦しみながらも、鉄球を繰り返し壁に叩きつけ、人が入れるくらいのサイズにまで穴を広げた。
「い…く……ぞ……」
左手の槍を離し、空気を蹴って穴の中へと飛び込む。
「はぁ、はぁ、はぁ……。良かった。やっぱり塔の中の空気は調整されていたか」
濃度の濃い酸素が旨い。俺は何度も深呼吸して肺に新鮮な空気を取り込む。
「しかし、なんだここは。地下のダンジョンとはまったく違った感じだな」
室内は想像以上に明るかった。床も壁も天井も光沢のある材質。全てが仄かに白く輝いていた。
天井の高さは五メートルはありそうだな。幅も天井と同じ位か。ここは階層にすると何階なんだろう。少なくとも数千階、下手すると万を超えているのかもしれない。前人未踏の階ってことだけは確かだろう。
「これって廊下なのか」
左手は壁しかない。入ってきた穴がそっちなので外壁なのだろう。通路は湾曲に曲がってその先が見えない。塔の外周部に廊下があるということか。
そして右手にはドアのようなものが一定間隔で幾つか見えた。取っ手はないようだけどどうやって開けるのだろう。
「まあ、とりあえず一番近くのドアにいってみるか」
ペタペタペタと足音が響いた。あ――。
「やっぱ壊れていたのか」
いつの間にか履いていたブーツが消えてなくなっていた。おそらく全力に耐えられなかったのだろう。始めのグローブ以来だな。
俺は新たなブーツに履き替え、ドアの前に立つ。
シュン――。
「変わった自動ドアだな……」
左右に開くではなく、完全に目の前から消えてしまった。魔法なのか?
「ここは――。武器庫?」
広い室内には棚が整然と並んでいた。棚の上には短剣や長剣、槍や、斧などがびっしりと飾られていた。
でもおかしいな。なぜ一つ一つ透明のケースに納めているんだ。しかも似たような武器はあるが同一のものは一つも無かった。
「刀まであるのかよ」
どう見てもザ・日本刀だった。石斧や矢尻のような原始的な武器まである。これはどういうことだ?
「え……。これってリボルバー?」
TVや雑誌でよく見かけた回転式拳銃。あ、ショットガンやマシンガンのようなものもある。
「どれどれ――。おお!?」
真贋を見分けようとして持ち上げようとしたら、ケースが勝手に消えた。まったくもって仕組みも理由もわからん。まあ、魔法ってそういうものなんだろう。
「この肌ざわりは本物か……」
勿論、実物を触ったことなんてない。それでもずっしりとした重厚感がマジ物っぽかった。
「な、なんだ!?」
首筋にチリチリと焼けるような嫌な感じ。しかも今までにないほど強烈だ。俺は急いで部屋を飛び出し、廊下にでる。
ケタケタケタケタ
「なんだあいつら……」
着物を来た子供――。いや、人形か。
おかっぱ頭の無表情な白い顔。口を上下にカタカタと開きながら迫って来る姿は不気味としかいえない。寝る前に見たら駄目なやつだ。
「出来の悪いカラクリ人形が何用だよ」
ケタケタケタケタ
「うおっ!?」
笑っていたかと思うと口から吹矢を放ちやがった。躱したそれは壁にあたると紫色の染みを作った。まさか毒でも塗ってあるのか?
「物騒なことしやがって!」
剣を取り出し一閃する。通路一杯に広がった真空刃がからくり人形の首を一斉に落とした。首の落ちたからくり人形は動きを停止し、そして一斉に爆発した。
「大したことねーな。っていうか爆発するってもしかしてロボット?」
これも魔導具なのかな?
ケタケタケタケタ
「またかよ」
先ほどより一回り大きなカラクリ人形だった。同じように剣を一閃するが、首の半ばで真空刃が掻き消されてしまった。
「ふん、ならもう一発食らえ!」
同じ場所を狙って真空刃を放つと。今度は首が転がった。
ゲタゲタゲタゲタ
「し、しつこいな……」
さらに大きなからくり人形が現れる。形も色もまったく同じだ。しかしサイズが二メートルを超えている。
「げ!?」
上下させる口の中に見えるのはどう見ても銃口だ。
「おらおらおらおら!」
気合を込めて剣を何度も振り抜く。四、五回あててやっと倒せた。でも、なんとか弾を放つ前に倒せたようだ。
ゲラゲラゲラゲラゲラ
「あ、無理かも……」
通路を覆うようなサイズのカラクリ人形が縦列でこちらに向かってきた。ゲラゲラと笑う口の中はどうみても大砲。戦車かよ……。
「て、撤収ぅううううう!?」
カラクリ人形に背を向けて入ってきた穴へと走る。
後ろで大きな爆発音が上がった。
俺は予備のマントを纏い穴から飛び出す。
「ぐぅぁああああ!?」
背中に熱い衝撃が走った。
「な、な…んで……」
このマントはどんな物理攻撃でも防げるんじゃなかったのか――。
奈落の底へと落ちてく感覚を最後に俺は意識を手放した。
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