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第一世界 ロージェン(さあ、魔王討伐だ!)
第二十四話 P祭り(後編)
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「スージーを三人前くれ!」
「こっちはテプラを五人前だ!」
「はーい。喜んでにゃ~」
法被姿のララがテーブルの間を走り回る。とても生き生きとした表情だ。
「うぉぉおおお!? 美味え! なんだこの脂の乗りは!?」
「プリスマを刺身で食べれるなんて夢のようだな!」
「いや、これは刺身とは言わないらしいぞ」
「なに!? どういうことだ」
「コメの上に乗っているだろ。これはジースという新しい料理らしいぞ」
「ジースにつけるこの黒いタレはなんだ!? プリスマのために生み出された秘伝のタレなのか! めっちゃくちゃ合うぞ!」
「俺は、このツンと鼻に抜ける調味料が堪らん」
「ワビサビだっけか?」
「ふん、ジース―よりもこっちの方が美味えよ! 外はサクサクだが中はジューシー。俺はこのプラテの味を生涯忘れないだろう。この塩との相性が抜群だな」
「それはターウォの湖から作った塩らしいぞ」
「湖なのに塩が採れるのか?」
「ああ、温泉が湧いているので湖水中にミネラルを豊富に含んでいるんだ。ただ、相当な水量を蒸発させても僅かにしか採れないようだぞ。この上品でまろやかな口当たりが噂になって、いまやプリスマと同じように幻の塩と呼ばれているらしいぜ」
「俺はこのオロイポンジの利いたトンツユが好みだな」
「確かにこれは……。さっぱりと清涼感のあるツユがプラテの衣をしっとりと包み込み、脂っぽさをまったく感じさせないな」
「なんにせよ……」
「「「「超旨いな!」」」」
「爺よ、城の料理人が出すプリスマよりもここのが格段に美味だぞ。これが朝獲れという奴なのか……」
「いえ、新鮮なこともありますがこのプリスマは脂の乗りが格別です。調味料の類もこれに合わせるために長年かけて独自で開発されたのでしょう。このゼースとテラプはこの街の新たな名物になること間違いございません」
「くっ、あの公爵邸は王族で買いとるべきだったか……
「いやいや想像以上に大盛況だ」
うちの屋台の前には長蛇の列。馬鹿でかい噴水を一周するほどの行列ができていた。
「なんか口コミで噂が拡散しているらしいわね」
「伝言ゲームの結果、元の料理名を失いつつあるけどな」
しかもなんかお偉いさんまで並んでないか。
「場所もいいわよね」
「でも直前にエントリーしたんだぞ。にもかかわらず、この一等地にこれだけの敷地が用意されるってのはどういうことだ?」
噴水広場は街の中心だ。この周辺に出店するには、祭りが終わってすぐの一年前に行われる抽選に勝ち残らなければならない。そう聞いていた。
しかも大人気なだけあって一店舗に割り当てられる出店スペースも非常に小さい。みな基本的に商品は店頭渡しだ。なのに我々の出店場所はテーブルを幾つか置くことのできる十分なスペースが確保されていた。そんな店は他にはほとんどないぞ。
「それは元公爵邸についている特権と王都でその名を馳せた有名シェフへの期待。さらにはA級冒険者への配慮って奴だな。商業ギルドと冒険者ギルドで敷地を工面したんだよ。大変だったんだぞ。他の店に頭を下げて少しずつスペースを譲ってもらってここを作り上げたんだ。正直、出店するならもっと前に連絡が欲しかった」
いつのまにか禿げが隣に立っていた。
「言っておくが俺のはスキンヘッドだからな」
なぜ何も言ってないのに俺を睨む。
「まったく余計なことをしてくれる。俺はこんな一等地に出店させてくれと言った覚えはないんだけどな」
そもそもあの屋敷を買ったのはつい先日だ。前もって連絡など不可能だろーが。
「いや、あのセソとチリピルを試食した時に確信した。これはこの街の新たな名物になるとな! 商業ギルドの連中も同じさ。だから一番良いところに無理やりにでも場所を確保したのだ」
「言っておくが、それすでに元の料理名が一文字も含まれていないからな」
想定外の立地条件による集客効果もあり、うちの屋台は完全に戦場と化していた。俺も手伝おうとしたが、やんわりと断られてしまった。もうすぐ旅にでる旨を伝えてあったのだ。今日はこの街一番のお祭りを堪能してくださいと言われてしまった。気を使わせてしまったかな。
*****
「でも、久々よね」
「ん? 何がだ?」
「二人っきりで出かけるの」
ララは売り子でオーグは一人で屋台巡り。確かに久々かもしれないな。淡い草色の浴衣姿。結った髪はお祭り仕様で上げられている。露わになった白い首筋が祭りの灯りで照らされ、妖艶な美しさを醸し出していた。普段から美少女ではあるが、大人びたルシアの雰囲気に胸が高鳴ってしまう。
「あ、あれ、そういえばいつの間に浴衣に?」
「えへへ、こっそり着替えたの。これも執事さんが用意してくれたの。どう?」
コールマンのしてやったり顔が目に浮かんだ。だがこれはいい仕事をしたと褒めてつかわそう。
「うん。法被姿も可愛かったけど、浴衣は凄く綺麗だ」
ルシアははにかむように笑うと俺の腕に手を絡ます。柔らかい感触が腕に伝わる。あれ? 皆無と思ってたけど意外とあったのね。
「もう、どこ見てるのよ!」
「あ、いや、あ、あそこにたくさん人が集まっているけどなんだろうな」
「ほんとね。とにかく行ってみましょうよ」
「そ、そうだな」
くそ、ドキドキがなかなかおさまらない。幼馴染と思っていたし、超年下だし。あ、俺じゃなくてルシアがね。なんていったって俺の累積年齢は三十路を超えているのだから。しかしもう駄目かも。そろそろ自分の気持ちを認めないといけないようだ。
ただ、ロリコンだとは認めないからな。精神が体に引っ張られているのだ。赤ん坊の時は一切欲情なんてしなかった。美人のエルフの院長の胸に抱かれたときだってそうだ。三十路ではそうはいかないはずだ。そう、精神と肉体は表裏一体なのだ。決して少女趣味ではない……。
「ささ、そこの若いカップルさんも、御神籤いかがですか~」
巫女服姿のお姉さんに声をかけられた。
「えへへー、カップルだって。カイトやっていこうよ」
「へえ、神殿まで祭りに出店するんだな」
「ええ、神を崇める祭りも同時に兼ねてますので」
「カイトはどれにする?」
「ん? どれって御神籤じゃないのか?」
「戦闘系と魔法系、生活系がお選び頂けます」
「へ?」
「効果は低いですが様々なスキルを授けて頂けるのです」
「ええ!? まじで! 御神籤なんかでか?」
「はい、本日だけの神の思し召しです」
「何回できるんだ?」
「最大でそれぞれ一回ずつになります」
「おー、なら全部やるよ」
「でしたら、お布施は二人で二十万ジェンになります」
「ぼったくり!?」
「失礼ですね。違います。一本だけならたったの百ジェンです。どなたも引くことができます。二本で千ジェン。欲深い三本の方だけ十万ジェンとなります」
「ぬぬぬぬぬ」
確かにもらえるものなら全部貰おう!と思ったさ。でもそれって人として自然な考えだろ。欲深いってそこまで言う事ないじゃないか。別に金なら腐るほどあるからいいもんね!
「ちなみにここと奥ので御神籤箱の質感が明らかに違うのはなぜだ?」
目の前のは木箱。店の奥の方にあるのは何製かは不明だが金色に輝いていた。
「あちらはより効能の高いスキルの得られる御神籤でございます」
「ならあっちのを引かせてくれよ」
「いえ、あちらは敬虔な信者の方々専用の特別な御神籤でございます。神に長らく奉仕された信徒にのみ賜れる神からのギフトになります」
とてもお前らのような餓鬼が引いていいものじゃない、そう瞳が語っていた。
「あれ? あそこにいるのって」
「ああぁぁあああ!?」
俺と目があった神父さんが物凄い勢いでこちらに飛んできた。
「あ、あなた様は! ほ、本日はどのような思し召しで!」
「い、いや、たまたま通りかかったら御神籤をやっているって聞いてな」
「そ、そうですか!? では奥の神殿までどうぞ!」
「神父さま!? 何を仰っているのですか!」
「え、そこの奥の御神籤じゃないのか?」
「いえ、神のご加護を賜れている方は礼拝堂に特別に用意してございます。あなた様は加護どころか使徒様ですので御神籤なぞ必要ないかとは存じますが」
「いや、やってみようか。よろしく頼むわ」
巫女のお姉さんが驚愕した顔でこっちを見ていた。なんか少しだけ気持ち良かった。水戸黄門ってこんな感じだったのかな。
「じゃ、わ、私からいくわね」
恐る恐る神像の口へと手をいれるルシア。なにこの真実の口みたいなモニュメント。しかも、手を突っ込むと神像の目がカッと見開くとか怖すぎる。
「ほんとにスキルが! でも――」
ルシアを鑑定すると、確かにスキルを複数獲得していた。新しく得たのは『ダメージ半減(その分、カイト=シドーへ加算)』『同時召喚』『お菓子作り中級(1/10)』
「ごめんなさいカイト。なんか身代わりのようなスキルを得ちゃった」
「いや正直ナイスなスキルだ。俺のHPは膨大だから全く問題ない。これで少しでもルシアの危険が減ると思えば気が楽になる」
同時召喚もかなり使える。攻撃と防御それぞれの召喚獣を呼べば効果的だろう。どの神様か知らないがグッジョブだ。絶対俺のことを知っている神なのは間違いないな。
「やったー! これで大好きなお菓子を自分で作れる! カイトにも作ってあげるね!」
本人はお菓子作りを一番喜んでいたが。
「じゃー、今度は俺の番か」
「「「えっ!?」」」
手を突っ込んだ瞬間、神像が音を立てて崩れ落ちたのだ。おいおいどうなっているんだよ。スキルなしとか止めてくれよ。恐る恐るステータスを確認すると『飛翔術初級(1/5)』『魔法吸収初級(1/5)』『和食創造』『神器破壊』の四つをゲットしていた。あれ? スキルは三つじゃなかったのか。まあ、細かいことはいいか。おそらくこのゲットしたばかりの神器破壊のスキルの所為で像が砕けたのだろう。
「ねえ、大丈夫? スキルは得られたの?」
「ああ、ばっちりだ。神父さん壊して悪かったな」
「い、いえ! 予備はございますので大丈夫です。拝顔させて頂いただけでも光栄至極にございます」
長居しても碌なことにはならなさそうだ。そう思った俺は神殿をそそくさと後にした。
しかし、飛翔と魔法吸収のスキルは初級だけど次の世界では役に立ちそうだ。和食創造もでかいな。これで食べ物に不自由することはないだろう。和食は世界で一番洗練されていると聞いたことがあるが、あれは間違いだな。
和食は異次元の世界全てを合わせてもおそらく一番だ。ビバ和食! 俺はそう思う。
その後しばらく、色々な屋台や出店をルシアと回った。地球にいたときではとても想像できないほど満ち足りた時間だった。一人じゃない世界。それはこんなにも色鮮やかなのだろうか。
ああ、ずっとこの世界に留まることはできないのかな。その想いが日増しに強くなるのは避けられないことだった。
「うわー凄い! 綺麗だね……」
「ほんとだな」
祭りの締めは花火だった。魔法を盛り込んでいるのか花火の絵柄が様々でどれも精巧だった。この国の国旗、街のシンボルマークから始まり、色とりどりのプリスマが夜空を舞う。クライマックスでは水面に巨大な半円が描かれた。水上スターマインだ。湖全体に広がる花火はまさに圧巻というしかなかった。
ルシアと二人で湖畔の芝生に腰かけ、空を見上げていた。彼女は俺にもたれかかり頭を肩に乗せる。なんかいい匂いがする。
「また来年も一緒に見れるかな」
「ああそうだな」
真実を彼女に伝えないといけない。残された時ももうほとんど残されていないのだ。でもそれを聞いた時にルシアはどう思うのか。どう変わってしまうのか。いまのこの関係が幻のように消えて無くなりそうで怖かった。
「そろそろ帰ろっか?」
「ああ……」
勇気の足りない俺は最後までそれを口に出すことができなかった。
「こっちはテプラを五人前だ!」
「はーい。喜んでにゃ~」
法被姿のララがテーブルの間を走り回る。とても生き生きとした表情だ。
「うぉぉおおお!? 美味え! なんだこの脂の乗りは!?」
「プリスマを刺身で食べれるなんて夢のようだな!」
「いや、これは刺身とは言わないらしいぞ」
「なに!? どういうことだ」
「コメの上に乗っているだろ。これはジースという新しい料理らしいぞ」
「ジースにつけるこの黒いタレはなんだ!? プリスマのために生み出された秘伝のタレなのか! めっちゃくちゃ合うぞ!」
「俺は、このツンと鼻に抜ける調味料が堪らん」
「ワビサビだっけか?」
「ふん、ジース―よりもこっちの方が美味えよ! 外はサクサクだが中はジューシー。俺はこのプラテの味を生涯忘れないだろう。この塩との相性が抜群だな」
「それはターウォの湖から作った塩らしいぞ」
「湖なのに塩が採れるのか?」
「ああ、温泉が湧いているので湖水中にミネラルを豊富に含んでいるんだ。ただ、相当な水量を蒸発させても僅かにしか採れないようだぞ。この上品でまろやかな口当たりが噂になって、いまやプリスマと同じように幻の塩と呼ばれているらしいぜ」
「俺はこのオロイポンジの利いたトンツユが好みだな」
「確かにこれは……。さっぱりと清涼感のあるツユがプラテの衣をしっとりと包み込み、脂っぽさをまったく感じさせないな」
「なんにせよ……」
「「「「超旨いな!」」」」
「爺よ、城の料理人が出すプリスマよりもここのが格段に美味だぞ。これが朝獲れという奴なのか……」
「いえ、新鮮なこともありますがこのプリスマは脂の乗りが格別です。調味料の類もこれに合わせるために長年かけて独自で開発されたのでしょう。このゼースとテラプはこの街の新たな名物になること間違いございません」
「くっ、あの公爵邸は王族で買いとるべきだったか……
「いやいや想像以上に大盛況だ」
うちの屋台の前には長蛇の列。馬鹿でかい噴水を一周するほどの行列ができていた。
「なんか口コミで噂が拡散しているらしいわね」
「伝言ゲームの結果、元の料理名を失いつつあるけどな」
しかもなんかお偉いさんまで並んでないか。
「場所もいいわよね」
「でも直前にエントリーしたんだぞ。にもかかわらず、この一等地にこれだけの敷地が用意されるってのはどういうことだ?」
噴水広場は街の中心だ。この周辺に出店するには、祭りが終わってすぐの一年前に行われる抽選に勝ち残らなければならない。そう聞いていた。
しかも大人気なだけあって一店舗に割り当てられる出店スペースも非常に小さい。みな基本的に商品は店頭渡しだ。なのに我々の出店場所はテーブルを幾つか置くことのできる十分なスペースが確保されていた。そんな店は他にはほとんどないぞ。
「それは元公爵邸についている特権と王都でその名を馳せた有名シェフへの期待。さらにはA級冒険者への配慮って奴だな。商業ギルドと冒険者ギルドで敷地を工面したんだよ。大変だったんだぞ。他の店に頭を下げて少しずつスペースを譲ってもらってここを作り上げたんだ。正直、出店するならもっと前に連絡が欲しかった」
いつのまにか禿げが隣に立っていた。
「言っておくが俺のはスキンヘッドだからな」
なぜ何も言ってないのに俺を睨む。
「まったく余計なことをしてくれる。俺はこんな一等地に出店させてくれと言った覚えはないんだけどな」
そもそもあの屋敷を買ったのはつい先日だ。前もって連絡など不可能だろーが。
「いや、あのセソとチリピルを試食した時に確信した。これはこの街の新たな名物になるとな! 商業ギルドの連中も同じさ。だから一番良いところに無理やりにでも場所を確保したのだ」
「言っておくが、それすでに元の料理名が一文字も含まれていないからな」
想定外の立地条件による集客効果もあり、うちの屋台は完全に戦場と化していた。俺も手伝おうとしたが、やんわりと断られてしまった。もうすぐ旅にでる旨を伝えてあったのだ。今日はこの街一番のお祭りを堪能してくださいと言われてしまった。気を使わせてしまったかな。
*****
「でも、久々よね」
「ん? 何がだ?」
「二人っきりで出かけるの」
ララは売り子でオーグは一人で屋台巡り。確かに久々かもしれないな。淡い草色の浴衣姿。結った髪はお祭り仕様で上げられている。露わになった白い首筋が祭りの灯りで照らされ、妖艶な美しさを醸し出していた。普段から美少女ではあるが、大人びたルシアの雰囲気に胸が高鳴ってしまう。
「あ、あれ、そういえばいつの間に浴衣に?」
「えへへ、こっそり着替えたの。これも執事さんが用意してくれたの。どう?」
コールマンのしてやったり顔が目に浮かんだ。だがこれはいい仕事をしたと褒めてつかわそう。
「うん。法被姿も可愛かったけど、浴衣は凄く綺麗だ」
ルシアははにかむように笑うと俺の腕に手を絡ます。柔らかい感触が腕に伝わる。あれ? 皆無と思ってたけど意外とあったのね。
「もう、どこ見てるのよ!」
「あ、いや、あ、あそこにたくさん人が集まっているけどなんだろうな」
「ほんとね。とにかく行ってみましょうよ」
「そ、そうだな」
くそ、ドキドキがなかなかおさまらない。幼馴染と思っていたし、超年下だし。あ、俺じゃなくてルシアがね。なんていったって俺の累積年齢は三十路を超えているのだから。しかしもう駄目かも。そろそろ自分の気持ちを認めないといけないようだ。
ただ、ロリコンだとは認めないからな。精神が体に引っ張られているのだ。赤ん坊の時は一切欲情なんてしなかった。美人のエルフの院長の胸に抱かれたときだってそうだ。三十路ではそうはいかないはずだ。そう、精神と肉体は表裏一体なのだ。決して少女趣味ではない……。
「ささ、そこの若いカップルさんも、御神籤いかがですか~」
巫女服姿のお姉さんに声をかけられた。
「えへへー、カップルだって。カイトやっていこうよ」
「へえ、神殿まで祭りに出店するんだな」
「ええ、神を崇める祭りも同時に兼ねてますので」
「カイトはどれにする?」
「ん? どれって御神籤じゃないのか?」
「戦闘系と魔法系、生活系がお選び頂けます」
「へ?」
「効果は低いですが様々なスキルを授けて頂けるのです」
「ええ!? まじで! 御神籤なんかでか?」
「はい、本日だけの神の思し召しです」
「何回できるんだ?」
「最大でそれぞれ一回ずつになります」
「おー、なら全部やるよ」
「でしたら、お布施は二人で二十万ジェンになります」
「ぼったくり!?」
「失礼ですね。違います。一本だけならたったの百ジェンです。どなたも引くことができます。二本で千ジェン。欲深い三本の方だけ十万ジェンとなります」
「ぬぬぬぬぬ」
確かにもらえるものなら全部貰おう!と思ったさ。でもそれって人として自然な考えだろ。欲深いってそこまで言う事ないじゃないか。別に金なら腐るほどあるからいいもんね!
「ちなみにここと奥ので御神籤箱の質感が明らかに違うのはなぜだ?」
目の前のは木箱。店の奥の方にあるのは何製かは不明だが金色に輝いていた。
「あちらはより効能の高いスキルの得られる御神籤でございます」
「ならあっちのを引かせてくれよ」
「いえ、あちらは敬虔な信者の方々専用の特別な御神籤でございます。神に長らく奉仕された信徒にのみ賜れる神からのギフトになります」
とてもお前らのような餓鬼が引いていいものじゃない、そう瞳が語っていた。
「あれ? あそこにいるのって」
「ああぁぁあああ!?」
俺と目があった神父さんが物凄い勢いでこちらに飛んできた。
「あ、あなた様は! ほ、本日はどのような思し召しで!」
「い、いや、たまたま通りかかったら御神籤をやっているって聞いてな」
「そ、そうですか!? では奥の神殿までどうぞ!」
「神父さま!? 何を仰っているのですか!」
「え、そこの奥の御神籤じゃないのか?」
「いえ、神のご加護を賜れている方は礼拝堂に特別に用意してございます。あなた様は加護どころか使徒様ですので御神籤なぞ必要ないかとは存じますが」
「いや、やってみようか。よろしく頼むわ」
巫女のお姉さんが驚愕した顔でこっちを見ていた。なんか少しだけ気持ち良かった。水戸黄門ってこんな感じだったのかな。
「じゃ、わ、私からいくわね」
恐る恐る神像の口へと手をいれるルシア。なにこの真実の口みたいなモニュメント。しかも、手を突っ込むと神像の目がカッと見開くとか怖すぎる。
「ほんとにスキルが! でも――」
ルシアを鑑定すると、確かにスキルを複数獲得していた。新しく得たのは『ダメージ半減(その分、カイト=シドーへ加算)』『同時召喚』『お菓子作り中級(1/10)』
「ごめんなさいカイト。なんか身代わりのようなスキルを得ちゃった」
「いや正直ナイスなスキルだ。俺のHPは膨大だから全く問題ない。これで少しでもルシアの危険が減ると思えば気が楽になる」
同時召喚もかなり使える。攻撃と防御それぞれの召喚獣を呼べば効果的だろう。どの神様か知らないがグッジョブだ。絶対俺のことを知っている神なのは間違いないな。
「やったー! これで大好きなお菓子を自分で作れる! カイトにも作ってあげるね!」
本人はお菓子作りを一番喜んでいたが。
「じゃー、今度は俺の番か」
「「「えっ!?」」」
手を突っ込んだ瞬間、神像が音を立てて崩れ落ちたのだ。おいおいどうなっているんだよ。スキルなしとか止めてくれよ。恐る恐るステータスを確認すると『飛翔術初級(1/5)』『魔法吸収初級(1/5)』『和食創造』『神器破壊』の四つをゲットしていた。あれ? スキルは三つじゃなかったのか。まあ、細かいことはいいか。おそらくこのゲットしたばかりの神器破壊のスキルの所為で像が砕けたのだろう。
「ねえ、大丈夫? スキルは得られたの?」
「ああ、ばっちりだ。神父さん壊して悪かったな」
「い、いえ! 予備はございますので大丈夫です。拝顔させて頂いただけでも光栄至極にございます」
長居しても碌なことにはならなさそうだ。そう思った俺は神殿をそそくさと後にした。
しかし、飛翔と魔法吸収のスキルは初級だけど次の世界では役に立ちそうだ。和食創造もでかいな。これで食べ物に不自由することはないだろう。和食は世界で一番洗練されていると聞いたことがあるが、あれは間違いだな。
和食は異次元の世界全てを合わせてもおそらく一番だ。ビバ和食! 俺はそう思う。
その後しばらく、色々な屋台や出店をルシアと回った。地球にいたときではとても想像できないほど満ち足りた時間だった。一人じゃない世界。それはこんなにも色鮮やかなのだろうか。
ああ、ずっとこの世界に留まることはできないのかな。その想いが日増しに強くなるのは避けられないことだった。
「うわー凄い! 綺麗だね……」
「ほんとだな」
祭りの締めは花火だった。魔法を盛り込んでいるのか花火の絵柄が様々でどれも精巧だった。この国の国旗、街のシンボルマークから始まり、色とりどりのプリスマが夜空を舞う。クライマックスでは水面に巨大な半円が描かれた。水上スターマインだ。湖全体に広がる花火はまさに圧巻というしかなかった。
ルシアと二人で湖畔の芝生に腰かけ、空を見上げていた。彼女は俺にもたれかかり頭を肩に乗せる。なんかいい匂いがする。
「また来年も一緒に見れるかな」
「ああそうだな」
真実を彼女に伝えないといけない。残された時ももうほとんど残されていないのだ。でもそれを聞いた時にルシアはどう思うのか。どう変わってしまうのか。いまのこの関係が幻のように消えて無くなりそうで怖かった。
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勇気の足りない俺は最後までそれを口に出すことができなかった。
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−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
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